落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第13話「お前はアネゴ団の仲間が1人──」

 

「改めて、救援ありがとうございます先生。おかげで無事学校を守りきれました」

「そしてアネゴちゃんたちはようこそアビドス高校へ! 対策委員会一同で歓迎しちゃいますよ☆」

「ちゃん付けはやめろッ!」

「えへへ、お邪魔します……!」

 

 アビドス高校に招かれたアネゴたちは、先生と共に対策委員会が活動場所として使っている教室に来ていた。室内で作戦指揮をしていたアヤネが全員を迎え入れ、椅子と水を用意する。

 

「あ、私も手伝う」

「はいはーい、お水のペットボトルは私が配っちゃいますね☆」

「うへ~、みんな働きものだな~。おじさんその辺で寝てていーい?」

「先生やヒフミさんもいるんだからちょっとは我慢してよ!」

「あ、あはは……」

 

 賑やかに来客対応の準備をする対策委員会。あっという間に並べられた椅子にアネゴたちは座らされた。

 

「なんだか慌ただしくてすみません。私たちも状況を充分理解できているわけではないのですが……」

 

"大丈夫、ひとつずつ整理していこう"

 

 こうしてアヤネが進行役となり状況確認を進めていくこととなった。まずセリカから事の経緯とAB団について聞き出し、アネゴが同伴したいきさつも全員に知れ渡った。だがこの時、セリカはアネゴが話した過去話を話さなかった。なぜアネゴがセリカを恩人と呼ぶのか、呼んでいる事自体を明かしてもその理由について触れなかったのだ。それに対してアネゴは何も言わず、ただ静かに成り行きを見守っていた。

 

「アネゴさんは補足などありますか?」

「いや、セリカの話した通りだ。ヘッ、しばらくは柴の大将にケジメつけねェとな」

「ウチも手伝って良い?」

「悪ィな、これはアタシのケジメだ。お前らはアビドス観光でもしてな」

 

 続いて議題は『AB団』に移る。セリカとアビドス高校を狙った襲撃。その異常な物量と確かな計画性から大規模な不良集団であると推測は立てられたが、それ以上の情報が無いことに皆が気付く。

 

「うへ~、それだけの人数ならちょっとは見かけたことありそうだけどね~」

「連中のマークらしい、アビドス校章にバツつけた奴を見た覚えはねェな」

「トリニティはもちろん、ブラックマーケットでも見たこと無いと思います」

「……なーんかヒフミってトリニティっぽさねェよなァ。普通ブラックマーケットなんざ近づかねェだろ」

「べ、別にブラックマーケットに入り浸ってるわけじゃないですよ!? ただ、絶版してしまった限定グッズなんかはそこにしかないことがあって……」

「わかるよ……! どんな危険を冒しても欲しい物って、あるよね!」

「チビさん……!」

 

 何故かチビとヒフミが意気投合する場面があったが、状況整理はつつがなく進んでいった。

 

「結論として、AB団は再び学校を襲撃する可能性が高いと言えます」

「その時襲われるのはここか、私たちかはわからないけどね~」

「じゃあ、常に何人かは学校に残るようにして、外出するときは2人以上でいるようにするべきだと思う」

「わあ、それじゃあしばらくはみんなで学校にお泊まりですね!」

「そんなテンション上がるイベントかな……」

「あはは……」

 

 シロコの提案に乗っかったノノミが様々な遊びを提案してはアヤネに却下されていく。セリカは「遊びじゃないんだから!」とアヤネと一緒に怒り、ヒフミは苦笑するばかり。だが、その様子を眺める先生の温かい視線が物語るように、それは微笑ましい光景であった。

 背もたれに体重をかけてギィと軋ませたアネゴは、目だけを対策委員会に向けながらチビに問いかける。

 

「なァチビ、こういうの懐かしいか」

「うん……でも、大丈夫だよ。ウチは不良で、後悔してないから」

「そォか。……こういうことが出来ッから、こいつらは強ェのかもな」

「アネゴ……」

 

 チビは心配そうにアネゴを見つめる。その視線に気付きながらも、アネゴは対策委員会の方を見続けていた。

 

(アタシは結局、こうはなれなかった。だからアイツに……)

 

 目を閉じ、しばし感慨にふけろうとしたアネゴ……の前に、誰かが立った。

 

「ん? なんだセリカ」

「なんだ、じゃないわよ。あんたたちもここに泊まることになったから」

「……はァ!?」

 

 思わず立ち上がるアネゴ。周りを見渡せば得意げなノノミ、気怠げなホシノ、無表情のシロコ、曖昧な笑みを浮かべたアヤネとヒフミ、そして微笑んでいる先生がアネゴたちを見ていた。

 

「正気かお前ら、自分の学校に不良泊まらせんだぞ?」

「でも、アネゴちゃんたちは私たちを助けてくれましたよね」

「ちゃん付けすんなノノミィ! 『さん』で呼んでただろお前ェ!」

「気持ちは嬉しいけど、ウチたち不良だし、迷惑になっちゃうよ?」

「ん、大丈夫。恩人に義理を通すだけだから」

「シロコちゃん、それって……」

 

 シロコの言葉にチビの目が見開く。アネゴも威勢を収めてシロコを見つめる。

 

「チビは私に義理を通してくれた。アネゴはアビドスを守る手伝いをしてくれた。セリカが恩人だからセリカを守るのはわかる。でも、それ以上のことをしてくれた」

「だから泊まらせてくれるってか」

「それにチビから今夜は野宿する予定って聞いた。アビドスで野宿する不良を増やすわけにはいかない」

「そっちが本音かァ……?」

「ん、冗談」

 

 ふっ、とアネゴは小さく笑った。その笑みは普段の不敵なものではなく、穏やかで優しい笑みだった。

 

「気持ちだけ受け取っとく。アタシたちははぐれちまった最後の仲間を探さなきゃなんねェ。お前たちへの義理立てはここまでだ」

「え? ちょ、ちょっと! 大将へのケジメは!?」

「ちゃんと明日も行くさ、場所は覚えた。行くぞチビ!」

 

 チビを立たせ、教室を出ようとするアネゴ。その時、先生の抱えていた端末(シッテムの箱)が通知音を鳴らした。

 

"あ、私だ"

 

 先生は端末を操作し、ホログラム・スピーカーモードで通話を開始した。教室内に、若干焦燥した様子のアコが映し出される。

 

『先生お疲れ様です。先のメールでお伝えした通り至急シャーレとして……あら?』

「お、ゲヘナ風紀委員会の行政官ちゃんじゃん」

『これは、アビドス対策委員会の……先生、なぜスピーカーモードで?』

 

"私1人だけだと救援にはならないと思って"

"とは言え、アビドスのみんなが良ければと思ったけど……"

"こっちも事情があって、結局私とヒフミしか行けなさそうかも"

 

「先生、ゲヘナからも呼ばれてたんだ」

「流石、引っ張りだこ」

 

"だから私とヒフミはここに残れないんだ"

"みんな、一緒に泊まれなくてごめんね"

 

「いえ、大丈夫です。物資も補給していただきましたし……」

 

 対策委員会の面々に先生が詫びている間、アコはデータを入力しながら周囲を見渡していた。

 

『……なるほど。先生といるのはトリニティのヒフミさんと……そちらの2人は?』

「アタシらはただの不良だ。もう出てくから覚えなくていいぜ」

『なぜ校内に不良を……? まあいいです、いなくなると言うならさっさと出ていってください。そういえばあなたたちのような黒のセーラー服を着た不良を先ほど風紀委員会で捕らえましたが、最近増えてるんでしょうかね』

「何だと!?」

 

 振り返ったアネゴは必死な形相でホログラムのアコに詰め寄る。通話越しと分かっていてもアコは少しのけぞった。

 

「アタシと同じ服なんだな!? この黒の!」

『え、ええ。報告ではそう上がっていましたが』

 

 ぐるりとヒフミに向き直ったアネゴは、腰をまっすぐ曲げて頭を下げた。

 

「あ、アネゴさん!?」

「ヒフミ、頼む! アタシたちをゲヘナに連れてってくれッ!」

 

 

 

 

 

 

 路地裏に少女が1人、倒れ込んでいる。擦り切れたゲヘナの制服はところどころほつれ、投げ出された脚はぴくりとも動かない。虚ろな瞳は前を見ているようで何も映しておらず、小さく開いた口からは掠れた呼吸音がかすかに漏れていた。

 

                (私の記憶……?)

 

 路地裏に少女が1人、倒れ込んでいた。制服の上から薄汚れたコートをかけられ、光を失った瞳は思わず見上げた。

 

                (いつの記憶なんだろう……)

 

 路地裏に倒れ込んでいた少女はもう、1人ではなかった。

 

「────」

 

 不敵な笑みを浮かべた誰かが見下ろしていた。

 

「────」

 

 へらへらとだらしなく笑う誰かが手を差し伸べていた。

 

                (思い出せない……)

 

 差し伸べられた手に、少女はゆっくりと手を伸ばそうとする。しかし、彼女がまばたきした瞬間、周りの景色は一変してしまった。そこは路地裏ではなく炎の中。周囲には寂れたコンクリートの壁ではなく殺気立ったチンピラの集団。そして、少女を守る2つの背中。

 

「────」

「────」

 

 頼もしい背中と、小さな背中。それが誰かに重なる。誰だか分からない。だが、誰なのか知っている。

 

        (……ああ)

 

 少女はその背中を、差し伸ばされた手を、自身の記憶と重ねた。重ね合わせてしまった。

 

                (そうだった、私は)

 

                (■■■と■■先輩に、)

 

                (風紀委員長と、あの子を見てたんだ)

 

 少女の周りに何もなくなり、ただ暗闇だけが広がっていく。もたれるものがなくなった彼女は冷たいコンクリートの地面に頭を落とし、黒一色の空を見上げた。彼女の意識は徐々に闇に呑まれていく。うっすらと開いていたまぶたがゆっくりと落ちていき、そして──

 

「ずいぶんやられちまったなァ、ノッポォ!」

 

 知らない声(・・・・・)に叩き起こされた。

 

 

 

 

 

 

 不良少女が目を覚ましたのは、瓦礫に敷かれた布の上だった。あまりにもごつごつとした感触が背中を突き刺し、思わず上体をあげると、彼女を見ていたアネゴと目が合った。

 

「……あなたは」

「こんなボロボロでよく黒セーラーってわかったなオイ。どこのどいつと喧嘩してたんだ?」

「喧嘩じゃ、ないです。……あの、誰ですか」

 

 訝しげに見つめる不良少女に目を丸くするアネゴ。だがすぐに不敵な笑みを浮かべ、腕を組んで足を広げた。

 

「ヘッ、忘れちまったのか? だったら何度でも聞かせてやる」

 

 その姿に、不良少女は見覚えが合った。

 

「耳の穴かっぽじってよォく聞け! 気に入らねェ奴はぶっ飛ばす! 気に入らねェ道理もぶっ飛ばすッ! キヴォトスに悪名響かすアネゴ団のアネゴたァ、アタシの事だァッ!!」

「……!」

 

 その啖呵に、不良少女は聞き覚えがあった。あと少し、何かきっかけがあれば記憶が戻る確信があった。

 

「あの……あなたなら、私が誰か知ってますか……!?」

「あったりまえよォ! お前はアネゴ団の仲間が1人──」

 

 アネゴは息を大きく吸い込み、叫んだ。

 

「ノッポだ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、不良少女の頭に鋭い痛みが走る。咄嗟に頭を手で抑え、痛みをこらえる彼女の脳内に、今まで忘れていた記憶が浮かび上がってくる。

 

「ぐっ……そう、だ……私は、私は……ノッポだ……っ!」

 

 こうして不良少女……否、ノッポはようやく全ての記憶を取り戻した。

 

「はぁ、はぁ……ありがとう、本当にありがとうアネゴ。私、記憶喪失だったみたい」

「そうだったのか!? オイオイ、寝ぼけてたわけじゃねえのかよ!」

「寝ぼけるくらいでアネゴのこと忘れるわけないでしょ。はあ、体痛……」

 

 体を庇いながら立ち上がるノッポ。彼女は周囲を見渡し、隣に寝かされていた風紀委員の少女を見つける。

 

「……」

 

 気絶したままの彼女を少し見つめ、頭を横に振ってからアネゴに向き直った。

 

「アネゴ、今どうなってるの。私は何すればいい」

「聞いて驚け、蛇退治だ」

 

 アネゴがまっすぐ指差す先を見たノッポの目に、爆走するクルセイダーとそれを追うビナーという光景が飛び込んできた。

 

「チビはもう向こうにいる。やっとアネゴ団集結だ、カマしてやろうぜ他の連中によォッ!」

 

 巨大な敵を前に1歩も気後れしていないアネゴに、ノッポは確かな安心感を覚えるのだった。

 





2023/5/13追記
 展開上矛盾が生じているように見える箇所があったため、
 Vol1 2話と今話にちょっとした加筆を行いました。
 大筋に変更はありません。
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