落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第15話「シャーレ、こいつは貸しだから、な……」

 

《……!》

 

 反攻を察知したビナーはその巨体をしならせ、地面に何度も叩きつける。鋼の蛇体が打ち付けられる度に砂と瓦礫が大きく舞い散り、小さな砂嵐となってビナーを守る要塞となった。

 

「す、砂が凄いことに! 退避ー!」

『これは……目標の行動で小規模の砂嵐が発生! 皆さん注意してください!』

 

 慌ててクルセイダーの搭乗口を閉めて中に入るチビ。ヒナは高さのある廃ビルへ退避する。まっすぐ走っていたバイクだけが、砂嵐に真正面から挑むことになってしまった。

 

「便利屋ァ! 目ェ閉じて口閉じろ! 突っ込むッ!」

「言われなくても……!」

 

 アネゴとカヨコは口元をきゅっと結び、覚悟を決めて砂嵐へと突っ込む。ビナーの巨体に巻き上げられた砂や石礫がアネゴたちに容赦なくぶつかり、バイクの車体も徐々に凹みはじめる。

 

「ッッッ……らァッ!!!」

 

 アクセルを強く握りしめた拳に血が滲み、体中に青アザを作りながらもアネゴは頭を下げずにまっすぐビナーを見据える。砂嵐がバイクを襲ったのは通過した一瞬だったが、その傷跡は決して無視できる程生易しいものではなかった。

 

「っ、近づけはしたけど、誰も来てない」

「一番乗りか、悪くねェ。ノッポ、まだ見えてるかァ!」

『ばっちり。砂嵐程度で見失わないって』

 

 勢いの乗ったバイクをスライド停止させ、ビナーを見上げる血だらけのアネゴ。砂嵐の発生を止めたビナーもまたアネゴを睨みつける。

 

「だったらアタシらのことはいい、他の連中が来たら教えてくれ」

『わかった。アネゴはどうするの』

「ソイツらが来るまで暇つぶしでもしてるさ、コイツでな!」

 

 ビナーが咆哮と共にミサイルを発射するのと、アネゴがバイクを発進させるのは同時だった。バイクの数センチ後ろを無数のミサイルが着弾していき、カヨコのパーカーとアネゴの髪が爆風にあおられ揺らめく。

 

「ちゃんと燃料メーターとか見てる!?」

「ンなモンより前だけ見てらァ!」

「バイクの乗り方じゃないでしょそれは!」

 

 廃ビル立ち並ぶ廃墟地帯に入り、車体を限界まで横倒しにしたバイクが強引にカーブする。追ってきていたミサイル群は急カーブを捕らえきれず廃墟に多数突っ込んで爆散していった。

 

「ちょっとメーター見せて! ……もうほとんど残ってないんだけど!?」

「ヘッ、ヒリついてきたなァ!!」

 

 廃墟の間を右に左に軽快にくぐり抜けるバイク。追ってくるミサイルは廃墟をくぐるたびに減っていき、その数がゼロになったとき、アネゴたちはビナーの元までぐるりと回り込んでいた。

 

「しっかり掴まれよ。後少ししか走れねェってんならぶっ飛ばしてやる!」

「な、何する気?」

 

 カヨコの質問に答えずアクセルを力強くひねるアネゴ。大きくエンジン音を吹かし走り出すバイクは、まっすぐビナーの巨体へと向かっていく。

 

《……》

 

 振り返り、アネゴたちを捉えたビナーは大顎を開けてエネルギーを口内に収束しはじめた。必殺の高熱ビームでアネゴたちを消し飛ばそうという算段である。

 

「それでビビると思ってんのかよッ!」

 

 さらにミサイルまで射出され、無数の殺意がアネゴたちを塗りつぶそうと迫る。

 

「アネゴ団はそんなもんじゃ止められねェッ!!」

『クルセイダーとゲヘナ委員長の準備整ったって!』

「今だ便利屋ァッ!!!」

「ッ、どんなタイミング……!」

 

 悪態をつきながらもカヨコは愛銃をビナーへと構え、自身の力を込めた一発を撃ち出す。その瞬間、一帯を恐怖が支配した。ビナーですらその一瞬の間思考に空白が出来てしまい、思わず動きを止めてしまうほど色濃い、根源的な恐怖だった。

 

《!?》

「やっちまえお前らァッ!!」

『2ポンド砲、撃ちます!』

『逃さない』

 

 大きく開いたビナーの口に、クルセイダーの主砲とヒナの攻撃が一気に集中する。それは口内に溜めていたエネルギー諸共巻き込んでビナーの体内を逆流し、全身のあらゆる機関に甚大なダメージを与えた。

 

『目標に効果確認! 連鎖的に各部が爆発炎上しています!』

「っしゃァアアアアッ!」

 

 速度を上げたバイクが迫りくるミサイルの群れをくぐり抜け、のたうち回るビナーの体に乗り上げる。大きくもたげた首に沿って昇っていき、ウィリーしながら空中へと身を投げだした。同時にビナーの頭が大爆発を起こし、日が沈みつつあるゲヘナの廃墟街とアビドス砂漠を明るく照らした。

 

『エネルギー反応微弱、目標が退避していきます!』

『撃退成功、と言った所でしょうか。ふぅ……』

 

 地面に着地したバイクから振り返るアネゴ。そこにビナーは既に無く、大蛇が暴れた跡と、巨大な穴だけが残されていた。

 

『"作戦成功だね。皆、お疲れさま"』

 

「ハァ、ハッ……シャーレ、こいつは貸しだかん、な……」

「……っ!? ちょっと!」

 

 バイクのエンジンが止まると同時にアネゴの体がシートからずり落ちる。地面に倒れる前にカヨコが引き上げたが、アネゴの頭にヘイローは灯っていなかった。

 

「ここまで引っ掻き回しといて気絶って……はぁ」

 

 バイクにアネゴを乗せ直し、自身は立ち上がってハンドルを握りゆっくりとバイクを押し始めるカヨコ。片手で端末を取り出し、作戦に参加していた全員が入っている通話グループに参加する。

 

「……先生、とりあえずそっち向かうから。一緒に乗ってた子気絶したし」

『カヨコ! 無事なのね!』

「社長、声大きい……まあ、無事だよ」

『私たちで立てた作戦を真っ向から無視するなんて、カヨコさんが絡むとどうしてこう……!』

「……アコ、それ逆恨み。今回は私巻き込まれだから」

 

 通話越しに騒ぎ立てる約2名に辟易としながら進んでいると、彼女の前にクルセイダーがゆっくりと現れた。搭乗口が勢いよく開き、そこから出てきたチビがアネゴに駆け寄る。

 

「アネゴーーーー!! うわーん、またボロボロになってるー!!」

「あんた、この子の仲間だっけ」

「うん! アネゴ支えてくれてありがとね!」

 

 よいしょ、とチビはカヨコからアネゴを受け取り、肩に担ぐ。軽々と人1人担いだことに一瞬カヨコは驚くが、キヴォトスではままあることかと気にしないことにした。

 

「そのバイクはキミの?」

「いや、その子が捨てられてたやつを勝手に拾った」

「うーん、じゃあ無くしたらアネゴすねちゃうかも。押すの変わるね」

 

 結局アネゴはシートに座らせられ、今度はチビがバイクを押した。……が、ハンドルの位置が彼女には高く、頭と同じ位置まで腕が上がっていた。

 

「よいしょ、よいしょ……ヒフミちゃんこれ乗せてくれないかな」

「……はぁ」

 

 見かねたカヨコは、ハンドルに手を重ねる。

 

「人乗ってるんだし、2人の方がいいでしょ」

「いいの? ありがと~! この辺って優しい人が多いんだねぇ……」

「なにそれ」

 

 バイクを押す2人と、それを迎えるためにクルセイダーから出てくるヒフミたち。4人がかりでバイクをクルセイダーに収納し、全員で先生の元へと戻っていく。そこには既にヒナやイオリ、アルたち便利屋やノッポが集まっていた。

 

「カヨコちゃんお帰りー。なんかすごいことになってたけど平気だったー?」

「……まあ、結果的には平気だったけど」

「大丈夫!? 怪我とかしてない!? 私本当にびっくりしたんだから!」

「ちょ、社長心配しすぎ……おおげさだって」

「うぅ、アル様のためにも私が身代わりになれれば……」

「いや、ハルカが同じことされても社長は心配するでしょ」

 

 便利屋の面々に入っていくカヨコ。

 

「チビ先輩、アネゴは」

「気絶してるだけだと思う。うぅ、ノッポちゃんにもまた会えて良かったー!」

「……うん、私もチビ先輩やアネゴにまた会えて良かった」

「ノッポちゃんがデレた!」

「…………」

「ノッポちゃんがキレたぁ!」

「呆れてるだけだっての……」

 

 アネゴを肩で支えながらノッポの元へ向かうチビ。それらを確認した先生は一度全員を見渡し、それから感謝の言葉を述べた。

 

"皆、改めてお疲れ様"

"こんな遅くまでありがとう"

 

「全くだ……アコちゃん、私明日午前中休むから」

『えっ、なんでですか』

「昨日から仮眠しか取ってないんだよ! ラーメンは食べ損ねるし! やけに激戦は続くし!」

「アコ、承認してあげて」

『委員長がおっしゃるのでしたら……』

「あはは……ゲヘナも大変そうですね」

「治安維持が大変なのはどこも変わらないんだ」

『みたいですね……』

 

 全員が満身創痍の、まさに総力戦。ビナー撃退戦はそれほどまでに苛烈な戦いだった。それがようやく終わったという実感は、全員の心に不思議な充足感を与えていた。

 

『委員長、こちら火宮チナツです。AB団の収容および重軽傷者の搬送完了しております。行政官より作戦完了の報告をいただきましたので、今から回収に向かいます』

「ええ、お願い」

「今から帰ったら……家に着く頃には日を跨ぎそう……」

「そうね。それに、便利屋が抵抗すればもっと遅くなる」

「うぇっ、今日くらい見逃しなさいよぉ!」

 

 既に日は沈み、月が顔を出していた。腕時計で時間を確認しながら端末を操作していた先生は、少し弱々しい笑顔でヒナたちに語りかける。

 

"少し提案があるんだけど"

"もちろん、無理だったり嫌だったら断ってくれて構わないよ"

"でも、もう時間も遅いし……"

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「ん……んぐぐ……ァ?」

 

 月光がカーテン越しに差し込むアビドス高校の保健室。そこにあるベッドの1つにアネゴは寝かされていた。目覚めたアネゴは体を起こし、あたりを見渡す。

 

「チビ、ノッポ……」

「すぅ……はっ! アネゴ! 起きたんだねっ!」

「……やば、寝てた……おはよ、アネゴ」

 

 ベッド横に置かれたパイプ椅子に座っていたチビたちが、アネゴの声で目を覚ます。チビはアネゴに飛びつき、ノッポは柔らかな笑みを浮かべて見つめていた。

 

「おっとォ、やんちゃな奴め。蛇野郎との戦いからどれくらいだ?」

「そんな経ってないよ。あと、ここはアビドス高校」

「そォか。……ここには随分助けられちまったな」

 

 チビの頭をぐしゃぐしゃに撫で回しながら窓の外を眺めるアネゴ。その時、保健室の扉がガラガラと開かれた。入ってきたのはセリカと、もう1人。

 

「お加減いかがですか? と、お目覚めになられましたか」

「結構ボロボロだったと思うけど、ほんとしぶといわねアンタ……」

「言ってくれるじゃねェかセリカ。で、アンタは?」

「申し遅れました、ゲヘナ風紀委員会所属の火宮チナツです。一通りの手当はしたのですが、どこか体に違和感などありますか?」

「いや、ねェ。……ねェが、アンタら……」

 

 アネゴの目がじとっとしたものになる。

 

「……なんで寝間着(パジャマ)なんだ?」

「……よ」

「あン? 何だって?」

「今ここでパジャマパーティーやってんのよ!!」

 

 何故か顔を赤くしたセリカの叫びに、ぽかんと呆けるアネゴ。すかさずチビがバッグからビニール包装されたままの寝間着を3着取り出した。

 

「そういうことだからアネゴ、着替えよ! 大丈夫、コンビニで買っておいたパジャマは無事だから!」

「なんでそんなもの買ってるのチビ先輩……」

「よくわかんねェが、わかった! パーティーってんならアネゴ団として荒らすしかねェだろ! 行くぞお前らァッ!」

「いや、荒らさないでよ!?」

 

 夜のアビドスに、セリカの叫びが虚しく響く。苦笑いを浮かべるチナツに見守られながら、アネゴたちはパジャマに着替えるのだった。

 

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