落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第16話「お泊まり会ですよ、お泊まり会☆」

 

『確かに、一番近かったチナツさん指揮の装甲車に乗ったとして、そのままゲヘナに帰るよりも距離的に近かったアビドスの厄介になる方が早く休めるというのは理解出来ますが……』

 

 ホログラムのアコがわなわなと震えながら、先生をびしっと指差す。

 

『アビドスに着いたらパジャマパーティー!? 委員長と雑魚寝!? どういうことなんですか先生! こんなうらやまンンッ風紀委員会として看過しかねるイベントを用意していたなんて!』

 

"いや、私はヒナたちと雑魚寝しないよ? ちゃんと皆とは別室で寝るよ?"

"あと誘ったのは私だけど、発案者は私じゃないからね?"

 

 アビドス高校2階の空き教室の1つにて、先生たちはそこをパーティー会場兼寝室として改造していた。机と椅子は端に寄せられ、綺麗に拭き掃除された床にシートを敷き、その上から人数分の布団が敷かれている。先生は予め隣の教室に布団を用意していた。

 

「アコ、もう帰宅していいって言ったのだけど」

『いーえ帰れません! こればかりは委員長の命令でも聞けません! 先生もこの通話を夜通し繋げておいてくださいね!』

「はぁ……」

「アコちゃん……」

 

 ぐぬぬと歯を食いしばるアコを、風紀委員会組は残念なものを見る目で見ていた。ちなみに、先生とアコ以外は全員パジャマに着替えている。

 

「ま~いいんじゃない? 仲間外れはかわいそうだよ~委員長ちゃん」

「小鳥遊ホシノ」

 

 ヒナの背中にホシノがしなだれかかる。

 

「そうですそうです。お泊り会ですよ、お泊まり会☆ せっかくのイベントなんですからみんなで楽しまないと!」

 

 ノノミが笑顔で「ねっ?」と先生に目配せする。先生は大きく頷き、端末を机に置いた。

 

"そうだね。通話を繋げておくのは構わないよ"

 

『……一応礼は言っておきますね、先生。では、学園に残るための諸書類を書いてきますので』

 

 ホログラムが一時的に非表示になり、アコの姿が消える。

 

「おー、うちの委員長と行政官相手にちっとも緊張してない。シャーレの先生ってマジで知り合いだったんすねー」

「おい、あんまり動くなよ。まだ傷の手当終わってないんだろ」

「いやーせっかく無理言って連れてきてもらったんで、ちょっとでも遊びたいじゃないっすか!」

「重傷者なんだから休んで寝てろ!」

 

 イオリの側で布団に包まりながら風紀委員の少女がぶーたれる。その頭には包帯が巻かれており、布団で隠されている体にもまんべんなく巻かれていた。

 

「頭に響くっす~……んで、便利屋はなんでそんなに離れてるんすか?」

「え? いや、別に今入っていったら通話の邪魔にならないかな~とか思ってないわよ!? 私たちがアウトローとして切り込むタイミングを伺ってただけ!」

「……はぁ」

 

 何故か慌てるアルと、ため息をつくカヨコ。ムツキとハルカは既にぐっすりと眠っていた。

 

「便利屋ってヤバい不良ってイメージだったんすけど、なんか直接話すとアレっすね」

「まあ、アレでもあいつら規則違反者には間違いないからな。一応油断だけはするなよ」

「ちょっと聞こえてるわよ!? アレとか一応とか!」

「社長、大声出したらムツキたち起きるよ」

「むぐぐっ……!」

 

 口をつぐんでジトッと風紀委員会を睨みつけるアル。カヨコとイオリは同時にため息をつき、風紀委員の少女は(戦いになったら手も足も出ないんだろうなー)とぼんやり考えていた。

 各々が思い思いの時間を過ごす中、教室のドアがゆっくりと開かれる。

 

「戻りましたー! 飲み物とか夜食とか、お菓子とか買ってきましたよ」

「クルセイダーを動かしていただいてありがとうございますヒフミさん。流石にコンビニ買い出しにヘリは使えないので……」

「ロードバイクだと持って帰れる量に不安があったから、ヒフミが居てくれて助かった」

「いえいえっ、アビドスの皆さんのお役に立てて嬉しいです!」

 

 現れたのは両手に満杯のビニール袋をいくつも手にして帰ってきたヒフミとアヤネとシロコだった。

 

「お、買い出しご苦労さま~。それじゃ本格的にパーティーしよっか~」

「はい、お泊りパジャマパーティーです!」

「あはは……とりあえず袋の中身を出しちゃい、わっ?」

「おいおいヒフミィ、なんだこの大荷物は? ぐっ、重ッ」

 

 ヒフミの背後から現れたのはアネゴ。彼女はビニール袋を1つひったくったが、あまりの重さに小さくうめいた。

 

「アネゴさん! 目覚めたんですね、良かったです」

「ちょっと、病み上がりなのに歩くの早すぎ! 待ちなさいよ!」

「おや、買い出しの皆さんが帰ってきていたのですね。お疲れ様です」

「アネゴ、ヒフミ困ってるよ。返してあげな」

「ヒフミちゃんにいじわるしちゃダメだよアネゴ~」

「お前らなんでヒフミの味方してんだよッ!?」

 

 セリカにチナツ、ノッポとチビも合流して全員が教室に集まる。ビニール袋から手分けして取り出された飲み物やお菓子などが机の上に広げられ、種類ごとにひとまとめにされて置かれていく。

 

『ふぅ、やっと外泊処理が完了しました。これで今日1日先生を監視できます』

 

"アコもパジャマに着替えたんだ"

 

『え、ええ。まあ、私だけ制服のままというのも場の雰囲気を乱すかもしれませんし? というか逆に先生はなんで着替えてないんですか』

 

"パーティのあとに、持ってきた仕事をやろうと思って"

 

『…………ヒナ委員長、アビドスや便利屋と協力してこの人寝かせませんか?』

「アコ、先生が心配なのはわかるけど、先生も大人だから仕事の邪魔をするのは」

「先生はおじさんの抱き枕決定ね~。うへ、おじさんの安眠とお仕事、先生はどっちを取るのかな?」

「小鳥遊ホシノ!?」

 

"ホシノ!?"

 

「ケッ、見ろよお前ら。大の大人が生徒にチヤホヤされて浮かれてやがッぜ」

「それよりアネゴ、便利屋に詳しい理由聞きたいんだけど」

「ウチも気になる……」

「今掘り返すのかよそれ! まァ、簡単な話だ」

 

 わちゃわちゃと姦しい先生の周りを見つめながら、布団の上であぐらをかくアネゴはなんてことないように流す。

 

「アタシがアビドスにいた頃、便利屋の依頼を受けたんだよ。で、一緒に戦闘して妙に強ェ奴らだなって覚えただけだ」

「あら、そうなの」

 

 便利屋の名前が出てきて耳をそばだてていたアルたちもアネゴの周りに集まる。

 

「数ヶ月前傭兵雇ってアビドス襲撃したろ。そん時の傭兵に混じってたんだよ」

「ああ、あの時の」

「なに? あんたも便利屋と一緒にアビドスを襲ってたの?」

 

 セリカがアネゴの背後に仁王立ちする。じとっとした目つきで見下ろすセリカに、アネゴは振り返らず横に倒れた。

 

「そォだよ、お前らの覚悟を見たくてさァ~~! だからアビドスの奴らに会うつもりなかったんだよォ~~! どの面下げて仇で返した恩人と顔合わせろッつゥんだよォ~~~~!!」

「あ、アネゴ拗ねた」

「な、なんかウチのせいでごめんね……」

「気にすんなチビィ……こいつはアタシの不義理だ……」

 

 掛け布団を被り、すっかりうずくまったアネゴにセリカはため息をつき、チビたちは苦笑した。

 

「……思い出した。なんか1人だけ妙にしぶといのがいた気がする。陣形とか無視して突っ走ってやられてたのが」

「アネゴ、その頃から変わってないんだ……」

「……もしかしてホシノ先輩から距離取ってたのって」

「るせェッ! ビビってるわけじゃねェからな! あんのピンク頭執拗に盾でぶん殴りやがって」

「なになに、面白い話してるの? おじさんにも聞かせてよ~」

「うわこっち来たッ抱きつくなオイッ!?」

 

 ヒナと先生に絡むのをやめたホシノがアネゴに絡みつく。布団越しにアネゴは振りほどこうとするが、ホシノはびくともしない。

 

「アネゴの過去、か……」

「ノッポちゃん?」

「私たち互いに昔のことを言わないし、聞かないから。こういうきっかけが無いと何も知らないんだなって」

「そうだね。でも、ウチはそれで良いと思ってるよ」

 

 体育座りで布団に座り込むノッポの側に、チビは寄り添うように座る。

 

「やりたいことを互いに知ってて、そのために頑張る。それ以外のことは気になったときだけ聞いてみる。それがアネゴ団の、アネゴのやり方だと思う」

 

 シネマカメラを取り出し、レンズを布で拭き始めるチビ。

 

「過去も大事だけど、ウチたちはアネゴの前のめりな生き方に惹かれたんだから」

 

 ホシノに弄ばれるアネゴを眺めながら、ノッポは小さく頷いた。

 

「……あんたたちのリーダー、ホシノ先輩にいいように遊ばれてるけど」

「うへへ~、アネゴちゃん観念しておじさんの抱きまくらになりなよ~」

「チビィー! ノッポォー! アタシを助けろォー!」

「楽しそうだし、放っておいていいと思う」

「だね~」

「おォい!?」

「あはは……みなさん、飲み物はどうですか? 楽しんでますか?」

 

 重ねた紙コップとジュースの大ペットボトルを持ったヒフミが苦笑しながらチビたちの側に座る。

 

「あ、どうも」

「ありがとヒフミちゃん! ウチみんなにコップ配るね」

「ヒフミさんそんな給仕みたいなことしなくても……私も手伝う!」

 

 ジュースの注がれた紙コップがチビたちや便利屋たちに行き渡り、各々の喉を潤す。アネゴやムツキたちの分は一旦机の上に戻された。

 

「ヒフミちゃんも大変だね、昨日の今日であんなすごいのと戦うなんて」

「そうですね、たしかに疲れはありますが……でも、先生や皆さんの助けになれたので、クルセイダーちゃんを借りておいて良かったです」

「確かあなた、トリニティの生徒よね? あっちに戦車を乗り回すイメージとかなかったけど結構気軽に借りれるのね」

「い、いえ! その、朝、シャーレの当番に遅刻しそうだったので……ナギ、優しい先輩に無理を言って正義実現委員会から借りてきたんです」

(ナギ……?)

 

 他愛ない話を誰ともなく続け、夜も更けていく。お菓子や夜食も減り、空の大ペットボトルがいくつも出来たころ、時刻は深夜0時に差し掛かろうとしていた。

 

"それじゃあ、私は隣の教室にいるから"

"何かあったらすぐに呼んでね"

 

「先生、ちゃんと寝てね」

 

 シロコたちに見送られ、先生が教室を出ていく。隣の教室の扉が開き、閉まる音が響いた。

 

「それでは、対策委員会(私たち)は見張りのローテーションを決めましょうか」

「そうですね。あっ、風紀委員会や便利屋の皆さんは休んでいただいて大丈夫ですよ☆ もちろんヒフミさんも」

「感謝するわ、対策委員会」

「……そうね、礼は言っておくわ。その、ありがと」

 

 ヒナとアルに見送られ、対策委員会の面々は作戦会議のために別の教室へと向かって行った。アネゴ団とヒフミは既に眠りについており、ヒナ以外の風紀委員も布団に入っていた。

 

「……そんなに緊張しなくても、アビドス内ではあなたたちを取り締まるつもりはないから」

「わ、わかってるわよ。こっちだって顧問の顔を立てて来てるんだから、余計な諍いを起こす気はないわ」

 

 2人は電気を消し、背を向け、用意された自分用の布団に入る。机に置かれた先生の端末からの通話は、アコ側の操作でホログラムがオフとなり、彼女がペンを走らせる音だけが静かに響いていた。

 

「……結局喋らなかったみたいですが、良かったんですか?」

「……っす。あいつ、今は居場所あるみたいなんで」

 

 布団に潜っていた風紀委員の少女はチナツからの問いかけに曖昧に笑う。それきり、教室は静まり返り、誰かの寝息だけが聞こえる寝室となった。書類記入の音もなくなり、アコが通話をミュートして寝袋に入った頃。むくりとアネゴの上体が起き、寝ぼけた目をこすった。

 

「……寝れねェ」

 

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