落伍者たちのロードムービー 作:野生の虚妄クトゥム
『すみませんみなさん起きてください! 緊急事態です!!』
アヤネの焦った声が校内放送で流れ、寝ていたアネゴは叩き起こされる。
「ン何ィ!? 何だ何だァ!?」
「あ、おはよアネゴ。これ着替えだよ」
「早く着替えて。もう皆起きてる」
手渡された黒のセーラー服にぱぱっと着替えながら周囲を見渡したアネゴは、先生が端末を取った姿勢でこちらを見ながら固まっていることと、各々の生徒が自分の武器を手にとって最終確認を行っていることに気付いた。同時に、アネゴに気付いた彼女たちの視線が何故か自身に釘付けになるのにも気付く。
「あん? どうしたお前ら、見せモンじゃねェぞ」
「せ、先生は見ちゃダメ! 出てって変態!」
「あなた……恥じらいとかないの?」
「うっせェ、言ってる場合じゃねェだろ」
呆れたようなヒナの視線に睨み返すアネゴ。セリカに押し出されて教室から出ていく先生を横目に着替え終えた彼女はナイフと拳銃を定位置にしまい込み、チビとノッポに振り返る。2人とも各自の銃をしっかりと持っており、アネゴと目を合わせて頷いた。
『超大型の熱源反応が
「退避ィ? 何寝ぼけたこと言ってんだオイ」
アネゴの呟きは再度入り直してきた先生の開けたドアの音にかき消された。
"とりあえず皆、外に出てみようか"
校庭に出た一同が見つけたのは、遠方に見える4機の大型輸送ヘリに吊り下げられた巨大な人型の異形であった。その姿は砂嵐と逆光に遮られて細部を確認できないが、2つの巨大な脚と大きな2つの腕、そして小さな腕2つを持つまさに歪な形のシルエットをしていた。
「な、なんだありゃァ……!」
『望遠カメラでスキャンします……該当する機体、兵器、車両ありません。……いえ! 中央の胴体部分が一般流通しているパワーローダーのコクピット部分に酷似しています!』
「じゃあ、あれは少なくとも機械なんだ」
目を細めながらシロコが呟く。その時、輸送ヘリの1つから何かが射出され、アビドス校門前に突き刺さった。突然の攻撃に生徒たちは臨戦体勢をとるが、着弾した飛翔体は地面に突き刺さるだけで爆発や攻撃をしなかった。
『あーあー、聞こえるかなぁ? これは攻撃ミサイルではなくスピーカー兼マイク装置だから勘違いしないでねぇ』
「その声……柴関ラーメンを襲おうとした連中の!」
『昨日ぶりだねぇ黒見セリカちゃん。ぐっすり眠れたかなぁ? まあ世間話はこの辺にして』
輸送ヘリから伸びるロープが一斉に切れる。鋼の巨体がゆっくりと降下し、アビドス高校から数km離れた位置に轟音を立てて着地した。その衝撃で砂煙が周囲に舞い上がり、アビドスのグラウンドまで余波が届く。
「おっと、おじさんの後ろにいてねみんな」
「皆さん、装甲車の影に」
「クルセイダーちゃんに隠れてください!」
前に出たホシノが盾を展開し、更にチナツの操縦する装甲車とヒフミの駆るクルセイダーが皆を守るように横付けして遮蔽物となった。迫る砂煙が勢いよく校舎に直撃するが、先生と生徒たちはホシノたちのおかげで無事だった。
衝撃による砂と揺れが収まると、装甲車たちは左右に徐行する。そして、降下を完了した巨大な鋼の塊がゆっくりと身を起こし始めた。
『こいつは『アビドス・ブレイカー』。対校決戦兵器とでも呼ぼうか、君たちアビドスを終わらせるAB団最強の切り札だよぉ』
陽光が直立したアビドス・ブレイカーの全身を照らし出す。鋼の塊の正体は、パワーローダーを核にして様々な兵器が接合されて出来た歪な巨大兵器だった。パワーローダーから伸びる脚部の足元には基部として装甲車が接合され、左右に戦車、つま先に量産型ショベルカーが接合している。パワーローダーの腕部は上下逆になった大型クレーンとなっており、肩部にはミサイルではなく大型コンテナが多数配置されていた。更にパワーローダーに肩車する形で大型兵器ゴリアテが接合されており、両腕のガトリング砲と背部大型キャノン砲が異様な威圧感を放っていた。
「不良が持ち出すモンにしちゃあ物騒じゃねェか。どこの兵器でもねェオーダー品か? テメェらチンピラ集団ごときが持てるものかよ」
『持てるとも。私たちはそれだけの執念があったからねぇ』
眉を吊り上げながらのアネゴの発言に、AB団リーダーはせせら笑う。
『ありとあらゆる手段を使い、こいつは作り上げられたのさぁ。全てはアビドス、君たちを完膚なきまでに完全に破壊するためにねぇ。つまり、AB団の意地と言い換えてもいい』
「アビドスを襲うつもりなら、どんなものを持ってきたとしても私たちは引くつもりはありません!」
「意地の張り合いなら、私たちは負けない」
対策委員会の面々は校門を出て、校舎を守るようにアビドス・ブレイカーと向き合う。AB団リーダーの語りを聞いたアネゴは不敵な笑みを深めた。
「面白ェ……! ホンモノがこんなところにいやがったとはな」
ずんずんと進み、対策委員会より前に出るアネゴ。チビとノッポを付き従えた彼女は、アビドス・ブレイカーを指差すと高らかに叫んだ。
「悪ィなアビドス! この喧嘩、アネゴ団も混ぜやがれッ!」
「喧嘩ぁ!? そんな軽いもんじゃないわよ!」
「最初に会った時からただのチンピラじゃねェとは思ってたが、テメェも
『アネゴ団? ああ、黒見セリカちゃんと一緒にいた不良の……』
アネゴのことを思い出したAB団リーダーは苛立ち気味に目を細める。
『思えば、君が来てから私たちの計画は狂いっぱなしだねぇ。もしかしてあの時、ラーメンの屋台が移動していたのは君のせいだったのかなぁ?』
「おう、アタシのせいだ! 運が悪かったな!」
『そうかそうか、君さえいなければ……ひっ、ひひひひ……』
小さく笑ったAB団リーダーはそのまま笑みを深め、操縦桿を強く握りしめた。
『アビドス諸君、恨むならその不良たちを恨むんだねぇ! そいつらがいなければこいつを引っ張り出すこともなかったのだから!』
『敵兵器、動きます!』
軋むような駆動音を響かせながらアビドス・ブレイカーはクレーン腕を掲げる。ホバリングしていた輸送ヘリが2機1組でクレーン部分にそれぞれ向かい、腹面をクレーンと平行になるように転換、腹部ハッチからアームが伸びてクレーンを捕まえ接合した。さらにヘリに収納されていた機関砲や対地ミサイルが展開され、メインローターが回転を止めた。
「ヘリまでくっつくの!?」
「戦闘兵器の欲張りセットみたいですね?」
『さあ、覚悟するんだねアビドス。君たちの学校は必ず破壊してみせるからさぁ!』
アビドス・ブレイカーの脚部車両が唸りを上げて履帯やタイヤを回し、少しずつ前進し始める。同時にヘリのミサイルと戦車の主砲が攻撃を開始し、アビドス砂漠に無数のクレーターを生み出していった。
『飽和攻撃です! このまま学校に敵兵器が到達した場合、校舎を守りきれません!』
「だね。明らかにそれを分かって見せつけてる」
「でも、それに屈するわけにはいかない。私たちの学校は、あんな奴に壊させない」
シロコの言葉にアビドス高校廃校対策委員会全員が頷く。
「相変わらずキマってんな。……チビ! ノッポ! この喧嘩はいつもの腑抜けたチンピラや大人共との喧嘩とはわけが違ェ!」
「いつもより強そうだね……」
「病み上がりの相手が重すぎる」
「じゃーかあしいッ! アイツは不良だ、アタシたちと同じ不良だ! だから挑んで確かめてェんだ、アイツとアネゴ団、どっちがデケェ不良かをな!」
アビドス・ブレイカーを獰猛な目つきで睨み、不敵な笑みを深めるアネゴ。その後ろでチビたちも各々の武器を構えながら、アネゴと同じ笑みを浮かべた。
「あんな強そうのに勝てたら、ウチたちすっごい不良ってことになるよね」
「勝算はあるの? まあ、無くてもいいけど」
「……うへー、君たち不良にしても危なっかしいなぁ〜。おじさん横で聞いててハラハラしちゃうよ~」
「うっせェ! これがアタシの生き方だッ!」
アネゴの噛み付きを受け流しながら、ホシノは敵を見据える。
「ま、倒れない程度に頑張りなよ~。おじさんもほどほどに頑張るからさ」
『戦術プラン構築完了しました! それと、皆さんの
対策委員会の端末にプランの詳細が送信され、それ以外の生徒には『退避経路』が送信された。
『アヤネさん? これはどういうことで……』
「や~、ゲヘナのみんなをアビドスの事情に付き合わせるのも悪いしねぇ。先生だってこういうつもりでうちに泊まってく提案をしたわけじゃないでしょ?」
"それは……"
"そうだけど……"
端末越しの先生の声は歯切れ悪く、それだけでホシノたちは良かった。
「ヒフミ、先生をよろしく」
『それではアビドス高校防衛戦、開始します!』
対策委員会の全員がアビドス・ブレイカーに向かって突撃していく。
「アネゴ団も続くぞッ! おいチビィ、アタシのバイクはまだあるよな!?」
「うん、アビドスの駐輪場に置かせてもらってるよ。燃料もバッチリ!」
「よォしお前ら着いてこい! あのデカブツをぶち抜くぞッ!」
駐輪場へ走って向かうアネゴたち。彼女たちとすれ違うようにクルセイダーが先生の元に到着し、搭乗口からヒフミが顔を出した。
「……先生! クルセイダーちゃんの中に!」
"ありがとうヒフミ、お邪魔するね"
同時にゲヘナの装甲車がヒナたちの前に停車し、チナツが扉を開いた。
「委員長、皆さん。……経路はいただいています、搭乗願います」
「……そうね」
クルセイダーに乗り込む先生を一瞥し、ヒナは装甲車に乗り込む。他の風紀委員会の面々もそれに続き、扉は重々しく閉じられた。
「社長、私たちはどうする」
「どうする、って……」
「まー、アビドスだけ狙ってるっぽいからね~。逃げても追っては来ないんじゃない?」
「わ、私はアル様に従います……」
「……」
どの勢力にも属さない便利屋68は、社長の決断に委ねられていた。社員たちの視線を一身に受けたアルの額に汗が流れる。彼女の視線はまっすぐアビドス・ブレイカーに向けられていた。