落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第19話「"任せて"」

 

 アビドス・ブレイカーを見据えていたアルは視線を外し、社員たちを見渡した。

 

(あんな意味分からない巨大兵器相手にしたらせっかく休めたのが台無しになるじゃない!? ムツキたちの怪我が治りきったわけでもないんだから、ここは今後のためにも逃げて……)

 

 ブゥンと排気音が轟く。アネゴが跨るゲヘナ製バイクのエンジンが唸りをあげ、アクセルが握られるのを今か今かと待ち望むかのように震えていた。ハンドルを軽く握り便利屋たちの側に移動したアネゴは、チビたちを横に控えさせながらアルに語りかけた。

 

「よォ便利屋、ノッポから聞いたぜ。お前らの根城でドンパチやったんだってな」

「え? え、ええそうね。おかげで事務所は大変なことに……って、今はどうでもいいでしょ!?」

「よくねェさ! アタシの自慢の仲間があの便利屋に挑んだんだからな!」

「すぐ負けたんだし、掘り返さないで……」

 

 顔を抑えるノッポに構わず、アネゴはバイクに跨りながら両手を組んで不敵な笑みを浮かべた。

 

「そん時のノッポは記憶が無かった。だが、アタシたち不良の魂を忘れていなかった」

「不良の魂……?」

「相手が強かろうがデカかろうが、気に入らねえ奴に挑む度胸だ! そいつがいつかキヴォトス一の不良になる、アネゴ団の魂だ!」

「キヴォトス一の、不良……!?」

 

 驚くアルをよそにアネゴは前に向き直り、両手でしっかりハンドルを握りしめる。

 

「チビィ! ノッポォ! なんとか乗れ!」

「わぁ、バイク3人乗り! 間違いなく不良って感じだね!」

「物理的に無理がある気が……」

 

 チビがアネゴに抱きつくように座り、その後ろの僅かなスペースにノッポが立ち、アネゴの肩を両手で鷲掴みにした。

 

「の、乗れた……振り落とさないでよアネゴ?」

「じゃあな便利屋ァ! いつかお前らも超える不良になってやるから、首洗って待ってろよッ!!」

「よーし、アネゴ団しゅっぱーつ!」

「ヒャッハアアアアッ!!!」

 

 アクセル全開でアビドス・ブレイカーに向けて走り出すゲヘナバイク。それを見送ったアルは、わなわなと震えだした。

 

「……な、な……」

「アルちゃん?」

「……うちは不良じゃなくてアウトローよーーーー!?」

「突っ込むところ、そこ?」

 

 一瞬白目を剥いていたアルだったが、すぐに気を取り直して咳払いし、真剣な眼差しでアビドス・ブレイカー……ひいてはそこへ向かっているバイクを睨みつけた。

 

「こほん。どうあれ、たった今私たちはあのアネゴ団とかいうのから宣戦布告を受けたわ。それで、そいつらはあの巨大兵器に立ち向かってる」

「……ちょっと、まさか」

「……?」

 

 愛銃を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべるアルに、カヨコは嫌な予感をひしひしと感じ、ハルカは首を傾げ、ムツキは笑いをこらえた。

 

「──ここで逃げたら私たち、かつて雇ったバイトにナメられるわよ。それは私の目指すアウトローじゃない!」

「くくっ、あっはははは! それじゃあどうするの、アルちゃん社長!」

「もちろん、あのガラクタを全力で破壊よ! アビドスにも最近ナメられてる気がするし、私たち便利屋68の恐ろしさを思い出させるいい機会だわ」

 

 自分の端末を取り出し、作戦用のグループ通話に繋げたアルはスピーカーモードにして口元に構えた。

 

「こちら便利屋68。聞こえるかしら対策委員会、今から私たちもあのデカブツ退治に加わるわ」

『ええっ!? そんな、いいんですか?』

「勘違いしないでちょうだい。そっちの助けに入るつもりはないから。これはアウトローとしての、譲れない矜持を示すための戦いよ」

 

 言いたいことを言い切ったアルは通話を切り、端末をしまい込んでコートをたなびかせた。

 

「あんな大きな兵器、どれだけの爆弾を使えば……ぜ、全身に巻き付けてコクピットに張り付けば」

「それじゃハルカちゃん気絶しちゃうじゃん、もっと楽しめる方法を考えよ?」

「はぁ……」

 

 便利屋の面々が横並びに立ち、各々の愛銃を構える。それを音だけで確認したアルは振り向かず、アビドス・ブレイカーだけを見据えて宣言した。

 

「勝負よ、AB団……そして、アネゴ団!」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 アルの通信を聞いていたのは何も対策委員会だけではなかった。ビナー攻略時のグループを転用していたため、彼女の通信は全員に聞かれていたのである。クルセイダーを操縦しているヒフミと、その後ろで座っている先生も例外ではなかった。

 

「……先生、わがままを言ってもいいですか……?」

 

 前を向きながらヒフミが呟く。もちろん先生はその声を聞き逃さなかった。

 

"言ってみて"

 

「……引き返したいです。引き返して、アビドスの皆さんの助けになりたいんです。わかってます。このままシャーレまで戻って、先生を安全な場所に運んだ方が賢明で、アビドスの皆さんも望んでいることだって」

 

"私のことは気にしないで"

"自分の身の安全はなんとかするから"

 

「なんとかって……」

 

"だから、ヒフミのやりたいようにやっていいんだよ"

"私はそれを応援するからね"

 

「……ありがとうございます、先生。信じていいんですよね?」

 

 振り返り、先生が頷いたのを確認したヒフミは操縦桿をぐっと握った。クルセイダーが砂漠をドリフトし、180度方向転換する。一旦停止し、端末を取り出したヒフミはミュートをオフにして叫んだ。

 

「対策委員会の皆さん、私も手伝います!」

『ヒフミ……!? 先生は』

「先生は私が守ります! クルセイダーちゃんは簡単には壊れません!」

 

 履帯が猛回転して砂煙を後方に巻き起こす。主砲の先にアビドス・ブレイカーを見据え、クルセイダーは高速で走り出した。

 

「私は逃げません! 友達を見捨てて逃げるなんてこと、したくありません!」

 

 操縦桿を握るヒフミの手に力が入る。眼前に広がる無数のクレーターに一瞬気圧されるが、それで彼女が止まることはなかった。

 

『──それがシャーレの選択なのね。先生、それと対策委員会、聞こえる?』

 

"ヒナ?"

 

『およ、何かな委員長ちゃん。もうアビドスには用はないでしょ?』

『結論から話すわ。端的に言えば、風紀委員会はあなた達対策委員会に加勢したい。アコ、説明を』

『議論の結果、あの巨大兵器がアビドスの破壊に成功した場合、ゲヘナに対する無視できない脅威になると結論付けられました。AB団の活動はゲヘナでも発生していますし、リスクとしては看過出来ない存在ということですね』

『ついてはアビドス自治区内における戦闘許可を欲しいのだけど、小鳥遊ホシノ』

『……風紀委員会って暇なの?』

 

 少しの沈黙の後、真剣味を帯びたホシノの声が端末越しに発せられる。風紀委員会の間に緊張が走った。

 

『おじさんたちだけで平気って言ってるんだけどな』

『暇じゃないからこそ、不安の種は潰しておきたいの』

『そっか~……しょうがないな~』

 

 ホシノが声のトーンを戻したことにより、嫌な緊張感は霧散した。

 

『先生、逃しておいてどの面って感じではあるんだけどさ。行政官ちゃんが手伝ってくれるとは思うけど、アヤネちゃんだけじゃ指揮がパンクしちゃうと思うから……』

 

 一呼吸置き、そして何でもないように。

 

『お願い、私たちを導いて』

 

 彼女は先生に頼み込んだ。

 

"任せて"

 

 先生の端末(シッテムの箱)が静かに、だが確かに液晶を輝かせる。先生にだけ見える画面に生徒たちの情報がリアルタイムで正確に映し出され、敵の情報も大まかに表示されていく。そしてアロナが画面に現れ、得意げな顔でサムズアップをした。

 

『充電もまだ大丈夫、メモリ確保も充分! 先生、準備OKです!』

 

"それじゃあ、みんなでアビドス高校を守ろう!"

 

『はい!!』

 

 先生の号令に、生徒たちが一斉に呼応する。異形の巨大兵器を前にしても、もはや生徒たちの間に不安や恐れは無かった。

 

「で、私たちは話に入らなくて良かったの?」

「良いんだよ、アタシたちはシャーレの生徒じゃねェからなッ!」

「通話だけずっと盗み聞きしてたみたいになっちゃったね」

 

 クレーターを巧みに避けながらアビドス・ブレイカーにバイクで突貫していくアネゴたち。降りかかる無数の榴弾やミサイルによる爆風に煽られながらも、彼女たちは決して倒れず前に進んでいた。

 

「アイツらが勝負を決めて来る前にアタシたちで白黒つけるッ! アネゴ団の意地を見せてやるぜッ!!」

 

 アネゴたちがぐんぐんとアビドス・ブレイカーに迫る中、他勢力も向かってきていることに気付いたAB団リーダーはレーダーを眺めながら好戦的な笑みを浮かべていた。

 

『反転したってことは、AB団に歯向かうってことだよねぇ! 仕方ない、邪魔するならまとめてすり潰してあげるよぉっ!』

 

 ミサイルと榴弾を際限なくばら撒きながら進むアビドス・ブレイカーと、生徒たちが団結したシャーレ。両者の全面対決がアビドス砂漠を舞台に始まろうとしていた。

 

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