落伍者たちのロードムービー 作:野生の虚妄クトゥム
アビドス砂漠をゆっくりと、しかし確実に進むアビドス・ブレイカーの肩部で、大型コンテナを固定してたロープが順次千切れていく。支えを失った大型コンテナ群は地面に落下し、上部ハッチを展開。すると中から無数の小型ドローン兵器が次々と飛び出した。
『小型ドローン多数接近! 総数100は超えています!』
同時に、威嚇砲撃を行っていた足パーツの戦車砲が仰角を調整しクルセイダーと風紀委員会の装甲車に狙いをつける。腕部大型クレーンも大きくもたげた腕を降ろし、輸送ヘリ部分の前面を向かってくる車両たちに向けた。
『無意味な攻撃をやめ、こちらに狙いを定めたようです。チナツさん、ヒフミさん、しっかり回避をお願いしますね』
「先生、揺れますからしっかり掴まっててください!」
無数の榴弾とミサイルが2つの車両めがけて殺到する。さらに小型ドローン兵器が車両の行く手を阻むように四方八方から襲いかかる。
『ひひひ、ヒャーッハハハハ! 物量に押しつぶされちゃいなよぉ!』
鋭いハンドリングとアクセル全開の最高速度で攻撃を躱していく車両たち。だがいまだにアビドス・ブレイカーとの距離は遠く、唯一届くであろうクルセイダーの主砲もヒフミが操縦にかかりきりになっていたため動かせない。対策委員会と便利屋はUターンしてきている車両たちよりは近づいていたが、ドローン兵器の壁に阻まれて攻撃出来ずにいた。
「ああもう、なんなのこのドローンの数! 撃っても撃っても減らない!」
「お掃除お掃除~♧」
「砲撃は
「消えて下さい消えて下さいアル様の前を飛び回る羽虫たちは!」
そして、もっともアビドス・ブレイカーに近づいているアネゴたちは、もっとも多くのドローン兵器に追われていた。
「ちゃんと固定しててよ、チビ先輩!」
「頑張れノッポちゃーん!」
「頼むぜお前らァ! 敵はすぐそこだァ!」
足や体をテープで固定したチビが、立ちながらドローンを狙撃するノッポを支え、アネゴは全速力でバイクを走らせる。だが、ドローンに搭載されている自動小銃による弾幕がバイクやアネゴたちを容赦なく抉っていく。
『来たねチンピラ! ここですり潰してあげるよぉ!』
ゴリアテの腕部ガトリング砲がアネゴたちに照準を合わせ、砲身を回転させはじめる。程なくしてドローン攻撃の比ではない銃弾の嵐がアネゴたちを真正面から襲う。
「お前ら落ちンなよォ~~~~!!」
「───~~~~!?」
車体を限界まで横倒しドリフトしながらクレーターのふちを傘にして攻撃を避けるアネゴたち。体の半分が砂まみれになりながら、チビたちは声にならない悲鳴をあげる。
『逃げ回って、意味のないことを! この力と物量から逃げることは不可能なんだよぉ!』
「アネゴ団に不可能は、ねェッ!!」
クレーターを利用して猛攻をしのぎ続けるアネゴたち。目の前にいるというのにいくら攻撃してもアネゴたちを潰せない状況にAB団リーダーは苛つきが溜まっていく。
『ちょこまかちょこまかと鬱陶しい! 身の程知らずはさっさと消えなよぉ!』
アビドス・ブレイカーの大型クレーン腕をアネゴたちに向け、輸送ヘリ部分の機関砲とミサイルの照準を全てアネゴ団に合わせる。
「アネゴやばいよーっ!!」
「アビドス来てからヘリばっか見てる……」
「かっ飛ばしちまえば怖かねェッ!」
ヘリからの攻撃が加わってなお逃げ回るアネゴたち。だが、矛先が彼女たちへ向いたおかげで、他の生徒たちへのミサイル攻撃が止まる。その隙をついてドローンを振り切ったクルセイダーは前を行く便利屋68に追いつき、搭乗口からヒフミが顔を出した。
「みなさん、乗ってください!」
「いいの? 私たちが乗っても」
「わかってます、多分怒られると思います。でも、今は私がそうしたいんです!」
「いいわね、そういうの! 行くわよ皆!」
「あ、こんにちは先生……」
乗り込む便利屋を先生が出迎え、再び操縦席に戻ったヒフミがクルセイダーを飛ばす。その頃ゲヘナの装甲車は対策委員会に追いつき、彼女たちを乗せていた。
「いや~助かるねぇ。まさか乗せてもらえるなんてさ~」
「先生からの指示だから」
「しっかり掴まっていてください。攻撃の層が薄くなったとは言え、全速力で近づかなければならないことには違いありません」
装甲車もまたアビドス・ブレイカーめがけて速度を出して走行する。爆風やドローン攻撃で車体は傷ついていたが、クルセイダーも装甲車もその程度の損傷では止まらなかった。
『戦術プラン修正、突貫してください!』
『戦術も戦略も無いと言うか……まあ、委員長がいる以上それが最適解ですが』
クルセイダーたちが砲撃の合間を縫ってアビドス・ブレイカーに向かう中、アネゴたちのバイクは苛烈な攻撃に晒され続けていた。それでも紙一重で躱し続けていたが、ミサイルの1発が至近距離に撃ち込まれ、爆風でアネゴたちは吹き飛ばされてしまう。
「ぐあァァッ!」
「っ……アネゴ! 上!」
砂漠に身を投げ出したアネゴたちの頭上では、アビドス・ブレイカーの大型クレーン腕が大きく振り上げられていた。
『いい場所にいるねぇ! しっかり叩き潰してあげようじゃあないかぁっ!!』
「お前ら走れッ!」
「チビ先輩がバイクの下敷きに!」
「何ィッ!?」
吹き飛ばされて横倒しになったバイクに押しつぶされ、チビは気絶してしまった。急いで駆け寄ったアネゴはバイクを蹴飛ばし、チビを抱えて振り下ろされるクレーンから逃れようとする。だが、彼女たちが逃げるよりも早くクレーンが振り下ろされ────
「させません! みなさんお願いします!」
「くふふ、発射~♪」
────る直前、アビドス・ブレイカーの肩部に榴弾が直撃した。大爆発を起こした肩部はそのまま崩壊。基部崩壊により軸がずれたクレーンはアネゴたちの頭上から大きく横に逸れて落下し、轟音を立てて砂漠に激突した。
『アネゴさん聞こえますか! ヒフミです、無事ですか!?』
「強制通信!? 今のはお前の仕業か、助かったぜ!」
『いえ、撃つように指示してくださったのは先生で、実際撃ってくださったのは便利屋のみなさんといいますか……というかなんでグループ通話に入ってないんですか!』
「誰の指図も受ける気ねェからだッ!」
『理由になってませんよ!?』
「悪ィな、こいつはアタシの意地だ」
『ちょ、待っ──』
端末を取り出して一方的に通話を切り、端末の電源を落とすアネゴ。
ハッと目を醒ましたチビはアネゴの腕を軽く叩き、自分の足で立ち上がった。
「ありがとアネゴ、ごめん!」
「気にすんな! それより上を見ろッ!」
空を見上げ、指差すアネゴ。その先には片腕を失ってバランスが崩れかけているアビドス・ブレイカーがいた。
「いい位置にいるのはこっちも同じだッ! チビ、ノッポッ!」
「ほとんど足元、この距離なら……!」
「案外脆そうだし、ポイントを絞れば……」
チビたちはそれぞれの武器を取り出し、アビドス・ブレイカーを見据える。アネゴは起こしたバイクにまたがり、不敵な笑みを浮かべながら叫んだ。
「アタシはこのまま突っ込むッ! 頼んだぜお前らッ!」
「うん、決めてきちゃって!」
「見せてよね、アネゴの意地」
グレネードランチャーを携えたチビが、スナイパーライフルを構えたノッポがアネゴの前に立つ。その間からアビドス・ブレイカーの胴体を睨みつけるアネゴはアクセルを握り、エンジン全開に吹かした。
「行くぜアネゴ団ッ!!」
バイクが発進すると同時にグレネードランチャーから大型弾頭が発射され、スナイパーライフルの弾丸がアビドス・ブレイカーを守ろうとする小型ドローンをまとめて撃ち抜いた。
『何のあがきを……』
「この喧嘩、アタシたちが────!」
クレーターのふちを利用して飛び上がったバイクは、アビドス・ブレイカー中心部のパワーローダーめがけて飛びかかる。
『馬鹿が! 宙に浮いたらただのカモでしょうがぁ!』
ゴリアテの腕部ガトリング砲がアネゴに照準を合わせ、砲身が回転を始める。
「10発梱包炸裂ちゃん
『ぐわああっ!?』
その瞬間アビドス・ブレイカーの片脚が大爆発を起こし、片膝立ちの体勢へとバランスを崩した。ガトリング砲はあらぬ方向へと向けられ、不運な小型ドローンたちを撃ち抜いた。
「────もらったァッ!!」
高度が落ち、目の前に現れたパワーローダーのコクピットにアネゴはバイクから飛び移る。ガラス部分にへばりついた彼女は素早く拳銃を取り出し、弾の許す限りコクピットに向けて連射した。
『や、野蛮すぎる! 意味がわからない! なんなんだ君は! ただのチンピラというには狂っている!』
「テメェと喧嘩がしてェ、ただの不良だよォッ!! オォラァァッ!!」
弾を使い切り、己の拳でガラスを殴り始めるアネゴ。振り抜いた拳がヒビを入れ、ついにはガラスを粉々に砕いた。
「は、はは、凄い執念だ……」
「テメェのデカブツに負けず劣らずだろ?」
血濡れの手でAB団リーダーの首元を掴み、引き寄せて顔を合わせるアネゴ。
「……なるほど、他者から見れば私もこれくらい狂人に見えるのか。ちょっと傷つくねぇ」
「ヘッ、そいつはアビドスの連中に言ってやんな」
「だけど、近づいたのは迂闊だったねぇ!」
「があッ!?」
闘志あふれる笑みを浮かべたAB団リーダーは安全ヘルメットでアネゴに頭突きをかました。突然の衝撃に思わず手を離したアネゴはコクピットから剥がされて地面に落下していく。
「アネゴーーーーっ!」
(チッ、意識が……)
『落とさせは、しない……!』
「ぐはっ!?」
重力に従って自由落下していたアネゴの体が下から突き飛ばされる。その下手人はシロコが操縦するミサイルドローンだった。
『こちらでキャッチします!』
「……げほっ、助かったけど、殺す気かお前らァ!?」
浮かび上がったアネゴをアヤネのドローンが掴み、ゆっくりと降下していく。その横で、アビドス・ブレイカーに充分近づいた装甲車から風紀委員会と対策委員会の面々が勢ぞろいする。
「はぁ、はぁ、ゲヘナの風紀委員会かぁ……まとめて吹き飛ばせなきゃ終わりだねぇ!」
体勢を崩したままのアビドス・ブレイカーはゴリアテ部分を稼働させ、腕部ガトリング砲と大型キャノン砲を風紀委員会たちめがけて乱射しはじめる。
「はいはーい、皆おじさんの後ろにいてね~」
「面倒事は、すぐ終わらせる」
しかしそれらの攻撃はホシノによって防がれ、逆にヒナたちの一斉攻撃を冷却動作の隙に叩き込まれてしまう。それによりアビドス・ブレイカーの各部がダメージに耐えられず爆発を起こし、機能を停止していき、巨大兵器は完全に沈黙した。
「制圧力は高かったけど、それだけだった」
「もうあなたの兵器は無力化されました、大人しく投降してください!」
脚部が完全に崩壊し、パワーローダー部分が砂漠に落ちる。そのコクピットの中でAB団リーダーは蹲っていた。
「ぐうぅ……こ、ここで終わり……? 意味の分からないチンピラに邪魔されて、ゲヘナにも妨害されて、アビドスを、アビドスの破壊を……」
「そ、終わりだよ」
顔を上げたAB団リーダーは、割れたガラス部分から覗き込むホシノと目が合う。その瞬間、AB団リーダーの表情は酷く険しいものとなった。
「……いいや! まだだ、まだ終われない!!」
懐から真っ黒のアンプルを取り出した彼女はその首を折り、中身を一気に飲み干した。一瞬の出来事であり、行動を察知したホシノが妨害しようとした瞬間には既に全てが終わっていた。
「小鳥遊ホシノぉっ! お前の青春ごっこは私が終わらせる!」
「っ!?」
パワーローダーが異音と共に異常な振動を起こす。異変を察知したホシノはその場から飛び退るが、その時恐ろしい光景をコクピットの中に見ていた。
「アビドス・ブレイカーは……私だぁああっ!!」
パワーローダー内のケーブルやコードが蛇のようにのたうち回り、そしてAB団リーダーの両腕に食い破るように突き刺さっていく。まさに悪夢のような光景だった。