落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第21話「つまらない青春ごっこを見せつけるな!!」

 

 砂漠に半ば埋もれたパワーローダーから無数のケーブルが四方八方へと散らばるように伸びる。怒涛の勢いで周囲に伸びていくケーブル群は地面に落ちていたクレーンに絡みつき、機構を食い破って無理やり接続しはじめていた。

 

「──プラン(ATEND)は1人ずつ、確実に退学に追い込むもっとも穏当な策だった」

「な、なに、あれ……」

 

 パワーローダーのコクピットから現れたAB団リーダーの姿を見て、全員が絶句した。彼女の腕にパワーローダー内部から伸びるケーブルやコードがびっしりと癒着していたからだ。

 

「プラン(BINAH)は元PMCの団員から得た情報を元に、巨大兵器とアビドスを潰し合わせる作戦だった」

 

 パワーローダーから伸び続けるケーブル群は破壊されたアビドス・ブレイカーを覆っていく。

 

「プラン(CRUSH)は切り札を用いての特攻作戦……ここで成功していれば、私は使わずに済んだんだ」

 

 AB団リーダーが右手に携えるアサルトライフルにさえケーブルが伸び、侵食し、飲み込まれて腕と一体化した。

 

「最終プラン、(DANGER)……『増幅薬』を飲み、イチかバチかに全てを賭ける最後のあがきさぁ!!」

 

 ケーブルの群れに飲み込まれたアサルトライフルを対策委員会に向けるAB団リーダー。パワーローダーから伸びるケーブル群が宙に舞い、アビドス・ブレイカーのパーツを接合したケーブル先端部分も銃口に追従する。

 

「神秘だの恐怖だのよく分からないことを言われたが、こいつはアタリだねぇ!!」

「バケモンになってんじゃねェかよ、それもテメェの意地だってのか!」

「そうとも! アビドスを破壊する、そのために!」

 

 ケーブル群に持ち上げられた2つの大型クレーンが振り下ろされ、生徒たちは回避による分断を余儀なくされてしまう。ゲヘナ装甲車が衝撃で浮かびあがり、舞い上がった砂埃が生徒たちの視界を阻む。

 

「アビドスに破滅を呼ぶ嵐を起こしてあげようじゃあないか! ハハハハハハ!!」

 

 クレーンに接合しているヘリの歪んだメインローターが異音を立てながら異常な速度で回転し始め、周囲の砂を巻き上げて無数の砂嵐を生み出す。砂嵐はあっという間にAB団リーダーの姿を覆い隠した。

 

「くっ……皆さん、車内に避難を!」

「いや、皆散り散りだ!」

 

 砂嵐の中から鉄塊や砲弾が無秩序に飛来する。散らばった生徒たちは投射物と砂嵐に翻弄されて周りの状況確認すら出来ない。

 

「ちィッ、やってくれンじゃねェか。チビィ! ノッポォ! どこだァ!?」

「ちっちゃいのならここにいるよ~」

「ん? ってェアビドスのピンク頭じゃねェかよ!」

 

 飛んでくる装甲板を避けながら砂嵐の中で合流するアネゴとホシノ。周囲の様子は砂に阻まれて分からず、飛来する攻撃で敵の方向がわかるのみだった。

 

「こうもわからねェじゃあ進むしかねェな。テメェも行くんだろ?」

「通信も繋がらないし、それしかないかな~。ま、砂嵐は初めてじゃないしね」

「奇遇だな、アタシもだッ!」

 

 走り出す2人。強風による砂の刃が彼女たちの頬を裂き、服を傷つけ、体を痛めつける。だが血を出すのはアネゴだけであった。

 

(目が痛ェ、右手は感覚がねェ。全身にジンジン来やがる。ただの砂嵐じゃねェ、アイツの魂が籠もった嵐だ)

 

 全身から血を流しながらも前に進むアネゴ。ホシノは彼女を一瞥し、何も言わずに前を向き直す。やがて2人は砂嵐の壁を抜け、AB団リーダーが鎮座するパワーローダーの残骸までたどり着く。嵐の目となっていた場所で不気味に佇んでいたAB団リーダーは、2人の侵入者に微笑みかけた。

 

「思ったより早かったじゃないかぁ。もっと砂の中でゆっくりしていれば良かったものを」

「いや~待たせたね。おじさんも年だからさ、動ける内に終わらせたくて」

「っ……! 君は苛立たせる天才だな、私を!」

 

 パワーローダーから伸びるケーブルが機関砲やガトリング砲、戦車砲やミサイルを持ち出してホシノたちへ照準を合わせる。

 

「アビドス最大戦力の君と、何度も邪魔してくれたお前をここで潰して! アビドス破壊を必ずやり遂げるのさぁ!!」

「諦めが悪いな~。とりあえず、そのオモチャをなんとかしないとね」

「潰せるモンなら潰してみなァ! アタシはタダじゃ倒れねェぜ!」

 

 ケーブル同化ライフルでホシノたちを指し示すAB団リーダー。彼女の顔は狂気にまみれ、目の焦点も定まっていなかった。

 

「壊れて無くなれぇ!!」

 

 ケーブルに持ち上げられた武装が一斉に攻撃を始める。無数の弾丸と爆発物を前に、ホシノは盾を構えて前に飛び出し、アネゴは横っ飛びに迂回するように回り込む。

 

「無策だねぇ小鳥遊ホシノ! まっすぐに突っ込むなら、まっすぐに当てられる!」

 

 ケーブル同化ライフルの銃口がまばゆく輝き、ホシノめがけて赤い電撃を撃ち出す。迸る電撃は盾を素通りしてホシノに直撃してしまう。

 

「っ……!?」

「その盾で何が守れる! 砂も(いかずち)も防げないその盾でぇ!」

 

 一瞬蹲った(スタンした)ホシノに無数の攻撃が集中する。爆風と衝撃で砂埃が舞い上がり、彼女の姿が見えなくなる。

 

「お前は何も守れない! そこでアビドスが無くなるのを見ているがいいさぁ!」

「アタシから目ェ逸してんじゃねェパァァァンチ!!」

「がああっ!?」

 

 砂埃に紛れてアネゴが渾身の左ストレートをAB団リーダーにぶちかました。何本かケーブルがちぎれながら吹っ飛んだ彼女は、顔をさすりながら立ち上がる。

 

「っ……お前はいつもそうだ。いいところで横槍を入れてくる!」

「喧嘩相手から目ェ離す方が悪ィだろ。……ん?」

 

 アネゴは目の前に落ちた何かを拾い上げる。それは砂で薄汚れた古い学生証だった。

 

「何か落としたぜ。……こいつは」

「み、見るなぁ!」

「ぐあッ!?」

 

 焦燥した表情でケーブル同化ライフルを構え、アネゴを撃ち抜くAB団リーダー。電撃に貫かれたアネゴの手から学生証は吹き飛び、砂煙の中へと消えていく。

 

「はぁ、はぁっ……! くぅっ、お前は気絶じゃ済ませない……痛めつけて痛めつけて! 五体満足でいられなくしてやる!!」

「ぎィ……が……ッ」

 

 痺れて崩れ落ちたアネゴの周囲を無数のケーブルが取り囲む。その先端には無数の銃器が接合されており、ときおり銃身に赤い電流が走っていた。

 

「終わりだチンピラぁ! 消し飛べぇ!」

 

 取り囲んでいたケーブル兵器が一斉に射撃する。動けないアネゴが避けられるはずもなく、一瞬で砂埃が舞い上がり、鮮血が砂漠の砂を赤く染めていく。

 

「ハハハハ、ハハハハハハハ!!! これだけの攻撃を受ければもう立ち上がれないだろう!」

「────アビドスの生徒だったんだね」

「っ!?」

 

 砂埃の向こうから聞こえたのはアネゴではなく、ホシノの声だった。盾が地面を軽く叩き、その余波で砂が吹き飛んで姿があらわになる。そこには血溜まりに倒れているアネゴと、全身を使って彼女を庇ったホシノがいた。

 

「な、なぜ……あれだけの攻撃を喰らえば、君だって気絶くらいは」

「それよりこれ、君の学生証でしょ? 返すね」

 

 ホシノがAB団リーダーに学生証を投げつける。ケーブルを伸ばしてキャッチしたAB団リーダーは、明らかにうろたえていた。

 

「不良やチンピラが学校を襲う理由なんていつもは気にしないんだけどさ。おじさん、君に聞くことが出来ちゃった」

「な、なにを……」

「学生証には失効印が押されてたし、退学済みのはずだよね。出ていった学校のことをなんでそんなに気にしてるのかなって」

 

 ケーブル群越しにAB団リーダーを見つめるホシノの目がすっと鋭くなる。

 

「……君が、それを聞くのか」

「うん?」

「きっかけは1ヶ月前、偶然アビドスに寄った時だった」

 

 険しい表情のAB団リーダーは、憎悪と怒りの炎を瞳の中で燃やしながら語り始める。

 

「私だって弁えてはいたさ。元は退学した身、今更母校の状況に何か言う資格はない。そう思っていた。……小鳥遊ホシノ、君を見るまでは!」

「わ、私?」

 

 ケーブルから赤い電流が漏れ出し、パワーローダーが赤熱していく。

 

「君は……私が見ていた小鳥遊ホシノじゃない! 私が憧れた小鳥遊ホシノじゃあないっ!! そのへらへらとした態度は! 学校のために前に出ようとする気概は! なによりその盾はぁっ!!」

 

 AB団リーダーとホシノをつなぐ射線上のケーブル群がさあっと脇によける。

 

「あの人のものじゃないかあっ!! つまらない青春ごっこを見せつけるな!! 小鳥遊ホシノ!!」

 

 赤い電流が充満したケーブル同化ライフルの銃口をホシノに向け、叫びながらAB団リーダーは異常にチャージした電撃を発射した。

 

「そんな君がトップのアビドスなんか、私が粉々に破壊し尽くしてやるぅぅぅ!!!」

「……そっか。私が原因なんだ」

 

 迫る電撃を前にホシノは避けようとせず、盾を手放して手近なケーブルを掴んで握り潰した。

 

「でも、つまらないって言い切られるのは違うかな」

 

 電撃がホシノを貫く。しかし、彼女の体を電撃が焼いたのは一瞬だった。握り潰して破損したケーブル内部の電線がホシノの手と接触していたため、電撃はそちらに全て流れていったのである。

 

「っ、私はごっこをやってるつもりはないからね」

「ぐ、ぎゃああああああ!!?」

 

 ケーブルから逆流した電撃はパワーローダーをオーバーヒートさせ、爆発させた。AB団リーダーにも逆流し、彼女の全身を耐え難い激痛と熱が襲う。制御元が爆発したことでケーブル群は次々に地面へ落ち、大型クレーンと接合していたヘリも機能停止して砂嵐の発生を止めた。

 

「ぐ、ぁ……ま、まだ……私は……」

 

 黒焦げとなって倒れ込み、それでも這いずり立ち上がろうとしているAB団リーダー。彼女の腕に癒着していたケーブルは全て焼き切れており、アサルトライフルも元の姿を取り戻していた。

 

「……」

「うっ……」

 

 盾を拾い直したホシノはAB団リーダーにゆっくり近づき、彼女の頭を盾で小突く。それだけでAB団リーダーはヘイローを消失させ気絶した。

 砂嵐が徐々に収まっていき、土色の風壁から青空が覗く。その日差しは校舎を守りきった生徒たちを祝福するように降り注ぐのだった。

 

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