落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第22話「ここが好きだから通ってるのよ!!」

 

「……矯正局の牢屋じゃ、ないのかい」

「懐かしいでしょ、保健室」

 

 正午。

 AB団リーダーが目覚めたのはベッドの上だった。彼女の両手は縄で縛られ、ベッドの手すりに繋がれていたが、拘束はそれだけだった。電撃で焦げた戦闘服は最低限砂を落とされ、全身の傷は手当されて絆創膏まで貼られていた。彼女の横たわるベッドを対策委員会の面々が囲み、少し離れた位置に先生が座っていた。

 

「学生証、もっかい見せてもらったけどさ。おじさんと同級生だったんだねー。先輩とかだったらどうしようかと思ったよ~」

「ホシノ先輩以外にとっては先輩にあたるのですが……」

「……そうだねぇ。在籍していれば、君たちは良き後輩だっただろう」

 

 微笑みを浮かべながらAB団リーダーは対策委員会の面々に、1人ずつ目を合わせていく。

 

「黒見セリカちゃんは少し抜けているところはあるけど、努力家で一生懸命な子だ」

「え、な、何……?」

「奥空アヤネちゃんは真面目でしっかりしていて、先輩相手にも意見できる度胸がある」

「えっと……」

「十六夜ノノミちゃんはあの会社の子だというのに、アビドスのために体を張って頑張ってくれているよねぇ」

「……」

「砂狼シロコちゃんはクールだけど素直で、とても先輩がいのありそうな後輩だ」

「ん……」

 

 全員を見渡し、最後にホシノに視線を合わせたAB団リーダーは、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

「これは全て私がAB団として活動していく中で外から彼女たちを見た時の印象だ。間違っているかい、小鳥遊ホシノ」

「そんなに違わないんじゃないかな~」

「……いい子たちだ。アビドスにはもったいないくらいに」

 

 もう一度目を開き、ホシノを見つめるAB団リーダー。彼女の表情は穏やかなものだった。

 

「私がアビドス破壊を目論んだ理由は2つある。1つは小鳥遊ホシノ、君が気に入らなかったからだ」

「じゃあ、もう1つは?」

「……小鳥遊ホシノの青春ごっこから、君たちを解放するためだ」

 

 しん、と保健室が静まり返る。穏やかな表情をしているようで、その瞳の奥には狂気が垣間見えた。

 

「小鳥遊ホシノ、私は諦めないよ。何度矯正局に叩き込まれたとしても、君が縛り付けている子たちをちゃんとした青春が送れるような学校へ転校させるまで、諦めるつもりはない」

「……えっとね、戦ってたときにも言ったけどさ、まず──」

「意味わかんないこと言わないでっ!」

 

 ホシノが反論するよりも先に、セリカがAB団リーダーに食って掛かった。あまりの勢いに思わずAB団リーダーの目が見開くほど、セリカは彼女の言葉に噛み付いた。

 

「急に私たちを褒めたと思ったらホシノ先輩が何? 私たちを縛り付けてる!? 全く意味わかんない!」

「せ、セリカちゃん。一応相手はけが人だから、抑えて……」

「止めないでアヤネちゃん!」

 

 アヤネの静止は意味を成さず、勢いを増したセリカがベッドの手すりに乱暴に手を置く。

 

「あのねぇ、私がここにいるのはあんたが言う青春ごっこ? に付き合ってるからでも、ホシノ先輩に脅されてるからでもないの!」

「じゃ、じゃあ何故……」

ここ(アビドス)が好きだから通ってるのよ!! 勝手に学校壊そうとしたり、転校させようとしたり、そういうの余計なお世話!!」

 

 セリカの啖呵に気圧されるAB団リーダー。彼女の狂気に満ちていた目は、今は動揺で揺れていた。

 

「……よ、余計なお世話……?」

「あはは……でも、そうですね。あなたは私たちのために行動してくれていたのかもしれませんが」

「私たちはみーんな、選んでアビドスにいるんです☆」

 

 信じられないという表情で対策委員会を見渡すAB団リーダー。だが、誰もがノノミの言葉を否定しなかった。それが一層AB団リーダーにとっては理解出来なかった。

 

「で、でも……この学校には砂と借金しかないんだよ!? 設備だって満足に使えないし、周りはみんなゴーストタウンだ! こんな学校、縛り付けられでもしなきゃ出ていくに決まってるだろう!? 普通の学校生活が出来るはずがない!」

「うへぇ、全く反論出来ないね~」

「ちょっと、なんでホシノ先輩が同調してるのよ!?」

 

 困惑するAB団リーダーにシロコが一歩近づく。そして微笑みながら、宣言した。

 

「でも、それが私たちの『青春』。だから心配しないで、『先輩』」

「……そう、かぁ。そう、なんだねぇ……」

 

 顔を伏せるAB団リーダー。

 

「っ……小鳥遊ホシノ……いや、ホシノさん」

「なあに」

「……ありがとう、アビドスを守ってくれて」

 

 シーツをたぐり寄せ、顔を隠すAB団リーダー。小さく漏れる嗚咽に、対策委員会の面々は顔を見合わせた。

 

「みんな、一旦出よっか。この子は私と先生が見てるからさ」

 

 ホシノに促され、他の対策委員会の面々は保健室を出ていく。その時、セリカがAB団リーダーの向かいにあるベッドが静かなことに気付いた。

 

「あれ? なんか妙に気配が無いような……」

 

カーテンで仕切られ見えないようになっているが、そこには重症のアネゴが寝かされており、チビとノッポが付き添っていたはずであった。さっとカーテンを開くセリカ。彼女の目に映るベッドは、もぬけの殻であった。

 

「い、居ない!?」

「どうしましたかセリカちゃ……あら」

「……あ、これ、書き置き?」

 

 セリカの声に反応した対策委員会のメンバーがぞろぞろと集まり、シロコがベッドに残されたメモを手に取る。

 

『あばよ!! 対策委員会!!』

 

 鍵の掛かっていない窓から吹く隙間風が、メモ用紙の端を優しく揺らしていた。

 

 

 


 

 

 

 砂吹き荒ぶアビドス高校校門前。そこを堂々と通るはアネゴ団が一行。チビとノッポに外傷はないが、アネゴは右腕にギプスを付けられ、全身に絆創膏を貼られていた。

 

「っつつゥ、いつ取れんだこいつは」

「まあ、今日中くらいはつけといた方がいいと思う」

「包帯とか買っておかないとね」

 

 校門から出てきたアネゴたちは、停留していたクルセイダーと装甲車の間を通り過ぎようとして……

 

「アネゴさん!? その大怪我でどこ行くつもりなんですか!?」

「……1週間は安静にしなければならないはずですが、何故動いているんですか?」

「うおっ、チナツちゃんが凄い顔してる……」

 

 ヒフミとチナツに捕まり、通り過ぎる事はできなかった。

 

「ヘッ、止めんなお前ら! アタシは誰の指図も受けねェ、どう生きるかはアタシが決めるッ! ッ痛テテ……」

「ああもう、ですから……! 骨折しているんですから動かさないで」

「骨折!? なおさら動いちゃダメじゃないですか!」

「うるせェうるせェ! じっとしてらねェんだよアタシはッ!」

 

 取り押さえようとするヒフミたちから逃れようとじたばたと抵抗するアネゴ。顔を見合わせたチビとノッポは苦笑いとため息をこぼし、各々の武器を取り出した。

 

「ごめんねみんな、ちょっと煙いよ……!」

「はぁ、キヴォトスってお人好しこんなに多かったっけ?」

 

 チビたちの行動を見た風紀委員会たちは瞬時に銃を構えるが、それより早くチビがグレネードランチャーを真下(・・)に向け、特殊煙幕弾『霧煙ちゃん』を炸裂させる。その瞬間、1m先も見えない程の濃霧が発生した。

 

「はい、アネゴ返して」

「ぐえっ、もっと優しく引けおまっ……」

 

 素早くアネゴに近づいたノッポがスナイパーライフルをアネゴの体の手前に持っていき、前面に引っかかるように引いてアネゴをヒフミたちから引き剥がす。

 

「アネゴの心配してくれてありがとね。これ、ウチたちの連絡先。じゃあねヒフミちゃん!」

「え、えっ……? あのっ、あの……!」

 

 霧の中からさっと現れたチビがヒフミにメモ用紙を握らせ、すぐに霧の中に消えていく。

 

「アコちゃん、今すぐあいつらの位置情報を……!」

「いえ、いいわ。……人の好意を無下にする連中の相手をするほど、私たちは暇じゃない」

『委員長のおっしゃる通りです。いつのまにか消えた便利屋の足取りも追ってる最中だというのに!』

 

 風が霧をゆっくりと押し流し、すぐに全員の視界が晴れる。周りを見渡すとアネゴたちの姿は消えている……わけではなく、遥か遠くの市街地へ向かって全力疾走しているのが遠目で確認出来た。

 

「ど、どうしましょう……!?」

「……はあ。確かに、ここまで拒否されたら面倒みきれませんね……」

 

 あたふたとするヒフミと、額に手を当ててため息をつくチナツ。そこにセリカが校舎から走って現れる。彼女は走り去るアネゴ団を見つけるやいなや、額に青筋を立てながら力いっぱい叫んだ。

 

「……アネゴ団のバカーーーーっ!! あんなメモ1枚で勝手に出てくとか許さないんだからぁーーーーっ!!!」

 

 セリカの怒号を受けたアネゴたちはまんざらでもない表情を浮かべ、それでも振り返らずにまっすぐ走っていた。

 

「ヘヘッ、悪ィなセリカ。これ以上お前らに甘えちゃあ不良が廃っちまう」

「いい人たちだったね……!」

「……良かったのアネゴ、これで」

 

 アネゴを支えながら走るノッポが問いかける。アネゴは不敵な笑みを浮かべながら、力強く頷いた。

 

「当たり前だッ! 不良としてダセェ真似はしねェさせねェやらせねェッ! デケェ不良と喧嘩出来たんだ、これ以上居座るのは野暮ってモンだぜ!」

 

 砂漠を必死に走り、アビドスを離れるアネゴ団。アビドスの校門前に集まった人々は様々な表情を浮かべながら、そんな彼女たちを見送ったのだった。

 

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