落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第3話「それも『大人』のやり方ってか?」

 

「足止めご苦労チンピラ共、そこのお嬢様方をこっちに引き渡せ」

 

 これが不良たちの群れをかき分けて現れた、ひときわ偉そうなスケバンマスクの第一声である。

 それを聞いたアネゴの口元は盛大にひくつき、トリニティの少女たち──ヒフミとアズサは身を寄せ合って銃を構えた。

 

「なぁに、雀の涙くらいの報酬は掛け合ってやろう。なんせトリニティ生を捕らえるだけでがっぽがっぽのウハウハなんだからな!」

 

 周囲の不良たちは既に臨戦態勢となっている。

 この交渉もどきは最初から破綻していることが誰の目にも明らかな茶番であった。

 

「アネゴ……」

「ほォ〜? そいつは面白れェ儲け話じゃねェか。警戒心の強いトリニティの連中をブラックマーケット(ここ)まで誘い出せるとは、テメェらはさぞ頭の回る不良なんだろうなァ」

「アネゴ!?」

 

 目を見開いて背中を見つめるチビたちの視線を無視して、アネゴはスケバンマスクを睨みつける。

 

「ははは、なぁに簡単なことよ! ブラックマーケットに入り浸ってるトリニティ生の噂があってな。そいつが欲しがってるグッズの偽情報を雇い主が流せば、こうして噂の生徒が一本釣り出来る!」

 

 ヒフミの肩がピクリと動く。

 肩からかけていた満杯のビニール袋も揺れる。

 スケバンマスクの言い草にアネゴの眉が釣り上がる。

 

「雇い主ィ?」

「ああ、てめぇらも仕事は大人から請けんだろ? つまり、あたしらには出来ない『大人』のやり方ってやつさ! そいつに乗っかりゃ、使い走りで潰される日々からもおさらばってことよぉ!」

 

 腕を組み、目を閉じて押し黙るアネゴ。

 自身の言葉に感銘を受けていると判断したスケバンマスクは邪悪な笑みを深める。

 

「ヒフミ、強行突破するしかない。合図をするから……」

ペロロ様の人形(デコイバルーン)はまだありますから、無理は……」

「おい、こいつら逃げる気だぞ! もう撃っちまおう!」

「くっ……!」

 

 小声の相談は看破され、一触即発の緊張感が場を支配する。

 だが……その緊迫感に呑まれず、むしろ打ち破るバカがただ1人だけいた。

 

「クククッ……フッフッ……ハッハッハッハァ!!」

『!?』

「大人の力を借りて罠にかけて誘拐だァあァ? クックック……」

「な、なんだ……何がおかしい!」

 

 おもわず詰め寄るスケバンマスク。

 1歩、2歩と徐々に近づいていき……アネゴの目がかっぴらかれた。

 

「テメェらそれでも不良かキィィィック!!」

「ぐぁーー!?」

 

 怒号とともに放たれた喧嘩キックがスケバンマスクを吹き飛ばす。

 そのまま彼女は壁に頭から突き刺さり、気絶したのか動かなくなった。

 

「ダセェ、ダッセェぞテメェらァッ! チビ、ノッポ! 悪ィがこいつらブチのめすッ!」

「大丈夫、そんな気はしてたから……!」

「むしろ安心したかも」

 

 各々の銃を構えるチビたち。

 突然の事態に放心していた不良たちも銃を構え直し、怒りの形相で引き金に指をかける。

 

「よくもリーダーを! 落とし前つけろやコラ!」

「ただのチンピラとオジョーサマなんて押し潰せる数揃ってんだ! 喧嘩売ったこと後悔させてやる!」

「アネゴ!」

「守れッ!」

 

 四方八方から無数の弾丸がアネゴたちを襲う。

 彼女たちは咄嗟にヒフミたちの盾となり、全身で銃弾を浴びた。

 お揃いの黒セーラーはあっという間に穴だらけになり、少しだけ血がにじみ始める。

 

「ぐっ……全然効かねェ!」

「ま、守ってくれるんですか!? どうして──」

「……ケジメだ。アタシがぶつからなけりゃお前らは逃げられてたかもしれねェからな」

 

 不意に不良たちの射撃が途切れる。

 それはリロードによる僅かな隙。

 一斉に撃ち始めたため、一斉に弾が切れてしまったのだ。

 

「痛た……お返しだよ……!」

「へっ、そんな傷だらけで何が……は?」

 

 ぽん、と気の抜けた音がチビの構えたグレネードランチャーから発せられる。

 すると不良たちの一角が大爆発し、十数人が四方に吹っ飛んだ。

 ぽん、ぽん、ぽん、と連続で発射される炸裂弾は目に見えて不良たちを蹴散らしていく。

 

「この距離なら、狙わなくても……!」

「ギャッ!?」

 

 両手でしっかりスナイパーライフルを構えたノッポは、リロードを終えて今まさに撃とうとしていた不良の頭を撃ち抜いて気絶させる。

 チビの爆風を逃れた不良たちが的確に射抜かれていき、着実に数を減らしていった。

 

「炸裂ちゃん弾切れ!」

「よォし後は任せろォ! オラァ!」

「ごぱぁー!?」

 

 ショットガンを携えたアネゴが目の前の不良にドロップキック。

 そのまま敵陣のど真ん中に着地した彼女は、腰だめに構えたショットガンを撃ちまくる。

 発砲の度に不良が数人宙を舞い、包囲網に穴が出来ていく。

 

「なんだこいつメチャクチャだ!」

「撃て撃て! 撃てばいつか倒せる!」

「いや、そうはさせない」

「は? ぎゃあああ!?」

 

 アネゴに気を取られた不良たちが背後から一掃される。

 チビたちも気付かないうちにアズサが前に出て、的確に不良たちを排除したからだ。

 

「あっ……に、逃げないの? 追われてたんだよね……?」

「ああ、偽情報を踏む前に手に入れていた戦利品を傷つけたくなかったから戦闘を避けていた」

 

 アズサは隣に並ぶヒフミの肩からさげられているビニール袋をちらりと見た。

 そして自身の腰に着けているデフォルメされた骸骨(スカルマン)のポーチを軽く撫でる。

 きりっとした表情のヒフミはアズサの視線には気付かず、銃を構え直した。

 

「でも、私たちのせいで巻き込んじゃいましたから。助けてもらってはいさよならなんて、出来ません!」

 

 そう叫んだ彼女はペロロバッグの中から円盤状の物体を取り出し、アネゴを追っている不良たちに向かって投げつける。

 

「あたっ! いてっ!?」

「なんだてめ……うわああ!?」

 

 いくつかの不良の頭を飛び石のように渡っていった円盤は地面に落ちると、突如2m近いペロロの防弾バルーン人形を生成。

 さらに円盤中央部の噴射口から空気が適宜噴射され、まるで巨大ペロロ人形が踊っているかのように動きだす。

 しかも楽しげなBGMが大音量で再生されはじめ、不良たちの意識は否が応でも巨大ペロロ人形に向かざるを得なくなった。

 

「うわキメぇ! うるせぇ!」

「──ペロロ様はかわいいんですよ!」

「ぎゃあ!?」

 

 巨大ペロロ人形に気を取られた不良たちは突撃してくるヒフミに気付けず全滅した。

 あまりの手際の良さにチビは目を丸くして驚き、ノッポも小さく開いた口が塞がらない。

 自分を助けたのがチビたちではなくヒフミだとわかったアネゴも思わず口笛を吹いた。

 

「す、すごい……!」

「バルーンにそんな使い方が……」

「ヒューッ、やるな! ガッツがあるぜッ!」

 

 目に見えて戦力が激減してきた不良たちは焦った。

 数的有利があっという間に覆されてしまったからだ。

 

「くそぉ、楽な仕事のはずだったのに!」

「おい、増援を呼ぶぞ! なんとしてもこいつらは潰す!」

 

 不良のひとりが端末を操作すると、ビィーッ! とけたたましい警告音が鳴り響いた。

 あまりの爆音にアネゴは顔をしかめ、チビたちはおもわず耳を塞ぐ。

 

「今のが何かわかるか? マーケットガードへの救援要請だ! 雇い主にもらった万が一の切り札ってやつさ!」

「テメェら、どこまでも……!」

 

 不良の残党を睨みつけるアネゴ。

 救援を出した不良は邪悪な笑みを浮かべ──

 

「これでてめぇらは終わりだ! ははははあがっ!?」

 

 ──後ろから攻撃を受けて倒れ伏した。

 身構えていたアネゴたちも、不良たちも何が起きたか一瞬理解出来ず固まってしまう。

 その間に、黒ずくめの武装集団が隊列を成して到着した。

 統一されたカラーリングの装備で固めた彼ら彼女らこそが、ブラックマーケットの秩序と治安を私物化する悪名高きブラックマーケットガードである。

 

「通報があった地点に到着、これより掃討作戦を開始する」

「は? お、おい……増援なんだろ? トリニティ生を捕まえるための……」

「斉射」

 

 アサルトライフルを構えたオートマタや隊員が一斉に射撃を開始。

 圧倒的練度に裏打ちされた高密度な一斉射撃に、不良たちは声すら上げられずに打ちのめされていく。

 

「回避は不可能、なら……!」

「……!」

 

 とっさにアズサが投げつけたのは、閃光手榴弾。

 迅速な状況判断により斉射がアネゴやヒフミに到達する前に中断させられた。

 

「こっちだ、角を曲がろう!」

「あァ、走れェ!」

 

 アネゴがヒフミをひっつかみ、アズサがチビとノッポを強く叩き気付けする。

 投げた本人と目の前に手榴弾が転がってきて察したアネゴ以外は、閃光をもろに食らっていたのだ。

 慌ててマーケットガードの死角となる位置へ退避した彼女たちは、浅い呼吸を繰り返しながら息を整える。

 

「なんだありゃ、仲間割れかァ?」

「そもそも、マーケットガードが不良の味方をするなんて聞いたことがない」

「ですよね。だとしたら、これは……」

「……く、くく、そういうことか……!」

 

 全員が銃を構え、声の方向へ急転換する。

 そこには、壁に埋まっていたはずのスケバンマスクが満身創痍でうずくまっていた。

 

「テメェ、気絶してなかったのか!」

「伊達にリーダー張ってねえよ。ま、てめぇらともあいつらともやりあえそうには無いがな」

 

 マーケットガードが展開しているであろう方角を恨みがましく睨みつけるスケバンマスク。

 

「見たろ、全滅だ。これで依頼は失敗、雇い主はあたしらに報酬を払わなくてよくなった(・・・・・)。」

「……! 嵌められたんだ」

 

 ノッポの呟きに力なく頷くスケバンマスク。

 

「……それも『大人』のやり方ってか? それでテメェは納得すんのか!?」

 

 スケバンマスクに詰め寄ったアネゴは、彼女の襟首を掴んで無理やり立たせる。

 力ない瞳でアネゴを一瞥したスケバンマスクはゆっくりとまぶたを閉じた。

 

「したくねぇが、仕方ねえ。どん底に落ちて、這い上がろうとしてまた落ちる。今回も同じことだ」

 

 力なくうなだれるスケバンマスクの様子と言葉にアネゴの眉間に皺が寄る。

 顔を更に引き寄せて額同士をぶつけ合い、アネゴは叫んだ。

 

「雇い主を教えろ!」

「知って、どうする」

「ぶっ飛ばすッ!」

 

 アネゴの瞳には今、炎が灯っていた。

 

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