落伍者たちのロードムービー 作:野生の虚妄クトゥム
「じゃあ、よろしくね。ヴァルキューレの人たち」
「はい、後の処理はお任せください! アビドスの皆さんお疲れ様です!」
先生の要請を受けてアビドスにやってきたヴァルキューレ警察学校の生徒たちによって、鎮圧されていたAB団員たちが護送されていく。その中には当然、AB団リーダーの姿もあった。
「ね、ちょっとだけ良い?」
「へ? はあ、まあ少しだけでしたら」
「ありがとね」
連行されていく彼女に、ホシノはにへらとした笑顔を見せる。
「矯正局でしっかり絞られてきたらさ、改めてアビドスに来なよ」
「……もう、その資格は私にはないよ」
「うへー。真面目だなー」
力なく微笑むAB団リーダーに、ホシノの眉が少し下がる。
「まあ、君が出てくるころにはもう私はいないと思うけどさ。後輩たちがどんなアビドスを守っていくのかとか、気にならない?」
「なんだいそれ……」
「私が間違ってたかどうかは、それを見て決めてよ」
黙りこくるAB団リーダーと、それを見つめるホシノ。
「……わかったよ。それも私の贖罪だと思って、見に来る」
「よろしい。約束だよ?」
「……うん」
「ええっと、そろそろよろしいですか?」
「いいよー。ごめんね引き止めて」
ヴァルキューレ生に改めて連行されていくAB団リーダー。彼女の後ろ姿を、ホシノはしっかりと見つめていた。
「……おじさんももうちょっと頑張らないと、かな~」
後日、団員への尋問からアジトの位置が特定され、ヴァルキューレから対策委員会へ情報共有されてアジト襲撃作戦が行われた。リーダーとほとんどの団員を失っていたAB団に抵抗できる地力はなく、アジトはあっけなく壊滅。数少ない生き残りであったアジト残留組まで拘束されたことにより、AB団は事実上消滅したのであった。
AB団の襲撃から数日後の早朝。ようやく顔を出せるようになったセリカは柴関ラーメンの屋台を置いている倉庫にやってきていた。彼女はシャッターの前で佇んでいる柴大将を見つけると、小走りで近づく。
「大将、来れなくてごめんなさい! でもその分、すぐにでもお店を再開できるよう頑張るから!」
「いやいや、事情は聞いてるから大丈夫だよ。それに……」
笑顔の柴大将が壁のパネルを操作し、シャッターを上げる。徐々にあらわになっていく屋台の姿を見たセリカは、その全貌が明らかになるにつれ徐々に目を丸くしていった。
「え、えぇーっ!? 屋台が直ってる!? なんで!? 柱とか1週間はかかるって大将言ってたよね!?」
「そうなんだが……これを見てくれセリカちゃん」
屋台に近づいた柴大将が、客席に置いてある1枚のメモ用紙を取り、セリカに見せた。
「これって……!」
そのメモの筆跡は、アビドスの保健室で見たものと同じものだった。
『迷惑かけたな、柴の大将!!』
「ま……また書き置きだけーーーー!!!?」
同時刻、ゲヘナの辺境でも叫ぶ者がいた。
「どうなってるのーーーー!!?」
開け放たれた扉の前に立ち、絶叫するアル。その後ろからひょこっとムツキが顔を出し、荒れ果てているはずの事務所を覗き込んだ。
「わ、綺麗になってる~! 窓も塞がれてるし! アルちゃんいつのまに掃除バイト雇ってたの?」
「雇ってないわよ、そんなお金ないもの!」
「書類、中身はぐちゃぐちゃだけど横を揃えて机の上に整頓して置いてある。床も破片やガラス片は落ちてないみたいだし……」
事務所に入った便利屋の面々はしげしげと部屋中を見渡す。割れていた窓には板が打ち付けられて塞がれており、床や壁の弾痕も一見してわからないように埋められていた。
「あ……アル様、社長席にこんなものが……」
「……メモ用紙? 貸してみなさいハルカ」
おずおずと差し出すハルカからメモ用紙を受け取ったアルは、目を細めて内容を確認する。
『暴れて悪かった。ノッポ』
「……はぁ!?」
「なになに~? ……へぇ」
謝罪にしてもあまりに短い一文に思わず叫ぶアル。横からメモ用紙を覗き込んだムツキは、ノッポの名を確認すると蠱惑的な笑みを浮かべた。
「じゃ、事務所を綺麗にしてくれたのはパンデモちゃんってことかな。くふっ……♪」
「何のつもりなんだか……盗られた物も無さそうだし、本当に掃除だけしていったみたい」
訝しげに事務所全体をチェックしていたカヨコが、ため息混じりに報告する。その呆れた表情は明らかにノッポに向けられていた。
「ていうか、ライバルの拠点に潜り込んでやることが自分の後始末って、パンデモちゃん結構アウトローじゃない?」
「っ!?」
ムツキの言葉に衝撃を受けるアル。ガーンとでも言いたげな顔をした後、咳払いをして誤魔化しながら社長椅子に座り込んだ。
「あ、アネゴ団、侮れないわね……でも! 今度会ったら、便利屋68こそがアウトローとして上だと思い知らせてやるわ!」
柴関ラーメンと便利屋の事務所に書き置きを残して去っていったアネゴたち。そんな彼女たちはアビドス高校を離れた後──
「あっちィ……太陽の野郎気合入れすぎだろォ……」
「言わないで、暑いのは皆同じなんだから……」
「えへへぇ、最寄りのコンビニまであと20kmだってぇ」
3人がかりでバイクを押しながらゆっくりとアビドス砂漠を進んでいた。アビドス・ブレイカーへ飛び乗るために乗り捨てられたゲヘナバイクを、彼女たちはわざわざ巨大兵器の残骸の下から掘り起こしたのだ。もちろん車体の至るところが凹んでおり、欠けた箇所も多数ある致命的な破損状態であったが、奇跡的に前輪のタイヤだけが無事だったため手押しで進めていた。
「にしても、バイクも乗れたんだねアネゴ。またゲーム?」
「いいや、バイクはマジだぜ。ま、コイツほどキマってるマシンじゃなかったけどな」
「バイクでも車でもアネゴの運転荒いよ~」
「不良らしいと言え!」
炎天下の中、汗だくになりながらもアネゴたちは進んでいく。
「こいつを直したら、もっともっとキヴォトス中を回って、アタシたちの名を轟かすぞ! デカくすンだ、アネゴ団の名を!」
「ウチもいろんなところの風景撮りたい! それに、色んな場所で活躍するアネゴもね!」
「オウ撮れ撮れ! アタシのカッケェーとこ見逃すんじゃねェぞ!」
前を見ながら野望を語るアネゴと、はしゃぐチビ。そんな2人を後ろで眺めながら、ノッポはこの騒がしさを心地よく感じた。
(……まだ、吹っ切れたなんて言えない。あの2人を、アネゴたちに重ねてないなんて胸張って言えない。でも……)
微笑を浮かべながら、彼女は青空を見上げる。
(この気持ち悪さも飲み込んで、私は不良をやっていくんだ。大好きなアネゴたちと一緒に)
光輪浮かぶ大空に感傷を託して、ノッポは前を向き直した。
「……そういえば、アネゴの映画って、タイトル決めてるの?」
「もちろん! まず、アビドス編のはね……」
AB団による破壊活動に関する報告書が纏まり、チナツは書類の束を抱えて風紀委員会の執務室へ向かっていた。しかし、彼女の関心事は既に壊滅しているAB団などには向いていなかった。
(……アネゴさん。診察の際に見つけた、腰部背中側の傷跡……あの2つの大きな傷跡は、まさか……)
考え事をしながらも執務室へ問題なくたどり着いた彼女は、一旦思考を切り上げて扉を開く。
「失礼します。委員長、こないだのAB団の件に関する報告書を……」
同時刻、トリニティ総合学園にて、1人の少女が書類をじっくりと読み込んでいた。
「……」
一文字ずつ丁寧に、しかし時間をかけずに読み進めていく。だが、とある人物に関する報告を目にした瞬間、彼女の視線がそこに釘付けとなった。
(……ブラックマーケットに消えたと聞いていましたが。今更、出てきたのですか)
少女の翼が一度だけ、ばさりと羽ばたく。
(願わくば、こちらに戻ってこないことを祈ります。あなたにとって今のトリニティは……)
書類──トリニティ生のシャーレにおける活動報告書を読み終えた少女は、格式高い机にそっと報告書を置き、優雅に立ち上がる。
(今のトリニティはきっと、見るに堪えないでしょうから)
亜麻色の髪を小さく揺らしながら、少女──桐藤ナギサは自らの責務を果たすため、部屋を後にした。
アビドス高校を襲った事件はひとまず終息し、皆それぞれの日常へと戻っていく。しかしアネゴ団がキヴォトスで歩む軌跡の物語は、アビドスの砂を踏んでなお、まだ終わらない──。