落伍者たちのロードムービー 作:野生の虚妄クトゥム
【アネゴ団】
気に入らねェ奴はぶっ飛ばす!
キヴォトスをさまよう不良3人組。
グループストーリー第1話「だったら答えはひとつだッ!」
日中だというのに薄暗く、ゴミや薬莢が散乱している路地裏。その隅で3人の黒セーラーを着た不良たちが、顔を突き合わせて苦い顔をしていた。
「……よし、もう一度確認するぞ。アタシの全財産は残り……12円だ」
セミロングの薄茶髪を揺らしながら財布の中身を手のひらに取り出した不良、アネゴは乾いた声色で全財産を報告する。
「……35円」
3人の中で最も背が高い黒髪ボブの不良、ノッポは自らの財布の中身を凝視しながら呟く。
「ひゃ、110円かな……」
最後に小柄な灰長髪の不良、チビが控えめに申告してアネゴ団の財政状況確認は終わった。
沈黙が3人の間に流れる。嫌な沈黙だった。アネゴの頬には冷や汗が流れ、ノッポの目からは光が消え、チビは苦笑いするしかない。
「……か、金が、ねェ……」
大事な全財産を握りしめたままアネゴは膝から崩れ落ちた。ノッポも思わず大きなため息をつく。
「はあ……まあ、食べ物は最悪雑草とかでいいけど」
「こ、この金額だと、弾薬が買えないよね……」
チビたちが今後の心配をしている中で、ひとしきりショックを受けきったアネゴは立ち上がり、12円を財布にしまい直した。
「くそッ、無駄遣いはしてねェはずだ。最近のでけェ買い物なんざ、つい買っちまった話題の新作ケーキくらいで……」
「あ、ちょっと前にアネゴが分けてくれて皆で食べたケーキのこと? おいしかったよねぇアレ」
「……」
「……まさか、原因それかァッ!?」
再び崩れ落ちるアネゴ。冷たい目で見下ろそうとして、自分も食べたしあまり強く非難できないなと思いノッポは目を逸らした。
「ウチだって気を付けて買い物してるよ。動画編集アプリとかの高い物はセールを待つし!」
「……チビ先輩、買ったの? そういうの、元が高いから割引されてても……」
「……ハッ! ウチの金欠、セールのせい!?」
アネゴの横で同じように崩れ落ちるチビ。今度は容赦なく絶対零度の視線でノッポはチビを見下ろした。
「はぁ……」
「の、ノッポちゃんは衝動買いしてないって言える!? 財布の中身ウチの方が多かったじゃん!」
「私の場合は補給品や弾薬の予備を買い込むからで……あ」
「あっ?」
頭の中で直近の買い物を思い出していたノッポの目が思い切り泳いだ。それを見逃さなかったチビは素早く立ち上がり、ノッポの視線の先に回り込む。
「ノッポちゃん何買ったの! 何買っちゃったのか教えてよノッポちゃーん!」
「ちょ、ウザ、チビ先輩ウザいって。違うから、衝動買いとかじゃ……」
「ウチもアネゴも白状したんだから、ね? ね?」
「いや、勝手に自爆しただけでしょ……ああもう、わかった、わかったから!」
ぴょんぴょん跳ね回るチビの勢いに押され、観念したノッポはスカートのポケットに手を突っ込む。そこからゆっくりと取り出されたのは、ビニール包装されたままの3つのモモフレンズのキーホルダーだった。
「必要なもの以外で買ったのは、これ」
「わ、モモフレンズだ。ノッポちゃんこういうのが好きなんだねぇ。……あれ? なんで3個もあるの? 種類はそれぞれ違うけど、全種類ってわけじゃなさそうだし」
「そ、それは、その……」
もごもごと言い淀みながら、顔を少し赤くして視線を逸らすノッポの姿に、チビは首を傾げた。
「……皆に似合いそうな子を選んだっていうか……3人で、それぞれの特徴を持った共通のアクセを付けられたらなって思って、つい……」
「……ノッポちゃんウザ絡みしてごめんねぇー! ウチが悪かったよぉー!」
「うわっ、急に何……?」
泣き謝りながら抱きついてきたチビを、困惑した表情でノッポは受け止める。そうして2人がじゃれあっているうちに、なんとか心を持ち直したアネゴが壁に手を付きながらフラフラと立ち上がった。
「嘆いたってねェモンはねェよな。ノッポ、バイトを探して……何やってんだお前ら」
「ノッポちゃんがかわいすぎるのが悪い!」
「かわっ……もう、いいから離れてチビ先輩」
「あー」
情けない声を上げながら、チビはノッポにぐいっと押し離される。ため息をつきながら端末を取り出し、ノッポは裏掲示板を開いた。
「なんとか応募があればいいけど……」
翌日。不幸中の幸いか、3件の非合法バイトを見つけたアネゴ団は、それぞれで応募してバイト先に向かうことにした。
ノッポが向かった先は、そう遠くない位置にある寂れたコンビニであった。
(コンビニバイトをわざわざ裏掲示板で募るのは怪しい。けど、背に腹は代えられない)
「君が応募してくれたノッポちゃん? いやー、助かるよ。ほら、この辺ってわりと物騒だからさ。近くの学校の生徒とかは来てくれなくなっちゃって。あ、これ業務マニュアルね」
ノッポを迎え入れたロボット頭のコンビニ店長は、マニュアルをノッポに手渡すとそのままバックヤードへと向かう。
「荒事以外のトラブルが起きたら呼んでね。じゃ、頼んだよ」
バタン、とドアが閉められて店内にノッポはひとり取り残される。バックヤードに繋がるドアをしばらく睨んでいた彼女だったが、やがて大きくため息をついて手元のマニュアルに目を落とした。
「はぁ……まあ、やるしかないか」
レジカウンターの内側に入ったノッポは、マニュアルを机に置いて開こうとしたその時、自動ドアが開かれて来店音が店内に響き渡った。
「まだ何もわからないんだけど……いらっしゃいま──」
「大人しくしろ! カバンにありったけの商品を詰めやがれ!」
コンビニ店内に入ってきたのは、銃を構えた数人のチンピラ集団だった。レジに向かって大きなカバンが乱暴に投げつけられ、置いてあったマニュアルが床に吹き飛ぶ。
「…………」
「リーダーぁ、他に店員いねっすよ。コイツ1人だけっす」
「なら、そいつやっちまって店の商品ぜんぶ奪っちまいましょうよ!」
「バカ、そりゃ最終手段だ。店員に詰めさせた方が警報に引っかからないんだよ」
「さすがリーダー、あったまいい~!」
下卑た笑い声が店内にこだまする。チンピラたちの様子を微動だにせず見ていたノッポだったが、おもむろに投げつけられたカバンを両手でしっかり掴む。
「お、そうそう痛い目見たくなけりゃ」
「ふっ」
「そうやって……おあっ!?」
そしてリーダーと呼ばれていたチンピラめがけ、全力で投げつけた。とっさの出来事に誰も反応できず、頭からバッグを食らったチンピラリーダーは尻もちをつく。
「ってぇ! おいふざけん──がっ!?」
「リーダー!?」
立ち上がったチンピラリーダーが見たのは、スナイパーライフルを構えるノッポの姿であった。そのままリーダーは頭を撃ち抜かれて気絶し、周りのチンピラたちがざわつき始める。
「リーダーをやりやがった! この店潰すぞ!」
「バイト風情が調子に乗りやがって!」
「正当防衛。それに」
いきり立ったチンピラ数人の頭を撃ち抜きながら、ノッポは呟く。
「売られた喧嘩の落とし前くらい、きっちりつける」
ノッポがコンビニでチンピラたちを相手にしている頃、チビは工事現場で資材を運んで汗を流していた。
「ふぅ、運んできました~!」
「ああ、助かる。そこ置いといてくれ」
「はーい!」
バイトや職人が忙しなく動き回り、工事は順調に進んでいた。だが、チビには働いてる人々の様子に活気が無いように思えた。
「あの、なんだか皆元気ないみたいですけど……そんなにキツいんですか? ここ」
「ん? ああ、チビちゃんは新入りだから知らないよな」
チビが運んできた資材をチェックしながら、犬の職人は彼女の疑問に答えた。
「仕事は普通なんだが、実はこの現場の近くで、ある不良グループが頻繁に小競り合いしてるんだ」
「えっ、不良が?」
「ああ。たしか、『セーラー至上主義』ってのと『ブレザー原理主義』って連中だったかな。犬猿の仲らしくてさ、毎日ドンパチしてるんだよ」
巻き込まれるこっちの身にもなって欲しい、とこぼしながら職人はチェックを終える。
「よし、チビちゃん次の資材運んできてくれ。あっちの班にこの表の分だけ運んでくれればいいから」
「わかりましたー!」
表を受け取り、チビが駆け出そうとした瞬間。銃声が工事現場に鳴り響き、鉄筋に跳弾して銃弾の雨が降り注いだ。
「ひいいい!?」
「またあいつらの抗争だ! 撤収!」
「チビちゃんも早く逃げるんだ! 怪我だけはごめんだからね!」
バイトや職人たちは頭を抑えながら散り散りに逃げていく。程なくして、2方向からそれぞれ特徴的な服装の不良集団が現れた。
「相変わらずしぶとい奴らだなあ、ブレザー共!」
「そりゃこっちのセリフだセーラーバカが!」
かたや純白のセーラー服に身を包んだ不良集団。かたや漆黒のブレザー服を着込んだ不良集団。取り残されたチビはその2つの集団の間に挟まれていた。
「この人たちが職人さんが言ってた不良集団かあ……」
興味深そうに眺めていたチビだったが、双方が徐々に近づいてきているのに気付いた彼女はバッグの中からグレネードランチャーを取り出した。
「な、なんだあのチビは?」
「セーラーの援軍? でも、服の色は黒いぞ……」
「意地の張り合いはいいけど、ウチもバイト先が無くなると困るんだよね」
チビの存在に気付いた不良集団たちは一旦進行を止める。だが、それがチビに戦闘準備を整えさせるチャンスを与えた。
「不良同士、仲良く派手に喧嘩しよ?」
空に向けられたグレネードランチャーの発射口から、まばゆい閃光弾が放たれて開戦の合図となる。世界一治安の悪いセーラー服VSブレザー服論争に、チビはグレネードランチャー片手に殴り込んだのであった。
「だああああらァッ! オラァッ!」
「ぐわーっ!?」
「ぎゃーっ!?」
アネゴが応募したバイトは護衛だった。護衛対象に襲い来るチンピラたちを彼女は蹴飛ばし、殴り飛ばし、壁に床にと叩きつけて倒していく。
「き、君ぃ銃はどうしたんだい!?」
「金欠で弾節約してんだよッ! 守れてんだから文句ねェだろ?」
「そ、そうなんだね。い、いやあしかし……」
チンピラの襲撃が止み、物陰に隠れていた護衛対象であるロボット頭の青年がおずおずと出てくる。アネゴの周囲には徒手空拳で伸されたチンピラたちが数人転がっていた。それらを確認した護衛対象はほっと息をつく。
「……も、目的地は目の前の建物だ。ほ、報酬は中で渡すよ」
「おう、頼むぜ!」
何の変哲もないオフィスビルへと入っていくアネゴたち。襲撃を警戒して横並びで入った2人だったが、中に入った瞬間防火シャッターが落ちて入り口が塞がれる。
「何ッ!? おいアンタ、アタシから離れるなよッ! どうやら罠が──」
「いいや、警戒はもういいよ。この罠は私が仕込んだものだからね」
「は?」
護衛対象はアネゴに構わずロビーを進み、大きく指を鳴らす。するとドアというドアが開かれ、数十人のチンピラや生徒たちが銃を構えて現れた。
「アネゴ、と言ったかい。君の戦闘能力は素晴らしいものだ。是非手にしたい。どうかな、私の下で戦う気は無いかい」
「……チッ、バイト自体が罠だったってことかよ」
「否定はしない。この方法で私はこれだけの戦力を集めてきたからね」
振り返り、アネゴを見据えながら元護衛対象は得意げに笑う。それを受けてアネゴは不敵な笑みを浮かべながら、彼を睨みつけた。
「ヘッ、だったら答えはひとつだッ!」
「もちろん、この状況で君が取るべき最適解は……」
「気に入らねェテメェをぶっ飛ばすッ!!」
ホルスターから素早く拳銃を抜いたアネゴは残り全ての銃弾を元護衛対象に撃ち込む。だが、元護衛対象は銃弾を受けても怯みすらせず、着弾地点がおぼろげに揺れるだけであった。
「……残念だ。私が銃に対する備えも無しに君の前にいると思われたのがね。ミレニアム製の電磁バリアは旧型でもいい仕事をしてくれる」
「くッ……! だったらァッ!」
「では諸君、彼女を鎮圧してくれ」
銃を握ったまま飛びかかろうとしたアネゴに、四方八方から銃弾の嵐が襲いかかる。その全てをアネゴは避けることは出来ず、元護衛対象まであと一歩というところで彼女は力尽き、気絶してしまった。
「ぜッてェ……ぶっ飛ばす……ッ!」
「おお、怖い」
ヘイローの消失したアネゴに近づいた元護衛対象は彼女の握っていた拳銃を蹴飛ばし、顔を片手で持ち上げる。
「心配しなくとも私は逃げない。諸君、彼女を牢に運んでくれ」
元護衛対象はアネゴから離れ、元護衛の配下が2人がかりでアネゴを引きずっていく。
「どのみち、ここに入った時点で私から逃れるすべは無いのだからね」
元護衛対象は小さく笑う。その場に残った配下たちは、彼の様子に小さく震えていた。