落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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グループストーリー第2話「アネゴ団たァ、アタシたちのことだッ!!」

 

 切れかけの電灯が不規則に明滅し、無機質なコンクリートの壁と床を薄ぼんやりと照らす。外気が一切入らない冷たく息苦しい地下室の牢屋に、アネゴは転がされていた。

 

「……ッ、あァ……」

「っ!?」

 

 目覚めたアネゴはコンクリートの床、床から生える鉄格子、鉄格子の向こうにいる怯えた様子の生徒を順に眺めていく。そして立ち上がった彼女はゆっくりと鉄格子に近づき、両手で勢いよく掴みかかった。

 

「ここはどこだ」

「ひっ……! ど、首領(ドン)! 捕まえてた不良が起きました!」

 

 アネゴから距離を取った生徒は怯えながらも端末を操作してどこかへ連絡する。その様子をアネゴはじっと見ていたが、新たに地下室へ入ってきた人物を認めた瞬間、そちらを険しい表情で睨みつけた。

 

「テメェ……」

「やあ、目覚めの気分はどうかな。アネゴ、だったっけ」

 

 入ってきたのは元護衛対象のロボット青年──首領であった。彼は飄々とした様子でアネゴに話しかける。それは絶対的優位に立っているという余裕の表れであった。生徒は首領の後ろに控える。彼女の顔色は青いままだった。

 

「気分? 最悪に決まってンだろ。ノコノコ顔見せに来たってことは、ぶっ飛ばされてェんだよなァ?」

「血の気の多い不良だ。けど、だからこそ私は君を必要としている」

 

 首領は突如、笑顔を浮かべながら両手を広げた。あまりにも唐突な行動にアネゴも生徒も肩を小さく跳ねさせる。

 

「私には野望がある。私はね、この僻地を第2のブラックマーケットにしたいんだよ」

「……はァ?」

「それもただの模倣じゃあない。私という絶対者が全てを管理する、統治された闇の世界だ! ブラックマーケットを超えたブラックマーケットだ!」

 

 自身に酔いしれ、ヒートアップしていく首領に、アネゴは冷めた視線を向けていた。

 

「……失礼。つまりだ、君は強い。マーケットガードを設立した暁には隊長待遇を融通してあげてもいいくらいにはね。どうだい、悪い話じゃないだろう?」

「いいや、俄然ぶっ飛ばしたくなった」

「なっ!?」

 

 首領に狙いをつけて、アネゴは檻の隙間から拳を突き出した。とっさに後ずさった首領は冷や汗をかきながら、怒りの表情を浮かべてアネゴを睨みつける。

 

「このガキ……! 躾のなっていない不良は人の気遣いも分からないか!」

「ひ……!」

 

 首領は端末を取り出して力任せに画面をタップする。その様子を見ていた生徒は自身の首に手を当てて、青白い顔で恐怖していた。

 

「ならば分からせてやる、私に逆らった罰だ!」

「何を──があああああッ!?」

 

 アネゴが訝しげな表情をした瞬間、彼女の全身に電流が迸り、激痛が体内を駆け巡った。

 

「ははは、はははは! 君の首に装着させた特製電気チョーカーから、私の命令ひとつでいつでも高圧電流を流すことが出来る! 痛いだろう、苦しいだろう、でなければ躾にならないからね!」

 

 電撃に苛まれながらも首元に手を当てたアネゴは、そこにチョーカーが着けられていることを確認する。チョーカーから流れていた電流が収まり、全身から煙を吹き上げながらもなんとか持ちこたえたアネゴは首領を力強く睨みつけた。彼の後ろで青ざめた表情をしている生徒の首元にもチョーカーが着けられていることを、アネゴは見逃さなかった。

 

「ふぅ……さて、私の下に来る気になったかな」

「ハァ、ハァ……アタシは誰の下にもつかねェ! 誰の指図も受けねェ! この程度の静電気じゃアタシの生き方は変えられねェよバーカッ!!」

 

 首領に吠えたアネゴはチョーカーを両手で掴み、引きちぎろうとする。だが、どれだけ力を入れてもチョーカーはびくともしなかった。

 

「無駄なことを。特殊合皮製のカバーは人には引き裂けないよ」

 

 侮蔑の表情をアネゴに向けながら、首領は再び端末を操作する。先ほどよりも強い電流がチョーカーから流れ、アネゴを容赦なく襲う。

 

「ぎィいいいいいッ!?」

 

 あまりの激痛にアネゴは思わず膝をついてしまう。だが、彼女の両手はチョーカーを掴んで離さないままだった。

 

「さて、根比べといこう。君が参ったと言うまで電流を流し続けてあげようじゃないか」

「ぜってェ、言うかよォッ……!」

「ひっ……ひぃ……」

 

 地下室に首領の嗤い声とアネゴの絶叫がこだまする。全身を苛む激痛と熱に焼かれ続けるアネゴの瞳は、それでもなお首領を捉えて離さなかった。

 

 

 


 

 

 

 青空の下、放棄された開発地区で爆発が地面をえぐり、セーラー服とブレザー服の不良たちが宙に舞いあがる。煙と砂埃がもうもうと立ち上がり、資材や建築途中の鉄筋がそこかしこに散らばっていく。

 

「あの黒セーラーチビはあたしたちの仲間じゃない! お前ら撃て撃てーっ!!」

「なんだあのチビセーラー服は! グレランをこんなにぶっ放すとか正気か!?」

 

 ブレザー服の不良もセーラー服の不良も、いきなり場をかき乱してきたチビに標的を変えて銃を乱射している。だが煙で視界が悪い中で狙いがつけられず、チビに有効打を与えられずにいた。

 

「くそっ、どこにいやがる……!?」

「はい、おやすみ」

「ぐはっ!?」

 

 逆にチビはこの状況を利用し、煙に紛れて不良たちを確実に仕留めていく。孤立した不良がいればこっそり近づいてグレネードランチャーを脳天に振り下ろし、固まっている集団があれば自作榴弾『炸裂ちゃん』を撃ち込んで一網打尽にした。

 

「リーダー! 一旦撤退しましょう!」

「……いや、たったひとりにここまでコケにされて退けるか! あたしたちのセーラー愛は辻グレランなんかに負けやしない!」

「セーラーの連中が退かねえってのにこっちが退けるか! ブレザー魂を見せつけるぞ!」

「うおおおおおおっ!!!」

 

 煙が晴れ多くの不良たちが倒れ伏す中、生き残った不良たちはギラついた目でチビを睨みつけ、雄叫びをあげていた。それを見たチビはふやけた笑顔を思わず浮かべ、グレネードランチャーを構え直す。

 

「えへ、アネゴが聞いたら燃え上がりそう……もちろん、ウチだって!」

 

 きりっとした表情になったチビと不良たちの戦いは、周囲を巻き込みながら徐々に移動していく。銃撃戦に巻き込まれた建設中のビルが崩れ、路上駐車されていた車が爆発炎上し、えぐれたアスファルトからは土が見えていた。そしてついに、このあたりで唯一のコンビニにまでチビたちはたどり着いてしまっていた。

 

「はぁ、ふぅ、いいね、しぶといね……!」

「チビっこいくせに中々倒れないぞ、こいつ……!」

「こ、コンビニまで来ちまった……」

 

 チビも不良たちも肩で息をしており、体中も傷だらけであったが、誰ひとりとして自分の武器を取り落としていなかった。戦意の衰えない眼差しで両者は睨み合う。だが、彼女たちの間を突如なにかが突き抜けていった。そしてアスファルトの地面に叩きつけられ、小さく呻く。その正体はコンビニでバイトしていたはずのノッポであった。

 

「……っ、意外とやる……!」

「ノッポちゃん!? そっか、ここノッポちゃんのバイト先だったんだ」

「……チビ先輩?」

「はっ、はぁ……」

 

 突き破られたコンビニの自動ドアから、頭を抑えたチンピラリーダーが息も絶え絶えに現れる。額から血を流しながらもライフルを片手で構え、険しい表情でノッポを睨みつけていた。

 

「もうてめぇの弾はねぇ! ナメた真似しやがって、許さねぇぞデカ女ぁ!」

「弾が無くなったのは……」

 

 立ち上がったノッポはスナイパーライフルを背中に背負い込み、ホルスターから拳銃を取り出す。

 

「ライフルだけ。私はまだ、負けない」

「よくわからないけど、あいつらチビセーラー服の仲間なのか?」

「どうでもいいさ! 全員まとめてセーラー服の素晴らしさを叩き込むまでだ!」

「何だと!? ブレザー服の威厳を叩き込む方が先だ!」

 

 不良たちとチンピラがチビたちに銃を向ける。チビに近寄ったノッポは背中を彼女に預け、拳銃の安全装置を外す。

 

「チビ先輩、ずいぶんと派手な喧嘩をしてるね」

「ノッポちゃんだって。ね、まだ戦える?」

「当然。むしろアネゴ団はここから、でしょ?」

 

 2人は不敵な笑みを浮かべ、各々の武器を構える。そして、喧嘩の第2ラウンドが始まった。

 

 

 


 

 

 

 薄暗い地下室は、青白く発光する電流によってほのかに照らされていた。絶え間ない電流がアネゴの体を苛み続ける。全身の至る所が焦げ始め、黒のセーラー服は電流に焼かれてところどころ焼け落ちていく。だが、アネゴの目は死んでいなかった。その瞳は首領をしっかりと睨みつけ、両手はチョーカーを引きちぎろうと力を入れて掴んだままであった。

 

「こ、このままじゃ死んじゃう……!」

 

 首領の後ろで生徒が小さく呟く。その声を拾った首領はにやりと笑い、生徒に振り返った。

 

「死ぬならそれでも構わないさ。ここならいくらでも隠し通せるからね」

「ひ、ぃ……」

「……しな、ねェッ……! アタシ、はァ……!」

「うーん、しぶといな。さらに電流を上げてあげよう」

「────ッ!!」

 

 アネゴのヘイローがチカチカと点滅する。視界がぼやけ、何も見えなくなる。耳鳴りが反響し、何も聞こえなくなる。だが、それでも。それでもアネゴの魂は闘志を燃やし続けていた。

 

「──グ、アアアアアァァアァァァアアッッ!!!」

 

 ぶちり、と革のちぎれる音が響いた。あり得るはずの無いその音に、首領の顔は思わず引きつる。

 

「な、なんだ? ま、まさか……」

「アアアアアッ! ラァッ!!」

 

 アネゴはついに、チョーカーを引きちぎった。力任せにチョーカーの残骸を床に叩きつけ、彼女は真っ黒焦げとなった両手で頬を叩く。そして立ち上がり、首領を真正面から睨みつけた。

 

「ハァ、ハァ……! テメェの言いなりになんざならねェ……! これが、アタシだッ……!」

「……そうか、上げすぎた電流によって熱を持ったカバー部分が耐えられなかったのか。ここまで電流を上げたことがなかったから、こうなることがわからなかったんだな」

 

 冷静を装いながら首領はぶつぶつと呟く。だが、アネゴを見る目には恐怖が混じり始めていた。

 

「だ、だが! たかがチョーカーのひとつ、何度でも付け替えれば良い。この程度で私から逃げられると──」

 

 余裕の表情を取り繕い、首領が何か語りかけようとした瞬間。地下室の天井が突然爆発音と共に崩落した。その衝撃でアネゴは床に倒れ込む。

 

「な、何だ!? 何が起きた!?」

「わー、やっちゃった。下の人大丈夫ー? ……って、アネゴ!?」

「え、アネゴいるの?」

 

 天井に空いた穴から降りてきたのはチビとノッポだった。彼女たちはアネゴを見つけるとすぐに駆け寄り、抱き上げる。

 

「1日でこんなにボロボロになるなんて、今度は誰に喧嘩売ったの!?」

「そりゃ、気に入らねェクソ野郎さ……!」

「体張りすぎ。今手当するから動かないで」

 

 2人がかりで手持ちの絆創膏や消毒液でアネゴは応急処置をされていく。それを眺めていた首領は、表情を引くつかせながら端末を手に取った。

 

「な、仲間がいたとはね。だが、たった3人で何が出来るんだい?」

「何だって出来る」

 

 染みる消毒液の痛みに耐えながら両足でしっかりと立ち、絆創膏だらけの両腕を組んで、まっすぐ首領を見据えたアネゴはにやりと笑う。彼女の背後では、チビたちを追っていた不良やチンピラが穴からなだれ込み始め、新たな敵が増えつつあった。

 

「ここか、チビセーラー服が逃げ込んだのは!」

「待ちやがれデカ女ぁ! 逃げんじゃねぇ!」

「……ヘッ、お前らも結構な喧嘩やってンじゃねェか」

「えへへ……」

「……」

 

 はにかむチビと、そっぽを向くノッポ。そんな2人の様子に、アネゴは不敵な笑みで返した。

 

「だったら聞かせてやろうぜ。テメェらが喧嘩してる相手が誰なのかをなッ!」

「うん!」

「……わかった」

 

 アネゴたちを囲う不良とチンピラたち。そしていつの間にか現れた首領配下の不良や生徒たち。敵が集まり、あまつさえ増えていく絶体絶命のピンチだというのに、アネゴたちの間には不安も恐怖もなかった。威風堂々と仁王立ちするアネゴとその後ろに控えるチビとノッポは、周りを見渡しながら叫ぶ。

 

「気に入らない奴はぶっ飛ばす」

「気に入らない道理もぶっ飛ばす!」

「キヴォトス(いち)の不良集団、アネゴ団たァ、アタシたちのことだッ!! テメェらよォく覚えとけェッ!!」

 

 アネゴ団の怒号は地下室に響き、爆煙が収まった天井の穴から差し込む光が彼女たちを照らし出す。傷だらけで満身創痍であるにも関わらず、彼女たちの瞳の奥には闘志の炎が燃え上がっていた。

 

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