落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第5話「私には夢とか目標とか、まだわからない」

 

 夕暮れ時のブラックマーケットの大通りに怒号と銃声が鳴り響く。

 なぜならばブラックマーケットガードが大規模な部隊を率いて戦闘中だからである。

 相手は霧に隠れてゲリラ戦を仕掛けているただ1人の少女(白洲アズサ)

 そしてそれを支援する2人の不良(チビとノッポ)

 

「霧煙ちゃん装填完了、どこに撃てばいい?」

『ポイントDとEの間、敵の密集している箇所に頼む』

「わかったよ! アズサちゃんの指示ってわかりやすいなぁ」

「……それって、私の指示はわかりにくいってこと?」

「ちち違うよぉ!? すねないでノッポちゃぁん……!」

「すねてないけど……」

 

 物陰に隠れながら、グレネードランチャーで支援するチビ。

 アズサから借り受けた通信機を使い、指定された位置に『霧煙ちゃん』と名付けた煙幕弾を撃ち込んで彼女のゲリラ戦を支援している。

 ノッポは相手のスナイパーを始末した段階で早々に弾薬を使い切り、端末によるサポートに徹していた。

 彼女の肩にはヒフミから託されたビニール袋がかかっており、血がかからないようにハンカチでフタがされていた。

 

「アネゴたち、ちゃんと向こうにたどり着けてるといいけど……」

「そうだね。それに、まさかあの(・・)超不良集団のリーダーがヒフミちゃんだったなんてねぇ」

「絶対口外しないというか、出来ない秘密だ……」

 

 青い顔で端末を操作するノッポと、苦笑いしながらリロードを行うチビ。

 ペロロバッグの中から紙袋が出てきた時の衝撃は2人の間でまだ忘れられていない。

 

「顔を出してトリニティに迷惑をかけられない、かと言って紙袋を被って活動してもあの不良集団の活動を疑われる……」

「わざわざメンバーの人たちにモモトークして許可取ってたよねぇ。すごい真面目な子だよ」

「まあ、戦い慣れしてるわけは納得出来たけど……」

『チビ、ポイントFに煙幕をお願い。ここを制圧すれば戦力を全滅ラインまで減らせるはず』

「はーい、地形と距離を確認して……ぽんっと!」

(このアズサって人も戦闘が上手いけど……)

 

 邪推しかけた思考をぶんぶんと頭を振って振り払うノッポ。

 今すべきは余計な思考ではなくサポートに徹すること。

 端末を手早く操作して目的のサイトを開いた彼女は、少し思案したのち操作を始める。

 

「……アネゴたちにも、私たちにも万一の備えはあったほうがいいはず。えっと、共有口座の番号は……」

「ノッポちゃん、それって」

「あればいいなってくらいの備え。アネゴには怒られるかもしれないけど、私はアネゴの意地をなんとしても通したい」

 

 ノッポが開いたのは裏の依頼掲示板サイト。

 非合法かつ不安定で、まともな契約が出来るかどうかも運次第の恐ろしいサイトである。

 だが企業や学園所属でもないノッポが仕事の依頼を……傭兵を募集するには、これしかなかった。

 

(個人口座からクレジットを移して、その分を報酬金額として設定。前金は報酬の10分の1で即時振込。電子契約書はBフォーマットを取り込んで、依頼内容はマーケットガードとの交戦、または──)

「う、ウチの口座からもお金出していいからね?」

「……ううん、使うのは私の口座だけ。わがままだけど……」

 

 端末操作を止めたノッポは。チビの方に申し訳無さそうに視線を動かす。

 

「私には夢とか目標とか、まだわからない。だからそれがはっきりしてるアネゴやチビ先輩のこと尊敬してる。応援したいと思ってる」

「ノッポちゃん……」

『……vanitas vanitatum et omnia vanitas.』

「え?」

「あ、通信が繋ぎっぱなしになってた!? ごめんアズサちゃん!」

 

 通信機からの声に慌てるチビと、何かマズイことを言っていないか会話を回想しはじめるノッポ。

 そんな2人に通信機越しにアズサは語りかけはじめる。

 

『全ては虚しく、無意味なものであるとかつて私は教わった。だがそれは今日最善を尽くさない理由にはならない、と思っている』

 

 その言葉を聞いた2人は、何事にも全力なアネゴの姿を無意識に思い浮かべる。

 

『その、お前たちとは今日会ったばかりだからこういうのは失礼かもしれないけど……少し、私と似ていると思ってしまった』

「似ている……?」

『重ねてしまったんだ。なんというか、不器用な部分が……』

「不器用……まぁ、否定は出来ない、かな」

 

 ばつの悪そうな雰囲気が通信機越しにも伝わり、思わず苦笑するノッポ。

 

『だから、えっと……うん、意地とか誇りとか、そういうのもわかる。その上で(・・・・)最善を尽くすと、良いと思う』

「……もしかして、アドバイス?」

『よ、余計なお世話だったか……?』

「……いや、ありがとう……ございます」

「ノッポちゃんが敬語を!?」

 

 本気で驚いているチビを半目で睨むノッポ。

 ひん、と鳴いてチビは目を逸した。

 

『良かった。……マーケットガードの部隊を半数は撃破したはずだから、もうすぐ撤退か残留かの判断が下ると思う』

「半数!? アズサちゃん強すぎるよ……!?」

「……わかった。それじゃあ、この依頼は私たちじゃなくて……」

 

 ノッポは依頼の作成を完了させ、電子掲示板にアップロードしようとする。

 

「……報酬額は相場の3分の1……『大人』にぶつけるなら、やっぱり……」

「ノッポちゃん、いいよ?」

「……ありがとうチビ先輩。この戦いは私の意地じゃなくて、アネゴの意地だよね……」

 

 アップロードを取り消したノッポは、報酬額を増額してから再度依頼を貼り付ける。

 

「相場より少し安いくらいだけど、これで請けてくれる人がいるかどうか……」

「アズサちゃんのおかげでマーケットガードが撤退すればウチたちだってアネゴの応援に行けるから! 大丈夫だよ!」

 

 不安げに端末を見つめるノッポ。

 だがその不安はすぐに払拭されることとなった。

 

「……! 誰か請けてくれた! 名前は……え?」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 燃え盛る廃墟ビルの地上階で、夕焼けをバックに戦車が超信地旋回でアネゴたちを狙う。

 

「ええい、まだくたばらんのか! 特に不良の方がしぶとすぎる!」

 

 ぐるりと向き合った砲身が砲撃し、その度にアネゴたちは決死の回避を行う。

 アネゴは血を流しすぎて意識が朦朧としており、紙袋を被った少女──ファウストに支えられながら逃げている状態であった。

 

「ヒ……ファウスト、アタシに構うな……ッ! 二手に分かれた方が良いだろが……!」

「こんな怪我で置いて行けるわけないじゃないですか!? 本当に死んじゃいますよ!」

 

 隙を見てファウストが戦車へ攻撃しているが前面装甲に阻まれ大したダメージは与えられていない。

 しかし戦車もファウストたちを捉えられず、千日手と化していた。

 戦車の車長席に座っているロボット頭のふくよかな中年男性は思い通りに事態が進まないことに業を煮やし、苛立ちを隠さずに肘掛けを叩く。

 

「さっさとくたばらんか……! こうなれば奴らの心から折るしかあるまい」

 

 懐から乱暴に端末を取り出したロボット頭の男は、戦車に備え付けられた拡声スピーカーを起動し、足元からマイクを引っ張り出す。

 

「しぶといガキ共め、貴様らの無駄な意地汚さにはほとほと呆れたわ! その無駄な抵抗のせいで貴様らは無駄な絶望を味わうことになる!」

「無駄無駄うるせェ! テメェこそ、そのオンボロから降りてしばかれやがれ!」

「黙れ! まずは貴様だ不良生徒! そこの紙袋と違って素顔で来たのが間違いだったな!」

 

 高らかに笑いながら端末を操作するロボット頭の男。

 

「監視カメラに映った貴様の顔から個人情報を探し当て、貴様の銀行口座を凍結してやったわ! これで貴様はブラックマーケット……いや、キヴォトスでの働き口を失った!」

「そんな、ひどい……!」

「さあ次は人間関係を洗ってやろう! 貴様の友人、知人、恩人全てを始末してくれるわ!」

 

 立ち上がりショットガンを両手でしっかりと持ち直すアネゴ。

 その表情は血濡れでファウストからもわからず、ただ戦車の方を向いていた。

 

「ブラックマーケット中の監視カメラはもちろん、電子決済、契約斡旋、その他諸々のデータから貴様の全てを暴いてやろう。ついでに、個人情報を辿って貴様が退学した学校を辿るのも──」

「もう喋んじゃねェ、クソ野郎がッ……!」

 

 駆け出すアネゴ。

 その足は疲労と傷で重く、引きずるように進むことしか出来ない。

 だが、前へ前へと、確かに駆け出すように全力を出していた。

 

「ははっ、無鉄砲で馬鹿なガキだ。撃て!」

 

 砲塔がまっすぐアネゴを狙い、照準を合わせる。

 真正面から砲口を向けられてなお、彼女は不敵な笑みを浮かべた。

 

「最後の1発はァ……こいつ自身だァ!」

 

 そして全力で砲口に向けてショットガンそのもの(・・・・)を投げつけ、倒れる。

 倒れたアネゴに向けて炸裂弾を発射しようとした瞬間、投げつけられたショットガンと炸裂弾が砲の中で激突。

 結果として砲塔は爆発した。

 

「ぐわぁーーーー!?」

「ぎゃー!?」

 

 戦車の上半分が吹き飛び、オープンカー状態となって停止する。

 爆発に巻き込まれたロボット頭と不良たちは煤だらけになり目を回しながら気絶した。

 倒れたアネゴに駆け寄ったファウストはしゃがみ込み、立ち上がるために手を貸した。

 

「大丈夫ですか!? いきなり何を……」

「ハァ……ゲホッ、あのクソ野郎は吹っ飛ばせたか……?」

「えっと、今は気絶してるみたいです」

「ならいい……あァ、スッキリしたぜ……」

 

 手を付き膝を立て、ゆっくりと立ち上がるアネゴ。

 オープンカーとなった戦車を眺めた彼女はふんと鼻を鳴らした。

 

「ああクソ、新しい銃買わねェとなァ」

「肩、貸します。病院まで付き添いますよ」

「良いって血がつくだろが」

「気にしません!」

 

 嫌がるアネゴに無理やり肩を貸すファウスト。

 出来るだけ血がつかないようアネゴがなんとかしっかりと立って歩きだそうとした、その時。

 

「……まだ、だ……!」

「……チッ、テメェも大概しつけぇぞオッサン!」

 

 煤だらけになりながらも端末を握りしめて立ち上がるロボット頭の男。

 振り返ったアネゴたちの表情はうんざりとした苦いものだった。

 

「大人をナメるな、私の切り札はこれだけではない……! さっさと来いウスノロ共!」

 

 ロボット頭が端末を操作すると、ビルの外からすぐに騒音が聞こえてきた。

 それは彼が呼び寄せた2台の戦闘ヘリの駆動音であり、アネゴたちからも高速で接近してくるそれを窓越しに確認することができた。

 

「貴様らは絶対に許さん、大人を馬鹿にしおって……!」

「……チッ、ファウスト。お前だけでも逃げろ。もうアタシの意地に付き合わなくていい」

「それは出来ません! それに、ヘリなら戦車よりはやりようがあります……!」

 

 覚悟を決めたアネゴたちがヘリを迎え撃とうとすると──

 

『うわあああああ!?!?』

 

 1台のヘリが炎に包まれながら墜落した。

 

「……は?」

『こちらホーク2! 地上から奇襲を受けている! だ、ダメだ、脱出する!』

「は、おい! 脱出するな、戦え! おい!」

 

 2台目のヘリも墜落し、唖然とするロボット頭の男。

 アネゴたちも突然の出来事に固まっている。

 そこにカツン、と床を叩くような足音が響いた。

 

「Vanitas vanitatum──」

 

 崩壊した社長室の崩れた壁穴から1つの人影が堂々と入り込む。

 

「──et omnia vanitas. だが、お前たちは違うようだ」

 

 アサルトライフルを片手に構え、マスクと帽子を着用した長髪の少女。

 その姿にアネゴは見覚えがあった。否、見間違えるはずがない。

 

「クライアントからの要望で『アネゴ』の護衛に来た。お前がその『アネゴ』だな、とりあえず外のヘリは始末したが……指示を頼む」

「じょ……錠前サオリ……ッ!?」

 

 予想もしていなかった人物の登場に、アネゴの目は限界まで見開かれていた。

 




前回誤字報告をいただいておりました。
報告ありがとうございます。
見直しても見直しても存在する誤字、俺は俺を許せねえよ……!
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