落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第6話「アンタみてェに強ければなって、思っちまった」

 

「じょ……錠前サオリ……ッ!?」

 

 目の前に現れた人物が信じられないと言わんばかりに呟くアネゴ。彼女の思考は、憧れの人物が突然現れた事で止まっていた。

 

「錠前サオリぃ? ハッ、雇い主に恵まれなかったな! 今からその名で個人情報を」

「……! あいつの端末を撃ってくれ!」

「承知した」

「うぎゃあ!?」

 

 ロボット頭のふくよかな中年男性の叫びで我に帰ったアネゴはサオリに短く指示を出す。サオリの正確な射撃により端末が撃ち抜かれ、その衝撃で男は戦車の車長席から転げ落ち気絶した。今度こそ悪が倒れた瞬間だった。

 

「……お前は」

「あはは……えっと、お久しぶりです?」

 

 護衛対象であるアネゴに近づこうとしたサオリは、ファウストがいることに気付く。ファウストも相手が誰なのか主にアネゴの呟きで気付いており、気まずげに頬のあるあたりを紙袋越しに擦った。

 

「クライアントから聞いていた協力者はお前だったか」

「えっと……?」

「あァ……読めてきたぞ、なんでアンタがここにいるか……ヒフ、ファウスト、携帯取ってくれ。スカートのポッケだ」

 

 ファウストから手渡された携帯端末をゆっくり操作して通話をかけるアネゴ。耳に端末を当てて通話が繋がる数秒の間、彼女は目を閉じて沈黙した。

 

『……もしもし、アネ──』

「ノッポ、ひとつ聞かせろ。お前は不良として恥ずかしくない選択をしたんだな」

『……もちろん。私が必要だと判断したから傭兵を雇った。その人が来るとは思ってなかったけど』

「なら、良い。こっちは終わった。そっちに向かう」

『……怒鳴られるの覚悟してたんだけど』

「ハッ、錠前サオリが来た事でチャラにしてやる。特別だ」

 

 アネゴは通話を切り上げて端末をしまおうとするが、うまく動かせず腕をだらんと垂らして端末を落としかけてしまう。慌てて端末をキャッチしたファウストは、アネゴのスカートポケットに入れ直した。

 

「にしても……ファウストォ! お前錠前サオリと知り合いだったのかよ!? 羨ましーぞチクショォ!」

「し、知り合いってほどでは……」

「ヘッ、錠前サオリ。アタシはアンタが、アンタを……」

 

 血濡れなのも構わずにギラついた眼差しをサオリに向けるアネゴ。得体のしれない感情のこもった視線をぶつけられたサオリは、相手が護衛対象だというのに一瞬身構えそうになる。

 

「アンタを──いや、やめとく。護衛されてんのに聞かせる話じゃねェ」

 

 がくりと首ごとうつむいてアネゴは脱力した。

 

「報酬はたかが知れてるだろうがその分だけでいい。仲間と合流するまで守ってくれ」

「ああ、それが仕事だ」

 

 頷いたサオリはアネゴに近寄りファウストとは逆側の肩を持つ。アネゴの背中越しにサオリとファウストは頷きあい、その後3人はゆっくりと歩きだした。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 廃ビルを脱出したアネゴたちは、ブラックマーケットの大通りへ向かっていた。

 ビルを脱する際、あまりにも出血が酷かったアネゴはサオリの手によって応急的な止血処理を施された。これによりアネゴの命は繋がれたが、所詮は間に合せの応急処置であり状態を劇的に良く出来たわけではない。結局アネゴは自力で歩くことが出来ずに2人に肩を借りて進むこととなった。

 

「ハァ、ハァ……」

「後でちゃんと病院に行ってくださいね?」

「ヘッ、アタシャ不良だぜ? こんくれェツバつけときゃ治る」

「そんなわけないじゃないですか! もう!」

 

 ゆっくりとしか歩けない怪我人はブラックマーケットでは格好のカモである。しかし野次馬のように近寄ってきたチンピラたちは例外なくサオリの威圧により退けられていた。

 

「……くっ、くくっ、強ェなアンタ……噂通りだよ、ったく……」

「噂?」

「あァ、ブラックマーケットに期待の新人がいるってな。どんな奴って調べて、実際に見てみて……思っちまったんだよ」

 

 両肩を担がれ引きずられるように歩くアネゴだが、その口元は楽しそうに笑っていた。

 

「強ェなァ、凄ェなァってさ……小せェガキみたいに心が弾んじまった。こんな奴がいるんだって思い知った」

「……」

 

 サオリは何も答えず、ただ前を見ている。

 

「……アンタみてェに強ければなって、思っちまった」

「……」

 

 ゆっくりと、大通りへ向かって進むアネゴたち。誰も喋らず、1歩ずつ踏みしめるように歩く。

 不意にアネゴの携帯端末から着信音が鳴り響いた。

 

「あ? っ……あー! よし、取れたぞ! はいもしもしィ?」

『あ、アネゴ……さっき気付いたんだけど……』

「どうしたノッポ。怒鳴らねェッつったろ、何怖がってんだよ」

『いや、そうじゃなくて……』

 

 通話越しの声がやけに震えているノッポに訝しむアネゴ。

 

『私たちの共有口座にしてたアネゴの銀行口座……凍結してる……』

「……あァ、言い忘れてたんだがクソ野郎と戦ってる時にアイツが──」

『そのせいで……依頼の報酬、払えない……私たちの口座のお金も移しちゃったから……全部……』

「……………………」

 

 だらだらと滝汗が出てくるアネゴ。もちろん彼女に肩を貸しているサオリにもこの通話は筒抜けである。

 

「報酬が払えない? どういうことだ」

『え、今の声……アネゴ、もしかして……』

「……とりあえずこっち来れそうか?」

『それは大丈夫。あのアズサって人がマーケットガードを全滅させたから』

「マジかよ。……ならさっさと来い。全員でな」

『わ、わかった』

 

 端末をゆっくりとしまったアネゴは、油が切れた歯車のようにぎこちなくサオリの方を向く。

 

「ヒィッ!?」

 

 視線だけで射殺せそうな鋭い眼光がアネゴを真正面から貫いた。嫌な汗が湧き出るのを感じながらも、アネゴは震えた唇をなんとか動かす。

 

「ええーっと……じょ、錠前サン? と、とりあえず、アレだ、護衛はここまででいい……デス……」

「…………」

 

 なんとか腕を動かしてサオリから逃れようとするアネゴ。だが、逆にがっしりと力強く肩を組まれてしまった。

 

「前金分は働いてやる。心配するな」

「……………………半殺しで頼ンます」

「あはは……」

 

 疲労や消耗とは関係なくがっくりとうなだれるアネゴ。苦笑いを漏らすファウストの方に少し体重を傾けながらため息をつき、そして再び歩きはじめる。

 そうして進み続けると、アネゴたちの前方に3つの人影が現れた。

 

「……!」

「大丈夫だ。あれはアタシの仲間で、ファウストのダチもいる」

「お~い! アネゴぉ~!」

 

 ぶんぶんと手を振りながら走るチビと、その後ろで諸々の荷物を抱えるノッポ、そして銃を構えながら彼女たちについていくアズサの3人だった。

 双方が近づいていくにつれてサオリとアズサは互いを認識し、その瞬間表情を強張らせた。

 

「……」

「……」

 

 互いに顔をそらし視線すら合わせない2人。ファウストは悲痛な表情で少しうつむいた。

 

「あン? そっちも知り合いか? ……いや、何も聞かねェ。それより護衛あんがとな」

「……ああ」

 

 腕をゆっくりと回してサオリの腕組みを外し、彼女から離れるアネゴ。

 

「ファウストも助かったぜ。ったく、口座が死んでなけりゃお前にも金払ったんだけどなァ」

「そんな! 私はただ許せないものがあって戦っただけですから」

 

 ファウストからの補助も解いて自分の足で立つアネゴ。少し左右にふらついたが、問題なくしっかりと立つ。そのあいだにチビたちが彼女の元に到着した。

 

「アネゴぉ~! 無事で良かったぁ~!」

「あんだァチビィ? アタシが大人ごときにやられるとでも思ってたのかよォ」

 

 よろよろと飛び込んできたチビを受け止めて彼女の頭を乱暴に撫で回すアネゴ。そんな彼女たちに苦笑しながらノッポも近づく。

 

「今回はいつもよりヤバい相手だったと思うけど……ちゃんとぶっ飛ばしてきたんだよね」

「あったりめェよォノッポ! 不良としてキッチリシメて来たぜ! っても、トドメはアイツが刺したんだけどな」

 

 アネゴが顎で指し示してチビたちがそちらを向く。そこにはアネゴたちから少し離れた位置でサオリが立っていた。

 

「あっ……」

「流石だったぜ、錠前サオリはよ。さ、お前ら! 財布出せ財布!」

「はぁ……大人って最悪……」

 

 チビたちはそれぞれボロボロの財布を取り出してアネゴに渡す。それに自分の分も合わせ、合計3つの財布を手に持ちながらアネゴはサオリの方へ向かっていった。

 

「錠前サオリ。報酬を払えねェで本当に悪かった。とりあえず今のアタシたちの有り金を受け取ってくれ」

「……」

「それだけじゃ気が済まねェよな。アタシらのこといくらでもブチのめしてくれて構わねェ。なんなら──」

「……いや、いい。前金分しか働いていないからな」

「──へ?」

 

 呆気に取られるアネゴをよそにサオリは踵を返して背を向ける。

 

「前金分の働きはしたがそれ以上はしていない」

「ちょっ……お、おい! ヘリをやっといてそりゃ通らねェよ!?」

「失礼する」

「あ、ま、待て! 待ちやがれ錠前サオリィ! せめてアタシの財布ぐらいは持ってけェー!?」

 

 スタスタと足早に去っていくサオリに、満身創痍のアネゴは追うことすら出来ない。

 

「くっそォー! 貸し1つだかんな! 覚えとけよォ!」

 

 アネゴの捨て台詞は路地裏に虚しく響き、サオリの姿はすぐに見えなくなった。

 

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