落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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エピローグ「アタシらは今から『アネゴ団』だ!」

 

「去り際までカッコイイじゃねェーか! 錠前サオリィー!」

 

 錠前サオリが去っていった路地を睨みつけ、アネゴは地団駄踏んで悔しがる。その魂の叫びは日が沈みかけている黄昏時のブラックマーケットによく響いた。チビたちもサオリが去っていった方向をじっと見つめていた。

 

「ブラックマーケットにもまだあんな人がいたんだね……」

「アネゴが憧れる気持ちわかる気がする」

 

 彼女たちの横で、ファウストとアズサもまた同じ方向に視線を向けていた。

 

「……良かったんですか?」

「うん。今はまだ……元気な姿が見れただけでも、充分だから」

 

 アズサの寂しそうな笑顔を見て、思わず彼女の手を握るファウスト。

 ひとしきり悔しがったアネゴは自分の財布をスカートのポケットに突っ込み、チビたちの方へ振り返った。

 

「お前らァ!」

 

 そのまま2人にそれぞれの財布を投げつけるアネゴ。それが難なくキャッチされたことを確認した彼女は、腕を組んで足を広げた。

 

「アタシたちは錠前サオリにデケェ借りを作っちまった。そいつを返すためにはアイツに負けねェようなデケェ不良になんなきゃならねェ。……まだ、お前たちはアタシに付いてきてくれるか」

 

 アネゴの問いかけにチビとノッポは顔を見合わせる。彼女たちは頷きあいアネゴに真剣な表情で向き合う。

 

「急に何? 当たり前でしょ」

「う、うん。アネゴがアネゴだからウチは一緒にいるんだよ?」

「……そうか」

 

 2人の言葉をアネゴはしっかりと受け止める。目を閉じて感慨深く噛み締めた後、彼女は静かに語り始めた。

 

「アタシはずっと思ってた。お前らとならもっとデカくなれる。デッケェ不良になれるって。……それこそ、この3人で団を作ってもいいと思うくらいにはな」

 

 破れた黒セーラーの切れ端が風になびいていく。

 

「お前たちを拾ってもう長い。ここらでひとつ、旗揚げするのも悪くねェと思わねェか!」

「それって……!」

「私たちが本格的にグループとして活動するってこと……?」

「あァ、ちょうど聞かせてェ奴もいる」

 

 アネゴはファウストをずびしと指し示す。いきなり水を向けられた彼女は驚いてあたふたとしはじめる。

 

「えっ、わ、私……ですか!?」

「おう! 『覆面水着団』のリーダー、ファウスト! ブラックマーケットに悪名轟く伝説の不良集団に宣戦布告してェんだ!」

「えぇっ!?」

 

 腕を組み直したアネゴはドンと構えてファウストを見据え、彼女に向けて啖呵を切る。

 

「聞けェ! アタシらは今から『アネゴ団』だ! いずれキヴォトス(いち)の不良集団になる名前、よォく覚えときやがれッ!」

「ダッサ……」

「あ、アネゴらしいね……!」

「うるせェ! アタシが頭張る団だから良いンだよォ!」

 

 チビたちに茶々を入れられ怒鳴り返すアネゴ。そんな彼女たちの様子に、宣戦布告と言われて身構えていたファウストは苦笑いを浮かべる。

 

「ファウスト! いつかアタシらはお前たち『覆面水着団』を超える不良になる! 首を洗って待ってな!」

「わかった。その時は全力で相手をする」

「なんでアズサちゃんが答えるんですか!? えっと、よくわからないですけど……」

 

 紙袋を外し、ファウストからヒフミへ戻る。そして彼女はアネゴたちに困惑気味の笑顔を見せた。

 

「戦うなら遠慮はしません。けど、それよりも。……お友達になりませんか?」

「……オトモダチ?」

 

 顎に手を当ててアネゴは首をかしげる。理解できないものを聞いたかのような反応をされ、ヒフミはショックを受けた。

 

「わ、わかりませんか!? えっと、友人とか、フレンドとか……」

「いや、言葉の意味がわかんねェわけじゃなくてよ! ……そういうの、初めて言われたから」

「まぁ……私たちは友達っていう括りではないよね」

「元の学園にいた頃も友達いなかったしね……! うぅ……」

 

 自分の発言で落ち込むチビを、ノッポはジト目で見やった。

 頭をガシガシとかきながら、アネゴはヒフミから顔を逸らす。

 

「しっかし不良とダチになりてェだなんて、変な奴だな」

「そ、そうですか? 私、変ですか? 普通だと思いますけど……」

「普通の人は『覆面水着団』のリーダーしないと思うけど……」

 

 ノッポの呟きは沈みゆく太陽とともに日陰に消えていった。

 

「ファウストとして戦うことになるかもしれません。これっきりの出会いかもしれません。でも、私たちを助けてくれて、悪人をやっつけるために一緒に戦いました。そんな人たちとお友達になりたいって思うのは、普通のことじゃないですか?」

「……さァな。けど、お前らなら悪ィ気はしねェよ」

 

 ヒフミの正面に歩いていき、片手を差し出すアネゴ。その手を見つめ、アネゴの顔を見つめ、ゆっくりと片手を出すヒフミ。2人はしっかりと互いの手を握りしめて、固い握手を交わした。

 

「ヒフミ、アズサ! お前らとはダチでライバルだ! いつかまた会おうぜ!」

「はい!」

 

 数回腕を振ってから握手を解くアネゴ。そしてヒフミたちに背を向けて、チビたちの間を抜けて進み出す。

 

「行くぞチビ、ノッポ! じゃあな!」

「……それじゃ」

「これ返すね、2人ともばいばい……!」

 

 ノッポは軽く会釈し、チビは預かっていたビニール袋などを返してヒフミたちに別れを告げる。ズンズンと進むアネゴに2人は早歩きで追いつき、左右に控えた。

 

「お前ら、アネゴ団最初の活動をするぞ!」

「何するのアネゴ? あ、リーダーって呼んだほうが良いかな?」

「バッキャロゥ! アネゴのままで良いに決まってんだろが!」

 

 路地裏へと消えていくアネゴたち。その姿はヒフミたちからは闇にまぎれて見えなくなった。

 

「で、何するの」

「そりゃ……今日の寝床探しだ!」

「はぁ……屋根ある廃墟探すから待って」

「あっ、アネゴが宣戦布告するところカメラで撮ればよかった……!」

「おいおい、次は頼むぜチビ! アタシの不良らしいところ撮ってくれよな!」

「……ん?」

 

 寝床を探すために携帯端末を操作していたノッポは、妙な反応が近づいていることに気づく。

 

「皆、気をつけて。何か来る」

「──お、見つけた。こいつが賞金首の『アネゴ』ってやつか」

「……はァ?」

 

 アネゴたちの前にずらりと現れたのは、ニヤついたチンピラの群れだった。突然現れた集団にアネゴは眉をひそめる。賞金首という言葉を拾ったノッポは素早く端末で検索する。

 

「まさか……アネゴ、私たち賞金かけられてる!」

「おいおい、アタシらも一端の不良になったってことかァ?」

「違う! 履歴を見ると賞金をかけられたのはつい数十分前、明らかにおかしい!」

「ごちゃごちゃうるせえ! さっさとくたばれや!」

 

 チンピラたちが銃を構え、まばらに撃ち始める。対するアネゴたちは満身創痍で弾薬も無く、アネゴに至っては銃すら無い。

 痛む体を無理して捻ることで銃弾を避けたアネゴは、足に隠していたポーチからナイフを取り出した。

 

「チィ、くたばってたまるかよ!」

「アネゴ、ショットガンは!?」

「爆発した!」

「どういうこと!?」

 

 悲鳴をあげながらチビはグレネードランチャーを取り出す。ノッポは端末を庇いながらしゃがみこみ、手近なゴミを拾いチンピラに投げつけた。

 

「あだっ!? やったなこの野郎!」

「なんとか……なんとか切り抜けないと……」

 

 満身創痍の3人はそれぞれの方法で抵抗しようとした。

 

「はぁ……はぁ……おりゃぁー!」

「おわっ!? あ、危ねえ!」

 

 チビはふらふらとチンピラに近づき、グレネードランチャーを鈍器代わりにお見舞いしようとする。だが、動きが緩慢としすぎて間一髪のところで避けられてしまった。

 

「おらァ! ……おらァッ!」

「あぶっ、あっぶねぇなこいつ! 刃物を人に向けんな!」

 

 銃弾を耐えながらアネゴもナイフで応戦するが、やはり回避されてしまっている。

 

「……もうゴミが無い」

「その長棒は飾りかよ! ギャハハハ!」

 

 煽ってきたチンピラをキッと睨みつけるが、ノッポが取れる手段はもう何もなかった。

 朝から戦い続けたツケが3人の体に重くのしかかる。だが、その目にはまだ生気があり、意地だけで彼女たちは立っていた。

 

「意外としぶといぞ、もっと狙え!」

「ハッ、この程度でアタシらを……!」

「おい、逃げろお前ら! シャーレが来てる!」

「はっ!? シャーレが!?」

 

 チンピラたちの間に動揺が走り、攻撃の手が止まる。

 

「誰が何やらかしたんだよ!? 賞金どころじゃねえ、捕まったら矯正局送りだぞ!」

「金があってもそれじゃ意味がない! さっさと退散だ!」

 

 チンピラたちが我先にと散り散りに走り去っていく。残されたアネゴたちは、その場に膝を付き、そして倒れた。

 

「はぁ……命拾いした……」

「う、ウチらも……逃げないとね……」

「賞金首に、シャーレ……もうブラックマーケットにゃァ居れねェな……」

 

 荒く、浅い呼吸を何度も繰り返して息を整えるアネゴたち。

 

「銃は手に入れときたかったが、仕方ねェ!」

 

 気合を入れて立ち上がるアネゴ。チビたちも立ち上がり、彼女の方を向く。

 

「口座も死んだし、ここに未練はねェ! 行くぞお前ら!」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 ガシャンと音を立ててスポーツドリンクが自動販売機の受け取り口に落下する。それを取り出した銀髪の少女──砂狼シロコはロードバイクにまたがり、廃墟となったアビドス自治区の道路を駆け抜ける。風景が高速で後ろに流れていく疾走感と、体を突き抜けていく風の清涼感が彼女の気分を高揚させていく。

 ふと、砂漠に覆われている居住区の端に彼女は複数の人影を見つけた。

 

「ん……」

 

 すわ遭難者かとロードバイクを停め、双眼鏡を取り出して目を凝らすシロコ。よく見てみると、人影の正体はどこの学校にも所属していない不良の集団だった。遭難者ではないことを確認したシロコは双眼鏡をしまい、携帯端末を取り出す。

 

「一応、報告しておこう。あの辺で不良が……」

 

 操作を終えたシロコは携帯端末をしまい、ロードバイクに再びまたがる。そしてサイクリングを再開した彼女はその場から颯爽と走り去っていった。

 

「これだから来たくなかったんだよアビドスゥ~! どこ見ても砂、砂、砂ァ!」

「えへへ、いい画がいっぱい撮れてる……! ありがとアネゴ、ウチアビドスに来れてよかった!」

「アタシは良くない~! 暑い~! 砂埃ヤバいィ~!」

「アネゴうっさい。……ここ電波も入らないし、本格的に遭難したかも」

「最悪だァ~~~~!!」

 

 これは、ブラックマーケットを飛び出した3人の不良少女たちの物語。『アネゴ団』がキヴォトスで歩む軌跡、その記録。彼女たちの歩みはまだ始まったばかり──。

 

プロローグ「NAUGHTY-NAUGHTY」(完)

 





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