落伍者たちのロードムービー   作:野生の虚妄クトゥム

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第2話「もう甘えるのはやめようと思って」

 

 

 アビドス自治区郊外。そこは砂嵐が吹き荒れる過酷な砂漠地帯である。かつては栄華を誇ったアビドス高校の校舎や施設が立ち並んでいた場所だったが、現在は砂に埋もれて各地に散らばるわずかな廃墟だけがその痕跡を残すのみとなっている。砂漠と隣接する住宅街も現在はほぼ誰も住んでおらず、砂に侵食されていくのをただ待つばかりのゴーストタウンであった。

 そんな廃墟にある整備されていない道路を、アネゴたちは並んで歩いていた。

 

「そう、それでリロード。後は撃ち方かな。まあ、ショットガンをあれだけ撃てるアネゴなら適当な構えでも撃てるかもしれないけど……」

「一応教えてくれよォ、知ってて損はねェだろ」

「まあ、そうだね。じゃあ、まずは両手でこう構えて……」

 

 ハンドガンのレクチャーをノッポから受けながら、アネゴは神妙な表情で手元の拳銃を使って試行錯誤する。ノッポ自身もアネゴと同じ拳銃を購入しており、実際に自分の手で実演しながらアネゴに教えていた。

 

「で、片手で撃つ時はこう。……アネゴ、ナイフ持ってたしそれと合わせるのもいいかも」

「アレかー……錆びてんだよなァ、アレ」

 

 足のポーチからすっとナイフを取り出したアネゴは、それを太陽にかざす。金属光沢が全く見られないほど刃先が赤錆びており、ひと目でなまくらであることがわかる。

 

「って、それサバイバルナイフじゃん。手入れしなよ……」

「……こいつはこれで良ンだよ」

 

 取り出した時と同じく要領よくナイフをしまったアネゴは、先程から一言も喋っていないチビの方を向いた。

 

「チビィ、調子はどうだ」

「最高だよアネゴ! 大自然の猛威に、砂漠に点在する廃墟の神秘に、恐ろしい砂嵐の恐怖に、撮りたいものが盛りだくさん……! たくさん資料映像が撮りためられそう!」

「あー、うん。そりゃ良かった」

 

 チビは、シネマカメラを構えて跳ね回りながら周囲のあらゆる景色を撮影している。その様子は誰がどう見ても浮かれていた。

 

「チビ先輩ずっとご機嫌だね。炎天下なのに」

「あァ、クソ暑ィ……しかも風に砂が混じってやがる……」

 

 ぶわっ、と熱を持った風がアネゴたちを通り過ぎる。その際かなりの砂も運んでいたようで、彼女たちは全身砂まみれになってしまった。

 

「ぶはっ!? おえッ、ぺッぺッ!」

「けほっ……」

「けふっけふっ、今の何!? 良い映像が取れたかも!」

 

 はしゃぎまわるチビとは対照的に、アネゴたちはげんなりした表情でうなだれた。

 

「これだから来たくなかったんだよアビドスゥ~! どこ見ても砂、砂、砂ァ!」

「端末で確認してっと……えへへ、いい画がいっぱい撮れてる……! ありがとアネゴ、ウチアビドス来れて良かった!」

「アタシは良くない~! 暑い~! 砂埃ヤバいィ~!」

 

 頭を振って髪を振り回しながら、やり場のない怒りをアネゴは叫ぶ。横にいたノッポは片手で耳を塞いだ。

 

「うっさいアネゴ。私だって暑い……というか、ここ電波入らないし、本格的に遭難したかも」

「最悪だァ~~~~!!」

 

 天を仰ぎ、地に膝を付いてアネゴは絶望した。しかし、彼女の叫びを聞くものはここにはいない。

 

「チビィ! 一旦日陰で休むぞ!」

「はーい!」

「ノッポもそれでいいな?」

「もちろん賛成……」

 

 道路から外れて屋根のある廃墟を探し始めるアネゴ達。正午の太陽は高く上がり、彼女たちを容赦なく照りつけている。サイクリング中のとある生徒が彼女たちを見つけたのはこの時間帯であった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 かつては何らかの施設であったと推測されるビルの残骸。その下でアネゴたちはブルーシートを敷いて休憩していた。

 

「どれを残そうかな……うーん、どれも消せないよぉ……」

 

 シネマカメラと繋げた端末上で、チビは撮影した映像の取捨選択を行っていた。当たり前のことだが映像を保存できる容量は無限ではない。だからこそ慎重に、何を残して何を消すかの判断に彼女は集中していた。小型中継機をわざわざ取り出し、貴重なバッテリーを消費してデータアップロードのために通信を繋ぎ始める。それほどチビは本気だった。

 

「ヘッ、あんなにイキイキされちゃァ、連れ来てたかいがあったってモンだぜ」

「弾薬調合以外であんなに楽しそうなチビ先輩初めて見たかも」

 

 アネゴとノッポはチビの集中を妨げないよう、彼女から少し離れて休憩をとっている。2人とも優しい微笑みを浮かべながらチビを眺めていた。

 

「そういえば、お前が拳銃持つのは意外だったな。そいつ(スナイパーライフル)一本でやってくのかと思ってたんだが」

「……もう甘えるのはやめようと思って」

「あン?」

 

 拳銃を取り出し、手元に置いて見つめるノッポ。

 

狙撃手(スナイパー)予備(サイドアーム)を持たないなんて言語道断、普通はありえない。でも私は……」

 

 少し沈黙した後、ノッポは拳銃をしまう。

 

「アネゴは知らなかっただけかもしれない。だけど、それに今まで甘えてたから昨日のピンチの時に何も出来なかった」

「……そうか。お前、強ェな」

「弱いよ。弱いから……皆に甘えちゃうんだ」

 

 そう言ってノッポは膝を両手で抱え込み、うつむいてしまう。アネゴからは彼女の表情は伺い知れなかった。

 

「でも、私が弱いせいで皆の邪魔をするのは、嫌だから」

「……やっぱ強ェよ、お前は」

 

 天井を見つめながらアネゴはぽつりとこぼす。2人はそれきり、無言になった。

 遠くで砂嵐が吹き荒れる音、風でブルーシートがかすかに擦れる音。チビの唸り声、そしてタップ音。さまざまな環境音が彼女たちの耳を通り抜けていった。

 

「……うん、クラウドアップロード分はこれで、端末に残すのはこれだけ、残りのデータは……うぅ、名残惜しいけど削除、さよなら……!」

 

 操作を終えて端末とカメラを繋ぐコネクタを引き抜いたチビは、そのまま端末などをバックにしまい込んでからアネゴたちの方を向き、不思議そうな表情を浮かべた。

 

「アネゴたち何してるの? ちゃんと休んでる?」

「あァ、見りゃわかんだろ」

「えぇ……水、全然減ってないよ? 暑いんだからちゃんと飲まないと」

 

 水入りペットボトルの蓋の部分を掴んで持ち上げ、アネゴたちに見えるようにふるふると揺らすチビ。表面に『チビ』と油性ペンで書かれたそれの中身は半分まで減っていた。

 

「それに今日はお昼ごはんも買ってあるし♪ これ食べたらまた撮影の旅にいこっ!」

「そうだったァ! 今日は昼メシが食えるぞォ!」

 

 うおー! と両手を上げるアネゴを見て笑みを浮かべるチビ。そのまま彼女はごそごそとビニール袋の中を漁り、栄養満点ブロックバーをアネゴたちに手渡した。

 

「……そうだったァ、メシはこれだったァ……」

「凄いんだよこれ、同じ値段のおにぎりと比べたらカロリーは3倍だし栄養素もバランス良く含まれてるんだ……! 味も食べられる味だし!」

「まぁ、無いよりは……いただきます」

 

 いつのまにか顔をあげていたノッポが、包装を破いてブロックバーを頬張る。

 

「まァ節約は必要だよなァ……いただきますっと」

 

 アネゴもブロックバーを口の中に放り込み、もそもそと咀嚼する。一瞬で口の中の水分が持っていかれ、ぱさついた感覚が飲み込んでも喉から消えない。ペットボトルの蓋を開け、上に傾けて豪快に飲み干す。

 

「ごっきゅごっきゅ……ぷァ、ごっそーさん」

「うーん、食べ物としてギリギリ許せるラインのこの味! 癖になる~!」

「チビ先輩のテンションたっか……」

 

 ご機嫌なテンションでブロックバーを食べ進めるチビと、それを見て若干引きながら少しずつバーを齧るノッポ。多少の水を消費しながらも2人ともブロックバーを完食し、各々の荷物を持って立ち上がる。

 

「撮影の続きはさっきの道路まで戻って、来た道を帰りながらやりたいな。ほら、今日の寝床も探さないとだから」

「確かになァ。砂漠のど真ん中で寝泊まりは流石にゴメンだぜ」

「ノッポちゃんもそれでいい?」

「……ねえ、空ってあんな黄色かったっけ?」

 

 廃墟の隙間から見える空の色を見て、ノッポは首を傾げた。

 

「え? ……たしかに黄色いかも」

「……オイオイオイ、こいつはマズイぜ。お前ら荷物と銃しっかり持てェ!」

 

 アネゴが叫んだ瞬間、彼女たちの視界が徐々に黄土色に染まっていく。さらに強烈な隙間風が荒れ狂う暴風となって彼女たちに容赦なく襲いかかってきた。

 

「これ、まさか砂嵐……!?」

「お前ら喋んな砂噛むぞォ!」

「──!」

 

 しゃがみ込み、地面に手をついて風に飛ばされまいと抵抗するアネゴたち。だが彼女たちの努力も虚しく、勢いが増していく暴風によって体が浮き上がってしまう。さらに、あまりにも風の勢いが強すぎたせいで、廃墟の各所が崩れ、粉々になっていく。

 

「お、お前ら──!」

「アネゴぉーーーー!?」

「っ、アネゴ……!」

 

 砂の粉塵と共に宙に巻き上げられたアネゴ達。なんとか手を伸ばそうとするが……。

 

「ッ、わァァァァァッ!!?」

 

 完全に大嵐となった砂嵐によって吹き飛ばされてしまう。彼女たちが最後に見たのは、別々の方向へと吹き飛んでいく仲間の姿だった。

 

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