Arrival of Another King!(もう一人の王、来たる)   作:ほろろぎ

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後編

 吹雪の国ゴッカンに攻め込んできたのは、バグナラクの先兵たち。

 ザイバーン城の城門を開け、リタ・カニスカは人類の天敵を出迎えた。

 彼女の側には、判決の行方を待っていたネゴシエイターの姿もあった。

 

「これが……バグナラクか」

 

 怪人たちの姿を初めて目にした交渉人がつぶやいた。

 

 二本の足で立つシルエットは人間と酷似しているが、甲冑を思わせる硬質的な体表は、明らかに昆虫のそれだ。

 もっともネゴシエイターの住んでいたパラダイムシティには、『虫』というものは四十年前の事故ですべて消滅し、交渉人も記録の上でしか知らないのだが。

 

「あまり気持ちのいい奴らではないな」

 

 群れを成すオレンジ色の兵隊虫──サナギムの(うごめ)く様子に、ネゴシエイターは生理的な嫌悪を覚えた。

 サナギムたちの中から兵を割って、一体の兵隊虫とは異なる外観の者が歩み出る。

 

「お前たちは奪う者か、奪われた者か」

 

 それをリーダー格だと見たリタが問いかける。

 どうやら虫が基本の生物でも、意思疎通は出来るらしいとネゴシエイターは思った。

 

 サナギムの隊長であろう「()」に似た姿をした怪人は、しばしリタを見やったあと

 

「ウバウ……スベテヨコセ」

 

 片言で答えた。どうやら言葉は話せても、人間と意思の疎通を図る気はないらしい。

 怪ジームは羽を広げ威嚇(いかく)のポーズをとる。ネゴシエイターに緊張が走った。

 

「私も戦うべきかな?」

「無用だ。これは国王の、私の務め」

 

 リタは背にしょっていた一振りの剣──オージャカリバーを抜き放つ。

 

「奪う者よ。ここで凍るまで、ゴッカンの吹雪に震えろ」

 

 カリバーに付けられた羽状のいくつかのパーツを操作することで、リタの姿が一変する。

 

「王鎧武装」

『You are the king, You are the, You are the king,』

 

 蝶の様なオーラをまとい、リタ・カニスカは紫色の剣士──パピヨンオージャーへと変身した。

 

「許されざる者は逃がさない」

「ニンゲン、コロス……!」

 

 パピヨンオージャーがカリバーの切っ先を向け、蛾のBNAを備えた怪人──モスジームが彼女に襲い掛かる。

 モスジームの後ろからは多数のサナギムがなだれ込んできた。

 

 ネゴシエイターはリタの邪魔にならないよう、城門の方へと退避する。

 

「フッ! ハッ!」

 

 パピヨンオージャーは華麗な剣裁きでモスジームをいなし、続けざまにサナギムに剣を向ける。

 流れるようなオージャカリバーの動きで、サナギムたちはばったばったと倒されていった。

 切り裂かれた兵隊虫の墨汁のような黒い血が、真っ白なゴッカンの大地を影のように染めていく。

 

「見事な手際だな」

 

 リタの圧倒的な戦闘力を目の当たりにして、ネゴシエイターは息をのんだ。

 同時に、彼女が人間の味方であることに安堵する。

 

 パピヨンオージャーはものの二、三分で、数十体のサナギムを一匹残らず葬ってしまった。

 

「残りは貴様だけだ」

 

 そう言ってモスジームに狙いを定める。

 モスジームはオージャカリバーを構えるリタに対するように、両腕に二本の剣「モスラッシャー」を装備した。

 

 昆虫界のソードキングを自認するモスジームが、この程度で(ひる)むはずもない。

 戦いはまだ始まったばかりだと、パピヨンオージャーに挑みかかる。

 

 左右の腕を交互に振るい、二刀流でパピヨンオージャーに斬りかかる。

 二本の刀に対して一振りの剣のリタが一見不利に思えるが、彼女は難なくモスジームの攻撃を(さば)いていった。

 

「これが王の力だ。お前ごとき一兵士に、このリタ・カニスカは倒せない」

 

 リタの言葉に激怒したモスジームが、ひときわ大きく剣を振り上げた。

 渾身(こんしん)の力でもって、パピヨンオージャーに致命の一撃を食らわせようという魂胆であろう。

 

「隙だらけだ」

『オージャチャージ』

 

 両腕を振り上げたことで、怪ジームの胴ががら空きになった。

 その瞬間を見逃さず、パピヨンオージャーがカリバーを操作、必殺技のオージャフィニッシュをモスジームに見舞う。

 

 強烈なエネルギーの斬撃を受けて、怪人は耐え切れず吹っ飛ばされた。

 勝敗は決まったか……と、これまで戦いを静観していたネゴシエイターが、パピヨンオージャーの隣りにやって来る。

 

「やったか?」

「おい、それを言うな」

 

 こういう場では決して言ってはいけない禁句を口にしてしまう交渉人。

 フラグは回収され、虫の息だったモスジームがよろよろと起き上がる。

 

 それだけではない。

 怪ジームの体が繭のようなものに包まれたかと思うと、それを割り裂いて、城ほどもある巨大な体へと変化してしまったのだ。

 

「なんという……」

 

 生物学的にあり得ない速度での急成長。

 常識破りのこの現象にネゴシエイターは絶句した。

 

「マズいな」

 

 リタも不測の事態に声を漏らす。

 異常成虫となったモスジームは、城壁を破壊してゴッカンの国内へと侵入を始めた。

 街の中から国民、あるいは拘留されている犯罪者の悲鳴が聞こえる。

 

 ネゴシエイターはリタに、早急な事態の打開を進言する。

 

「この国にもメガデウスがあるはずだろう? 名前は確か……キングオージャーと言ったか」

「メガデウス? シュゴッドのことか」

 

 それは国を守る守護神であり、巨大化した怪ジームに唯一対抗できる戦力。

 だがリタは、キングオージャーの出動を渋った。

 

「キングオージャーの力を使うには、五ヶ国の王の協力が必要だ。それにギラの力も」

「ギラ……あの時の青年か」

 

 交渉人の脳裏に、赤と黒のケープをまとった男の姿がよみがえった。

 

「ギラの裁判はまだ終わっていない。ここで奴の手を借りれば、それは判決の結審を左右することになる」

「つまり公正な裁判の為には、ギラに過分に有利となる状況を持ち込めないと」

「その通り」

 

 それはおそらく他の国も同様に、ギラ個人に肩入れする輩が出るかもしれないとリタは考えていた。

 たとえばギラと付き合いの多いンコソパの王、ヤンマ・ガストのような。

 

「ここは私だけで対処する」

 

 パピヨンオージャーはカリバーを操作して、自らの国の護り主を呼び出した。

 吹雪の中を優雅に羽ばたく、紫色の(はね)を持った機械の昆虫。

 

「これは……『蝶のメガデウス』」

 

 守護神ゴッドパピヨンを見上げながら、ネゴシエイターが言った。

 ゴッドパピヨンは、すでにゴッカンの街に入り込んだモスジームを追撃する。

 

 モスジームは、まるでなにかを探して(・・・・・・・)いるように、キョロキョロと辺りをうかがっていた。

 動きを止めている今が好機と、操縦席に乗り込んだパピヨンオージャーがゴッドパピヨンを、モスジームに向けて体当たりさせる。

 

 しかし怪ジームに対し、ゴッドパピヨンはその胸から上程度の大きさしかないため、質量が足りず簡単に動きを止められてしまった。

 さらにモスジームはゴッドパピヨンを放り捨てると、両手に構えた剣の先から光線を発射し、ゴッドパピヨンを遠くまで吹き飛ばしてしまう。

 

 守り人のいなくなったゴッカンが再び危機にさらされたその時、ネゴシエイターはわずかに口の端をつり上げた。

 

「どうやらここからは、私のショウタイムのようだ」

 

 ゴッカンの大地が震えた。

 それは地震ではない。

 地の底(・・・)から、なにかが迫ってくる響きだ。

 

 巨大化したモスジームの足元に亀裂が走り、大地が破裂するように吹き上がる。

 山のような土煙が立ち昇り、その噴煙の中に……巨大な王者がシルエットを現した。

 

 大地を割く豪腕を備えた大いなる鉄の巨人、メガデウス。その名を──

 

「ビッグオー・アクション!」

 

 巨大ロボット・ビッグオーの操縦席に座ったネゴシエイターが、戦闘の掛け声を発す。

 交渉人と同じくこの世界に存在しえないマシンを見て、モスジームはわずかに動揺する素振りを見せた。

 がすぐに持ち直すと、両腕の剣を構えビッグオーに挑んでくる。

 

 モスジームの剣がビッグオーの体に振り下ろされた。

 しかし巨人の装甲はとても分厚く、怪人の刃は弾かれるだけに終わる。

 

「どうやらその剣は二級品のようだ。君も一流の品に触れてみたまえ」

 

 ネゴシエイターは操縦席のレバーを動かす。

 連動してビッグオーが、その豪腕から繰り出されるパンチを怪ジームに放った。

 凄まじい衝撃を受け、モスジームの剣が粉々に砕け散る。

 

「なんだ、あの……『黒い人型のシュゴッド』は」

 

 先ほどの怪人の攻撃で吹き飛ばされていたゴッドパピヨンが戻って来た。

 コックピットのパピヨンオージャーが、見慣れぬ巨人──ビッグオーを見て(いぶか)しむ。

 

 上空を旋回している内に、巨人の胸の中でそれを操作するネゴシエイターの姿が確認できた。

 どうやら味方らしいと、リタは内心で安堵する。

 

「さあ、飛んで火にいる冬の虫くん。これでバイバイといこう」

 

 ネゴシエイターが操縦席の側面スイッチを押した。

 ビッグオーの腹部が開き、射撃武装である「キャノンパーティー」、「ミサイルパーティー」が(あら)わになる。

 

 砲弾の一斉射撃が巨大怪人に向かう。

 モスジームは背部の羽を広げ、羽ばたきに乗せて周囲に鱗粉をまき散らした。

 

「なんだと……!?」

 

 鱗粉の作用によって、キャノン砲とミサイルの攻撃はモスジームに当たる前にすべて逸らされてしまった。

 それだけでなく、ビッグオーの機体にまとわりついた鱗粉が、巨人の体内のメカニズムを狂わせはじめる。

 

「どうした、ビッグオー!? くっ、動きが……」

 

 鱗粉の影響でビッグオーの動作が急に重くなり、ガクリと膝をついた。

 モスジームは好機とばかりにビッグオーの体をつかむと、羽ばたきによって諸共(もろとも)に空へと浮かび上がる。

 

「一体なにを……そうか、奴の攻撃はビッグオーには通じない。だから高所から叩き落して、中にいる私を始末しようというつもりか」

 

 そうはさせまいと、ネゴシエイターは必死の操作でビッグオーの腰にある装置を作動させた。

 モビーディックアンカー。

 船を固定する(いかり)のようなこの装備によって、ビッグオーは済んでの所で大地につなぎ留められた。

 

「しかしこの状況……弱音を吐くつもりは毛頭ないが、いささか困った戦いになってしまったな」

「ならば手を貸してやろう」

 

 ビッグオーの通信回路に、ゴッドパピヨンに乗るリタの声が流れ込んできた。

 

「リタ・カニスカ!? しかし君の蝶のメガデウスでは……」

「私だけではない。こいつら(・・・・)の力も使う」

 

 パピヨンオージャーがオージャカリバーを操作して呼び出したのは、五体の小型の(・・・)守護神。

 

 二体のゴッドクモ、同じく二体のゴッドテントウ、そしてゴッドアント。

 これら五体はキングオージャーの素体を構成するものと違い、王の搭乗しない──つまり各五ヶ国に所属しないものたちである。

 

「これなら、ギラたちの手を借りたことにはならない」

 

 リタの出した答えは抜け道のようなものであるが、これより他に手が無いのも事実。

 そしてパピヨンオージャーは、交渉人も驚く一言を告げる。

 

「いくぞ、ネゴシエイター。『合体』だ」

「なんだって……!?」

 

 リタの声に従い、二体のゴッドクモがビッグオーの両足に取り付く。

 両腕にはゴッドテントウが、右腕にはさらにゴッドアントが装着。

 最後にビッグオーの右肘に突き出た金属製の突起に、ゴッドパピヨンが合体した。

 

 これぞ次元を超えた奇跡の形態。

 名を冠するなら、王の中の王──『ビッグオー・キング』。

 

「まさかこんなことが出来るとは」

「ああ、私も驚きだ」

 

 想定外のギミックに感嘆の声を漏らすネゴシエイター。

 リタも勢いでやってみただけに、本当に合体できたことに少しビックリしていた。

 

 と、そうこうしている間にもモスジームの動きは止まらず、ビッグオーを固定しているアンカーが外れかかっている。

 

「ネゴシエイター、これで決めるぞ」

「ああ、尺もないことだしな」

 

 ビッグオー本体を地面とより強固につなぎ留めるため、二体のゴッドクモが糸を吐いてアンカーを補助する。

 

 ビッグオーが右腕を構えた。

 肘の突起──ストライク・パイルが伸び、その先端に合体したゴッドパピヨンが翼をはためかせる。

 

 拳の先にはゴッドアントが宿り指先をガード。

 ゴッドテントウも自らのエネルギーをビッグオーの右腕に注ぎ込んだ。

 

「バグナラク! 人間の営みを破壊する君を、私たちは許さない!」

「神の名において、貴様を断罪する」

 

汝、罪あり(YE GUILTY.)

 

 ゴッドパピヨンの羽ばたきで加速度を増したストライク・パイル。

 それにより撃ちだされた過剰圧力が、シュゴッドたちのエネルギーを(とも)なって、ビッグオー・キングの拳から衝撃波となって放たれる。

 

 モスジームの鱗粉による防御はなんの意味も成さず、必殺の一撃が巨大怪人の胴体を貫いた。

 モスジームは爆発四散。

 ここにパピヨンオージャーとネゴシエイターの勝利が確定した。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 合体を解除した六体のシュゴッドは元居た場所に帰り、ビッグオーもまたいずこかへと姿を消した。

 だがネゴシエイターだけはこの地にとどまり、リタと再び対面する。

 

「なぜ、あの黒いシュゴッドと共に行かなかった」

 

 リタはネゴシエイターに問うた。

 あのまま立ち去っていれば、自分に不利な裁判からも逃げられただろうに、と。

 

「私は自分の仕事に誇りを持っている。君もそうだろう。だからだ」

 

 リタは公正に物事を見れる人物だ。

 だからきっと、自分の無実も証明してくれるだろうと、交渉人は信じていた。

 

 リタは小さく息を吐き

 

「ああ、確かにお前は無実だ」

 

 と伝えた。

 確かに彼には人間と敵対する意思はなく、それどころか今回の国の危機を、共に戦い救ってくれた。

 そしてネゴシエイターはたまたまこの世界に流れ着いた漂流者であり、これ以上彼を拘束する理由もリタには無かった。

 

「これからどうする?」

「この国は、私には少々窮屈(きゅうくつ)だ。どこか、落ち着ける場所を探そうと思う」

 

 リタの問いに、交渉人はネクタイを緩めながら答える。

 

「さようなら、リタ・カニスカ。もう会うことはないだろう」

「……待て、ミスター・ネゴシエイター」

 

 別れの挨拶を残し去ろうとする交渉人を、リタは呼び止めた。

 

「この国を救ってくれた者の名を、聞いておきたい」

「そういえば、一度も名乗っていなかったか。私の名はロジャー、『ロジャー・スミス』だ」

 

 ネゴシエイター──いや、ロジャーは握手を求め、リタもそれに応え、二人は固く手を握り合った。

 こうして異世界からの来訪者、ネゴシエイターことロジャー・スミスは新たな旅路についたのだった。

 

「さらばだ、ロジャー・ザ・ネゴシエイター」

 

 吹雪の白の中に消える、黒いスーツの背を見送りながらリタは別れの言葉を贈る。

 その台詞に、ロジャーへの精一杯の敬意を示して。

 

「……さて、次はギラの裁判か。あぁ、面倒だよもっふん……」

 

 リタの苦労人な愚痴は誰に聞かれるともなく、ゴッカンの雪原に消えていったのだった。

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