伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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 今回は少し短めとなっています。




8. 夢の続きをもう一度

 

 

「「かんぱーい!!」」

 

 

 結束バンドの初ライブが無事終わったその日の夜、俺たちは打ち上げのため、近くの居酒屋に来ていた。

 

 

「今日は良く頑張った。今日は私の奢りだ」

 

「お姉ちゃんありがと~。あたしたち飲めないけど」

 

「足らなくなったら俺も金出すから、じゃんじゃん食って英気を養えよ」

 

「うん。叔父さんもありがとね~」

 

 

 そう言って虹夏ちゃんは俺と星歌にお礼を言う。ほんとはうちの店でやっても良かったが、たまには違う店に行こうという星歌の言葉でこの店となった。

 

 

「先輩好き~!!」

 

「お前は自腹だよ。くっつくな!!」

 

「ていうかこの方誰ですか?」

 

「あれ? 喜多ちゃんって廣井のこと知らなかったっけ?」

 

「誰よりもベースを愛する天才ベーシスト、廣井きくりで~す。ベースは昨日飲み屋に忘れました~。どこの飲み屋か分からな~い」

 

「一瞬で矛盾したんですけど...」

 

「気にするな喜多ちゃん。こいつの話しは話し半分で聞いとけ」

 

 

 そう言って俺はビールを飲みながら喜多ちゃんに話す。というかほかの子が廣井を知ってるから喜多ちゃんが知らなかったとは思わなかった。

 

 

「わたし、よくライブ行ってました」

 

「えっほんと? 君見る目あるねえ」

 

「観客に酒吹きかけたり、泥酔しながらのライブ最高です。顔面踏んでもらったの最高の思い出です」

 

「リョウちゃん、コイツのベースの腕以外は見習っちゃいかんぞ」

 

「え~マスターそんなこと言わないでよ~」

 

「いやほんとの事だろ」

 

 そんなことを言いながら俺と廣井の言い争いが始まった。

 

 

「わたしってロックのことまだ全然理解してないみたいです...」

 

「たぶん理解しなくても大丈夫かも」

 

「そうだぞ喜多ちゃん。結束バンドは清く正しいバンドを目指してくれ。廣井みたいなのじゃなくて」

 

「ウワーンマスターが私の悪口言った~」

 

「いや雄介さんの言う通りだろうが」

 

 

 廣井の普段のバンドでの話を聞いて固まった喜多ちゃんに対し、俺と虹夏ちゃん、そして星歌がそう言う。まあ廣井は今どきのバンドマンでもかなりメチャクチャなタイプだから見習ってはいけない。

 

 

「ライブ、最後は盛り上がって良かったね~」

 

「観客10人くらいでしたけど」

 

「でも、その人たちは全員満足してくれたじゃん」

 

「そうだぜ。ライブってのは最終的に客を満足させれば勝ちなんだ。終わり良ければすべて良しよ」

 

「そんなもの、ですかね?」

 

「そんなもんそんなもん。始めてのライブなんて大体そんなもんだよ。俺の時もあんな感じだったよ」

 

 

 そう言いながら、俺はバンド時代のことを思い出す。いや、俺の時はもっとヤバかったっけ? ダメだ酔いが回ってる。

 

 

「まあ、続けていけばどんどんファンは増えていくよ。次のライブも頑張れよ。ちゃんとノルマ払ってな」

 

「お前最後で台無しになったぞ」

 

「最後の台詞がなければ感動したのに...」

 

 

 ほんと星歌はそういうところで損をしてんだよなあ。そんなことを思いながら、俺は店員さんの持ってきたハイボールを飲み始めるのだった。

 

 

 

 

 その後も、ぼっちちゃんが燃え尽きて灰になりかけたり、突然顔面崩壊を起こして倒れたのを虹夏ちゃん達が慣れた手付きで修復してぼっちちゃんが面長になったりというぼっちちゃんの人間離れした生態を目の当たりにしつつも、打ち上げは楽しく進んでいった。

 

 

「すまん。ちょっとタバコ吸ってくるわ」

 

「ええ、どうぞ。店長に言っておきます」

 

「ありがとな。PAさん」

 

 

 PAさんにそう伝えると、外にある喫煙所の方に向かっていく。最近はずっと禁煙していたのだが、ここ最近は店の営業終わりに一服するのが至福の時となっている。

 

 

 店の外の喫煙所に到着し、昔から吸ってるマルボロに火を着けると、その煙を肺の隅々まで吸い込む。

 

 

「...ハァ~~~ッ」

 

 

 アルコールの入った体に、ニコチンが隅々まで染み渡っていくのを体中で感じる。タバコは体に悪いと言われて久しいが、この瞬間だけはこの世の至福と言っても過言ではないと俺は思う。

 

 そう思いながらタバコを吸っていると、ぼっちちゃんと虹夏ちゃんが入り口の前で話しているのが見えた。

 

 2人は何か話している様で、邪魔をするわけにもいかないので話し終えるまで喫煙所でじっとしておく。

 

 話が終わったのか、ぼっちちゃんと虹夏ちゃんが別れて店に入ろうとしていた。それを見て俺も店に戻ろうとしたとき、扉の前で虹夏ちゃんと鉢合わせてしまった。

 

 

 

「あ、叔父さん。どうしたの外で?」

 

「ああ。ちょっとタバコ吸ってたんだ」

 

「タバコやめたんじゃなかったっけ?」

 

「禁煙してたけど最近また始めたんだ」

 

「もー。体に悪いんだから止めときなよ~」

 

「いやはや、虹夏ちゃんに言われると堪えるな」

 

 

 そう言って俺と虹夏ちゃんは他愛のない会話をする。そういえば禁煙始めたのも、小さい頃の虹夏ちゃんから『おじちゃんクサい』といわれて止めたんだっけ。

 

 

「そういえば、さっきぼっちちゃんと何話してたんだ?」

 

「あ、聞いてたの?」

 

「いや、邪魔しちゃ悪いと思ってそこの喫煙所でじっとしてたよ」

 

「そうなんだ...叔父さんには、あたしの夢のこと話してたよね?」

 

「確か...星歌の分まで人気のバンドになって、スターリーを有名にする、だったか?」

 

「うん。その話をぼっちちゃんとしてたんだ」

 

「...そうか」

 

 

 その話で、星歌と虹夏ちゃんの母...俺にとっての義理の姉さんのことを思い出す。

 

 

「あの時は、ほんと大変だったよなあ」

 

「あたし、お父さんやお姉ちゃん、それに叔父さんにも迷惑かけちゃったよね」

 

「仕方ねえよ。あの年で母親を失くしたんだから、心の整理なんてつく訳ねえよ」

 

「うん。お姉ちゃんや叔父さんがいなかったら、立ち直れなかったと思う」

 

「ほんとだよ。よくグレずに育ったもんだと思うよ」

 

 

 あの時は、俺も虹夏ちゃんも心の整理が済むまで大変だった。俺も寂しい思いをさせないように色々としていたが、今の虹夏ちゃんがいるのは星歌の頑張りのおかげだと思う。

 

 

「あたしね、バンドを始めてからあたしの夢って無謀なんじゃないかって思うときがあって...今日だってみんな自信失くしちゃってたし。でも今日のぼっちちゃんの演奏で思ったんだ! ぼっちちゃんやみんながいれば叶えられるって!!」

 

 

 そう言って虹夏ちゃんは笑顔でそう伝える。まったく、いい笑顔だな。

 

「良かったな。良いバンドメンバーと巡りあって」

 

「エヘヘ、ありがとう」

 

「実は俺もな。今日のライブを見て1つやりたいことが出来たんだ」

 

「やりたいこと?」

 

「ああ」

 

 

 そう言うと俺はポケットの中のキーケースを取りだし、その中には入っている写真を取り出した。その写真は、バンド時代のメンバーと取ったアー写の一枚だった。

 

「俺が昔バンドやってて、大喧嘩して解散したのは知ってるよな?」

 

「うん。知ってるけど...」

 

「それ以来、俺はもうバンドのことは諦めて、星歌や虹夏ちゃんを助けることを考えてた。けど、この間のオーディションや今日のライブを見て、まだ自分にもバンドをやりたいって気持ちがあるのを再確認したんだ」

 

 

 そう言って俺は取り出した写真を見ながら虹夏ちゃんに話す。

 

 

「だから俺は、もう一度だけアイツらとライブがしたい。また昔みたいに、同じ音楽を4人で奏でたいんだ」

 

「叔父さん...」

 

 

 俺のその言葉に、虹夏ちゃんは少し驚いたような顔をしながらその話を聞く。

 

 

「叔父さんの目、そんなにキラキラしてるの始めて見た」

 

「え? そうか?」

 

「うん。そういえば昔、お母さんが言ってたよ。夢はどんな時も、道を照らしてくれる光になるって」

 

「光か...ずいぶんと良いこと言うな。義姉さんも」

 

 

 そう言えば虹夏ちゃんが生まれる前も、似たようなことを言ってたっけ。いかん、ちょっと涙出てきた。

 

 

「ダメだなあ。昔のことばっかり話してると、涙出てきちまったよ。俺も年取ったなあ」

 

「え~。叔父さんそんな年じゃないでしょ?」

 

「いや、年取って酒飲んで昔話したら、大体の大人は泣いちまうんだよ」

 

「そういうものなの?」

 

「そういうもんだ。ほら、早く戻らないとみんな心配するぞ。早く店に戻りな」

 

「うん。叔父さんも落ち着いたら戻ってきてね」

 

「ああ。ありがとな」

 

 

 そう言って虹夏ちゃんは店の中へと戻る。俺も取り出した写真を元に戻していると、夜空に1つの流れ星が流れた。

 

 

「...義姉さん。空の向こうで見ていてくれ。俺ももう一度、夢の続きを叶えるよ」

 

 そう言って俺は流れ星に向かって呟くと、皆のいる店の中へともどっていくのだった。

 

 

 

 




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