伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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※一部内容を加筆修正しました。


9. 夢への旅路

 

 

 結束バンドの初ライブからしばらく経ち、暦は既に8月から9月へと変わっていった。

 

 あれから俺は虹夏ちゃんに話したバンドの再結成という夢を叶えるため、昔のメンバーに連絡をしようとしたのだが、1つ重大な問題があることを忘れていた。

 

「アイツらと連絡つかねえ...」

 

 

 バンドを解散しておよそ十数年、今も付き合いのある津上はともかく、ケンカ別れしたベースとボーカルの電話が繋がらなくなっていたのである。

 

 

「そりゃあ仕方ないですよ。あれから何年経ったと思ってるんですか? 電話番号の1つや2つ変わりますよ」

 

 

 俺の再結成の話を聞いて協力することとなった津上が、頭を抱えている俺に対しそう言う。この日は作戦会議もかねてうちの店に津上が飲みに来ているのである。

 

 

「そう言われても、お前何か知ってないか?」

 

「僕だって風の噂で元気にやってるのは知ってるくらいで、詳しいことは分からないですよ」

 

「そうだよなあ...いきなり詰んだよ。どうすりゃ良いんだ?」

 

 

 そう言って俺はまた頭を抱えながらカウンターに手を付く。そうしていると、店の扉のベルが鳴った。

 

 

「久しぶり~雄介ちゃん...ってどうしたのそんな頭抱えて? おまけに津上ちゃんまで」

 

「ああ、銀ちゃんか。いらっしゃい」

 

「どうも、お久しぶりです」

 

 

 店にやってきたのは新宿FOLTの店長である銀ちゃんこと吉田銀次郎だった。銀ちゃんは新宿FOLTの店長になる前から長い付き合いがあり、俺たちのバンド時代をよく知る一人である。

 

 

「ずいぶんと懐かしい組み合わせだけど、どうかしたの? 話くらいなら聞くわよ?」

 

「実はな...」

 

 

 そうして俺は銀ちゃんにバンドの再結成の話をする。話を聞き終えた銀ちゃんは俺と同じように腕を組みながら考えるような顔をしていた。

 

 

「うーーん。話は分かったけど、私もほかの二人の連絡先は知らないわね」

 

「やっぱりそうか...」

 

「ただ、ベースのたっくんなら今はソロのベーシストで色々なとこでバックバンドやってたり、サポートでベースやってるらしいわね」

 

「え、ホントか? アイツまだ音楽やってたのか」

 

 

 たっくんとは元バンドメンバーの一人であるベーシストのことで、本名は半田(たくみ)という名前である。

 

 

「ええ。もしかしたらうちの店に出てるバンドの子で連絡先を知ってる子がいるかもだから、ちょっと聞いてみるわ」

 

 そう言って銀ちゃんはスマホを取り出して、知り合いのバンドマン達にたっくんこと巧の連絡先を聞いていく。しばらくすると、仕事で一緒になったというミュージシャンから、巧の連絡先を手に入れることが出来た。

 

 

 こうして無事に連絡先を手に入れることが出来た俺は、津上と銀ちゃんが見守るなか恐る恐る電話をかけてみる。

 

 

『...もしもし?』

 

「あー、えっともしもし? 巧の電話、だよな?」

 

『...雄介か?』

 

 

 数回のコール音が鳴って、電話に応答があり、無事に連絡を取ることが出来た。しかし、まだ勝負は始まったばかりだ。

 

 

『誰から番号聞いたんだ?』

 

「銀ちゃん経由で番号聞いた。お前、今どうしてるんだ?」

 

『...今はフリーのベーシストやってる。たまにバックバンドとか、サポートなんかでそれなりに上手くやってるよ。お前はどうなんだ?』

 

「俺はおやっさんの店継いで店長やってる。こっちも潰れない程度になんとかやってるよ」

 

『そうか...おやっさんの店か...』

 

 

 十数年ぶりの会話ではあるが、とりあえず近況報告なんかでなんとか会話を繋ぐことが出来ている。

 

 

『昔話するためだけに電話してきたのか?』

 

「いや...実は、頼みがあるんだ」

 

『金なら貸さねえぞ』

 

「そういうのじゃあない...なあ巧、もう一度、みんなでライブしないか? もう一回集まってさ」

 

『...用件はそれだけか?』

 

「...ああ」

 

『...明日、おまえ空いてるか?』

 

「明日は木曜で店も休みだから、空いてるが...」

 

『じゃあ明日の午後3時、江ノ島まで来てくれ。そこで会って話そうぜ』

 

「分かった。津上も一緒で良いか?」

 

『良いぜ。じゃあ明日な』

 

 

 そう言うと巧は電話を切る。電話が切れた後、ようやく緊張から解放された俺と津上と銀ちゃんのため息が店内に響いた。

 

 

「久しぶりに声聞いたけど、相変わらずぶっきらぼうねぇ」

 

「まあ、昔からあんな感じでしたけどね」

 

 

 俺と巧との電話を固唾を飲んで見ていた二人はそう呟く。 

 

 

「でもなんで江ノ島なのかしらねぇ」

 

「さあ。でもとりあえず、話は出来るから明日津上と一緒にアイツと会ってくるよ」

 

「私はお店あるから行けないけど、幸運を祈ってるわ」

 

「ありがとう銀ちゃん。お礼に今日の飲み代は俺が奢るよ」

 

「大丈夫よ。私は大したことしてないし。その代わり、もしホントに再結成できたら、うちの店でもライブやってちょうだい。約束よ」

 

「分かった。約束するよ」

 

 

 そう言って銀ちゃんは店を後にした。ああ言ってくれたけど、何か別の形でちゃんとお礼をしなくちゃな。とりあえず、明日の巧との話し合い、気合いをいれて行かなくちゃな。

 

 

 

 巧との電話の翌日、俺と津上は約束通り江ノ島の駅で待ち合わせをしていた。予定時間の3時になった頃、駅の入り口から巧がやってきた。昔からのトレードマークであるウルフカットの髪型に、Tシャツとジーパンで来た巧は、昔のように黙って手を上げて向かえてくれた。

 

 

「よお、久しぶりだな。巧」

 

「ああ。ケンカ別れしたあの日以来だな」

 

 

 そう言って俺と巧はあまりニコリともせずに握手を交わす。まあ久しぶりに会ってすぐだし、袂を開くのはまだまだだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 巧との久しぶりの再開をした後、俺と津上は巧の運転する車でとあるレストランに来た。なんでも今は江ノ島に住んでおり、今から行く店も引っ越したときからの付き合いの店だという。

 

 

 店の奥の個室席に通されると、そこには思いがけない人物がいた。

 

 

「よお津上、バカ雄介。久しぶりだな」

 

「音弥...!?」

 

「音弥さん!? なんでここに...」

 

 

 そこにいたのは、かつてバンドが解散する原因となったボーカルの武田音弥だった。

 

 

「おまえの電話のあと、コイツに連絡したらオフの日だったらしく来てくれた」

 

「そういうことだ。まあとりあえず座れよ。この店のイタリアンは最高だぜ?」

 

 

 そう言いながら巧と音弥は俺たち二人に座るように促す。俺と津上は少し戸惑いつつも、席に座るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、なんで突然もう一度バンドを再結成したいなんて言い出したんだ? あれだけ派手にケンカ別れしたってのに」

 

 

 テーブル席に座り、それぞれの注文が終わったタイミングで巧がそう尋ねる。

 

 

「...虫の良い話だってのは俺もよく分かってる。けど、俺もあの時はあれだけ暴れたけど、あんな形でバンドを終わらせたくはなかった。でもあれから10年以上経って、もう一度みんなとちゃんとした形で踏ん切りを付けたいと思ったし、何よりも、俺が原因みたいなものだけど、ずっといがみ合ってるのはもういやになったんだ...」

 

 

 巧からの問いかけに、俺は心の中で思っていた気持ちを伝える。

 

 

「...雄介、お前、あの時俺に言った言葉覚えてるか?」

 

「・・・・」

 

「『本気じゃ無かったのか。お前は俺たちとやってきたことは全部ついでだったのか』って泣きながら言ってたよな?」

 

「...ああ。覚えてる」

 

 

 音弥のその言葉に、俺はそう頷く。あの頃の俺は、今思うとただただバンドのことしか頭に無くて、音弥の決断に対してそんな言葉を言ってしまったのだと思う。

 

 

「俺にとっても、バンドは片手間でやってたわけじゃ無かった。でもあの時、オーディションに受かって夢だった俳優の道が目の前に見えて、散々悩んだ末に俺は俳優の道に行かせてくれって言った」

 

「・・・・」

 

「それをお前は周りも見ずに自分だけ突っ走って、俺が悩んでることも気づかずにあんなことを言いやがった。それなのに今さら頭下げてもう一度やろうなんて言うのか?」

 

「...お前だって俺たちよりも自分の夢を優先したんだろうが?」

 

「ああ? なんつったお前?」

 

 

 俺の言葉を聞いた音弥は、そのまま椅子から立ち上がって俺の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「お前も俺たちのことよりも自分を優先したんだろうが!!」

 

「うるせえ!! 俺だってガキの頃からの夢と、お前らと一緒にバンドをやるかで死ぬほど悩んだ!! だからお前のあの言葉に腹が立ったんだ!!」

 

「だったらもう一度やるか!?」

 

「上等だかかってこいよ!!」

 

「いい加減にしてくださいよ!!」

 

 

 俺と音弥が口論から殴り合いに行きかけたその時、それまで黙っていた津上が大声でそう叫んだ。

 

 

「喧嘩するために会ったんじゃないでしょう。もう一度、昔みたいにみんなでバンドしたいからこうして集まってるんじゃないんですか?」

 

「津上...」

 

「もうやめましょうよこんなのは...もうイヤなんですよ。こんなにいがみ合うなんて。それができないなら僕はもう帰りますよ」

 

 

「...すまん津上。売り言葉に買い言葉で熱くなりすぎた」

 

「俺もだ。お前も、雄介と同じか、それ以上にバンドが好きだったものな」

 

 

 津上の言葉を聞いた俺達は、思わずそう言って謝る。そしてあの時の自分も、今のようにどれだけ周りが見えていなかったのかを再確認した。

 

 

「...俺が昨日お前から電話を掛けられたとき、なんで今さらとも思った。けど、俺も意地を張り続けるのも飽きたし、いい加減元の鞘に戻っても良い頃だと思って話を受けたんだよ」

 

「巧...そうだったのか」

 

 

 巧の言葉に対し、俺はそう呟く。

 

 思えばあの頃の俺は、ギターとバンドだけが心の支えだった。だからみんなと一緒に人気バンドになって大きなライブがしたかったし、いつの間にかその夢に自分だけが突き進んでいて、周りは違う方向を向いていたことに気づけなかった。そんなことにも気づけないほど視野が狭くなっていたんだ。

 

 

「すまない...音弥。あの時、おまえの気持ちも考えずにあんなことを言ってしまって」

 

「...いや、俺もお前によく相談もせずにいきなり言っちまったからあんなことになったんだ。だから俺も悪い。それに、俺も意地張り過ぎてた。本当にすまん」

 

 

 そう言って俺は音弥に対し頭を下げる。それに対して音弥も自分も悪かったと言って頭を下げた。

 

 

「音弥、俺をぶん殴ってくれ」

 

「は? なんで急に?」

 

「あの時先に手を出したのは俺だ。だから俺はお前に殴られても文句は言えない。こうでもしなきゃ俺の心がスッキリしないんだ」

 

「...そうか。それじゃ遠慮無く」

 

 

 そう言うと音弥は、立ったままの姿勢で俺の右頬を思いっきりビンタした。

 

 

「これでチャラだな」

 

「ああ。これで心スッキリだ」

 

 

 そう言いながら俺と音弥はニッカリと笑う。ああ、昔と同じ笑顔だな。

 

 

「よーし!! こうして無事仲直りできたんだ。今日はパァーッと飲もうぜ!!」

 

「音弥、おまえ結局それかよ」

 

「そういうところは昔から変わりませんね」

 

「俺今日クルマで来てんだぞ? 俺だけ飲めないのは不公平だろうが?」

 

「じゃあ後で巧の家で二次会やろうぜ。そうすりゃおまえも飲めるだろ?」

 

「まあ、それで構わねえけどよ...」

 

「よっしゃ!! それじゃ今日は俺たちの再出発の日だ。朝まで飲みまくるぞ!!」

 

『オーーーッ!!』

 

 

 そうして、俺たち4人は10数年の空白を埋めるかのように、飲んで騒いでの大宴会が始まった。その顔は先程までのようないがみ合った顔ではなく、あの頃と同じ眩しいほどの笑顔となっていた。

 

 

 

 

 

 その後、レストランではそれぞれ4人の近況や昔話、さらにそれぞれの恋人の有無などあらゆる話題で話が弾み、二次会として巧の家に行った後はその後の記憶があやふやになるほどに飲んだ。次の日には、どうやって帰ったのか自分のベッドの上で大の字になって寝ていた。

 

「飲みすぎた...音弥の野郎、俺がワイン苦手だってのに散々飲ませやがって...」

 

 飲みすぎで割れるように痛む頭を抱えながら、昨日の大宴会を思い出す。ふとスマホを開いてみると、ロインのグループ欄の中に、音弥と巧の名前と、4人の名前の入ったグループが入っていた。

 

「フッ...」

 そのグループの名前を見た俺は、その懐かしさに少し微笑む。グループの名前には、かつて組んでいたバンドの名前である「Dream Journey(ドリーム ジャーニー)」という名前が書かれていた。

 

 

 

 

 




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