伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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 ※1/6 内容一部加筆、修正しました。


番外編2 ウッドストックよもやま話

 

 

 

 

「はいもしもし...おお、巧か...ああ、場所はメールで送った場所で...分かった。先に行って待ってるよ」

 

 

 バンドの再結成が決まったその数日後、普段なら店の仕込みのために忙しく動いている頃だが、この日は臨時休業で店を休んでいた。

 

 外出の準備を終え、必要な荷物をもって玄関に出ようとしたとき、ふと1枚の写真が目に入った。

 

 

「おやっさん。顔出しに行きます。待っててください」

 

 

 そう言って俺は荷物を持って玄関を飛び出した。その写真には、今は亡きWoodstock(ウッドストック)の先代マスターである立花壮吉の写真が飾られていた。

 

 

 

 この日、俺と巧、そして津上の3人は先代マスターであるおやっさんこと立花さんの命日の墓参りに向かっていた。

 

 去年までは俺だけで墓参りに行っていたのだが、今年はバンドの再開を報告するために3人でやって来た。本当は音弥も一緒に行きたかったらしいが、どうしても時間が取れずに泣く泣く諦めることとなった。

 

 

 

 先に車で到着した俺と津上が巧を待っていると、バイクのエンジン音とともに巧がバイクに乗ってやってきた。

 

 

 

「すまねえ。道が思ってたよりも混んでてな。遅くなっちまった」

 

「お前そのバイクまだ乗ってたのか」

 

「解散したときからそのまんまじゃないですか」

 

「せっかくの墓参りだから、おやっさんにも見せてやりたくてな」

 

 

 

 そう言いながら巧はヘルメットを片手に愛車のボディーを撫でる。元々巧はバイクが趣味であり『バイクとベース以外には興味がないのでは?』と言われるほどバイクにのめり込んでいた。

 

 今日乗ってきた赤と黒、そしてシルバーで塗装されたオフロードのカスタムバイクも、バンド時代に良く見かけていたものであり、今でも大事な一台として保管していたという。

 

 

 

 そうして集まった俺たちは、その足でおやっさんの墓前へと向かう。それなりの広さの墓地の中からおやっさんの墓に着くと、そのまま3人で掃除を行い、花とお供え物を置いて手を合わせる。

 

 しばらく3人で墓前で手を合わせたあと、そのままお供え物を回収して墓参りを終える。時計を見るとちょうど昼時だったため、津上の提案でそのまま昼食を取ろうと近くのファミレスへと入っていった。

 

 

「しかし、あのおやっさんが亡くなるなんてな。元気の塊みたいな人だったんだが」

 

「まあ巧はしばらく会ってなかったから昔のイメージのままだろうけど、結構急に悪くなったからなあ」

 

「まあ、肺ガンはどうしようもないですからね」

 

「延命治療は要らねえって言ってそのまま向こうに行っちまったからなあ」

 

「ある意味、おやっさんらしいけどな」

 

 

 ファミレスに入って注文を終えたあと、俺たちはそう言いながらおやっさんのことを話す。おやっさんが亡くなって5年経つが、今でも俺たちにとって一番の恩人と言える人だった。

 

 

「俺たちが高2の頃からの付き合いだから、始めてあったのがもう20年近く前になるんだな」

 

「確かに。俺たちの初ライブを見てくれて、それ以来ずっと応援してくれてたからなあ」

 

「お金がなくて腹空かしてた時なんか、しょっちゅう賄い食べさせてくれましたよね」

 

「そうそう。お代替わりにグラス磨きとか皿洗いやってな」

 

「あれはホントにありがたかったなあ」

 

 

 そう言いながら俺たち3人は思い出話に花を咲かせる。その経験があったから、リョウちゃんみたいな金欠バンドマンには今でも賄い食べさせたりしてるんだよな。

 

 

「そういえば雄介。お前なんでおやっさんの店継ぐことになったんだ?」

 

「ああそうか。巧さんは知らないんでしたっけ?」

 

「俺はその頃いろんなバンドのところ彷徨ってたからな。おやっさんが亡くなったって聞いたのも風の噂だったし」

 

「まあ、話せば色々あったんだが...時間はあるし話すとするか」

 

 

 そう言いながら俺は頼んでいたハンバーグセットに手を付けながら、バンド解散から今に至るまでのことを話し始めた。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 音弥の俳優デビューに関しての話に端を発した解散から一ヶ月、俺はあれ以来心が空っぽになるというどころか、風穴を開けられたような心境で日々を過ごしていた。

 

 何を食べても上手いと感じないし、テレビのお笑いを見ても少しも面白いと思えない。あれだけ好きだったロックも、ただの喧しい音楽にしか思えなくなっていた。

 

 そんな状態の俺でも、酒を飲めば少しばかり気が紛れた。少しでも気を紛らす、というよりは現実逃避のために毎日のように酒を飲んではごみ捨て場か自分のベッドで起き上がり、喧嘩を売られれば必ず買うという荒んだ生活を繰り返していた。

 

 ある日のこと、俺はいつものように酒を飲もうと夜の町をフラフラと彷徨っていた。

 

 

「オウ坊主。ずいぶんと荒れた様子だな?」

 

「...おやっさん?」

 

 

 不意に後ろから声をかけられ、後ろを振り向くと、そこにはおやっさんこと立花壮吉の姿があった。始めてライブハウスでライブをして以来、ずっと応援してくれて色々と助けてくれた大恩人だ。

 

 

「噂は聞いてるぞ。ここ最近、酒飲んでは暴れてを繰り返してるらしいな」

 

「...おやっさんには関係ないでしょう?」

 

「いいや、ある」

 

「は?」

 

「俺はお節介焼きだからな。首を突っ込まなきゃ気が済まんのだ」

 

 

 ガハハと笑いながらおやっさんはトレードマークのパイプを吸いながらそう言う。俺はその言葉と姿を見て、呆れると同時にいつものおやっさんらしい言葉に少しだけ安心した。

 

 

 

「せっかくだからうちの店に来い。久しぶりに話したいからな」

 

「...じゃあ遠慮なく」

 

 

 そう言って俺はおやっさんのあとに付いていきながらWoodstock(ウッドストック)に向かう。しばらくして店に到着し、いつも座っているカウンター席に腰掛ける。

 

 

 

「とりあえず何飲む?」

 

「うんとキツい酒を」

 

「キツいやつと言ってもうちにはゴロゴロあるぞ。名前をちゃんと言え」

 

「...じゃあウオッカ。ストレートで」

 

「あいよ」

 

 

 そう言っておやっさんは棚の方を向いて準備をする。少したった頃におやっさんがウォッカの入ったショットグラスを俺の目の前に置いた。

 

 

 

「ほれ、ウオッカのストレート」

 

「どうも...」

 

 

そう言いながら俺は渡されたグラスを持ってそのまま飲み干そうとする。しかし、グラスに入っていたのはウォッカではなくただの水であった。完全に酒を飲むつもりだった俺は、頭がパニックを起こしてそのまま吹き出してしまった。

 

 

「ゴホ、ゴホ...これ水じゃねーか。どうなってんだよ?」

 

「ハッハッハ。今のお前さんには酒よりこっちだろう?」

 

「なんてオヤジだ...」

 

「ハハハ...少しは頭、冷えたか?」

 

「...まあ、少しは」

 

 

 

 おやっさんの言葉に対し、そう答える。酒と思いきや水という不意打ちに一瞬腹は立ったが、久しぶりにまともに飲んだ水で少しばかり頭が冷めた気がする。

 

 

「まあなんだ。俺も詳しい経緯は知らんが、腹に抱えたものは吐き出した方が楽になるぞ?」

 

「・・・・」

 

「そうだ。どうせなら気晴らしに海外に行ってみるのはどうだ?」

 

「海外?」

 

「おう。酒飲んで腐ってるより、外の世界を見にいく方がよっぽど良い経験になるぞ」

 

「...確かに。どうせなら、世界一周してやろうかな?」

 

「お、良いねえ。若いもんはそれくらいやらねえとな」

 

 

 そう言いながらおやっさんは豪快に笑う。俺も話しているうちに、心の穴が少し埋まったような気持ちになっていった。

 

 

 

 

 

 おやっさんとの会話から数日後、俺はそのままギター以外の家財道具を売り払い、そのままパスポートを取って海外へ飛び出した。途中インドで食中毒に合ったり、エジプトでぼったくりガイドの被害にあったり、ヒッチハイクでヨーロッパを横断したり、最終的に資金不足で世界一周はできなかったものの、最後は拾ったアコースティックギターで路銀を稼ぎながらイギリスから日本へと帰還した。

 

 

 日本へと帰ったその夜、俺はその足でおやっさんの店へと向かった。出発前は風穴の空いた心も、今ではほとんど元に戻った気分だった。

 

 

「おやっさん。お久しぶりです」

 

「おお、坊主。一年ぶりだな」

 

 

 そう言っておやっさんはいつもと変わらぬ様子で出迎えてくれた。

 

 久しぶりに来店した俺は、旅の思い出をおやっさんに語る。旅の思い出を語る俺に対し、おやっさんはただ黙って聞き、たまに相づちを打って俺の話を聞いてくれる。しばらくして思い出話を話し終えると、おやっさんの方から話を切り出した。

 

 

 

「坊主。お前さんこの先どうするか決めてるかい?」

 

「いえ、とりあえず部屋とバイト先探そうかなって思ってます。兄貴がうちにしばらくいて良いって言ってましたけど、小さい子供がいるのに俺がいたら迷惑になるからって断りました」

 

「そうか...お前さん、うちで住み込みで働かないか。うちのビルの空いてる部屋に住めば良いし、給料もちゃんと出す。どうだい?」

 

「え? 良いんですか?」

 

「ああ。その代わり、ビシバシ働いてもらうぞ」

 

「...分かりました。しっかりやらせていただきます」

 

 

 

 そう言って俺とおやっさんは握手を交わす。そうして俺はWoodstock(ウッドストック)で働くこととなったのだった。

 

 

 

 そして俺が働きだしてからおやっさんはバーに関することを徹底的に教えてくれた。酒の組み合わせや料理の作り方、仕入れや会計のことまで全てを教えてくれた。そうして俺が働きだして年が経った頃、おやっさんは病気で倒れた。

 

 

 

「年は取りたくねえなあ...こんな情けねえ姿見せることになるとは」

 

「おやっさん...」

 

 

 

 搬送先の病院のベッドの上で、おやっさんはそう呟く。病院の先生曰く肺ガンらしく、手術や抗がん剤治療をしなければ長くても余命2年から3年の命だという。

 

 

「雄介、さっきの手術の話だがな。俺は受けねえ」

 

「え!? なんでだよおやっさん!?」

 

 

 突然のおやっさんの宣言に、手術を受けると思っていた俺は驚く。

 

 

「俺はこの年まで好き勝手生きてきた。そのせいで嫁と子供には逃げられたが、それに関しては後悔はない。だから今さらダラダラと生き長らえるよりも、悔いなくスパッとあの世に行きたい」

 

「でも、だからってそんな...」

 

「ただし、1つだけお前に頼みがある」

 

「え?」

 

「俺が死んだら、俺の店を継いでくれ」

 

「おやっさんの、店を?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 そう言っておやっさんは俺の目を見ながらそう言う。

 

 

「お前さんがうちで働いてから6年。教えることはある程度教えたつもりだ。もうお前一人でも十分店をやっていけるだろう。だから、俺の店を継いでくれ」

 

「...でも、なんで俺なんですか?」

 

「...元々店は俺の代で閉めるつもりだった。だが、40年近くやっていくうちに、若いもん達のためにこの店を潰すわけにはいかんと思うようになった。そんなときにお前さんが来てくれたんだ」

 

「・・・・」

 

「引き受けてくれるか?」

 

「...分かった、おやっさん。こんな俺だけど、精一杯やるよ」

 

「...ありがとな。雄介」

 

 

 そう言っておやっさんは昔のように握手をする。ただしその力は、かつてのような力強さを失くしていた。

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 それから3年後、おやっさんは天国へと旅立った。おやっさんは亡くなる直前まで店に立ち、最後までマスターとして、バンドマン達のおやっさんとして生涯を全うした。

 

 

「そして俺はおやっさんの遺言通り、ビルごと店を受け継いで、2代目マスターとして今に至るって訳だよ」

 

「なるほどな。そういう経緯だったのか...」

 

 

 俺の話を聞き終えた巧は、そう呟く。一緒に聞いていた津上も、俺の話を黙って聞いていた。

 

 

「なあ雄介。この後お前の店行って良いか?」

 

「良いけど、急にどうした?」

 

「なに、お前の話し聞いて、久し振りにあの店に行きたくなったんだよ」

 

「僕も行って良いですか?」

 

「津上もかよ...まあ良いよ。ただし、休みのつもりだったから大したもんは出せねえけどな」

 

 

 そう言って俺たち3人はファミレスを後にしたあと、Woodstock(ウッドストック)に集まって3人で夜が更けるまで大いに飲み、思い出話に花を咲かせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




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