「文化祭のライブに出たい?」
音弥との一件からさらに数日、いまや週3回近いペースで通っているSTARRYのカウンターで、星歌とPAさんと共にぼっちちゃんの話を聞きながらそう呟く。最近は星歌から「どんだけ来るんですか?」と苦い顔をしながら言われたが、俺の店も今や結束バンドのメンバーの溜まり場と化しているのでおあいこと言えよう。
「迷ってるくらいなら出た方が良いと思うけどねえ? 一生に一度の青春の舞台だし」
「ですかね...」
ぼっちちゃんの話に対し、星歌はそう言う。ぼっちちゃんの話し曰く、本当は学園祭のライブに出たいらしいが、まだライブの経験も少ないので、自身が無く、それに自分のような陰キャが出るような幕ではないと言う。俺としてはまあやってみなきゃ分からないし、当たって砕けろで行っても良いと思うのだが。
「まあ私は高校ろくに行ってないから、適当に言ってるけどね」
「私は高校中退でーす。朝が弱かったので」
などと考えていたら、星歌とPAさんがそんなことを言い出した。いや2人ともダメじゃねーか。ぼっちちゃん聞く相手間違えたみたいな顔してるぞ。
「お前らぼっちちゃんが真剣に聞いてるのに適当なアドバイスするなよ」
「いや雄介さんだって高卒でしょう?」
「俺は高校はほぼ休まず通ってたし、学園祭だって出たよ」
「それでも大差無いじゃないですか?」
「お前らよりはマシだよ」
そう言いながら俺と星歌の言い合いが始まった。そうやって言い合いをしてると、虹夏ちゃんとリョウちゃんの2人がSTARRYに入ってきた。
「あれ? お姉ちゃんとぼっちちゃんが話してる? 珍しい。それに叔父さんまで」
「文化祭のことを憂いてるんです」
「文化祭?」
「結束バンドで文化祭ステージ出るか迷ってんだってさ」
「で、その事を俺たちが聞いてたってわけ」
珍しい組み合わせに少し驚いた虹夏ちゃんに、会話の経緯を3人で伝える。まあ確かに星歌とぼっちちゃんの組み合わせはあまり無いな。たまに星歌がぼっちちゃんと仲良くなりたいとうちの店で酔っぱらいながらボヤいてはいるが。
「え! 良いじゃん出ようよ。ライブハウスとは違う良さがあるよ?」
「え? 虹夏ちゃん達は出たことあるんですか?」
「うん。中学であるよ!!」
「私もある。マイナーな曲弾いて会場お通夜にしてやった」
「なんで誇らしげ?」
「そういうところだぞリョウちゃん」
何故かドヤ顔のリョウちゃんに対し、俺と虹夏ちゃんの2人同時で突っ込む。廣井といいなぜベーシストという人種はこうも変わった人間が多いのだろうか?
「あたしもリョウとは出たことないし、文化祭ライブやりたいな~」
「え? そうなんですか?」
「結束バンド組んだの最近だし」
「私もオリジナル曲ここ以外でやりたい」
「こういうバンドがあるって知ってもらう良い機会だよ」
「でも...高校の文化祭って、青春ロックで盛り上げないと退学なんじゃ...」
「そんな校則はないでしょ」
「そんな校則あったら俺学校辞めるわ」
いつも思うがぼっちちゃんはどうしてここまでネガティブな発想に行き着くのだろうか? 世の中陰キャだからって死刑にされるわけでもないのだが。
「とはいえ、ぼっちの迷う気持ちも分かる」
「え...?」
「下手したら...というか絶対にここより多い人数の前で演奏する訳だし...だから、そんなに焦って決めることでもないよ」
「リョウさん...」
「正直、お通夜状態だったライブ、たまに夢に見る」
「強がりだったのかよ」
「いや、まあ俺もその気持ちは結構分かる...」
俺も始めて学園祭ライブしたとき、俺と音弥の二人で演奏が盛り上がりすぎて、某タイムスリップ物映画のワンシーンのようになったことがあったから、気持ちは良く分かる。あの空気は二度と味わいたくない。
「まあともかく、ぼっちちゃんの悔いが残らないのが一番だからさ」
「それは言えてますね」
「まあその通りだ。別に今年じゃなくても、来年にやれば良いだけだし」
「わ、分かりました...考えてみます...」
虹夏ちゃんとPAさん、そして俺の言葉に対し、ぼっちちゃんはそう答える。まあしっかり考えて、自分の納得のいく結果を出してもらいたいな。
その翌日、この日は店の定休日のため、俺はまたしてもSTARRYへと足を運んだ。
「オーッス星歌。また来た...ぞ?」
STARRYに入った俺が目にしたものは、何故か棺桶に入って顔面崩壊しながら横になっているぼっちちゃんと、『私は罪人です』と書かれた札を首に下げて正座している喜多ちゃんの姿だった。
「え、なにこの状況? 誰か教えて?」
「あ、雄介さん。実は...」
そう言って喜多ちゃんは俺に対しその経緯を説明する。
「なるほど。ぼっちちゃんの申込用紙を勝手に出しちまって、それを聞いてぼっちちゃんが倒れたって訳か...」
「はい、そうなんです...」
「ただいまー...ってなにこれ!? どういう状況これ!?」
「おお虹夏ちゃん。実はかくかくしかじかで...」
そう言って今度は俺が虹夏ちゃん達に対し経緯を説明する。
「それでずっとこんな感じなんだ...」
「てっきり、出たいものだとばかり...ど、どうしよう。このままじゃ私、人殺しだ...」
説明を聞いた虹夏ちゃんがそう言う。喜多ちゃんはというと、ぼっちちゃんのことで責任を感じてかオロオロとしていた。まあぼっちちゃんのことだからしばらくすれば起きるだろう。我ながらぼっちちゃんの奇行にも慣れたものである。
「今からでも参加、取り止めればいいじゃん」
「一旦出したら取り消せないと言われてしまって...でも、明日話してみます」
リョウちゃんと喜多ちゃんがそう話していると、扉の開く音が聞こえた。
「やっほ~ タダ酒飲まして~。あ、マスターこんちわ~」
「飲ませるか消えろ」
「お前俺以上にここ来てるな廣井...」
店に入ってきたのは廣井だった。廣井もあのライブ以来、STARRYにかなりの頻度で来店しており、星歌達の住む部屋の風呂を借りに来る回数を含めると、その頻度は俺以上だった。
「ちょっと~ 君のお姉ちゃんツンが激しすぎな~い? 妹ちゃんは私がいると楽しいよね~?」
「帰ってください。そろそろお店始まるので」
「先輩に負けず劣らずの目をするようになったね...」
「その血の運命ってやつだな...」
星歌顔負けのその冷たい眼差しに俺と廣井はそう呟く。そういうところが遺伝するのは若干複雑ではあるがな。虹夏ちゃんはずっと可愛いままでいてくれ...
「ぼっちちゃーんどしたー? なんか心配事?」
「文化祭のステージに、私が勝手に申し込んでしまって...」
「え、何? ライブするってこと?」
「む、無理です私には...い、いつものハコより多い人前で、しっしかも学校での私を知ってる人の前で、ライブするのが怖くて...」
棺桶から目覚めたぼっちちゃんが、廣井に自分の気持ちを話す。確かに、ぼっちちゃんみたいな子は失敗した時のことを考えて、余計に不安に感じてしまうだろうな。
「ぼっちちゃん、これあげる」
「え?」
「この前のお返しに。今日の私のバンド、ライブすんの。良かったら見に来なよ」
「い、良いんですか?」
「もちろん。はい、君たちもどうぞ」
そう言って廣井はぼっちちゃんと同じように、ライブのチケットをみんなに渡す。あいつも先輩らしいことするようになったもんだな。
「あ、じゃあお金...」
「ですよね。チケット代を...」
「いいよ。あげるあげる」
「いや、でも...」
「無理しないでください」
「え...君ら私のこと高校生から金巻き上げる貧乏バンドマンだと思ってんの...?」
「え? 違うんですか?」
「くそーーっ!! 先輩焼酎ボトルで!!」
「やるかバカ」
「お前...ホントおもしろいよな...ククッ」
「マスターまでーーっ!! ちくしょーー次店行ったら暴れてやるーー!!」
「おうおう。やれるもんならやってみろ」
そう言って叫ぶ廣井に対し、俺は笑うのを必死にこらえながらそう言う。まあ毎日酒飲んでバカやってる様子を見てたら、そう思うのは仕方無かろう。
「喜多ちゃん、虹夏ちゃん。こいつ普段はこんなだけど、こいつのバンドはその筋じゃかなり人気のあるインディーズバンドなんだぜ」
「え? そうなんですか?」
「そ、そうなんだよ~。ね? リョウちゃん」
「はい。コアなファン多めです」
あまりいじめるのも悪いので、フォローを兼ねて俺は喜多ちゃんと虹夏ちゃんにそう説明する。
「てことで~。チケットノルマなんて余裕だし、物販でも稼いでるんだから」
「じゃあなんでいつも安酒ばっかり?」
「え?」
「それにシャワーもうちで借りてくし」
「家賃払え」
「ウッ!!」
「ついでにうちの飲み代も払え」
「グエッ!!」
「あ、この前の電車賃返してもらってない」
「やっぱり金巻き上げてるじゃねえか」
「そこまで落ちたか廣井よ」
「ああ...これには深い訳が...泥酔状態でライブするから毎回機材壊して、全部弁償に消えてるの...」
「自業自得じゃねえか」
「そんなんだからお前、風呂無しオンボロ事故物件アパートなんかに住む羽目になってんだろうが」
普通にあいつのバンドの売り上げなら、今のアパートの2段階は上の物件に住めるはずなんだがな。弁償でのマイナスがなければ、うちのビルの空いてる賃貸の部屋を紹介するのだが。
その後、廣井はぼっちちゃんに金を借りていたのがばれたリョウちゃん(本人曰く新しいアンプとエフェクターを買ったため金欠だったとのこと)とともに2人で金を返し、そのまま結束バンドの皆を連れて新宿FOLT へと向かった。
俺もせっかくなので廣井からチケットを買い、一緒に向かうことにした。
「ここが私のホーム、新宿FOLT で~す!! さあ入って入って~」
そう言って廣井は俺と虹夏ちゃん達を中へと誘う。ここに来るのはバンドを解散して以来だが、昔とほとんど変わっていないようだった。
「STARRYとはずいぶん雰囲気が違いますね?」
「大丈夫。うちと変わらないよ」
「そうそう。ライブハウスなんざどこも大差ねえよ」
そう言いながら俺と虹夏ちゃん達はFOLT の中を進んでいく。途中何故かぼっちちゃんが雰囲気に怯んだのか帰ろうとしたが、そのまま虹夏ちゃんが捕まえて引っ張っていった。
「あーいう人たち話せば怖くないから、大丈夫だよ」
「やっほ~銀ちゃん」
「あ゛?」
「お、お姉ちゃんに会いたい...」
「ついに伊地知先輩まで!!」
ぼっちちゃんに見た目ほど怖くないと言った虹夏ちゃんだったが、銀ちゃんのコワモテな見た目に対し、涙目になってしまった。付き合い長いから忘れてたけど、こいつ結構コワモテなんだよな見た目は。
「おい銀ちゃん。俺の可愛い姪っ子をビビらすな」
「あら雄介ちゃん。ごめんなさいつい警戒しちゃって。ごめんなさいね~。改めまして、店長の吉田銀次郎37歳で~す♡ 好きなジャンルはパンクロックよ~」
「悪いな。こいつ見た目はこんなだけど、心は乙女なんだ」
「そうそう。銀ちゃんは心は乙女なおっさんだよ」
見た目とのギャップに混乱している4人に対し、俺と廣井はそう説明する。そう言ってると、廣井のバンドメンバーである志麻とイライザの2人がやってきて、虹夏ちゃん達に挨拶を始めた。
「あ、雄介さんも。今日は珍しいですね」
「ワオ!! ユウスケサーン!! お久し振りデース!!」
「よお志麻、イライザ、久し振り。イライザは相変わらず元気だな」
俺の方に気づいた志麻とイライザが、それぞれ挨拶する。この2人は廣井と同じく、店の常連としてよくうちの店に来ている。特にイライザは、俺が海外放浪していたときにイライザの親が俺を家に泊めさせてくれて以来の付き合いで、イライザ曰く日本に興味を持つ理由になったきっかけの1つになったという。
「そういえば今日、巧さんここに来てますよ」
「え?あいつここ来てるの? なんで?」
「なんでも今日やるバンドのベースが1人急病で倒れて、その代理で来たらしいですよ」
「マジか? あいつ今どこにいる?」
「さっきリハが終わったので、あそこの席にイマース!!」
「サンキュー。 オーーイ、巧ーー!!」
イライザが指差した方向に向かって叫ぶと、こちらに気づいた巧が席から立ってやって来た。
「お前なあ...こんなとこでバカでかい声出すなよ」
「イヤーすまんすまん。会えるとは思ってなかったからな」
「そもそもなんでここに来たんだ?」
「廣井のライブを見に姪っ子のバンドの子達と来たんだ。ああそうだ。お前のこと紹介していいか?」
「...まあ構わねえけど」
「ありがとよ。オーイ、虹夏ちゃん達。ちょっとこっち来てくれ」
そう言って俺は虹夏ちゃん達をこちらに呼ぶ。しばらくすると虹夏ちゃん達がこちらへとやって来た。
「紹介するわ。こいつは半田巧。俺のバンドのベース担当で、今はサポートやコンサートのバックバンドなんかをやってるんだ」
「...半田巧だ。よろしくな」
そう言って巧は虹夏ちゃん達にいつものぶっきらぼうな感じでそう言う。相変わらずの言い方だが、巧の性格的に初対面の相手とベタベタするタイプではないので、そこは仕方無いと言える。
「はじめまして、伊地知虹夏です。下北沢で『結束バンド』っていうバンドやってます。ドラム担当です。よろしくお願いします」
「山田リョウです。ベース担当です。よろしくお願いします」
「ご、後藤ひとりです。リードギターやってます。よ、よろしくお願いします」
「はじめまして!! ボーカル担当の喜多です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。バンドのことは雄介からボチボチ聞いてるよ」
「え? そうなんですか?」
「こいつ、しょっちゅうお前さん達のこと話してるからな。この間も、喜多ちゃんのギターの上達スピードをべた褒めしてたし」
「ちょ、お前今言うことじゃねえだろ」
「別にバレてもかまわんだろ?」
「あ、ありがとうございます...」
「良かったね喜多ちゃん。誉めてもらえて」
「郁代。あとで私も誉めてあげる」
「よ、良かったですね喜多さん」
突然の巧の暴露に照れる喜多ちゃんに、虹夏ちゃん達は口々にそう言う。俺としては教えた課題が出来るようになったときなどにちょくちょく誉めてはいるが、筋が良いとかは普段あまり言わないからな。
その後、俺と虹夏ちゃん達は巧と分かれたあと、そのまま廣井のライブを見た。
元々貰ったCDなどでどういう曲をやるのかは知っていたが、生で聞くとあの変拍子まみれのベースを演奏しながらボーカルまでこなすという廣井の実力の高さをまざまざと実感させられた。
虹夏ちゃん達も廣井のライブを見て多いに刺激を受けたようで、ぼっちちゃんも奥の控え室で廣井と話してからはどこかスッキリした顔をしていた。
「いやー話しには聞いてたが廣井のやつやっぱり上手いなあ」
「は、はい。お姉さんのバンド、すごくかっこ良かったです」
「やはりSICK HACKは最高。古事記にもそう書いてある」
「いや書いてないでしょ。でもやっぱり上手かったねえ」
「サイケは始めて聞きましたけど、ちょっと興味出てきました!!」
「じゃあ私の秘蔵のサイケのアルバムを郁代に...」
「リョウさりげなく布教しようとしない」
そう言いながら虹夏ちゃん達はライブの感想を言い合う。思えばライブ終わりのこういう雰囲気も、久しく感じていなかったな。
その後、虹夏ちゃん達が先に帰るのを見届けたあと、俺は巧と廣井が出てくるのを待っていた。
「マスターお待たせ~」
「すまねえ、遅くなった」
「いや、俺も大して待ってねえよ」
外の喫煙所でたばこを吸いながら待っていた俺に、廣井と巧が声をかける。
「いやー最後の最後でまた壊してしまった...」
「は? お前またなんか壊したのか?」
「壁殴って壊したらしい」
「馬鹿めと言ってやる」
「もー!! 言わないでくださいよー!! 反省してるんでー!!」
「どうだかな?」
「なあ?」
廣井の反省してるという言葉に対し、俺と巧は顔を合わせてそう言う。ホントに反省してたら普通はしないんだがな。
「そういえば、なんでわざわざぼっちちゃん達を誘ったんだ?何か考えあってのことみたいだが?」
「うーーん、まあ...私が元々ネクラなのは知ってますよね?」
「まあな。しょっちゅう星歌の後ろでうろうろしてたもんな」
「そんな私でも、今はこうやってバリバリライブやってるじゃないですか? だからぼっちちゃんにも、勇気さえ持てばキラキラ出来るってことを教えたかったんですよ」
「...お前がそうやって後輩を導く立場になるとはなあ」
廣井のその言葉に、俺はそう呟く。始めて会ったのは俺が店を継いですぐだったが、今じゃ酒癖はひどいところを除けば立派なバンドマンになったものである。
「と、言うわけで。早く打ち上げ行きましょ~よ~!! 志麻もイライザも待ってるんで!!」
「まったく、結局それかよ」
「まあ、廣井はそういうやつだからな」
そう言いながら俺たちは夜の新宿の街へと歩きだした。今日はまた、騒がしい夜になりそうである。
ご意見ご感想お待ちしています。特に感想はモチベーション向上に繋がりますので、よろしくお願いいたします。