リアルの仕事が多忙のため、更新が遅れました。
お気に入り数180人と総合評価240点を越えました。これも全て読者様のお陰です。
というわけで文化祭です。
「雄介さん!! もっとギターを教えてください!!」
廣井のライブから数日後、練習のためにやって来た喜多ちゃんが開口一番にそう言った。
「お、おう。急にどうした喜多ちゃん?」
喜多ちゃんの突然の頼みに一瞬固まってしまったが、すぐに気を取り直してそう聞く。
「はい。その、私もっと上手くなりたくて。後藤さんが学園祭のライブを勇気を出して頑張って出るのに、私が足を引っ張るようなことになりたくなくて...リョウ先輩にも色々教えてもらい出したんですけど、雄介さんにも教えてもらいたいんです」
「フム、なるほどな...」
喜多ちゃんの説明に対しそう呟く。まあ元々ぼっちちゃんに基礎を教わってるし、基礎はほぼ出来ててカッティングなどの細かい技術や、弾きかたのアドバイスなどを補足で教えていた感じなので、そろそろより応用技術を教えてもいいタイミングだろう。
「分かった。じゃあ今日からはもう少し上の段階に入るとしよう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、俺はあくまでリードギター専門だから、ギターボーカルの技術は教えられない。歌とかはリョウちゃんに教わってくれ」
「それでも良いです!! 私頑張りますので!!」
「よし分かった。それじゃ始めよう」
そう言って俺はカウンターの回転椅子に腰掛け、そばに置いていたレスポールを手に取る。とりあえず短期間で教えることは限られてるから、バッキングとか細かいところをメインに教えるとするかな?
それからまたしばらく経ち、いよいよぼっちちゃんの学校の文化祭の日がやって来た。
「さすがに文化祭だけあってずいぶん活気があるな」
「なんか懐かしいですねこういう感じ」
「というかここに来るのも卒業以来だな」
ぼっちちゃんの通う秀華高校の校門の前で、俺と津上、そして巧がそう話す。
しかしぼっちちゃん達がまさか俺たちの通っていた高校にいたとは思わなかった。何年か前に制服が変わったような話は聞いていたが、学ランと普通のセーラー服だった頃の記憶しかない俺たちには、校舎や校門は同じでもどこか違う学校に来たような気分だった。
「まあ、それはそれとして。音弥、なんでお前ここにいるんだ?」
「ん? 来たら駄目だったか?」
そう言って俺はスケジュールを前倒ししまくって時間を作ったという音弥に対してそう言う。そんな音弥は普段とは違い、モッズコートにジーパンと伊達メガネ、髪もいつもの茶髪がかった髪色を黒く染めた完全お忍びスタイルという格好で、先ほど自販機で買った缶コーヒーを啜っていた。
「駄目に決まってんだろ。もしバレたら学校中がパニックになるぞ」
「大丈夫だって。 この格好しててバレたことは一度もねえんだよ。 まあ一応名前でバレないように、ここから先は『一海』って呼ぶようにしてくれ」
「なんだよその『一海』って名前?」
「この間やったドラマの役名」
「いや気づくやつは気づくだろ!?」
「おい二人とも。さっさと受け付け済ませろよ」
俺と音弥のやり取りを余所に、すでに津上と巧は受付を済ませていた。それを見た俺と音弥は、すぐに受け付け用紙に名前を記入し、そそくさと学校内に入っていくのだった。
「マスター!! こっちで~す」
音弥達4人で屋台の飯を食べたり、懐かしの校舎をめぐったりするなどして時間を潰した俺たちは、そのままライブが行われる体育館へと入った。体育館に入ると、先に来ていた星歌と廣井の2人から声を掛けられた。
「よお。二人とも先に来てたのか」
「はい。さっき来たところで」
「私も一緒で~す。いや~楽しみだね~ぼっちちゃん達の演奏」
「廣井、飲むのは構わんが暴れるのは無しだぞ?」
「大丈夫です。何かあったら私が押さえるんで」
そう言いながら星歌は廣井を指差しながら話す。廣井はというと、すでにワンカップの『鬼ころし』を開けて酒盛りをしていた。
「廣井ちゃん。始まる前からそんなに飲んだら駄目でしょ?」
「んー? あ、津上さん。どうもどうも」
「お前さんそんな調子じゃ寿命が持たねえぞ?」
「良いんですよ~巧さん。バンドマンは太く短くって言うじゃないですか~」
「駄目だ聞く耳持たん」
「このバカ...」
呆れ顔で廣井に酒を飲むのを一旦止めるように言う巧と津上だが、すでにほろ酔い状態の廣井はそんなことを良いながら酒を飲む。ライブ中に吐かれたりして退場なんてことにならなければ良いが。
「あれ? マスターの横にいる人って誰です? なんか見たことある気がするけど...」
「あら? 気づかれたか。この格好でバレたのは始めてだな」
そう言いながら音弥は気づかれたことに少し残念そうな顔をしながら、掛けていた伊達メガネを少しずらし、廣井に向かってウィンクをした。
「ん...? あーー!! さ、猿渡おと...」
『シーーーー!!』
音弥の顔を見て気づいたが名前を叫びそうになるのを、音弥以外の3人と星歌が必死で止める。
「お前空気読め。ここでバレたらエライことなるだろ?」
「い、いやちょっとビックリしちゃって...あ、はじめまして。廣井きくりです。SICK HACKっていうバンドやってます」
「どうもはじめまして。とりあえずここにいる間は一海って呼んでくれ」
「わ、分かりました。あの、その。ドラマ見てました。あとでサインもらって良いですか?」
「ああ、いいぜ」
驚いたショックで一時的に酒が抜けたのか、シラフの時のような口調で廣井はそう挨拶する。
「あんな顔した廣井は始めて見たな...」
「というか廣井ちゃんもファンだったんですね」
「ホントに人気俳優なんだな...」
普段見ない廣井の照れたような顔に、それぞれそう呟く。最近のドラマとか見てないから知らなかったが、あいつホントに人気の俳優なんだな。
「あれ? もしかして、スターリーの店長さんですか?」
そうやって廣井と音弥のやり取りを見ていると、後ろの方で星歌に声をかけられているのが聞こえた。
振り向いてみると、そこには小さい子供を抱えた父親らしき男性と、柴犬の顔が書かれた団扇を持った母親の家族連れがいた。
「星歌、その人たち知り合いか?」
「ああ。ぼっちちゃんのご家族ですよ。紹介します。私の叔父でバーをやってる雄介さんです」
「はじめまして、伊地知雄介です。下北でバーをやってます」
「これはこれは。ひとりの父です。こちらは妻の美智代と、娘のふたりです」
「ひとりの母です。娘からは何度か話は伺ってますよ」
「後藤ふたりです!! お姉ちゃんがお世話になってます!!」
そう言ってぼっちちゃんのご家族がそれぞれ挨拶する。あのぼっちちゃんの両親ということでどんな人物かと一瞬思ったが、人の良さそうな家族で少しだけ安心した。
「いやーどうも。そちらは娘さんの応援で?」
「ハイ。娘の晴れ舞台なので、家族で見届けようと。この団扇もペットのジミヘンの代わりに持ってきたんです」
「ホント、嬉しいなあ。ひとりが家に友達連れて来て、ライブハウスでライブもやって、そして今日は文化祭で...ウゥッ、涙が...」
「おとーさんなんで泣いてるの?」
「ふたりちゃん。お父さんは嬉しくて泣いてるんだ。ふたりちゃんもお姉ちゃんのかっこいいとこ、お父さん達と見てあげなさい」
突然泣き出したぼっちちゃんのお父さんを不思議そうに見るふたりちゃんに対し、俺はそう話す。俺もお父さんの気持ちは分かるし、家族で見に来てくれるのはなんだかんだでぼっちちゃんも嬉しいだろうしな。
ぼっちちゃんのご家族と話をしたあと、星歌達と出番を待っていると、いよいよ結束バンドの出番となった。
「喜多ちゃ~~ん!!」
「喜多ちゃ~~ん!!」
ステージ上にいる喜多ちゃんに対し、友達らしき女の子達が声援を送っている。やはり交遊関係も広いだろうし、明るい性格だから校内でも人気もあるのだろう。
「お姉ちゃ~~ん!! 頑張れ~!!」
ぼっちちゃんの妹のふたりちゃんも、ぼっちちゃんに声援を送っている。お父さんはというと、すでに感極まったのかビデオカメラを片手に涙を流していた。
「ぼっちちゃん頑張れー。あ、見て見て~。今日は特別にカップ酒~。カッコいい演奏頼むよ~。うえーい」
「おい雄介、止めねえのか?」
「もうめんどくさいからあいつは知らん...」
廣井が酔った状態でぼっちちゃんに声をかけているのを横目に見ながら、俺はそう呟く。舞台の端には追加で飲んだのか、空になったカップ酒の容器が数本置かれていた。
「テメーはそろそろいい加減にしとけ!!」
「あ...先輩ギブ、ギブ...」
俺が廣井を注意するのを諦めてそう言った直後、星歌が廣井にコブラツイストをかけて押さえこんでいた。どこで覚えたんだコブラツイストなんて?
「アハハ...えー私たち結束バンドは、普段は学外で活動してるバンドです。今日は私たちにとっても、みんなにとっても良い思い出を作れるようなライブにします。それで、もし興味が出たら、ぜひライブハウスに来てくださ~い!!」
そんな廣井と星歌を見つつ、喜多ちゃんがライブ前のバンド紹介をする。しっかりとライブハウスのことも話して、宣伝もするのはのはさすが喜多ちゃんだな。
「それでは聞いてください。結束バンドで、『忘れてやらない』!!」
喜多ちゃんの紹介と共に、結束バンドの演奏が始まる。1曲目はオープニングらしいアップテンポで明るい曲調の歌で、会場の空気も盛り上がり始めていくのを感じた。
(喜多ちゃんもそうだが、バンド自体もずいぶん成長したなあ...)
演奏を聞きながら俺は、喜多ちゃんの練習の成果を感じると同時に、結束バンド自体の成長を感じる。あの台風ライブから2ヶ月ほどしか経っていないが、やはりあの経験がそれぞれの糧となっているのだろう。
何よりも、メンバーそれぞれがこの演奏を心から楽しんでいることが観客にも伝わっている。そこが最大のポイントと言えるだろう。
「ありがとうございました!! 1曲目、『忘れてやらない』でした!!」
そうしてるうちに、『忘れてやらない』の演奏が終わった。会場も1曲目から大盛り上がりで、ライブとしてはもう成功と言えよう。
「ボーカルの子上手いですね。ホントにギター始めて半年なんですか?」
「ベースもリードギターもなかなかだな。ちょっと舐めてたわ」
「確かに良かったが...なんかリードギター変な感じするな」
「変な感じ? どういうことだ音、もとい一海?」
「上手く言えねえけど...音の調子というか、なんというか...妙な感じがする」
演奏を聞いた音弥達も、それぞれそう呟く。音弥がぼっちちゃんのギターの音がおかしいというが、確かに先ほどからぼっちちゃんがやたらペグの調節を行っている。何も起こらなければ良いのだが...
そう言っているうちに、2曲目の『星座になれたら』の演奏が始まる。音弥の言う通り、1曲目の時には気付かなかったが、ぼっちちゃんの1、2弦の音が合っていないように感じる。
ぼっちちゃんもなんとか修正しようとしていたそのとき、ぼっちちゃんのギターの1弦が切れてしまった。
「ウワッ!! このタイミングで切れるか!?」
「まずいですね。あの感じだと2弦も使えなさそうなんで、あの状態じゃ厳しいですよ」
演奏を聞いて異変に気づいた津上がそう話す。楽器店で修理なども行っているだけあって、音だけでギターの状態を把握したようである。
(どうする? あれじゃソロなんて弾きようが無いぞ。どうするぼっちちゃん?)
喜多ちゃんとの練習でもうすぐぼっちちゃんのギターソロが始まることを知っていた俺は、心の中でそう呟く。1弦だけならばまだどうにかなったかもしれないが、2弦もやられているようでは予備のギターもない状態ではどうしようもない。これは諦めざるを得ないか...
そう思ったそのとき、喜多ちゃんがぼっちちゃんのソロパートの部分をアドリブで弾き始めた。
(喜多ちゃん...そうか。ぼっちちゃんが立て直す時間を作るために自ら...)
ぼっちちゃんの方に目線をやりながら演奏をする喜多ちゃんを見て、すぐにその意図を察する。
それを見てしゃがんでいたぼっちちゃんが、足元にあった『鬼ころし』のカップを手に取って立ち上がり、ボトルネック奏法でギターソロを始めた。
「ボトルネック...だと?」
「確かにあれならチューニングがイカれていようが関係ないが...この土壇場で、ぶっつけでかよ?」
「ハハハ...すごいな」
ボトルネック奏法でギターソロを始めたぼっちちゃんに、音弥達は唖然としていた。まあ、俺もおどろいていたが。
(ぼっちちゃん...君は天性のロックスターだな...)
俺はぼっちちゃんのその土壇場での閃きと度胸に対し、そう心の中で呟く。本当に、あの子には驚かされてばかりだな...
そうして、2曲目の『星座になれたら』の演奏が終わった。会場は大歓声に包まれ、鳴り止むのに少し時間がかかったほどだった。
「あ~えーと...ほんとは続けて最後の曲、行くところなんですけど...これだけ言わせてください!! 今日はホントにありがとーーー!!」
『ワーーー!!』
「この日のライブを、みんなが将来自慢できるくらいのバンドになりま~す!!」
虹夏ちゃんの言葉に、再度歓声が上がる。
「ブラボーー!! ブラボーー!!」
「応援するよーー!!」
「...フッ」
音弥と津上も虹夏ちゃん達に対し、そう言う。巧も口には出さなかったものの、笑みを浮かべながら拍手を送っていた。
「ほら、後藤さん。一言くらい何か言わなきゃ」
「え?」
「フフッ」
「ああ、あっうっ...」
ふと舞台に目を戻すと、喜多ちゃんがぼっちちゃんにMCを振っていた。何を話すのかと注目していると...
ブワッ...
「え?」
「は?」
「え?」
「あ?」
突如、ぼっちちゃんが観客に向かってダイブした。突然のことに誰も受け止めること無く避けられたため、ぼっちちゃんはそのまま顔から床に激突していった。
「キャーー!?」
「後藤さん!?」
「ぼっちちゃん大丈夫?」
「ぼっち、お前は伝説のロックスターだ...」
「ハハハ!! ぼっちちゃんサイコ~!!」
「少しは心配しろ!!」
「ホントだよ!!」
突然のことに虹夏ちゃんと喜多ちゃんはぼっちちゃんの無事を心配し、リョウちゃんと廣井は笑いをこらえていた。このベーシスト組ェ...
「とりあえず保健室運ぶぞ!!」
「お嬢さん大丈夫か?」
「いきなりダイブすればこういう反応になりますよね」
「おいコラなに撮影してんだ!! 見世物じゃねーぞ!!」
とりあえず俺たち4人はそのままぼっちちゃんを抱え、そのまま人払いをしながら保健室へと運んでいった。
「まったく。ここまでロックスターにならんでも良いだろうが...」
俺は気絶したぼっちちゃんを背中に抱えながら、そうつぶやくのだった。
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