伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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13. 打ち上げと誓い

 

 

 

 ぼっちちゃんの舞台からのダイブという衝撃の幕切れとなった文化祭ライブから1週間後、この日はここWoodstock(ウッドストック)で結束バンドの文化祭ライブの打ち上げが行われていた。

 

 

「えーというわけで、結束バンドの文化祭ライブ成功...成功か? まあ良いや。ベラベラ話すことも無いしとりあえずカンパーーイ!!」

 

『カンパーーイ!!』

 

 

 僭越ながら乾杯の音頭を取ることとなった俺の音頭により、それぞれがグラスを乾杯し始める。

 

 この日店には結束バンドのみんなと、津上に巧、そしてまたもや仕事の合間を縫ってきた音弥がそれぞれテーブル席やカウンターの椅子に腰掛けていていた。

 

 星歌とPAさんに関しては、店の用事を終わらせてからまたやってくると聞いているので、とりあえず先に乾杯を済ますことにしたのだった。

 

 

 

「いやーしかし無事で良かったなぼっちちゃん。あのときは肝を冷やしたよ」

 

 

 テーブルに座ってドリンクを飲むぼっちちゃんに対し、出来上がった料理を置きながら俺はそう話しかける。とりあえず保健室に運んだあとは保健室の先生に任せたから、怪我がほとんど無くてホッとしたものである。

 

 

「は、はい。ただ、学校では噂されるようになっちゃいましたけど...」

 

「そりゃあいきなり舞台からダイブすりゃ目立つわな」

 

「は、はあ。あ、えっと、すいません。誰、ですか?」

 

「ああ。紹介してなかったな。こいつがうちのボーカルの音弥だ」

 

「え!? に、虹夏ちゃんが言ってた俳優の人ですか!?」

 

「ああ、よろしくなお嬢ちゃん...ってなんで土下座してんだ?」

 

「す、すいません私みたいな陰キャのダメ人間が人気俳優さんの視界に入ってしまって...」

 

「いやいやいや頭上げてくれ。女子高生土下座させてんのは洒落にならねえから」

 

 

 

 そう言って音弥が慌てながらぼっちちゃんに顔を上げるように言う。いつも思うことだが、ライブとそれ以外の時のオンオフが違いすぎるなこの子は...

 

 

 

「...あれホントにあのギターの子か? ライブの時と違いすぎだろ?」

 

「普段はああいう感じなんです。なんというか、ネガティブというか自己否定が強すぎるというか...」

 

「でも、それもぼっちの個性。私は面白いから好き」

 

「こらリョウ。そんなこと言わない。でも、巧さんも聞いた通り、ライブではあんな風にかっこ良くなるんです」

 

「...まあ、実際見たんだから信じるしかねえんだろうけどな」

 

 

 

 カウンター席の方での音弥とぼっちちゃんのやり取りを見ながら、巧と虹夏ちゃん達がテーブルの上の料理を食べながらそう話す。

 

 席の方はテーブル席に本日のゲストの結束バンドの面々、それに津上と巧、そしてカウンターには音弥が座っていた。

 

 ちなみに何故音弥がテーブルではなくカウンターにいるかと言うと、『男3人でベタベタしたくないから』だそうである。

 

 

 

「そう言えばぼっちちゃん。あれから新しいギター手に入れたんだってな? 良かったら見せてくれないか?」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

 

 

 そう言ってテーブル席に戻ったぼっちちゃんは持ってきていたギターケースから新しいギターを取り出して見せた。

 

 

 

「へーYAMAHAのパシフィカか。良いの選んだな」

 

「高校生には手頃なギターですね」

 

「けどレスポールからこれはランクダウンしすぎて物足りねえんじゃないか? そこが気になるが...」

 

「あ、いえ...確かに前の方が音とかも良いですけど、こっちの方が壊れたときとかに変に気を使わないので...」

 

「まあ50万のギターなんか雑に使えないからな」

 

「ていうかブラックビューティー持ってたお父さん何者だよ...レプリカとかじゃない本物のやつだぞ」

 

 

 

 そんなことを良いながら俺と音弥達はぼっちちゃんの新しいギターの感想を言い合う。俺のレスポールも買ったときは20万ほどしたが、ぼっちちゃんのはその倍以上だからな。最初はてっきりレプリカだと思ってたから、知ったときは驚いたものだ。

 

 

 

 

「けど不思議なもんだな。まさかぼっちちゃんのお父さんが修理に出した店が津上の店だったんだから」

 

「ホントですよ。レスポールカスタムなんて滅多に触れないんで喜んでたら、持ってきたのがひとりちゃんのお父さんですからね」

 

 

 そう言いながら津上は頼んだジントニックを片手にそう話す。最初はぼっちちゃんのお父さんだと気づかなかったそうなのだが、切れた1弦や劣化したペグを見てすぐにピンと来たと言う。ホント、世の中って狭いんだなあ。

 

 

 

 

 

「すいません。遅くなりました」

 

「遅くなりました」

 

 

 そうやってぼっちちゃんのパシフィカの観賞会をしていると、星歌とPAさんがやって来た。

 

 

「よお二人とも。遅かったな」

 

「次のライブのことで色々と時間がかかりまして。それで店長と作業してたんです」

 

「そうか、大変だったな。あ、紹介するよ。俺のバンドのメンバーの津上と...津上?」

 

 

 津上と音弥にPAさんを紹介しようとすると、津上がPAさんを見て固まっていた。

 

 

「津上? おい、どうした?」

 

「...綺麗だ」

 

「は?」

 

「あ、はじめまして。新宿で楽器店をやってる津上と申します。よろしくお願いします...」

 

「はじめまして。STARRYというライブハウスでPA をやってます。よろしくお願いします」

 

「あ、はい。どうも...」

 

 

 そう言いながら津上とPAさんがそれぞれ自己紹介する。しかしあの津上の反応、まさか...

 

 

 

「おい津上。お前PAさんに惚れたのか?」

 

「え!? い、いやそんなことは...」

 

「嘘こけ。あんな目に見えた反応してたらだれでも気づくぞ?」

 

「うう...そ、そうですよ。一目惚れしました...」

 

 

 星歌とPA さんがテーブルに付いたあと、こっそり聞いてみた津上がそう答える。意外とああいうタイプが好みだったんだな。

 

 

 

「まあ、彼氏いるって話は聞いたことないから、ダメ元でアタックしてみろよ。責任は終えねえがな」

 

「ホントですか!! そ、それじゃあアタックしてきます!!」

 

 

 そう言って津上はPAさんのいる席へと向かった。まあ、恋愛なんてとにかくチャレンジしなきゃ始まらないから、例え砕けても骨ぐらいは拾ってやるとしよう。

 

 

 

 

 

 そうして打ち上げが始まって一時間ほどが過ぎた頃、店内ではみんなでの会話からいくつかのグループに別れるフェーズへと入った。

 

 喜多ちゃんは音弥に書いてもらったサインを持ちながら音弥と今まで出たドラマの感想や裏話について話しており、リョウちゃんは巧と一緒にベースやいろいろな音楽談義で盛り上がっていた。

 

 津上の方はまだPAさんと2人で話をしていた。共通の趣味でもあったのか、時折2人で笑いながら会話をしている様子からして、今のところはまあまあ脈ありと言えるだろう。

 

 

 

「で、こっちにいるのが余り物組って訳か」

 

「ちょっと叔父さん。余り物なんて言わないでよ」

 

「ああ、すまん。つい口に出ちまった」

 

 

 そう言ってカウンター席に移動してきたぼっちちゃんと虹夏ちゃん、それに星歌に対しそう言う。

 

 ちなみに何故ぼっちちゃんと虹夏ちゃんがカウンターに移動したかというと、音弥と喜多ちゃんによって発生した陽キャオーラによってぼっちちゃんが爆発するのを回避するため、虹夏ちゃんが避難させたためである。

 

 

 

 

「あいつ、2人で話したいとか言って私を追い出しやがって...」

 

「まあ、PAさんも趣味のことで話せる仲間が出来たのは良かったじゃねえか」

 

「そうだよ。お姉ちゃんいっつもPAさんといるし、たまには離れても良いんじゃないの?」

 

「別に好きで一緒にいる訳じゃないから。仕事の付き合いだよ」

 

 

 そう言いながら星歌と虹夏ちゃんが話す。言われてみれば星歌とPAさんは普段から良く一緒にいるようなイメージがある。まあ偶然の一致かもしれないが。

 

 

 

「それはそうとぼっちちゃん。改めて文化祭ライブ良かったぞ。音弥達も絶賛してたよ」

 

「あ、ありがとうございます。ただ、私の機材トラブルとかダイブのせいでいっぱい迷惑掛けちゃいましたけど...」

 

「そんなの関係ねえよ。むしろ弦が切れたから喜多ちゃんのアドリブのソロとボトルネックが出たし、嫌でも結束バンドの名前は覚えられただろうから、結果オーライだと思えば良いさ」

 

「リーダーのあたしとしては、なんか複雑だけどね」

 

「す、すいません虹夏ちゃん」

 

「大丈夫大丈夫。気にしないでぼっちちゃん」

 

 

 

 そう言って虹夏ちゃんは謝るぼっちちゃんを励ます。本人としては複雑かもしれないが、結果的には良い結果に終わったし、ああいうのが生のライブの良いところでもあるからな。

 

 

 

「そう言えば叔父さん。叔父さんのバンドは今どうなの? 音弥さんが忙しそうだし、なかなか練習できなさそうだけど」

 

「ああ。今のところはそれぞれ個人練習をメインでやってるな。合わせの方は12月に入るまでは出来ないから、とりあえずそこからだな」

 

「まあライブは年明けだもんねー。そこは仕方ないね」

 

「そうだな。俺も休みの日とかにギターの練習したり、動画サイトで色々と見て研究してるな」

 

「あ、あの、雄介さんってどんな人の動画を見てますか?」

 

「うーーん。まあ適当に調べて良さそうなのを見てる感じだが...ああ、最近は『ギターヒーロー』ってやつのを見てるな」

 

 

「「え?」」

 

 

「ん? どうした2人とも? そんなにビックリして」

 

「あ、いやいや。あたしもよく聞いてるからさ。叔父さんもハマるなんてやっぱり血筋だなーって思って。アハハハ」

 

「わ、私もよく聞いてるので、知ってる名前だなーって思いまして...」

 

「フーン...そうか...」

 

 

 

 どこか慌てた様子の2人を見ながら、そう呟く。何か隠しているような素振りだが、『ギターヒーロー』に関して何かあるのだろうか? 

 

 

 

 

 そうやって虹夏ちゃん達と話していると、ドリンクのお代わりに来た津上がニヤケながらカウンターにやって来た。

 

 

 

「エヘヘヘ...」

 

「よお。ずいぶん楽しそうだな津上」

 

「いやぁ。自分が今ハマってるネットゲームをPAさんもやってるらしくて、それで話が盛り上がりまして」

 

「フーン、なるほどね」

 

 

 

 デレデレとした表情で話す津上に対し、そう話す。うちのバンドで唯一の大卒で、比較的真面目なコイツがあそこまでゾッコンになるとは思わなかったな。

 

 

 

「そういえばPAさんって幾つなんだ? 聞いたことないけど」

 

「あいつ今年で24ですよ」

 

「エ!? そんな若いの!?」

 

「エ、ホントですか!?」

 

 

 

 PAさんの予想外の年齢に、俺と津上は思わず驚く。悪い意味ではなく、大人っぽい雰囲気と落ち着いた印象のために、もう少し年上だと思っていたので、普通に驚いた。

 

 

 

「店長? 勝手に人の年齢を言うなんて、失礼ですよ?」

 

「ウワッ!! いきなり後ろからしゃべるな。ビックリするだろ」

 

「フフ、すいません。でもよく言われるんですよ。大人っぽく見えるって」

 

 

 

 そう言いながらPAさんは津上の隣のカウンター席に座る。しかし、ホントに良い意味で大人っぽく見えるな。

 

 

 

「ところで津上さん。この後の予定は何かありますか?」

 

「え? あ、いや、特にはないけど...」

 

「それでしたら後で2人で飲み直しに行きませんか? 津上さんが良ければですけど」

 

「え? あ、ハイ喜んで」

 

「フフ、ありがとうございます。待ってますね」

 

 

 

 

 そう言ってPAさんは星歌と一緒にテーブル席の方に戻っていった。

 

 

 

「うわー、なんか大人なやり取り見ちゃった...」

 

「す、スゴかったですね...」

 

「...これ夢じゃないですよね?」

 

「一応現実だよ」

 

 

 

 PAさんの大人なやり取りに対し、ぼっちちゃんと虹夏ちゃんを少し赤面し、言われた本人である津上は夢ではないかと疑っていた。まあこんなとんとん拍子で進むのはあんまり無いしな。特に津上はそう言う経験あまり無いだろうし。

 

 

 

「まあ、とりあえず俺から言えるのは、一度惚れたら死んでも落とせ。それが男ってもんだ」

 

「それ、昔おやっさんが言ってたやつですよね?」

 

「あ、バレた?」

 

「そりゃもう。でも、今ので覚悟決めました」

 

「おう、やってやれ」

 

 

 そう言いながら俺は津上に小声でエールを送り、津上がそれに答えるように拳を合わせた。

 

 

 

「なんかああいうの見てると、男の人って面白いなーって思うのあたしだけ?」

 

「どう、ですかね...私は余り分からないですけど」

 

 

 

 その様子を見ていた虹夏ちゃんとぼっちちゃんは、そう言いながらグラスに入ったコーラを飲み干すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴会が始まってさらに時間が経ち、夜の9時を過ぎる頃になると、電車で帰宅に時間のかかるぼっちちゃんを皮切りに結束バンドのメンバーが帰り始めた。

 

 津上とPAさんもそのまま2人で店を後にし、店には俺と巧、そして音弥の3人がカウンターに座って残っていた。

 

 

 

「虹夏ちゃん達が帰ると、一気に静かになったな」

 

「まあ、7人も帰ったら静かになるだろうよ」

 

 

 

 虹夏ちゃん達が帰り、少し寂しくなった店内で、俺と巧がそう話す。巧の横には音弥が座り、二人で酒を飲んでいた。

 

 

「それにしても、あの子達なかなか良いバンドだな。粗削りだけど、腕が上がればもっと上に行けるかもな」

 

「へぇ、珍しい。いつも評価が辛口なお前がそんなに言うなんて。明日は槍でも降るのか?」

 

「うるせえ。俺も良いと思ったときはちゃんと誉めるさ」

 

 

 そう言いながら巧はラム酒の入ったグラスを一気に飲み干す。茶化した音弥もそれを見ながら頼んだウイスキーを飲む。

 

 

 

「まあけど、俺も良いバンドだと思ったな。特に、ひとりちゃんか。あの子は純粋にスゴく上手いな」

 

「あの子もだが喜多ちゃんも中々だな。半年であれだけ弾けるのはスゲーよ」

 

「そこはまあ、俺の教え方が良かったってことで」

 

「お? 自慢か? でも雄介、お前も教えるの上手かったもんな」

 

 

 

 そう言って俺たちは酒を飲みながら、結束バンドのライブの感想を言い合う。そういえば昔もこうやって、ライブの感想を言い合ってたな。

 

 

 

 

「ホント、俺たちには眩しすぎるくらいの、良いバンドだな...」

 

「ああ。そうだな...」

 

 

 音弥の言葉に、俺はそう呟く。1度解散してもう一度集まった俺たちには、少々眩しすぎると思ってしまう時がある。良いバンドだからこそなのかもしれないがな。

 

 

 

「今思えば、昔は雄介が先頭に立って夢に向かってみんなで走っていってたような感じだったよな」

 

「ああ。けど、ふと自分の未来を考えたとき、立ち止まって、別の夢を見始めちまったんだよな」

 

「がむしゃらに走ってたところで、冷静になってしまったってところか...」

 

「それで結局、みんなが違うところを見ていることに気づかず突っ走って、それで解散、だったからな」

 

 

 

 音弥の言葉を皮切りに、あの時のことをそれぞれ振り替える。改めて、あの頃の俺は突っ走り過ぎてたな。

 

 

 

「あの子達も、何がきっかけで今のあのバランスが崩れるか分からない。もし何かのきっかけでバランスが崩れるようなことが起これば...」

 

「その時は俺たちが助けてやるんだ。虹夏ちゃん達のバンドが、俺たちみたいにならないようにな?」

 

「...フッ、そうだな。何かあったら、あの子達は俺たちで助けてやろうぜ」

 

「...ああ、分かった。俺も少しは助けてやるよ」

 

「ありがとう。巧、音弥」

 

 

 

 そう言って俺たちは3人で再び乾杯をする。そうして、3人の夜はまた更けていくのであった。

 

 

 

 

 





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