伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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 7/9 バーの店内の描写を一部加筆しました。


1. 未知(ぼっち)との遭遇

 ──ジリリリリリリリッ!! 

 

 

 

 

 けたましい目覚まし時計のベルと朝日によって、ゆっくりと目が覚める。

 

 時計を見るともうすでに6時半だ。

 

「起きるとするかな...」

 

 そう言って布団からムクリと起き上がると、そのまま寝ぼけた頭を覚まさせるために洗面所へと向かう。

 

 

 

 これが俺──伊地知雄介の一日の始まりである。

 

 

 

 自営業で基本的に夜がメインであるため、それほど早く起きる必要はあまりないのだが、昔からのクセと体を怠けさせないために早く起きるようにしている。

 

 洗面をすませ、朝食の準備をしながらテレビのニュースを見る。

 

 朝食といっても朝はそれほど食べないのでトーストと目玉焼き、それとコーヒーくらいである。

 

 

 そうして朝食を食べ終え、テレビのニュースを聞き流しながらスマホで仕入れ先の情報や予定を確認していると、「虹夏  STARRY(スターリー)ライブ」という文字が目に入った。

 

 

「ああそうか。そう言えば今日だったな」

 

 

 俺はそう呟きながら先週の出来事を思い出す。

 

 

 ほんの一週間前、自分の年の離れた兄の子──いわば姪に当たる虹夏ちゃんがやってきたのは記憶に新しい。

 

 虹夏ちゃんは姉である星歌とともに子供の頃からの付き合いであり、正月などの親戚の行事などでは良くお年玉を渡したりしていた。

 

 高校生になった今でもこの間のように星歌に頼まれたり用事があるときなどにはうちにやってきたりもしている。

 

 

 そんな姪っ子のバンドの初ライブとなれば、それはしっかり見届けなければならない。

 

 幸い今日の予約は21時からの客が1組だけなので、開店時間を少し遅らせればライブを見に行けるだろう。

 

 

「そうと決まれば、さっさと用事を済ませるとするか」

 

 

 そう言って俺はつけっぱなしのテレビを消し、仕事場である店へと向かう。

 

 

 仕事場といっても、店のある6階建ての雑居ビルの6階に住んでいるため、3階にある店までは階段を降りてわずか5分である。

 

 

 店の鍵を開けて店内に入ると、いつもの見慣れた店内の光景が出迎えてくれた。

 

 バー特有の薄暗い店内には、先代であるマスターの頃から変わらずに飾られている往年のロックバンドのポスターやLP、レコードのジャケット、そしてこの店に来たバンドマン達の残したサインや写真が壁に飾られていた。

 

 カウンターの奥にはスコッチやバーボン、ジンにウオッカにラム酒といった多種多様な酒が棚に収まっており、その中にはバーという環境には些か不釣り合いな『鬼ころし』が我が物顔で棚に収まっている。

 

 

 そもそもWoodstock(ウッドストック)という名前もかつてアメリカで行われた伝説のロックフェスティバルから取られており、先代がそれだけロック好きだったことがイヤでも分かる。

 

 まあもっとも、自分もロックに脳を焼かれた人間ではあるが。

 

 

 席数はあまり多いとは言えず、回転式のカウンター席が6つと、大きめのテーブルにそれを囲むように置かれたソファーがあるだけで、いっぱいに詰めても20人くらいしか入れない店である。

 

 それでも少なくない数の常連もいており、バンドマンの打ち上げや宴会に良く使われている。

 

 

 そうして店内に入り清掃を手早く済ませると、食材や酒類の備蓄のチェックを行い、それが終わると不足分の酒類の発注の電話を行う。

 

 その後は食材の仕入れと前日に発注していた品物の受け取りまでを済ませると、そこからは料理の仕込みの準備に入る。

 

 その日の必要量の仕込みを終え、一息つこうと時計を見ると、時刻はすでに3時半を過ぎていた。

 

 

 普段ならばグラス磨きで時間を潰しているが、今日はライブがあるので手短にグラス磨きを終え、四時半ごろには開店時間の変更を知らせる看板と張り紙をビルの入り口前に置いたあと、その足でSTARRYへと向かう。

 

 

(しかし、ライブハウスに行くなんてのは何年振りになるかな?)

 

 目的地であるSTARRYに到着し、中に入ろうと扉に手を掛けようとしたときにふとそんなことを考える。

 

 

(バンド解散したのが俺が21の時でそこからなんやかんやで修行したり店継いだりしてだから...)

 

 

「ざっと14年かあ...」

 

 

 あまりにも経ちすぎた年月に少し目眩がしそうになるが、それをこらえて扉を開き、受付へと向かう。

 

 

「いらっしゃいませ。今日はどのバンドを──って雄介さん? なんで急に来たんです?」

 

 

 ちょうど受付を変わったところだったのか、受付席には店長であり、虹夏ちゃんと同じく姪っ子である星歌が座っていた。

 

 

「そんな言い方するなよ。先週お前さんの忘れ物取りに来た虹夏ちゃんから、良かったら来ないかって誘われたんだ」

 

「ああ、虹夏が...相変わらず虹夏には甘いですね」

 

「まあ、かわいい姪っ子だからな」

 

「わたしも同じ姪っ子なんですけど?」

 

「昔っから半分兄妹みたいな扱いされてたから、今さら変えれんよ」

 

「まあ、それは確かに」

 

 

 そんな話をしながらチケットを受け取り、そのまま代金を支払う。

 

 

 ドリンクを飲みながら演奏してる他のバンドの曲を半ば聞き流しながら待っていると、いよいよ虹夏ちゃんのバンドである結束バンドの出番となった。

 

 あまり前にいても変に気を遣うと思い、俺は奥の壁側の方に目立たないように移動した。

 

 

「はじめまして、結束バンドでーす!! 今日はみんなもたぶん知ってる曲を何曲かやるので、聞いてください!!」

 

 

 ドラムである虹夏ちゃんがMCを行う。左のベースの青髪の子がおそらく良く話に聞く山田リョウという子。そして向かって右側にいる...

 

 

「...なんだあれ?」

 

 

 謎の完熟マンゴーの段ボール。いやなんだあれはマジで。謎すぎる。

 

 いや、良く見ると少しガタガタ動いたりしているのでおそらく中に人がいる。だが配置としてはおそらくギターなのでまさかあの状態で弾くのか? 

 

 

 

 そうこうしてるうちに演奏が始まる。演奏自体はちょくちょくミスがあったりするが、とても良くできてると思う。

 

 ベースも話には聞いていたが、なかなか上手い。謎のギターは...まあ、もうちょっと頑張れといったところか。

 

 

「お聞きいただき、ありがとうございました!!結束バンドでしたーー!!」

 

 

 そうして無事に? 演奏は終わった。謎の段ボールギターも段ボールのまま器用に舞台袖の方へと歩いていた。

 

 

「どうでした? 虹夏達の演奏は?」

 

 

 ふと気づくと横に立っていた星歌から声をかけられる。

 

 

「まあ、高校生だったらあんなもんじゃないか? ただ、最初に聞いた話だとギターボーカルがいるって話だったから、あれ?っとは思ったが」

 

 

 そう言って俺は素直な感想を言う。確かにボーカルもできる子だと聞いていたので、てっきりその子が歌うと思っていたのだが、今回は演奏のみだったのは意外だった。

 

 

「ああ。何か急にそのギターがバックレたんで、大急ぎで虹夏が代わりのギターを探したらしいですよ」

 

「は?ギターが逃げた?」

 

 

 星歌の意外な言葉に思わず声が出る。それで急遽連れてこれたのが段ボールの子だったと言うことか。

 

 

「マジかあ。俺だったらふざけんなとは思うけども...まあ代わりが見つかっただけマシか」

 

 

 もし仮に自分がそんなことをされれば確実にキレるが、あの虹夏ちゃんのことだからもしその子が謝りに来たら理由次第でおそらく許すだろう。他のメンバーは知らんが。

 

 

「それじゃ、そろそろ店に戻らなきゃ行けないから、ここらでお暇させて貰うよ」

 

「虹夏のとこに顔は出さないんですか?」

 

「たぶん今ごろ反省会なり何なりやってるだろうし、他の子も知らんオッサンが来たら邪魔になるだろう? まあ、後で虹夏ちゃんによろしく伝えといてくれ」

 

「分かりました。虹夏には伝えときますよ」

 

 

 そうして俺は星歌にそう伝えながら、すっかり空になったドリンクのゴミをゴミ箱に入れ、STARRYをあとにした。

 

 

 

 STARRYを後にし、自分の店であるWoodstock(ウッドストック)に向かう途中、ふと目の前にひとりの女の子が目に入った。

 

 その子はピンク色の髪の毛にピンクのジャージを着ており、道にでも迷ったのかギターケースを背負いながら辺りをキョロキョロと見回していた。

 

 

「おーい、お嬢さん。どうしたんだこんなとこで?」

 

「ヴぇっ!!な、なんですか?」

 

「いや、あんまりキョロキョロとしてるもんだから、道に迷ったのかと思ってな。」

 

「あ、は、はい。その、ライブが終わって家に帰ろうとしたんですけど、行くときは駅から案内してくれた子に付いて来ただけでずっと下向いてたんでそれで帰り道が分からなくなってしまって...」

 

「ははあ、なるほど。駅だったらこの道を通って大通り出て道なりに行けばすぐに着くよ。」

 

「あ、ありがとうございます。助かりました。失礼します」

 

「あ、おい。ちょっと...」

 

 

 そう言うとその子は早く会話を終えたかったのか、大急ぎで走って帰っていった。

 

「行ってしまった...えらくオドオドした子だったな。大丈夫か?」

 

 

 あっという間に去ってしまった女の子の心配をしつつ、俺は店の開店時間がせまってるのを腕時計で確認すると、自分も足早に店へと向かうのだった。

 

 

 

 




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