伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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4. オーディションと審査員

 

 

 

 

 リョウちゃんがバイトとして加入してしばらく経った。あれからリョウちゃんは週一ではあるが店に来て仕込みの手伝いとグラス磨きを行っている。

 

 黙々と作業をやるのが向いているのか、グラス磨きに関しては俺より上手くなっている。仕込みの方も唐揚げ用の鶏肉を付けるタレを作ったり、つまみ用の漬け物を作ったりするくらいは出来るようになっていた。

 

 最近は作業が終わるとバンドの曲作りの作業をしたり、俺と一緒にバンドトークをしたり新メニューの味見もしたりしている。

 

 ただ、たまにバイトが無いときにふらっと来て飯を食べてそのままグラス磨きと食器洗いをするときもある。本人曰く金欠で外食する金がないらしい。

 

 そういえば虹夏ちゃんがリョウちゃんが迷惑かけてないか聞いてきたが、特に問題はないと伝えると「何かあったら私がリョウに言っとくから伝えてね」と言っていた。

 

 まあ、リョウちゃんとしても、STARRYのバイト代のほとんどがノルマ代に消えるので、自由に使える金が少しでも増えるのは良いことではあるだろうから、変なことはしないだろう。

 

 

 

 

「ライブのオーディション?」

 

「うん。結束バンドとしてSTARRYのライブに出るためのオーディション。来週の土曜日にやるんだ」

 

 

 そう言ってリョウちゃんの様子を見に来た虹夏ちゃんはカウンター席に座りながら答える。最近はリョウちゃんがバイトで来るようになったからか、虹夏ちゃんが店に来る回数が増えてきている。

 

 まあ俺としては可愛い姪っ子を見る機会が増えたので嬉しいことに変わりはないが。

 

「曲の方はリョウとぼっちちゃんで作ったオリジナル曲が出来たし、お姉ちゃんに頼めば出れると思ったんだけどなー」

 

「でも店長の言い分も分かる。身内だから出してあげるなんてやったら、他のバンドから身内贔屓してると思われるし」

 

「それはそうだけどさー」

 

「まあ、俺も星歌の立場だったら、同じことを言うだろうな。曲がりなりにもお客さんは金払って聞いてくれてるんだから、中途半端なやつは出せないしな」

 

 

 俺も店をやってる身として、客に生半可なものは出してはいけないと思ってるし、それで今も試行錯誤してるところだしな。

 

 

 

「とにかく今はそのオーディションに向けてみんなで練習してるところなんだけど、なかなかうまく行かなくてさ。ねえおじさん。何かアドバイスみたいなのあったら教えてくれない?」

 

「アドバイス、ねえ...」

 

 そう言われて俺は少しばかり考える。

 

 

「...まあ、月並みにはなるけども、練習するしかないな。もっとこうすれば良かったとかもっと頑張れば良かったって後から思わないように、100点満点どころか200点くらい取れるように練習するしかない。当たり前のことだがそれが一番大事だな」

 

「100点どころか200点...そっか。ありがとうおじさん。それじゃあ私も200点取れるように練習頑張る。またねリョウ!!」

 

「バイバイ虹夏」

 

 そう言って虹夏ちゃんは家へと帰って行った。

 

 

 

 その後、バンドの練習のために早めにリョウちゃんを帰らせた俺は、開店時間となったため店を開くが、今日に限ってなかなか客が来ない。

 

 普段も客が来ない日と言うのもたまにあるので、店に置いているテレビを見ていると、店の扉がベルとともに開いた。

 

 

「いらっしゃい。何名様で──って星歌か。今日は一人か?」

「どうも、雄介さん」

 

 そう言って星歌はいつも座っているカウンター席へと座る。

 

「ウイスキーのロック一つ」

 

「ウイスキーならトリスに角にニッカ、ジムビームにホワイトホースにマッカランと色々とあるが、何のウイスキーにするんだ?」

 

「じゃあなんでも良いからお任せで」

「はいよ。お任せね」

 

 

 そうして注文を受けた俺はカウンターの後ろの棚からジャックダニエルの瓶を取りだし、氷を入れたグラスに注ぐ。

 

 

「はいよ。ジャックダニエルのロック。俺のお気に入りだ」

 

「どうも」

 

 

 そうして星歌はカウンターに置かれたグラスを手に取り一息で飲み干した。

 

 

「ウーキッツいなやっぱり」

 

「もっとゆっくり味わったらどうだ。そんなんじゃ味なんて分からんだろ」

 

「今日は酔いたくて飲んでるんで良いんですよ」

 

 

 そう言って星歌は空になったグラスを掲げて二杯目を頼む。

 

 

「そういう飲み方しに来たってことは、なんかあったのか? 話なら聞くぞ?」

 

 

 2杯目のウイスキーをグラスに注ぎながら、俺は星歌に尋ねる。

 

 大体星歌がこういう風に飲む時は、大抵虹夏ちゃんと喧嘩したか、ライブハウスのことでなにかがあった時だ。

 

 そういう時にうちに来ると、こうしてウイスキーやらウオッカをがぶ飲みして愚痴や悩みを吐き出したりしている。今回はその日だということだろう。

 

 

「...今日、個人的に助けてやってたバンドがメンバーと揉めて解散するって言ってさ。それ聞いた時、虹夏たちのバンドもそんなことにいつかなるんじゃないかって思ったんだ」

 

 

 そう言って星歌はぽつぽつと話し出す。こういう話の時は、自然と星歌は今のような他人行儀な話し方ではなく、昔からの話し方になる。

 

 

「あの子達はそんなことにはならんだろう」

 

「それは私も思う。けど、バンドをやるってことは、今みたいに楽しいことだけじゃない。やりたいことだったり、バンドの方向性だったり、いろんなことや切っ掛けでぶつかってバラバラになるなんてことは私も山ほど見てきた。だから、虹夏達もそんな壁にぶつかるときが来るのかなと思ってさ」

 

「なるほどな...」

 

 

 注ぎ終わった二杯目のグラスをカウンターに置きながら俺は呟く。

 

「だからちゃんとオーディションやるのも、最初の試練としてどう乗り越えるかを見たいってことか」

 

「まあ、身内の私が厳しくして、バンド育ててあげても良いじゃん」

 

「そうか...じゃあお前がムチ担当なら俺はアメ担当としてそのオーディション見に行って良いか?」

 

「なんでそうなるんだよ」

 

「単純に興味さ。あの子達の、今の全力を聞きたくてな」

 

「...やっぱり姪バカだよ。あんたは」

 

「うるせえ」

 

 そう言いながらも俺はケラケラと笑う。星歌もそんな俺を見て気が楽になったのか、つられるように笑った。

 

 

 

 それから数日後、約束通りSTARRYへとやってきた俺は、星歌とPAさんとともに審査員として結束バンドのオーディションを見ることになった。

 

 予告なしで審査員としてやってきた俺に虹夏ちゃん達は驚いていたが、星歌から元バンドマンとしての目で見て貰うという言葉で納得していた。

 

 もっとも、元バンドマンということを知らなかった喜多ちゃんとひとりちゃんは驚いていたが。

 

「結束バンドです。じゃあ、''ギターと孤独と蒼い惑星(ほし)"って曲、やりまーす!!」

 

 そうしてるうちに準備が整ったのか、虹夏ちゃんが緊張した面持ちでバンド紹介と曲紹介を行う。

 

 4人がアイコンタクトをしたあと、曲の演奏が始まった。

 

 

「ふむ...」

 

 まだ荒削りだが、よく練習したのだということがよく分かる。別のバンドでもベースをやっていたリョウちゃんや長くドラムをやってきた虹夏ちゃんは別として、ギター初心者だった喜多ちゃんが拙いながらもこれだけ弾けていることに驚きは隠せない。そして何より...

 

 

(ひとりちゃんのギター、始めて聞いたときよりも全然上手いじゃないか)

 

 

 そう、ひとりちゃんのギターの腕である。始めて聞いた段ボールの時よりも、遥かに良い演奏だ。

 

 特にサビに入る前のギターから一気にバンドの空気が変わった。ひとりちゃんのギターでリズム隊の二人がひとりちゃんにノって来ていたのがとても感じた。喜多ちゃんは演奏と歌に必死で気づいていなかったようだが。

 

 

 

「「ありがとうございました」」

 

 そうしてるうちに演奏が終わり、結束バンドの面々が頭を下げる。

 さて、星歌。合格の是非は一体...? 

 

 

「...まあ、良いんじゃない?」

 

 星歌のその言葉に、4人の顔は明るくなる。

 

「と、言いたいところだけど。ドラム、肩に力入りすぎ。ギター2人、下向き過ぎ。ベースは自分の世界に入りすぎ」

 

 星歌のそれぞれのパートのダメ出しに、明るかった4人の顔が暗くなる。

 

 

「でも...お前らがどんなバンドかはわかったけどね」

 

 その言葉で、4人の顔は完全に落ち込んだ顔になった。あ、これ落ちたと思ってるな? 

 

「...アドバイス、ありがとうございました」

 

「え、なにそのリアクション?」

 

「いや、だって...」

 

「クックックック...」

 

「え?」

 

「おじさん?」

 

「フフフ...ハッハッハッハッハ!!」

 

 突然の俺の笑い声に、星歌と虹夏ちゃんは驚いたような顔で俺を見る。

 

「なんで、笑ってるの?」

 

「いやナニ、あんまり星歌が言葉足らずなもんで、つい笑っちまってな」

 

「え?」

 

「だからどんなバンドか分かったってば。ここ喜ぶとこだから」

 

「たぶん、合格って意味だと思いますよ?」

 

「「えーー!?」」

 

 

「だから、そう言ってんだろ。合格って」

 

「いや、合格のごの字も言ってなかったぞ」

 

「もーお姉ちゃん分かりにくすぎ!!」

 

 星歌の言葉に、思わず虹夏ちゃんが叫ぶ。相変わらず素直に言わねえやつだな。星歌は。

 

 

「やった~!! やったわね後藤さん!!」

 

「あ、は、はい...」

 

 オーディション合格の喜びか、喜多ちゃんがひとりちゃんに抱きつく。まあ、あの子達もこの一週間頑張ってきてたし、思いも一入(ひとしお)だよな。

 

 

「でも後藤さん。本当にすごかったわ」

 

「き...喜多さん。すいません」

 

「え、後藤さん?」

 

「ウゲーーーッ!!」

 

「後藤さーん!?」

 

 

 などと呑気に見ていたら、ひとりちゃんが盛大にゲロを吐き出した。どうやら緊張から解放された勢いで出たようである。

 

 

「す、すいません。慣れないことをしたから胃酸が大量に...」

 

「大丈夫大丈夫。そりゃ胃腸もびっくりするよ。まさかの合格だったし」

 

「私は最初から確信してた。次の曲も考えてたし」

 

「すっご~い。さすが先輩!!」

 

「まあ終わったあとならなんとでも言えるよね」

 

 

 そう言いながら虹夏ちゃん達はひとりちゃんのほうへ駆け寄り、背中をさすってやったりする。

 

 

 虹夏ちゃん達が床の掃除をしてる間、俺は星歌に声をかける。

 

「なあ星歌。気づいたか、ひとりちゃんのギター」

 

「ええ、あの子、やっぱりかなり上手い。けど明らかにチームプレーの経験不足と自信のなさで実力を発揮できてない。それが出来れば、もっと成長できると思うんですけどね」

 

「やっぱ気づいたか。あれで2割か3割しか出せてないんだから、100パーセントを聞いてみたいもんだ」

 

「目つき、怖くなってますよ」

 

「え? ほんと?」

 

 そう言われて星歌にスマホのカメラを鏡代わりに出されると、そこにはギラギラした目をした俺が写っていた。

 

 

「そんな顔した雄介さん。バンドやってたときみたいですね」

 

「たしかに。昔はこんな顔しながら対バン相手見てたわ」

 

「おいおいそんなこと...いや、言われた気がする。怖くて新人がビビるからその顔するなって言われた覚えがある」

 

「自覚無かったんですか。そこが驚きなんですけど」

 

 

 まあ、久々に腕の良い子を見つけたんで、つい昔を思い出してしまったのかもしれない。次から気を付けねば。

 

 

「そういえば星歌。さっきひとりちゃんに声かけてたけど、何て言ったんだ?」

 

「ああ。少しでも自信もって貰えるよう、自分を認めてくれてる人間がいるって意味で『お前のこと、ちゃんと見てるからな』って」

 

「...お前、その言葉だけだと悪い意味で目つけられてるって思われるぞ」

 

「あ」

 

「あ、じゃねえーよ!!」

 

 

 だからお前は言葉足らずなんだよ!! 

 

 

 

 こうして無事、結束バンドはオーディション合格となり、8月のライブに出ることが決定となった。

 

 

「あ、おじさんちょっと待って?」

 

「ん? どうした虹夏ちゃん?」

 

 

 オーディションを見届けた俺がそのまま帰ろうとしていると、虹夏ちゃんから呼び止められた。

 

 

「いやー。おじさんの口からちゃんと感想聞けてなかったから気になっちゃって。ねえ、私たちの演奏どうだった?」

 

 

 そう言って虹夏ちゃんは俺に尋ねる。

 

 

「そうだなあ。まあ、指摘事項は星歌が言ってたことがほとんどだし、改善すべき点はまだまだあるな」

 

「うう。おじさんまで辛口評価」

 

「でも...荒削りでも良い演奏だったし、結束バンドの色はしっかり出せたんじゃないか?」

 

「ほんと!? ちゃんと合格点だった!?」

 

「ああ。結束バンドの今の全力で、200点狙ってあれなら合格だ」

 

「やった~!! ありがとうおじさん!!」

 

 

 俺の口から出た合格という言葉に、虹夏ちゃんは跳び跳ねながら喜ぶ。

 

 

「あとは8月の本番まで、より腕を上げることだな。本番は店休ませてでも見に行くよ」

 

「ありがとうおじさん。私も、ううん、私たちも、もっともっと頑張るから。私の夢が叶うその時まで、がんばるから!!」

 

「おう、その意気だ。頑張れよ」

 

 

 そう言って俺と虹夏ちゃんはハイタッチをする。

 

 

 そうして、改めて虹夏ちゃん達に別れの挨拶をした俺は、STARRYを後にした。

 

「しかし、わたしの夢が叶うまで、か...俺も久しぶりに、ギターでも弾くかな」

 

 

 そう呟きながら、俺はついさっき聞いた『ギターと孤独と蒼い惑星(ほし)』を鼻唄で歌いながら、家路へと向かうのだった。

 

 

 

 




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