伊地知虹夏の叔父さん《本編完結》   作:炎のユニコーン

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6. 古い仲間と『特別』

 

 

 

 

『なあ、俺たちでバンド組もうぜ。4人で日本一のロックバンドになるんだ!!』

 

『この歌詞良いな。絶対にヒットするぞ!!』

 

『みんな聞いてくれ!! この間のライブで、事務所やってる人がうちでデビューしないかって言ってくれたんだ!!』

 

『お前ふざけるな!! 全員でデビューして、でっかくなるって言ったじゃねえか。バカヤロー!!』

 

 

 

 

 

 ────久しぶりに、昔の夢を見た。

 

「...長いこと、見てなかったんだがな」

 

 ベッドから起き上がった俺は、寝惚けた頭でそう呟く。

 

 

 昨日ぼっちちゃんがうちの店に来たとき、昔の話をしたから、久しぶりに見たのだろうか? 

 

 

「まあいっか。今日は休みだしゆっくりするとするか」

 

 今日は店の定休日である月曜日だ。今日はとにかく寝まくって日頃の疲れをリセットすることにしよう。そう思った俺は二度寝に移ろうとベットに横になる。その時、部屋の隅に置いてある、ついこの間クローゼットの奥から引っ張り出したギターが目に入った。

 

 

「・・・・」

 

 ふと目に入ったギターを手に取ろうと、俺はベッドから起き上がり、そのままギターを手に取る。

 

 俺の使っていたのはレスポール・スタンダードで、学生時代バイトしまくってどうにか買うことの出来た一品であるが、10年以上放ったらかしにしていたためか、至るところが錆び付き、アンプに繋げても音がでなくなっていた。

 

アイツ(・・・)のとこに修理に出すかな...」

 

 そう決めた俺はレスポールをギターケースに入れ、外出の準備をするのだった。

 

 

 

 

 その日の昼過ぎ、ギターケースを背負った俺は新宿FOLTのすぐ近くにある一軒の小さな楽器店に入っていった。

 

 

「よお津上。こいつの修理頼めるか?」

 

 

 そう言って店の奥に座る店主に声をかける。

 

 

「あれ? 雄介さん。ギターの修理なんて珍しいですね。どうしたんですか?」

 

 

 俺の声に気づいた店主である津上利樹(としき)が店の奥からやってくる。

 

 この津上はかつてのバンドメンバーで、現在はこの楽器店でギターなどの楽器の修理や販売を行っている。

 

 

「ああ。久しぶりに引っ張り出したんだが、アンプに繋いでも音が鳴らなくてな。ちょっと見てくれないか?」

 

「ええ、良いですよ。少し見せてください」

 

 

 そう言って津上はギターを受けとり、細部の確認を行う。

 

 

「あーこれはたぶん中の配線がダメになってるかもですね。他にも錆びだったりだいぶガタが来てる所もあるんで、修理ならしばらく日数かかりますね」

 

「ああ。時間かかっても良いから、しっかり直してくれ」

 

「分かりました。それじゃあ預からせて頂きますね」

 

 

 そう言いながら津上はギターを奥へと運ぶ。

 

 

「そう言えばこの間、廣井ちゃんが来ましたよ」

 

「ん、廣井が何かしたのか?」

 

「いや、ベースのメンテのために来たんですけど、その時に『久しぶりに将来が楽しみな子が出てきた』って言ってたんですよ」

 

「ヘエ、廣井がねえ...」

 

 まあ、廣井もこの世界に入って長いし、見る目もだいぶ肥えてる。だいぶ前に言ってた大槻ヨヨコという子のバンドもかなりの実力だったので、その子もなかなかの才能なのだろう。

 

 

「確か、ひとりちゃんだったか、ぼっちちゃんって言ってましたね」

 

「ん? 何だって?」

 

 突然の聞き覚えのある名前に、思わず聞き返す。

 

「あれ、知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も、その子俺の姪っ子のバンドのギターだよ。その子と廣井がどう繋がったんだ?」

 

「なんでも金沢八景の方で倒れてたら介抱してくれて、そのお礼でその子のチケット売るために路上ライブしたらしいですよ」

 

「あのバカが...高校生のお世話になるなよ...」

 

 

 津上の説明に思わず頭を抱える。大の大人が何をやってるんだ。

 

 

「でも、何で急にギター引っ張り出したんです? あれ以来もう辞めたとばっかり思ってたんですけど」

 

「...まあ、若い力に触発されたというか、何というかな...」

 

「ハハハ。自分が年寄りみたいな言い方しないでくださいよ」

 

「うるせえ、お前も俺と1つしか年変わらねえくせに」

 

「まあ、そうですけどね」

 

 そんなことを言いながら、俺は津上と久しぶりの会話を楽しむ。

 

 

 

 

 

「やっほ~津上さ~ん。ベースのメンテ終わった~?」

 

 そうして二人で話していると、ついさっき話題に上がった廣井きくりが現れた。

 

 

「おお。噂をすればやってきた」

 

「あ、ほんとですね」

 

「え~なになに? わたしの天才っぷりをマスターと津上さんで話してた? いや~照れるねえ~」

 

「ああ。金沢八景で酔いつぶれて女子高生に介抱されたっていうダメエピソードを津上から聞いたところだ」

 

「え!! 津上さんマスターには言わないでよ~。またダメ人間って思われちゃうから~」

 

「いや~廣井ちゃんのダメっぷりはみんな知ってるから今さら取り繕っても...」

 

「もーそんなこと言わないでよ~!!」

 

 

 俺と津上のあまりの言いように、廣井は思わず泣きつく。まあダメ人間だと言う点はこの辺りの音楽やってる人間はみんな知ってるので、誰も否定しないが。

 

 

「そういえば廣井。お前さんぼっちちゃんに会ったらしいな」

 

「あれ? マスターぼっちちゃんのこと知ってるの?」

 

「そりゃあうちの姪っ子のバンドのギターだからな。知ってるよ」

 

「な~んだ。わたしが最初に見つけたと思ったのに。ていうかマスターの姪ってことは、先輩の妹ちゃんのバンドってこと? だからスターリーでやるのか~」

 

 そう言いながら廣井は色々と合点がついた顔をしながら呟く。

 

 

「ところでマスターは何でここに? ギターは辞めたんじゃないんですか?」

 

「ああ。久しぶりにギター出したら音がでなくて、それで修理をな」

 

「ヘエー久しぶりに。またギター弾くんですか?」

 

「...まあ趣味程度にな」

 

「もったいないな~。マスターのギターめちゃくちゃかっこ良かったのに。津上さんもドラムめっちゃうまくてもう一回聞きたいくらいですよ」

 

「僕らはもう、ね...」

 

「まあ、なぁ...」

 

 廣井の言葉に、津上と俺は黙り込む。

 

 

「あ...何かすいません。昔を思い出させちゃったみたいで」

 

「いや、良いよ良いよ。気にしないでくれ」

 

「そうだよ廣井ちゃん。君は気にしなくて良いから。あ、そうだ。ベースのメンテ終わってるから、ちょっと取ってくるね」

 

 そう言いながら津上は廣井のベースを取りに店の奥へと向かう。

 

 

「と、ところでマスターは妹ちゃんのライブ見に行くんですか?」

 

 場の空気を変えようと思ったのか、廣井が俺に対しそんなことを聞く。

 

「当たり前だろ。もう虹夏ちゃんからチケット買ったよ」

 

「やっぱ行くんですね~。まああと一ヶ月ありますし、ぼっちちゃんも腕上げてステージに立つでしょうねぇ」

 

「まあ、そりゃそうだろう」

 

 そう言って廣井と話していると、店の奥から廣井のベースを持った津上が戻ってきた。

 

 

「はい廣井ちゃんお待たせ。おまちかねのスーパーウルトラ酒呑童子EXだよ」

 

「なんだその名前?」

 

「わたしのベースの名前。かっこいいでしょ~」

 

「そ、そうか...」

 

 廣井のベースの名前に何とも言えない顔をしていると、廣井はそのままギターケースに入ったベースを背中に背負う。

 

 

「それじゃあ津上さん、マスター、またね~。マスターは今度お店行くから!!」

 

「おう、その時はツケじゃなくてちゃんと自分で払えよ」

 

 そう言って俺は店を去る廣井に対しそう言う。

 

 

「じゃあ俺もそろそろ帰るわ。津上、俺のギターよろしくな」

 

「任せてくださいよ。新品同然ってくらいにピカピカにしときますから」

 

「ああ、頼むぜ」

 

 そう言って俺は店を後にする。これでとりあえずギターの用は済んだので、このままメシを食って帰るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 津上の店を後にし、せっかくなので久しぶりに渋谷とか原宿を見てみようと思い、電車に乗って渋谷へと向かう。

 

 

「あ、雄介さん。お久しぶりです!!」

 

 渋谷駅に降り、駅の外に出ると、後ろから急に女の子から声をかけられた。

 

「おお喜多ちゃんか。今日は1人でお出掛けか?」

 

「はい。イソスタで人気のカフェに行って来たんですよ」

 

 声をかけて来たのは喜多ちゃんだった。どうやらカフェ巡りのために渋谷に来ていたようである。

 

 

「せっかくなので一緒にお茶しませんか? すぐそこにパンケーキの美味しいお店があるんです」

 

「大丈夫か? 俺みたいなおっさんが行っても」

 

「大丈夫ですよ!! 落ち着いたお店なので雄介さんもきっと気に入ると思います」

 

「あ、おい喜多ちゃん待てって」

 

 そう言いながら喜多ちゃんはやたらキラキラしたオーラを出しながらお店に向かおうとする。

 

 俺は喜多ちゃんを追いかける形でそのまま後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 喜多ちゃんとばったり渋谷駅前で出会った俺は、そのまま喜多ちゃんと共に一件のカフェへと入った。

 

 そのカフェは内装は昔ながらのカフェだが、店の名物であるパンケーキが若者に人気らしく、店内は若い女性客で賑わっていた。

 

 喜多ちゃんはそのままクリームたっぷりのイチゴパンケーキを注文し、俺は少し遅めの昼食としてサンドイッチとコーヒーを頼んだ。

 

 ていうかこれ絵面として大丈夫? 援助交際とか思われないよな? 

 

 

「雄介さんどうされました? もしかして、急に誘ったんで怒ってますか?」

 

 

 少しばかり表情の固い俺を見てか、喜多ちゃんは心配そうにそうたずねる。

 

 

「いや、俺みたいなおっさんと一緒にいて、喜多ちゃんが変な誤解をされないかちょっと心配なだけだよ」

 

「なんだそんなことだったんですね。大丈夫ですよ。雄介さんパッと見は親戚の人みたいに見えますよ」

 

「そうか。なら良いんだがな」

 

 

 そう言いながら俺は先に来たコーヒーを一口飲む。

 

 

「だが、何でわざわざ俺と入ったんだ? 別に1人で入っても良かっただろうに」

 

「えっと、実は少し相談したいことがありまして」

 

「相談したいこと?」

 

「はい。来月のライブについてなんですけど...」

 

 

 そう言って喜多ちゃんは飲んでいたカフェオレのカップを置いて、話を始めた。

 

 

「私、リョウ先輩や伊地知先輩みたいに楽器経験も長くないですし、後藤さんみたいにギターもまだまだで。そんな私が、ライブをやり切れるか心配になってきてしまって。それで、元バンドマンだっていう雄介さんなら何か良いアドバイスをくれないかと思ったんです」

 

「ふむ。なるほどなるほど」

 

 

 俺はその話を聞きながらコーヒーを飲む。ちょうどそのタイミングでパンケーキとサンドイッチがやってきた。

 

 

「俺としては、あのオーディションの時みたいな感じでやれば、十分だと思うぞ? ギターも歌も、はじめてとしては十分及第点だ。ビビらず胸張って歌えばどうにかなるさ」

 

「ビビらず胸を張って、ですか...ありがとうございます。少しだけですけど、気持ちが楽になりました。あ、パンケーキの写真取っても良いですか?」

 

「ああ、イソスタ用か。良いよ良いよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 そう言って喜多ちゃんはスマホでパンケーキの撮影を開始した。俺はそういうアプリはやってないから分からないが、どういうところが楽しいのだろうか? 

 

 

「そもそも、喜多ちゃんは何でバンドに入ろうと思ったんだ? リョウちゃんに憧れて入ったとは聞いたが、他に何か理由があるんじゃないか?」

 

「...私、昔から何でもそれなりにできるタイプで、何か特別なものっていうのに憧れてたんです。そんなときに、リョウ先輩の路上ライブを見て、バンドをやりたいと思ったんです」

 

「...ある意味、贅沢な悩みだな」

 

「贅沢、ですか?」

 

 

「子供の頃はさ、何かヒーローになりたいとか、スーパースターになりたいみたいな『特別なナニか』にみんななろうとする。でも、そのほとんどの人間が『特別』になれずに終わる。自分はこれしかないって思ってその道を突き進んで、木っ端微塵に夢破れるなんてのも多々あることだ」

 

「じゃあ、『特別なナニか』なんて目指さない方がいいって言いたいんですか?」

 

 

 喜多ちゃんは俺の言葉に、どこかムッとした顔でそう聞く。

 

「そういう意味じゃない。無理に『特別なナニか』にならなくていいって言いたいんだ」

 

 

「世の中のサラリーマンとか会社員は、みんな同じような人生に見えても、その中身は少しずつ違う。さっき言った夢破れた人間もその中にいるだろう。そうやって酸いも甘いも痛みも味わって、始めて『自分』という特別なモノになるんだ」

 

「『自分』という特別なモノ...」

 

 

 そう言って喜多ちゃんは俺の言った言葉を反芻する。

 

 

「分かるか? 喜多ちゃんは喜多ちゃんという自分にしかなれない。俺も、リョウちゃんも、虹夏ちゃんも、ぼっちちゃんだって他人にはなれない。だから今は、無理に焦らず『自分』っていうものを作っていきな」

 

「...ありがとうございます。私、心のどこかで焦ってたのかもしれません。雄介さんのお陰で気づきました」

 

「そんな大真面目に聞かなくて良いよ。おっさんの戯言だと思ってくれ」

 

 

 そう言いながら俺はサンドイッチにかぶりつく。俺も昔は半ば生き急ぐようにバンド活動に突き進んで失敗したから、喜多ちゃんは焦らず自分の道を探して欲しいな。

 

 

 

「ところで雄介さん、自分のことおっさんとかおじさんだからって言いますけど、私は全然おじさんだとか思わないですよ。むしろ雄介さんのこと、頼りになる大人だと思ってますから」

 

 

 そう言うと喜多ちゃんの背後から『キターン』という効果音と共に、眩い光が出てきたように感じた。

 

 

「グァッ!! め、目が...眩しい...」

 

「え!? 雄介さん? どうしました? 大丈夫ですか!?」

 

 

 俺はその若さと純粋な心の光を直で浴びたせいか、しばらく目を開けることができなかったのであった。

 

 

 

 

 




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