【ERROR】拡張兵器:オリバース【MESSAGE】 作:王者スライム
──人間が出せる能力の限界を知りたい、そんなことを考えた科学者が居た。
精神、人体、と人間の持つ機能をあらゆる手段を用いて最大限まで拡張し、全ての部門で活躍できる才能を後天的に与える。
そんな、完璧な人間を作り出すなどの大層な目的ではなく、単なる個人の興味で推し進められた実験。結果から言えばその実験は大成功を納めた──
まあ、被験者の数が少なかったことや、この実験で発生した超能力も差程たいした力ではなかったこと。そんな理由もあって、超能力が暴れまわるだとか超能力が暴走するなんてありがちな事件も起きなかった訳で。
超能力というものは人類からたいして恐れられずに、むしろ更なる人類の発展を期待されるような物として扱われるようになった。
一人の科学者の趣味で始まった計画は国が一推す特大プロジェクトとなり、小規模だった研究所も誰もが知る日本トップの特大研究所に。
それからすぐに
全国から被験者を集めるために、唯一超能力を使える高専という名目で高等専門学校が作られ、その学校に付属する街も作られた。
そんなことが立て続けに起きたのが二〇二八年。技術革新まではいかなくとも、それに近づく大きな一歩だと世界で報道されたのを思い出す。
……とまあ、
そんな大きな一歩から五年は経った二〇三三年。日本の四国山脈のとある一帯に聳え立つ拡張技術学高等専門学校。その北校舎三階の生徒会室。
話は、私のちょっとした文句から始まる。
「ああ」「まったく君ときたら」「……」「随分と厄介な案件を」「持ってきたもんだねぇ」「……」
「見つかってしまったんだから仕方ないでしょう。で、どうしますか。生徒会としておいそれ見逃していい案件でもないでしょうに」
「そうだねぇ」「……」
そんな適当な相槌を打って、私は机の上に置かれた物に目を向ける。
それは手のひらサイズの黒い正八面体を象った物だった。触れてみると頑丈という訳ではないらしく、少し力を入れるだけで形が歪む。少し振ってみると、中に何かがあるものの固定されているのか、カサカサと音を鳴らした。
まあ、そんな風に軽く弄り終えた所で、溜め息をつきながら私は呟く。
「
「少なくとも超能力を安定して使える様にするという点は満たしているようです。ですが、失敗作らしく出力はかなり抑えめなのでこれだけならば厄介事にはならないでしょうね」
「『これだけならば』」「ねぇ」「……」「それってさぁ」「つまりはこれだけじゃない」「ってことだろう?」「そもそも失敗作なんて」「わざとらしく言ってたしなぁ」「……」
「ええ、御明察の通りです」
「『御明察の通りです』」「じゃなーい!!」
そう私は大袈裟に(とは言っても椅子に座っているので転けない程度に)大きく手を振ったりして暴れる。ただ、反応が一切なかったので、少し間を空けてからわざとらしく咳をついて、直接文句を言うことにした。
「あのなぁ!?」「私が何のために委員会を一つ増やして」「生徒を一人一人見極め、委員長に優秀な人材を取り揃えて」「更には各委員会に生徒会の権限を分け与えた」「と思ってるんだ!?」
「各委員会と生徒会の余計な摩擦を失くし、各々の仕事を円滑にするためでしょう?」
「ああ正解だ」「……」「だがな、それには裏の意味もあるんだよ」「そこにこそ私の真意が──」
「サボりたいとかどうでも良いので、話を戻してください」
「──、ふっ」「ここまで蔑ろにされると」「むしろ清々しくなるな」
片や生徒会長であり赤髪美少女。片やそれに仕える副会長兼書記兼会計兼世話焼きの幼馴染み。それなのにここまで酷く扱われているのはどこで道を間違えてしまったからなのだろうか。
数秒程その疑問に思考を割いてから考えても仕方ない、と意識を切り替える。なんにせよ今は目の前の問題の方が優先度は高い。何しろ、
「……」「
「ええ。今頃は治安維持活動委員会の元、適切な処罰を受けているでしょうが」
「あー」「やれやれ」「いったいどこのバカが」「手渡したんだか」
就職または進学に失敗した、家に帰りたくない、この街に住み慣れた──そんな様々な理由から卒業後も学生街に不当に居座る元生徒たちを指す言葉だ。
では、この学校はそんな卒業生たちが居座れる程寛容なのか、と聞かれるとそんなことも無いわけで。
学生寮から追い出されるのは勿論のこと、テストや実験実績などによる学校からの手当ても出ない。学校や学生街でたびたび使い所のある学生証だって期限切れでちょっと固いプラスチックの板に成り下がる。
じゃあ、衣食住の衣食を手に入れるためのお金と住を失った卒業生はどうするのかと言うと──
簡単に言えば不良を通りすぎた普通の犯罪者。現在も五百人程度は居ると言われ、風紀委員会や治安維持活動委員会によって指名手配されている、そんな奴ら。
幸い、どんなに強い超能力を持っていたとしても、生徒全員に配られている
まあそんな風に言ってしまえば、雑魚という訳なのだが──それでも未だ五百人は存在している。
そんな奴らが再び超能力を使えるようになってしまえばこの学校はどうなってしまうのか。そんなものは最早
「……」「取り敢えず解決に動こう」「
「分かりました。会長はどうしますか?」
「私は正直言ってサボりたいが」「……」「そういう訳にもいかないだろう」「私は
「会長こそ、何か分かったら連絡してくださいよ」
「分かってる分かってる」「では、よろしく頼むぞ」
「はい」、と短い返事だけを残して
溜め息をついて嫌々と非正規品の
「はぁ」「……」「
『拡張兵器:オリバース』という作品がある。
西暦二〇十六年にちょっとしたブームを巻き起こした、霧島文庫で刊行された全十五巻のライトノベルだ。
発展途上とは言え超能力が実現された世界。熱く、そして先の読めないバトル。魅力溢れる個性的なキャラクター達──と言っても、読んでいない人には伝わらないので実績だけを簡単にまとめるとだ。
初巻発売から五年連続で売れ行きランキングで一位。最終話まで無事アニメ化し、映画化は二回もされた。あと何故かコミカライズが四種類もある──と、それ程までに流行っていた作品。
そんな作品の世界に私は転生した。しかも、
まあ、最初はめちゃくちゃ悩んだのだ。『原作』通りに拡張技術学高等専門学校に行けば間違いなく事件には巻き込まれる(というかこちらから関わることになる)。それはどう考えてもめんどくさい。
だが、『原作』の舞台に行ってみたいという気持ちやあのキャラ達にも会ってみたいというは当然あった。そんな行きたい気持ちと行きたくない気持ちを天秤に比べ──最終的に「『原作』の知識使って事件もさっさと解決すれば簡単じゃん。私、天才か……!?」という結論を導いて、私は無事に拡張技術学高等専門学校へと入学したのだ。
……まあ、認識が甘かっただろう。私は
もしも、その可能性に気づいてさえ居れば私もう少し考えて別の結論を導いていただろうに──
──何故なら、拡張技術学高等専門学校の全校生徒二千百二十五人。そして、