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三峰結華の突然の行動により283プロのアイドルたちの間には緊張感が漂った。凛世の告白の時は行動をするだけで積極性に欠けていた。
しかし今回の告白は恋をするアイドルたちのケツに火をつけた。
――と言っても、だ。
「どうすればいいのかしら……」
283プロのアイドル寮。食卓を囲んでアイドルたちが集結し作戦会議。頭を抱えた千雪が誰にも答えられない質問をしてしまった。この数十分で変化したのはマグカップの飲み物の量だけである。
「どうすればよかか、何も思いつかん……」
机の縁をこすって精神統一を執り行う恋鐘を見ながら、その場にいた者が全員でため息を行った。
「……で、なんでアタシまで駆り出されているんだ?」
「相談役……みたいな?寮組の中で唯一プロデューサーに恋してないから」
透の言葉に樹里は大きなため息をついた。今は寮以外のメンバーも訪れており、彼女たちの切羽詰まり感が明白だ。
「で、どうするー?三峰のあの告白以降、誰が先に告白するかで牽制しあって何にも進まないんですけどー」
摩美々が突っ伏しながらも不満を言う。
あの日以降、彼女も彼女なりに何度かアプローチしていたのだがプロデューサーの態度があの日以降硬化してしまったのだ。恋鐘たちの弁当も受け取らなくなり「胃袋をつかむ」ができなくなったというのも問題である。
「いっそのこと、全員で告白するっていうのはどうかな?プロデューサーに恋愛感情を抱いている人全員で囲って、一度に」
「――それ、下手すれば事務所崩壊しないかな……」
咲耶の提案を千雪が否定する――ように見せかけて単純に弱腰になっているだけだ。
「その点凛世ちゃんは――あー……すごいよね。抜け駆けしちゃってるからさ」
「それは……まぁ……」
言葉を選んで、しかし結局トゲが取れなかった透の言葉に凛世は視線を横に流す。
凛世のアプローチは自身の告白以降まったく進んでいないに等しかった。自分が最初に告白をしたのだ、という事実に甘えてしまったことが原因である。現在の態度が硬化した彼を崩せるほど攻撃力の高いアプローチを凛世は保有していない。
「えー、どうするー……!?このままじゃ、プロデューサーさんのこと告白もできずに逃げられちゃうよ……」
「甘奈ー、これから『どうする』を禁止ねー。みんなが思っていることだしそのための会議だから」
摩美々の手厳しい言葉にみんながため息をする。全員が「どうする」と思っており、それをつぶやくことで議論した気になりたがっているのだ。
「しょんなかねー、じゃあ――」
「恋鐘ー、料理することで自分だけ議論から逃げること禁止ー」
「ふえっ」
議論から逃げようとした恋鐘を摩美々が引き留め、悲鳴をあげた。
そんな彼女たちの様子を見て「議会は踊る、されど進まず」という言葉を思い出しながら透はいかに自分が告白すれば成功するかを思索した。
*
八宮めぐるの自宅ではそろそろ3桁に届こうともなるイルミネお泊り会が行われていた。
彼女たちもアイドルとはいえ普通の女の子。事務所を取り巻くプロデューサーの恋愛模様がもっぱらの会話の種である。
「そういえばさ、真乃と灯織はプロデューサーのこと好き?」
いきなり突っ込まれた質問をされた2人は目を白黒させる。特に灯織なんかは盛大にむせてしまっている。
「灯織ちゃん、大丈夫!?」
「――っ、――っ、だいっ……じょうぶ……」
何度か咳き込みようやく落ち着くと灯織は恨みが少しこもった目でめぐるを見る。
「脅かさないでよ。急にそんなこと言うとビックリする」
灯織は大きく息を整えるとコップの水を飲んだ。
「灯織、急に驚くもんなんだね。もしかして……」
「めぐる、変な勘繰りはやめて。私はプロデューサーに恋愛感情なんて抱いていないから」
灯織はため息をつくとテレビの様子を面白くなさそうに見つめた。しかしテレビがコマーシャルから短尺の料理番組に変わると表情を一変させた。
「これ……」
「どうしたの、灯織ちゃん?」
「この料理、プロデューサー好きそうだなって――なに、めぐる?」
「いや……」
言葉を選ぶために言いよどみ、結局めぐるは率直に自分の意見を言うことにした。
「灯織ってさ、プロデューサーのために弁当作ったりしてるよね。それに一緒に買い物行ったりとか……。それってさ、最早通い妻って奴じゃないのかな?」
「それは……………」
とっさに否定しようとした灯織だがこれまでプロデューサーにしてきたこと、そして何よりプロデューサーとのやり取りがそれを邪魔する。
「確かに灯織ちゃんって私たちのことも大切にしてくれているけど、プロデューサーさんと一緒にいるときはかなり打ち解けているというか……安心して話しているというか……」
「ま、真乃まで……!」
同調し始めた真乃に灯織が思わず抗議の声を上げる。
話を振ってきためぐるは灯織をからかいもせずに、むしろ慰めるように言った。
「でもそれってさ……不味いよね。今の状況的にさ」
「めぐる……そもそも私はプロデューサーに恋愛感情を抱いてないから」
なおも否定する灯織を真乃とめぐるはじっ……と、見つめる。
「な、なによ、二人とも」
「だってねー」
「うん……これまでだったら灯織ちゃんに自覚が出るまで待つところなんだけど、今の事務所の状況は待てるほどじゃないから……」
「えっ」
彼女たちの様子から本気であることを察した灯織は気まずそうに視線をそらした。
「その、大丈夫だから。というか何でそんなに私に恋愛感情があるかどうかが気になるの?」
「そりゃあ……ねぇ?」
めぐるの様子から出刃亀4割心配6割だと察した灯織は「もう……」とため息をつく。
「灯織ちゃん、私たちはね、灯織ちゃんの――プロデューサーさんへの好意が不幸な結果にしたくないの。だから……」
「その、大丈夫だから!」
灯織の照れながらの発言に2人は黙る。2人の中にも言い過ぎたという思いが少しあったのだろう、彼女たちの眼に少しだけ後悔が混ざる。
「私は大丈夫だから。――自分の好意を恋だと決めることはできないけど、私はプロデューサーの重荷ではなく一瞬の宿り木になればいいと思ってるから。だから……別に私は自分の好意が報われれば良いとは思ってないから」
その言葉を聞き終えた真乃とめぐるは目を見合わせると胸やけをしたような顔で灯織を見た。
「そう言うなら私は何もしないけど……知らないよー」
その言葉に灯織はきょとんとした顔でめぐるを見つめた。
灯織が自身の恋心に気づくのは数年後になる。