葛の恋   作:勉強サボ浪

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みんなー! Pカップやってるー?
あんなもんやるもんじゃねぇよ。


ハニートースト

 目が覚めると、見たことがある天井だった。誰だって鏡がある天井は忘れにくいだろう。

 

「起きました~?」

 

 隣に視線を向けると下着を身に着けたはづきがいた。色気のない、簡素な下着だった。

 そういえば昨日は――アイドルからの好意の正体に気づいて、自分の精神性の正体に気づいて、そのまま慰められるような形でセックスをしたんだった。

 ポーン、とチャイムが鳴る。彼女は特に急ぎもせずにバスローブを着るとゆっくり玄関へと向かい、料理を取って戻ってきた。器用に片手に盆を一つずつ持って運んでいる。昔やっていたアルバイトで飲食もやっていたのだろうか。

 

「まぁ、色々ありましたけどまずはご飯にしましょう~。勝手に頼んじゃいましたけど」

 

 と、彼女はソファの前にあった机に料理を並べた。

 

「あ、あの――先、顔洗ってきます」

 

 はい~、と昨日の出来事がまるでなかったかのように彼女は洗面台に向かう彼を送り出した。

 昨日は何があった?

 水で顔を濯ぎながら彼は記憶を反芻する。

 確か昨日は――理想が云々あって、はづきにとっての理想じゃないと言われて、それでも好きだと……

 頭を抱える。自分の理想とか云々言うなんて、高校生じゃあるまいし……それに結構ひどい言葉で非難されたし……。

 でも、久しぶりに肩の荷が下りた気がする。

 顔を拭き、バスローブを着て部屋に戻る。

 

「……和定食なんてあるんですね」

 

 はづきが頼んだのは鮭と味噌汁に卵焼きなどが並んだ絵にかいたような和定食と、ホイップと巨大なバニラアイスが上に載ってあるおとぎ話に出てくるようなハニートーストだった。

 

「朝食限定メニューらしいですよ~」

 

 そういえば幾度もこのホテルは利用してきたが宿泊ではなく休憩ばかり利用していたため朝にホテルにいるという状況が珍しかった。

 はづきの隣に座る。相変わらず狭いソファだった。恋人用だから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが……。

 

「どちらを食べますか~?」

「さすがに朝からハニートーストはきついですよ……和定食で」

 

 一応はづきはどちらが良いか聞いたが明らかにハニートーストははづき自身で食べるために頼んだものだろう。「余ったらあげますね~」と言っているあたり明らかに食べきれなくなったら押し付けるつもりだ。

 ご飯と鮭の組み合わせはひどく凡庸で安心できる味だった。

 肩を寄せ合ってもそもそと食べていると、ふと少し気になった。

 

「どうしてハニートースト頼んだんですか?」

「え? それは……食べたかったからですよ~」

 

 急にそんなことを尋ねられたはづきは少し戸惑う。

 

「昔同じもの頼んだ時『あまりにも甘ったるすぎて途中で飽きる』って言ってませんでしたっけ?」

「そんなこと――」

 

 その言葉に彼女も少し覚えがあったのか、目線をそらす。

 少し悩んで彼女は一つ深呼吸。そして言った。

 

「もうこのホテルに来ることは無いかな~って思って、頼んだんです」

 

 その言葉に彼は静かに訊く。

 

「それは……セフレの関係を終わらせたいと?」

「はい。――最初のきっかけこそただの性欲だったんですけど、どんどんあなたの……私を肯定してくれて、そして昨日はあんなひどいことを言って……。だから、関係を解消したほうがいいと思って」

「そう、ですか」

 

 その言葉に彼は息を吐いた。

 

「その、嫌でしたもんね! 前々からセックスに誘うときはかなり嫌そうな顔をされてましたから……」

「まぁ嫌というか……あんまりそういうことを恋人以外でやらないほうがいいんじゃないかと思ってたので……」

 

 でも快楽には逆らえずになんだかんだ関係を続けてましたけど、と言って彼は味噌汁を飲む。インスタント特有の塩っ辛さが舌に残る。

 

「それに、昨日ははづきさんの言い分は正しいと思いますから」

「……え~?」

 

 彼の言葉にはづきは困惑の声を上げたが彼の言葉は終わらない。

 

「実際俺はいろんな人に理想を求められるがゆえにみんなを下に見ていた。でも……はづきさんの言葉で目が覚めました。もう誰かの理想を気にして生きることは止めようと思います」

 

 その言葉にはづきは……ひどく安心して泣いてしまった。

 

「は、はづきさん!?」

「いえ、その、安心しちゃって……ごめんなさい。こんなお世辞に安心してしまうなんて――」

「お世辞なんかじゃありません。本当にはづきさんには感謝しています」

「そう、ですか……っ」

 

 はづきは嘆息する。

 

「よかった……! あなたに嫌われたら――」

 

 ここではづきは息づきをして、かぶりを振って言葉を止める。

 昨日の傷心中に付け込んだ告白ははづき自身でも反省している。

まるで自身の恋が叶わないからって、彼の心に寄生するために告白するなんてあまりにも自己破滅的で自分勝手だ。

下手にあの日の告白の言葉を想起させては――

 

「昨日の告白、ですが」

「えっ……え!?」

 

 と彼がそんなこと言ったため、いかに昨日の告白をなかったことにするかを考えていたはづきは驚きの声を出した。

 

「しましたよね?」

「え……あぁ、はい! 昨日のあなたの恋愛恐怖症の――」

「いやそちらでは無く……はづきさんが私に恋愛感情を抱いているということです」

「っ!」

 

 話を強引に変えようと考えたが、彼の言葉により逃げることはできなかった。

 

「はい……告白しました……。あなたの傷心中であることに甘えて告白しました……」

 

 すみません……、とはづきはナイフとフォークを置いて謝ったが彼の言葉は意外なものだった。

 

「――こんな私ですが、よろしくお願いします」

「えっ……えぇ!?」

 

 その予想外の言葉にはづきは大きく驚いた。

 

「どうされましたか?」

「いや恋愛恐怖症であることを知っていたので……大丈夫なのかな、と」

 

 その言葉に彼は笑顔で頷いた。

 

「はい。……前々から私はこの――自分のトラウマを解決させたかったし、でも他の人はずっと自分に理想を押し付けてくると思い込んでいたので。……でもはづきさんは俺の良くないところと甘いところ、それでも好きだって告白してくれた。だから――受けようかな、と」

「いや、でも……」

 

 理由を言っても躊躇うはづきに彼は宙を漂う彼女の手を握って言った。

 

「はづきさん」

「は、はい」

「昔、はづきさん俺を誘うときに言いましたよね。自分の醜さや良くないところをはづきさんが測ってくれると」

「え、えっと」

 

 確かに記憶がある。4月か5月だったか……二回目の誘惑の時に確か――

 

「俺は、俺自身の良くないところをきちんと言ってくれたはづきさんを……プロデューサーではない俺を認めてくれたはづきさんを恋人にしたいです」

「………っ」

 

 泣く。泣いてしまう。こんなに涙が流れるのはいつぶりだろうか。

 彼の甘さに甘えて、弱いところに塩を塗って、そしてアイドルや――友人の恋を裏切って。そんな私を恋人にしたいと、私の恋を認める彼の存在がとてつもなく嬉しい。

 

「あ、あの……私っ……! 良いんですかっ……私は、アイドルの皆さんがあなたに恋をしていることを知っててなおあなたに肉体関係を迫って――こんなの、フェアじゃ……」

 

 最後のあたりでは感情がもつれて言葉が出なくなったはづきを彼は抱きしめた。

 ――バスローブの柔らかさと彼の胸板の堅さ、彼の心臓の音が私を落ち着かせる。

 

「良いんですよ、俺はあなたを選んだんですから……」

 

 ――私を落ち着けるその言葉が、さらに私を肯定し、私の人間性を奈落に落とした。

 

 

 ひとしきり泣いた後ハニートーストはアイスが溶けてべちゃべちゃになっていた。

 

「はい、あーん」

「………」

 

 和定食を食べ終えた彼は切り分けられてバニラ液体を滴り落ちるトーストの切片を見て、かなり怪訝な顔をした。

 

「……やっぱり、食べきれなかったんですね」

「う、うるさいです……」

 

 自罰的に頼んだハニートーストが自分を苦しませている事実にはづきは恥ずかしそうな顔をした。

 そんな様子のはづきを見て彼は微笑むとフォークに突き刺されたべちゃべちゃトーストを顔を近づけて食べる。

 

「……あっま」

「私たちには年齢的に少しきつかったですかね~……」

「そうですね」

「っ……少しは否定してくださ~い」

 

 25歳の自分が若いといっていいのか分からないが、はづきは恋人に甘えるように不満を漏らした。

 




BSSって山陰放送の略称らしいですね
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