葛の恋   作:勉強サボ浪

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私のすべてが崩壊する
青く澄み切った空が涼しい



Fallout

 

「バージンロードってあるじゃん」

 

 1月の終わり、そろそろ2月になる時期に久しぶりに帰ってきた姉はそんなことをにちかに言った。

 

「えっと……花嫁がお父さん一緒に歩くやつでしょ」

「そうそう。でも、うちにはお父さんがいないじゃない」

「あー……それは確かに」

「にちかにお願いしたいなぁって」

「……私!?」

 

 思わず洗っていた皿を取り落としそうになった。「危ないなぁ」とはづきがぼやく。

 

「え、何で」

「お母さんには断られちゃってね。当日生きてるかも分からないし、生きていても歩きたくないらしい。説得は頑張ったけど……無理だった」

「何で?」

「バージンロードはこれまでの人生を表すけど、これまでの私の人生にあんまり関われなかったからとか何とか」

「……」

 

 そこまで気にしなくても良いのにね、とはづきは言ったがその口調は呆れているようだった。母の頑固さは姉に受け継がれている。

 

「じゃあ社長とか……」

「いくら身内しかいないとはいえ血縁関係が何もない男と歩くのは意味不明じゃない?」

「まぁ確かに」

 

 七草家と天井努の関係はかなり密接にあるとはいえ、家族ではない。それにその光景をプロデューサーの親はどう思うかは分からないだろう。

 そんなことを言えば母親ではなくにちかと共に、というのも忌避感を生むかもしれないが………まぁ本人の意思だしどうせ身内ばかりの結婚式なのだから意識しなくてもいいのかもしれない。

 

「まぁ……うん、じゃあ今度病院に行って同じこと訊いてみるよ。で、説得できなかったらやるよ」

「じゃあ、お願いね~」

 

 

 参加が難しいのであれば、結婚式の参加はしなくてもいい。その言葉の裏まで教えてもらわなくても分かる。

 

「なーちゃん、どうするの……?」

 

 大崎家のリビングのソファ。甜花の問いかけと膝枕に甘奈は答えを決めあぐねていた。

 招待状を貰ったのが今日で、失恋をしたのが去年の10月……4ヶ月も前の話だ。引きずりすぎ、と言われても甘奈自身が肯定しそうだと自覚している。

 

「行かなくても……いいと思うよ……?」

 

 そう言う姉の招待状には既に出席に丸がつけられている。普通はそうなのだ。会社の――事務員とプロデューサーはアイドルにとって同僚なのか上司なのかは分からないけど、そういった仲であるのに参加しないということがおかしい。

 だが……果して自分は彼らの結婚を素直に祝福出来るだろうか……。

 ピロン、と通知音が流れる。

 

「……?」

 

 起き上がろうとする前に甜花が甘奈のスマホを取って渡した。通知元は「Pラブ最戦線基地」。久しぶりに見る名前だった。

 

 

「おー、負け犬が増えた」

 

 寮の共有スペースに入った瞬間に言われて、甘奈はもう帰ってしまおうかと思った。発言主の浅倉透は隣に座っていた円香にかなり強く睨まれる。

 

「浅倉――」

「浅倉さん……!」

「ごめんごめん」

 

 さすがの甜花も――いや、共有スペースに座る人間全員が何らかの感情を持って透に視線を向けていたが彼女は意にも介さない。

 

「――あれ、てんちゃんもなの?」

「ううん、今日はなーちゃんの付き添い……!」

「へぇ、じゃあ樋口とは違うわけだ」

「え」

「――そんなんじゃないから」

 

 部屋の中に視線を巡らせるとグループには所属していないはずのアイドルも数人参加していた。付き添い――もあるのだろうが、それを楯に参加しているのは容易に考えられた。

 

「なっちゃん、そろそろ」

「あぁ、もうそんな時間」

 

 ぱんぱん、と夏葉が手を叩いて注目を促す。

 

「さて、そろそろ始めましょう。なんだか呼んでいない人もいるみたいだけど……まぁ、付き添いだということにしとくわ。――じゃあ」

 

 彼女は手慣れた様子でホワイトボードに「招待状について」と書いた。

 

「簡単に言うわ。今日の議題――いや、私たちの最後の議題は『プロデューサーとはづきの結婚式に行く勇気があるか』よ」

 

 目、目、目――。視線が夏葉に集中する。アイドルに向けられるものではない、

 

「あなた達が彼らに――いや、はづきにどのような感情を向けているのかは知らないけど『祝福はできるけど善意100%でそれを行うのは難しい』という前提で進ませるわ。もし今でもはづきに対する悪意があるとすれば、こんなところに来ずにとっとと彼女に文句を言っているはずだから」

「………」

 

 彼女の叱咤とも煽りとも呼べるその言葉に息をのむ音が聞こえたが誰も部屋からは出ていかなかった。

 様々な個性を少しの言葉で纏め上げる夏葉の手腕は、確かに君主論の継承者然としていた。

 

「話を戻すわね。――推測なのだけど、きっとアイドル全員が参加しようとも仕事上の問題は絶対に起きないわ。あの日はすでに休みになっているって社長が言ってたから」

 

 彼女はあえて煽るように言った。

 

「私たち負け犬には尻尾を巻いて逃げるか、泣きながらでも祝福するかの二択しかないわ」

 

 しばらくの沈黙。

 甘奈も何も言えなかった。逃げたくない。でも、泣いてしまうのも嫌だ。前に進むことを放棄して日和見を決めたくせに、自分以外の女性と結ばれることを認められない。勇気がない癖に浅ましい。

 おそらく他の参加者も似たようなことを考えていたのだろう。

 その沈黙は意外な人物によって破られた。

 

「私ははづきを祝福したいと思っているかな」

「千雪さん……?」

 

 ボードから少し離れた場所で夏葉のスピーチを聞いていた千雪が自虐するように嗤った。

 

「――私、しばらく前にはづきと喧嘩していたの」

 

 やはりか。甘奈はそんなことを思った。

 去年の10月から12月あたり、あの告白の後に2人の距離感がぎくしゃくしていたのは気づいていた。

 

「はづきにはね、前々から恋愛相談していたの。去年の春まで続いてたかな」

「それは――」

 

 夏葉が何かを言いかけてやめた。おそらく全員が似たようなことを考えているのだろう。しかしその言葉を吐かないのは、恐らく一番この事実に傷ついているのは千雪である事は全員が気づいていたからだ。

 

「そんな顔しないで、みんな。あれは私の責任だから」

 

 みんなに対して千雪が諭すように言った。

 

「私は一歩を踏み出せなかった。彼に対して勝手に運命を感じて、まだ何も始まってないのに最期のことまで考えていた。……だから、踏み出す勇気がなかった。最初の一歩が果てしなく重く感じた。……みんなもそうじゃない?」

「……そうね」

 

 目をそらす者、ハッとした表情で千雪を見る者――様々な反応に溢れかえったが、プロデューサーに向ける感情はどれも似たようなものだったらしい。

 

「普通の人は、そこまで恋愛に重みを持たせないの」

「………!」

「あの人は恋に対して忌避感を持っていた。当然、結婚なんて考えていなかったと思う。……だからそういう関係になって、そこから発展できた。彼にとって私たちの人生は重すぎた。プロデューサーは私たちの人生を変えたけど、私たちアイドルの人生を背負い込めるほど本当の彼は強くなかった。それに気づいていたのは前々から彼と関係を持っていたはづきだけだった」

「…………」

「私ははづきを祝福したい。もちろん100%手放しには無理だけど、でも弱い彼を受け入れてくれたはづきに友人として祝福したい」

 

 その言葉に、滔々と語る千雪に誰も何も言えなかった。

 

 

 弱いプロデューサーを、彼を甘奈は知らない。

 いつも甘奈たちを導いてくれる、強くてまっすぐなプロデューサーしか知らない。

 はたして私は彼を受け入れられただろうか……。

答えをもう知ることはできない。

 

 

 3月初頭。東京、聖蹟桜ヶ丘のどこかの小さな教会。

 社交用のドレスを着た面々が教会の木造の長椅子に座る。結局、欠席者は誰もいなかった。

 各々がどのような区切りをつけたかは分からない。でも全員が彼とはづきの事を祝福するように決めたのはどうやってだろう。

 板張りに手製のクッションの上に座る甘奈は祝福できるかどうか、今でも分からなかった。

 重い表情の甘奈の手に隣から優しく包み込むように、動揺を抑えるように細い手が重なった。

 

「千雪さん……?」

「安心して」

 

 千雪が優しく言った。

 

「甘奈ちゃんはきっと大丈夫。きっとプロデューサーさんを祝福できる」

「そうかな……?」

「そう。この場所に来れたんだから。それに――甘奈ちゃんは癇癪起こして、不倫させるために誘惑するなんて考えてないでしょう?」

「うん………うん?」

 

 思考が纏まってないときにとんでもない事を言われたような気がする。

 問いただそうとした時、マイク越しに女性がアナウンスを始める。確かプロデューサーの母であるらしい。

 

《それでは時間になりましたので、挙式を始めさせていただきます》

 

 拍手が起きたので、甘奈もあわてて拍手をした。「えーっと、段取り段取り……」と千雪の反対側に座る甜花がカバンから紙を探し当てる。

 

《それでは、神父並びに新郎の入場です》

 

 スピーカーから聞いたことがないバイオリンの音楽が流れ始めてしばらく。教会のドアが開かれた。拍手が響き渡る。

 最初に神父が入って一礼。その後プロデューサーが教会内に入った。

 

「おー……」

 

 拍手が柔まり、代わりに息をのむ声が聞こえた。

 その言葉が教会の中の誰のため息かは分からない。複数人だったのかもしれないし、もしかしたら自分自身の声だったのかもしれない。

 白いタキシードを着たプロデューサーの姿は、まさしく現代日本における典型的な新郎の姿だった。

 彼が一礼することでようやくアイドルたちは我に返り慌てて拍手を再開させる。

 ぱしゃり、ぱしゃりとシャッターが切られる。バイトと社長が呼んだカメラマン、あとは趣味でカメラを使う結華のものである。

 プロデューサーが拍手に送られながらバージンロードを歩み神父の前へ立つ。

 

《そして……新婦の入場です》

 

 閉じられたドアが開かれた。

 

「あ――」

 

 拍手が止む。この場にいた参加者全員が同じ感情を持っていた。

 

「――綺麗」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 かしゃり、というデジカメの音で会場にいたアイドルたちが我に返った。その表情を見届ける前に私はドアの横で待っていたお母さんに向き合う。

 

「……」

「………」

 

 互いに無言で――こういうときに会話するべきか分からないから黙って身を屈めるとお母さんは白い腕で私のベールをおろした。

 そして私とお母さん、父親の代行のにちかが正面に向かって礼をすると会場は拍手で包まれた。

 

《それでは新婦はお進みください》

 

 その言葉に私たちは一歩、進む。

 にちかガッチガチ。アイドルなんだからこれよりももっと多くの人の視線にさらされているのに腕がプルプルしてる。

 一歩。

 真乃さんはこっちを見ていない。どうやら涙目で隣に座る風野さんに注目してるみたい。

 一歩。

 霧子さんが笑顔で手を叩いている。久しぶりに彼女と目を合わせた気がする。アイドル休止して医学部が忙しいのに、来てくれたんだ。

 一歩。

 果穂さんが目を奪われている。反抗期のはずなのに、こういう子供っぽい部分もまだ残っていたんだ。

 一歩。

 千雪が見ている。微笑んでいるようだが、一瞬でも隙を見せたら奪われそうだ。

 一歩。

 円香さんはこっちを見ていない。私の花嫁姿よりも、彼の白のタキシードばかり見ているようだ。

 一歩。

 美琴さんが悲しく微笑んでいる。もう得られないものを見るかのように。横でルカさんが慰めるように肩に手をのせていた。

 一歩。

 はるきさんが熱心にこちらを見ている。私――というよりもウェディングドレスを着た花嫁を観察しているようだ。

 一歩。

 社長が泣いている。あなたはこの家の人間じゃないでしょう?

 一歩。

 ――彼の前に立つ。エスコートしていたにちかと彼がお辞儀をした。

 彼が右手を差し出す。事前の段取り通り、にちかが私の手を取って――

 

「……?」

「………――」

 

 私の手を取ることはした。しかし私の手を彼に導いたりせずに、震えている。

 

「……にちか?」

 

 呼びかける私の声。しかし彼女は逡巡している。目をそらして、でも私と彼の様子を伺って、悩んでいる。

 周囲のアイドルたちが異常に気付いた時

 

「にちか」

 

 彼が一言、彼女の名前を呼んだ。

 優しい笑顔だった。彼はうなずく。

 

「――――おねがいっ、します……」

 

 その表情を見て、にちかはついに涙を流して、泣きながら私の手を彼の手に導いた。

 

 一歩。

 私はその一歩をにちかから優しく押されて、彼の横に立った。

 

 

 結婚式は問題なく終了した。その後は披露宴の代わりに簡単なパーティを寮の共有スペースで行うことになった。

 披露宴はしないのにパーティはするのかと言われるかもしれないが式場側が会場を用意できなかったこと、はづき側の父がいないこと、彼の友人を呼ぶにもアイドルなど芸能界と無関係な人間がいないこと、身内しかいないこと、何よりも予算が問題だった。

 それにご祝儀云々や引き出物の処理も面倒だから、というのもある。伝統などかなぐり捨てたものだったが、それに異を唱える者はいなかった。

 

「えー、みんな。えー……何だかんだみんな来たよなぁ……」

 

 しみじみと、本当にしみじみと言ったプロデューサーに会場の全員が苦笑をする。事務所の半数よりも少ない程度が彼に恋をして何だかんだ円満に終わったのは確かに奇跡だ。

 

「色々あったし……色々起こしたけど、まぁとりあえず今日は単純に俺たちが作った料理を食べてほしいだけのパーティなので……まぁ気にしないでください。それでは――乾杯」

 

 彼の乾杯の号令とともにパーティは始まった。

 どうやって提供されるんだろうか。甘奈が疑問に思っているとはづきとプロデューサー、そしてバイトが参加者に弁当箱を渡し始める。

 

「お弁当……!」

 

 なるほど、たしかにそれであれば先に作っておけば良い。スタッフもバイトと新郎新婦だけでどうにかなるだろう。

 蓋を開けると湯気が出る。電子レンジで温められたであろう乾いた蒸気が目に来る。

 中身は先述の通り、きっと彼らの手作りであろう。卵焼きにプチトマトといったテンプレから、赤飯に豆ごはんといった複数のご飯もののおにぎりやかぼちゃサラダといった凝った料理が更に弁当箱を光らせる。

 様々な料理が並ぶ中で、甘奈は1つの料理に目を奪われた。

 

「豚肉の梅干しソース……」

 

 周囲の参加者を見渡すと数人が甘奈と同じ表情をしている。

 

(……そういうことかぁ)

 

 脳は、理性は、きっと現実は彼にとっての思い出の料理を弁当に入れたとかそんなところだろう、と正答を出す。

 でも甘奈の悪癖は、これが甘奈たちアイドルに対しての最後通牒だと――プロデューサーはアイドルに対してプライベートの“彼”を今後見せるつもりはないと言っているようだと誤答を示した。

 それではお食べください、と誰かが言った。それを判断する能力は今の甘奈にはなく、ただ無心で豚肉を箸でつかんで口に運ぶ。

 

「……おいしい」

 

 その味はしあわせの味がした。

 

「おいしい――おいしいよ……」

 

 あぁ、情けないな私。せめてこのパーティが終わるまでは泣かないようにしたかったのに。

 こうして大崎甘奈の引きずりすぎた失恋は終了したのだった。

 

 

 こうして、短い結婚パーティは終了し新郎新婦は寮から追い出された。

 企画したのは自分達なのだからと提言はしたのだが、アイドルや社長達には「今日の主役が自分の労働力を安売りするな」という建前で封殺された。親たちを送ろうかとも考えたが、にちかや彼の妹たちが既に手をまわしていてどうしようもない。

 体を伸ばす。結婚式にパーティと慣れていないことを半日――いや、6時間程度であったが閉塞感は体を蝕んでいたらしい。先ほどまで結婚式を行っていたとは思えないほどに3月の公園は静かだった。

 

「終わったね」

「うん――」

 

 疲れるわけないのに、ひどく疲弊しているようだ。はづきが選んでくれたのがココアで良かった。

 

「あぁ……目に来るな」

「目?」

「空が、とても青い」

「そうだね……?」

 

 いきなり何を言っているのだ、とばづきが困惑した目で訴える。

 

「この1年ですごく変わった。まさか――セフレから結婚するとも思っていなかったし、それ以前に同じ会社の事務員と結婚するなんて考えもしなかった」

「それは……私を遠回しに馬鹿にしている?」

「いや……自分は誰とも結婚しないだろうって考えていたから」

「それは……そうだよね……」

 

 彼には過去もあるが、アイドルから向けられる多くの感情があった。恋愛恐怖症がぶり返すのではないかと錯覚するほどには。

 

「事務所での結婚報告のあとも色々あった。千雪のこともあったけど……あの後にも色んなアイドルや業界関係者に声をかけられた。でも……最後にはみんなが認めてくれた」

「……うん」

「だから……これでもう大丈夫。少し長くなっちゃったけど……これではづきとの恋に集中できる」

「………!」

 

はづきの手を彼がつかんだ。指を絡ませて、逃げられないようにする。彼の左手の指輪が当たる。

 

「これからは――一緒に」

「うん……!」

 

早春の公園。暖かい日差しが新しい夫婦を祝福していた。

 

 

 5月。ゴールデンウィークも明けて世間は忙しい。

 夕方、パソコンのキーボードを叩いてプロデューサーは電子メールを書き上げて送信した。ノクチルの企画書だ、とてもコスメ映えする。

 時計を確認すると18時を超えていた。自主レッスンの終了予定時刻が20分。30分ぐらいにはここに来るだろう。

 公式チャンネル用の投稿予定動画を確認しながら待つ。窓の外が暗くなるとにちかが共有スペースに入った。

 

「え、まだ帰ってなかったんですか!?」

「うん、にちかと一緒に帰ろうと思って」

「新婚の人が、義妹を待たないでください! 倫理的にも、恋愛的にも!」

「……何を想像してるんだ?」

「~~~最っ低!」

 

彼女は鍵を保管場所に戻し、名簿に必要事項を埋めると荷物をまとめる。

 

「早く帰りますよ! お姉ちゃんとお母さんが待ってるんですから」

「はいはい」

 

 といっても荷物はそこまでないのだが。

 

「今日のご飯、何かわかる?」

「鳥の炒め物じゃなかったですか? お母さん、砂肝とハツ好きですから」

「お酒嫌いなのに」

「大丈夫ですかー、プリン体。痛風とか」

「痛風も結石も嫌だから、無茶苦茶気を使ってる……」

「今は我慢してくださいね。お母さんの最後の晩餐ですから」

「最後って……。少なくともあと3日は家でそこからは病院だろ?」

 

 パソコンがシャットダウンされたのを確認し、玄関へ向かう扉のドアノブに手をかける。

 

「じゃあ帰ろうか」

「電気消しますねー」

 

 共有スペースの照明が切られる。

 

 




挿絵は糸吉露さん(@Arawa0911)(https://www.pixiv.net/users/7385389)に頼みました。ありがとうございます。

もしかしたら続編や同人にまとめたりすることもあるかもしれませんが、葛の恋はここで一旦終了いたします。
皆様、最終回まで読んでいただきありがとうございました。
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