葛の恋   作:勉強サボ浪

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誰でもいいわけじゃない。
あなただけがいい。



Magenta Tear

 七草はづきとプロデューサーがセフレになって、しかし彼女が自身の恋心を打ち明けないまま数か月。

 カレンダーの上では8月になったばかり。芸能界はこれからの盆のために大量のストックを溜めている途中だった。はづきはプロデューサーの過去をまだ知らず、まだ彼との逢瀬を楽しむことが出来ていた時期だった。

 彼女の恋愛感情は性欲とともに彼にぶつけることで発散をしていた。熱と湿気に塗れた熱帯夜のことだった。

 

 

 いつも使っているラブホテルは満室だった。珍しいこともあるものだ。

 

「どうします?」

 

 タッチモニターをつつきながら彼ははづきに尋ねた。その口ぶりは一応聞いているだけで、その実は早く彼女を帰らせたいと考えているのは丸わかりだった。

 彼のその本心を見透かしてはづきは彼をからかう。

 

「私とのセックスはそんなに嫌ですか~? あんなに――あんなにいろんなところにキスしてくれたのに……」

 

 空になった彼の手をからめるように握ると「……そういうところですかね」と手を握りながら返してきた。

 極力紳士的に対応しようとしているくせに、性欲は無視できないのは人間としての欠陥である。女でも男でも変わらないし、取り繕えない。

 仕方なしにホテルのエントランスを出て湿気と熱気が充満する熱帯夜の屋外に出るとつながっていた手が汗ばみ始めた。彼が手の力を緩めても、はづきは一層力を加える。そんな彼女を彼は一体どのような気持ちで受け止めているのだろう?

 

「――といっても近くに他のホテルは」

「ほら、あそこがありますよ~?」

「いやそこは……」

 

 はづきが示した“あそこ”とはここから歩いて数分のこの繁華街から少し外れた場所にあるホテルである。ホテルときれいなラベリングをしているが、ただ単にベッドと最低限のアメニティがあるだけの場所であり、セックスをするための場所でしかない昭和の遺物みたいな場所である。

 ひと月半前だったか、節約のためにそちらを利用しようとしたがあまりにも場末過ぎてはづきがさすがに難色を示した場所でもある。普段使用しているホテルの40%の価格であることがよくわかる場所だ。

 

「この前は嫌がっていたのに、今日は大丈夫なんですか?」

「なんというか……どうせ体液に塗れるから外面や衛生面を気にしても仕方がないかなぁって」

 

 その言葉には嘘が混じっている。

 ただ彼と交わりたいだけだ。欲としても、愛としても。

 

 

 3時間プランの一般客用の部屋。それでも普段使用しているホテルの2時間プランの半額ほどの料金であり、部屋の設備は畳と煎餅布団とシャワーぐらいしかなかった。シャワールームもピンク色のタイルであり、今時そんな場所があるのかと戦慄を覚えるほどである。

 クーラーがゴンゴンと駆動音を響かせるが効きが悪いらしくまったく効果は感じられない。

 

「どうします? とりあえずシャワーを――」

 

 座布団に座ってなにやら提案をしてきた彼の背中から思いっきり抱き着いた。クールビズと制汗剤で覆われた体は相対しているだけでは柑橘系のデオドラントの匂いしかしないが、密着状態ではさすがに汗や体臭が感じ取れる。

 

「……入りたく、ないです。すぐに……愛してください」

「良いんですか?」

「今更……あなたに汗も唾液も愛液も味わわせたというのに気にするのも面倒だな、と」

 

 体を少し離すと彼がこちらを向いた。許可を取るなんて初心なことはしない。押し倒すように彼の体に覆いかぶさると彼もはづきの頭と腰を支えるように手をまわした。

 ちゅる、ちゅる――唇の味。はづきのルージュが彼の口に侵食する。愛撫もそこそこにお互いの舌が生殖器のように互いの咥内を侵食し互いの唾液を無遠慮に相手に蒔く。

 お互いの舌が唾液の放出に満足して口の中から離れるとはづきは彼の体を思いっきり抱きしめた。

 

(……落ち着く)

 

 彼の制汗剤と体臭のにおいははづきにとって心地よい。これがすでに忘れてしまった父を彷彿とさせる臭いなのか、それともDNA的に相性の良い異性であることの証明なのか分からなかった。

 

 

 1時間過ぎても部屋のクーラーが効いているとは思えなかった。

 彼は自分の体をすごく愛してくれる。髪のにおいが好きなのか、彼が上の時は決まって果てた後に私に甘えるようにうなじのあたりに顔を寄せるのがひどく子供っぽくって可愛らしい。鈍い痛み、湿った感触。

 

「私は食べてもおいしくないですよ~……」

「おいしいですよ。おいしくて……かわいい」

「……も~」

 

 彼の体は、重い。しかしアイドルではなく、あくまで普通の私だけに甘えてくれるのがうれしい。

 この重さは私だけのものだ。――たとえ一時的なものであっても。

 

「私の体、大好きなんですね~」

「――大好きですよ、はづきさん」

「………どうしますか? わたしは――まだ足りてないですけど」

 

 うなじに甘噛みをしていた彼が口を離してはづきの顔を見た。至近距離で見つめる彼の情愛を情欲にごまかすようにはづきは彼の唇にキスをした。

 




本編の12話よりも前の話になります。

本編のイチャイチャ少なくないか?
本編のイチャイチャ少ない!

……個人的にはenza版でパラレルはづきを待っているのですが……



察しのいい方は気づいているとは思いますが、更新は決まっていません。

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