人工フラクトライトとして紫の十字架は生まれ変わる 作:出涸らし皇子のファン
翌日、いつもの時間に起きたボクは眠気を覚ますために井戸水で顔を洗いに行く。
「んん、よく眠れたー」
「おっ、おはようユウキ」
そこには先客がいて予想してなかったボクは驚いた。
「えっ、キリトが早起きしてる…!?」
「なんでそんなに驚くんだよ…俺だってやればできるんだぞ」
「それをやらないのがキリトだと思ってた」
「扱いが酷くないか?」
実際アスナからもそう聴いてたし、よく昼寝をすることも知ってたからこそ結構驚いた。そう言った会話をしてるうちに後ろから足音が聞こえた。セルカかなと思い振り向く。
「あっ、おはようございます。シスター」
「あ、おはようございます」
そこに立っていたのは既にきっちり修道服を身につけたシスター・アザリヤだった。「おはようございます」と返しながらも困り顔だった。彼女の口から出た言葉は何かあったのかな、と呑気に聞いていたボクの予想と違った言葉だった。
「あの、2人とも、セルカを知りませんか?実は朝から姿が見えないのです。」
「え…?」
「今までこんなことは起きなくて…。何かご存じでないでしょうか?」
そう聞かれて、すぐにセルカについて思い出そうとしたが、やはり何も聴いてないと思う。それにきっとすぐ帰ってくるよと答えるとそうキリトも答えた。
「そう、ですか。お邪魔をして御免なさいね、私は礼拝の準備がありますので、これで」
「いえ、俺もあとで周りを探してみますよ」
「うん、ボクも探してみるよ」
会釈して去っていくシスターを見て、ボクも胸騒ぎを覚えた。
「ねえ、キリト。ほんとに何もないんだよね?ほら昨日、部屋に呼んで話してたでしょ?」
「あ、ああ。でもどこかにいくなんて一言も言ってないよ」
「そっか…」
今ここで心配しても意味ないと思い、セルカの分まで朝の準備をして、礼拝と朝ごはんを済ませた。
「やっぱりすぐいくよ。剣の話はまた次の時にするよ」
「ああ、それとユージオにも手伝ってもらおう」
そう決めたらすぐに教会の表門に向かった。そこにはもうすでにユージオが立っており、待っていてくれたのだろうと思い声をかける。
「ユージオ!ずっと待ってたの?」
「おはよう。今来たんだよ」
「ユージオ、今日は1日休みなんだろう?」
「うん、せっかくだから村中を案内しようと思って」
「ごめんそれより、セルカ探しを手伝って?朝からいなくなっちゃったんだ」
「ええ?」
心配そうに眉を寄せるユージオに何か心当たりはないかと尋ねるが、彼も分からないという。どうするべきかと悩んでいると、キリトが尋ねる。
「なぁユージオ、昔セルカにアリスが整合騎士に連れて行かれたことを教えなかったよな?なんでなんだ?」
「ああ、そんなこともあったね。ボクもよくわかってないんだけど、そうだな…不安だったからかもね。セルカがアリスの後を追いかけるのが」
「それだ。教えちゃったんだよ…」
キリトは低くうめき、やってしまったと言わんばかりに頭を抱える。
「俺、昨日セルカに教えちゃったんだ。アリスがダークテリトリーの土に触った話…。セルカは、果ての山脈に行ったんだ」
「ええっ!早く止めないと!」
「まずいよ、セルカが出発したのは何時ごろだい?」
そう言われて、なんとか朝のことを思い出す。
「えっと、シスターがいないって言ったから…5時前くらい?」
「今の季節は5時くらいに明るくなるはずだ。てことは3時間前くらいか…いよいよまずいよ、僕らが子供の時ですら5時間は掛からなかった。もう半分くらいは進んでる。今から間に合うか…」
「急ごう。すぐに出よう」
「もう準備してる時間はないね。手ぶらだけど1日くらいは我慢しよっか」
「幸い、川沿いだから水には困らない。よし、こっちだよ」
そう言ってユージオが北の門から出て、率先して道案内しながら駆け出す。ボクとキリトもユージオの先導のもと、果ての山脈へと目指す。その時何かに気づいたのかユージオがしゃがみ、草の"窓"を見る。
「この草、踏まれた後がある。この天命の減り方は子供が通った後だ。やっぱりセルカが…」
「急ごう、間に合わなくなる前に」
キリトも頷き、再び走り出す。2時間ほど走ったらあの灰白色の山が連なっている場所が見えた。そして、あの洞窟もーー
「これが、果ての山脈?」
「うん、僕らも当時はこんなに近いなんて思いもしなかったよ」
「急ごうよ。だいぶ距離は縮まったはず…」
そうして洞窟の内部に入るが…
「お、おい、灯りはどうするんだ?」
「あ、ごめん、さっきの草もってる?」
「うん、任せて」
キリトは首を傾げるがすぐにわかるだろう。今は一刻を争ってるから。
「システムコール・ジェネレート・ルミナス・エレメント・アドヒア」
ユージオが神聖術を唱えると、草穂の先が光り、洞窟を照らし出す。あるであの時のようにーー
「い、今のは?」
「神聖術だよ。すごく簡単なやつだけどね。言っただろ?あの剣をここから取り出すのに必要だったから覚えたんだ」
「さっきの言葉とか…意味は知ってるのか?」
「ええと、ユウキにいくつかは教えてもらったかな。まあ、神様にお願いする言葉だと思えばいいよ。教会の司祭様が使うような神聖術はさっきのより何倍も長いらしいけどね」
「なあ、俺にも使えるかな?」
「うーん、キリト。魔法と違ってただ覚えればいいわけじゃないんだよ。ちゃんとイメージして唱える必要もあるし、今すぐは無理だよ」
キリトに神聖術を説明しているユージオに代わって答える。ごめんね、こういうのはボクが言ったほうがわかりやすい気がするから。
神様にお願いとか設定が雑すぎると呟いてるキリトはほっとく。
「寒いな、本当にこんなとこをセルカは通って行ったのか?」
「キリト、これを見て」
「ん?…ああ、なるほど」
「嫌な予感は当たったね」
キリトが見たのは足元にある氷。それは子供くらいの小さな足跡が残っており、間違いなくセルカが通ったと如実に表している。
「なあ、ユージオ。もしセルカがダークテリトリーに入ったら、その場ですぐ整 合騎士に掴まって処刑されてしまうのか?」
「…いや、整合騎士は明日の朝に来ると思う。6年前はそうだった」
「なら、最悪の場合はセルカを連れて逃げることもできるな」
「…何考えてるのさ?」
うん、ボクもキリトの考えが読めない。なんとなくわかるような気もするけど分かりたくない。何人の親友で実験みたいなことしてるのさ?
「キリト、今それ必要?」
「単純な話さ。セルカに教えた俺に責任はある。今日中に村から出れば、整合騎士から逃げられるかもしれない」
「そんなこと…できるわけないよ。転職だってあるんだし」
「別にユージオに来てくれなんて言ってないぜ」
明らかに挑発してる。今すぐ言いたいけど、ユージオの前でいきなりいうわけにはいかない。
「俺がセルカを連れて逃げる。お前がそれでいいのなら、だけどな」
「キリト……。だめだよ、無理だよ、セルカにだって天職はある。お前についていくはずがない。そもそも、そんなことにはならない」
「でも、アリスにはできた」
「あれは特例中の特例だ。破ろうとして破ったんじゃなくて、ただ転んで、その先がダークテリトリーに触れてしまっただけだ。決して自分の意志じゃ無かった」
ユージオは言葉を切ってこれ以上続けるつもりはない、と態度に表す。
「キリト、さっきの話についてボクも話すことがある。とにかく、今は後にして!」
「わかったよ」
キリトを軽く睨みつけて、走る速度を上げるようとしたその時、
「きゃああああ…!!」
「今のは…!」
「まずい!」
「セルカ!?」
悲鳴が聞こえた。間違いなくセルカだ。何か起きたのだろう、全力で駆け出した。
やがて広い空間に出ると、見覚えのある氷の結晶が並んでいた。間違いない、白竜の巣だ。しかし、そこにはユージオの持っているのとは違う光源があった。
「2人とも隠れろ!」
キリトに続き、氷柱に身を隠す。キリトの視線を辿り、ボクが見たのは…
「ギャギャギャ!」
「ギャッギャッ」
それはとても人とはいえない姿。炎に照らされていてもはっきりわかる緑色の皮膚で、大きさは人の腰辺りまでしかないだろう。悍ましい光景だが、同時に現実のRPGに良く出る"ゴブリン"であることに気づいた。確か、こいつらは王道でいうなら低級モンスターのはず。
しかし、数いる中のボクらに近かったゴブリンがこちらに気づいたときに見せた悪意は、余りにも恐ろしいものだった。
「セルカ!」
「っ…!」
ユージオがそう叫んだのでその視線を辿ると、何かしらの荷台の上に縛り付けられたセルカが転がっていた。目を開けていないが、恐らく気絶しているだけだろう。
「おい、見ろや!今日はどうなってんだぁ、またイウムの餓鬼が3匹も転がりこんできたぜ!」
「しかも今度はそこそこ育った女までいるぜぇ!」
「どうする、全員捕らえるかぁ!?」
ドーム中にぎいっぎいっとわめき声が満ちた。次々に武器を取って立ち、特にボクに対して商品を見つけた、と言わんばかりに舐めるように見てくる。それに対してそういったのに耐性のないボクは恐怖で体を震わせる。すると1番でかいのが(恐らく親玉)が、
「男のイウムなぞ連れて帰っても、幾らでも売れやしねぇ。面倒だ、その女だけ捕らえて、あとはここで殺して肉にしろ」
その言葉を受けたゴブリンたちは戦闘体制を整えて、こちらににじり寄る。早くなんらかの行動をしないといけないのはわかっている、初めて経験した余りにもリアル過ぎる殺意に未だ体を動かせない。
「ユウキ、動けるか?」
隣からキリトに声をかけられ、ハッとした。ようやく体を動かせるようになり、問題ないと告げる。
「うん…ユージオは?」
そう、ここにはなんの戦いの経験もないユージオがいる。とにかく、セルカとユージオだけでも逃さねば…そう思い、声をかけるとすぐに、うん、という答えが返ってくる。ユージオはそれこそモンスターを見たことないのに大した人だ。
「いいか、セルカを助けるぞ… 前の4匹を体当たりで突破するから、ユウキは左、お前は右の篝火を池に倒す。その光る草を無くすなよ。火が消えたら、床から剣を拾って、ユウキは俺の後ろを守ってくれ。ユージオはセルカを。無理に倒そうとしなくていい。その間に、俺はあのボスをやる」
「わかった」
「…僕、剣なんてまともに振ったことないよ」
「斧と一緒だ、いくぞ。…1…2…3!」
氷の上に初めてだが最高のスタートを切れたといってもいいだろう。ずっとこの調子でいけますようにと半ば祈る思いで飛び出した。
「うおおおおおお!」
「わああああああ!」
「はああああああ!」
3人で叫び声を上げた。やや気合が足りなかったと思ったが、幸い効果的面で武器を取り落とす者までいた。キリトが体当たりで前衛を倒し、その隙にボクとユージオが篝火に向かう。敵将のゴブリンは「そいつらを火に近づけるな!」と言っていたがもう遅い、2人で池に倒した。
「ユウキ!ユージオ!」
キリトが叫ぶと剣を投げつけてきた、ちょっと驚いて受け止め損ねたがしっかりと握りなおし、手下のゴブリンと対峙する。ユージオの方も問題なく受け止めたようで、セルカの前に立つ。
ここで、周囲のゴブリンが一斉にギャァアッ!と悲鳴を上げた。よく見ると光を恐れているように見えた。
「一体これは…!?」
「ユージオ!あいつら多分、その光が苦手!光で牽制しながらセルカを守って!」
「ふ、2人は?」
「ボクは周りのゴブリンを」
「俺は奴を倒す」
キリトがあのでかいのと向き合う。ボクはそれを邪魔させないよう後ろに立ち、カバーする。すると、でかいゴブリンが、
「グルラァ…テメェらイウムのガキが、この蜥蜴殺しのウガチ様と本気で戦うつもりかぁ!?」
「違う…戦うんじゃない、勝つんだ!」
ゴブリンの親玉…ウガチにキリトがそう返し、片手剣を構えた。ボクもキリトの後ろで子分のゴブリンを相手取る。
「「はあああああ!!」」
キリトとボクは雄叫びをあげ、ゴブリンに切り掛かった。どうやら一体一体は余り強くない。連携してくる様子もなく、ユージオにもあまり向かわない。これなら何体いようとも勝てるーー
シュイイイン
その時、後ろから聞いたことのある音がしてつい振り返る。そこには、ライトエフェクトを出して限界以上のスピードでウガチに斬り込むキリトの姿だった。
今のは、ソードスキルーー!?
この世界にまさかソードスキルがあると思わず呆けていたが、ウガチが何か呟き、動いた。
「キリト!」
「っ!?ぐあっ!」
ソードスキルの技後硬直を敵は見逃さず斬りかかり、キリトは2メートルも吹き飛ばされた。
「キリト!やられたのか!?」
少し離れた場所で手下ゴブリンを牽制してたユージオが叫ぶもキリトはその場で倒れ、痛みによる悲鳴を上げていた。
「っあああああ!?」
「キリト!?」
あのキリトの痛がり様、恐らく現実で味わうことのないはずの痛みを感じ、動けないのだろう。早く助けなくては。
「はああっ!」
キリトにトドメを刺そうとしたウガチを倒すべく、一気に駆け抜けて切り掛かる。ウガチは驚いた様子を見せるも、すぐに反応して蛮刀で防御した。どうやらこいつは子分と違って相当強い。油断して勝てる相手じゃないと気を引き締め直した。攻撃のチャンスを窺うべく、大剣を逸らして回避するも、頬に少し掠った。それがとても熱く感じ、反射的に傷を確かめようとして、目の前の敵から意識を外してしまった。
それを敵は見逃すはずもなく、先ほどと同じ様に横殴りに大剣を振り回す。それに反応が遅れたボクは、どうにかして剣に当てて防御を図るも、
「軽いわぁ!」
「っしまっ…うあっ!」
斬られることは無かったもののキリト以上に吹き飛ばされ、受け身もできずに倒れる。
その衝撃に経験のないボクは先程のキリトと同じようにその場で呻く。あまりの痛みに悶絶し、起き上がれない。
すると、キリトに切られた左腕を力任せに止血し、屈辱と怒りと憎しみを恐ろしいほどに顔から放射し、睨みつけてくる。
「… この屈辱は、お前らを八つ裂きにして、腸を食い散らしても収まりそうもねぇが…とりあえず、やってみるとするか」
「頭ぁ、女のイウムは殺さねえでくだせえね〜?あんまりやると、高く売れなくなっちまう」
売る。その言葉に自分の未来がどうなるかを想像した。いや、してしまった。その行為は恐らくただ殺されるよりもずっと苦痛しか産まないことを悟ってしまった。対峙した最初に言っていた言葉をあまりにも遅まきながら、恐怖した。恐怖で体を動かせないボクたちにどんどん近づいてくるゴブリンたち、その迫り来る絶望に意識を手放そうとした瞬間、
「キリトー!!ユウキーッ!!」
「ぬうっ!?」
驚いて目を開くと、セルカの近くにいたユージオがこちらに駆け寄り、近くにきたゴブリンを追い払う。さらに今も神聖術の光を出し続けている草穂を近くに置き、キリトの方へ走り出す。そしてあの恐ろしいウガチに切り掛かった。
「今度こそ!僕が!守るんだぁあああ!!」
ユージオがボクたちの見様見真似で剣を振るう。スピードには目を見張るものがあったが、あまりにも実践慣れしていないからか、テンポが単調すぎた。このままではやられるのも時間の問題だろう。
「ダメ!逃げて!」
「やめろユージオ!早く逃げるんだ!」
ボクとキリトが大声で叫ぶもユージオは止まらない。やがて飽きたのかグラウッ!とユージオの剣を弾き…
「「やめろおおおっ!!」」
ボクたちの声が届く前に無情にも蛮刀を横薙ぎに叩きつけた。一撃を腹に、まともに受けたユージオはボクたちよりさらに高く宙を飛んで、キリトの近くに落下した。
「な、なんであんな無茶を…」
「お前…なんで…そこまで」
あまりの衝撃に痛みがあっても体を起こし、近づいた。上腹部を横一直線に切り裂かれ無残な傷跡からゴボリ、と血が溢れる。その夥しい血の量にボクたちは言葉を失う。しかしユージオは口から血を吐いて尚も体を起こすのを止めようとしなかった。ユージオの傷跡を見ればボクたちよりずっと痛く、苦しいはずなのに。そして、ボクらに手を伸ばす。
「こ……子供の頃…約束したろ……。僕達は、生まれた日は…違えど、死ぬ時は、一緒だって……今度こそ、守るんだ……ぼく、がっ……」
「ユージオっ…!?」
そこでがくりとユージオの腕から力が抜ける。恐らくあの時、初めてこの世界で泣いたあの日のことを言っているのだろうが、キリトはいなかったはず…そう考えていると不意にあの時の光景が蘇った。
(そうだ…あの時、「俺達は永遠に親友だ」と言ってくれたのはキリトだった…なんで忘れていたんだろう、絶対に忘れないと決めたのに…アリスを連れ去られたのはみんなで、何もできなかった…キリトもボクもこの世界で生きていたのに…!)
あの時、ユージオの様に悲しまなかったのはどこか、この世界でボクの正体を知るものはいない、とか独りぼっちだったかもしれない、仲間がいないなんて、言い訳していたんだろう。
あの時ユージオは自分とは違う、と言っていた。ボクは自分も出来なかったと慰めたが、それはこの世界の友達が欲しくて言っただけで、自分は動くことはできたと思っていたかもしれない。実際はキリトも、ボクも何もできていないのに。
…もう、そんな事考えるのはやめよう。ボクはこの世界の住人の1人なんだ。ボクたちは4人で親友。3人でアリスを助けるんだ。その為にまずはこの状況をどうにかしなくては。
もう、痛みも恐怖も無くなっていた。近くにあった剣を取り、ウガチへと向ける。キリトも同じ様に立ち上がり、剣を向けた。
ボクたちは肉体的な意味の痛みに対しての抵抗力はあまり無い。ボクは病に犯されても両親が味わった様な、痛みで眠れないことはなかった。でも、今のこの痛みよりももっと痛みなら知っている。大切な人を失う痛みに比べればこんな痛みや恐怖、屁でも無い。
「イウムごときがぁ…調子に乗るんじゃねえっ!!」
ウガチは蛮刀を振り下ろすも、キリトに止められる。そしてボクはその隙に敵の腕の付け根を斬り飛ばした。
「この俺様が…イウムのガキどもにっ…!」
「違う!俺達はイウムなんて名じゃない!」
「ボクたちは剣士…ユウキ(キリト)だ!!」」
お互いにソードスキルを発動させ、隊長ゴブリンの首を切り飛ばした。
その首をキリトが掴み、
「お前らの親玉の首は取った! まだ戦う気がある奴はかかってこい、そうでない奴は今すぐ闇の国に帰れ!」
と警告する。しかし、出世欲に塗れた者はどこの種族に関わらずいる様で、1人のゴブリンが前に出て、
「ギヘッ、そういうことなら、手前ェを殺ればこのアブリ様が次の頭に…」
ザシュッ!とボクはそのゴブリンのセリフを最後まで聞かず、首を切り飛ばした。剣士として卑怯かもしれないが、ユージオの命がかかっている。なりふり構っていられないのだ。
ここでようやく、他のゴブリンたちも意思を固めたようで僕達の入ってきたものとは反対側の出口に一目散に逃げていった。
しかしここで安堵するなどと出来ない。ユージオの傷がまだ残っているからだ。
「ユージオ!しっかりしろ!」
「ちょっとどいて!」
キリトを押し退け、ユージオの天命を確認する…
「そんな…このペースだと、後8分…?」
「っ!なら、この世界の魔法、神聖術でどうにかなるんじゃないのか!?」
「こんな傷、一瞬で治せない!」
しかし、ここで諦めることこそ最大の罪だ。なんとか塞ごうと、癒しの光を当て続ける。若干血の流れる量が減った気がするが、この程度では焼け石に水だった。
「セルカ!目を覚ましてくれ!」
「…?っ!きゃあ!」
「セルカ!俺だ、キリトだ!心配ない、ゴブリンは追い払った!」
「キ、キリトなの?」
「ごめん泣くのは後にしてくれ!ユージオが大変なんだ!」
「えっ…?」
そう言ってセルカを抱き抱え、こちらに連れてくる。キリトの考えを理解したボクは、自分の着ていた服から作ったボロ切れの布を当て、少しでも止血しながら、
「手伝って!ボク1人じゃ、止められない!」
「…無理よ。こんな傷、2人でやっても…」
「無理でもいい、やってくれ!ユウキだって諦めてない!君は次のシスターだろう!アリスの後を継いだんだろう!?」
「…私は姉様には、なれない…。姉様が3日で覚えた神聖術を、私は、ひと月かけても覚えられないの…今の私には、せいぜいかすり傷しか…」
なんとか手伝ってもらう様励ましたいが、神聖術は相当な集中力を必要とする。今この術を切らしてはいよいよ終わってしまう。ゆえにキリトに励ましてもらうしかないのだが…そもそもいきなりこんな状況に陥った人に覚悟は決めさせることは難しい。
それでもキリトは諦めずに言葉を掛ける。
「ユージオは…ユージオは、君を、助けに来たんだ!アリスじゃない、君を助ける為にゴブリンに立ち向かったんだ!」
ピクリと震え、しばらく考え込む様に顔を下に向けるが、不意にセルカが顔を上げた。
「…普通の神聖術じゃ間に合わない。危険な高位神聖術を試してみるしかない。キリト、あなたの力が必要だわ!」
「わかった。言ってくれ、なんでもやる」
「左手を貸して」
セルカの言われるままキリトはセルカに左手を貸す。その手をセルカの右手が繋ぎ、その左手はユージオの右手を繋ぐ。
「もし術が失敗したら、私も、あなたも命を落とすかもしれないわ。覚悟はいいわね」
「その時は俺の命だけで済むようにしてくれ。――いつでもいいぞ!」
「…システム・コール!トランスファー・ユニット・デュラビリティ、ライト・トゥ・レフト!!」
その言葉を紡いだ瞬間、キリトの体が光に溶け、その光がセルカを通してユージオへ流れ込んでいく。これは他者の天命を注ぐ術だ。
「キ、キリト…まだ、大丈夫…?」
「ああ…問題ない…。もっと、ユージオにやってくれ…」
しかしキリトはユージオの代わりに天命が減り続け、術の行使者も代償があるのか、その表情は苦しげだ。ボクはその間も今もずっと傷を塞ぐ様に術の光を当て続ける。最初よりだいぶ傷は小さくなったが…
「もう、だめ…!これ以上やったらキリトの天命が…!」
「キリト…!?」
そう、キリトも一撃を喰らい、万全ではないのだ。代わりにボクが渡せればいいのだが、セルカにもうその余力はないだろう…
ボクたちを暗闇が絶望で包んでくる様な錯覚をした時、不意にキリトの向こうから懐かしい感覚がした。キリトも何かを感じた様で驚きながらも意識をはっきりとし、天命も蘇った様に湧き出た。その天命はキリトからユージオへと流れ注がれた。
果ての山脈を一気に終わらせました。ユウキの心情表現が少なくなったかも…。あと、戦闘シーン上手く描けない…。