人工フラクトライトとして紫の十字架は生まれ変わる   作:出涸らし皇子のファン

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今まで話数をサブタイにつけるの忘れてました!
そして遅れました!申し訳ありません!


第十話 新しい天職

 

「ねえ、もう傷大丈夫なんだよね?」

「うん、もう大丈夫だよ。少し跡は残ったけどね」

「あの戦闘じゃ仕方ないさ」

 

そうユージオが笑みを浮かべながら答える。

あの後、ユージオが意識を取り戻した時は本当に安堵した。そのあとにもうこんなことしない様にと泣きながら怒っていたが、ボクの気が済む前にキリトが「いつまでもこんなとこにいないで、そろそろ出ないか?」と言われてしまい、仕方なく断念した。ただキリトも相当疲れたのか、歩きがおぼつかないのでユージオが肩を貸していたのがアレだったが…

村に帰ると、その道中に松明を持ってボクらを探しに来てくれた人に見つかり、安堵のため息と共にシスターと村長から叱責が轟雷のごとく降り注いだが、キリトが親玉ゴブリンの首を持って帰ってたので大人たちはゴブリンの大集団が来ていたことを信じざるを得ず、すぐに村の守りをどうするかについて議論が交わされた。

ボクたちは質問にひとしきり答えたあと、無事放免されたので疲れた足を引き摺りながら家に帰り、すぐに寝室で寝た。次の日の天職はユージオとキリトの怪我があったため免除され、ボクもついでと言わんばかりに惰眠を貪った。

さらに翌日になる頃にはすっかり疲労も取れ、いつもの日常である朝の仕事をこなし、お弁当を作り、2人の元まで届けに来たのだ。ただ、日課であった剣の素振りの時、やけに軽く、以前仮想世界で戦ってた時と同じように振るうことができたのだ。そしてこれ幸いと剣も持っていった。

 

「それにしても、なんでか知んないけど斧が軽くなったような気がするんだよね」

「気のせいじゃ無いぞ。今の五十回、真芯の当たりが四十二回もあった」

「本当かい?なら今日の賭けは僕が頂きだね」

「そりゃどうかな」

 

剣を振ってもいいか聞いていいか考えてるうちに2人で和気藹々と話している。なんとなくいい気がしないのでキリトにコソコソ話をする。

 

「…ねえ、これってやっぱりそういうことだよね?」

「ああ、間違いない。昨夜自分の窓を開いて見たら、天命の最大値、オブジェクト・コントロール、システム・コントロールまで増えてた。2日前のゴブリンで『レベルアップ』したんだろうな」

 

そう、モンスターを倒してレベルアップする、RPGの定番をこなしたことで筋力値とか諸々が上がったのだろう。恐らくユージオもキリトやボクくらいまでパラメータはアップしたはずだ。

そして、キリトは気になることをユージオに問う。

 

「なあ、ユージオ。覚えてるか…あの洞窟で、お前がゴブリンに斬られたときのこと。お前、妙なこと言ったよな。俺が、ユージオとユウキ、アリスとずっと昔から友達だった、みたいな…」

「…… 覚えてるよ。そんな訳はないんだけどね…なんだか、あの時は、すごくはっきりそう思えたんだ。僕と、キリトと、ユウキとアリスはこの村で生まれて一緒に育ってアリスが連れていかれたあの日も、その場に一緒にいたように感じたんだ…」

「…そっか」

 

ユージオは懐かしそうにそう言った。

(そういえば、キリトがSTLでの記憶封印について言ってたな…もしかしたら、本当に?)

普通に考えればそんなことはあり得ないのだが、キリトからSTLについて聞いていたので、ありうる話だと納得していた。

 

「そういや…洞窟でセルカが神聖術をお前に使っていた時、2人以外の女性の声が聞こえたか?」

「え?いや…その時は気を失ってたから…。キリトは何か聞こえたかい?」

「いや、気のせいだ。気にしないでくれ」

 

ボクはキリトのように声が聞こえたわけじゃない。けど、何か懐かしい匂い、というか気配、と言ったものを感じたことをキリトに昨晩伝えていた。ユージオもそうなのではと思い聞いたのだろう。もっともユージオには分からなかったそうだが。

 

「だいぶ話が長くなったな。ユウキ、お昼ご飯をくれないか?」

「あっそうだね!うっかり忘れてたよ」

「はは…」

 

すっかり話し込んでしまった。今日は2人の仕事が早く済んでいたし、少し話そうとしただけのつもりがだいぶ時間がかかってしまった。

 

「んー、仕事の後に食う飯は格別だな!」

「そうだね、一日抜かしただけでこんなに懐かしく感じるとは思わなかったよ。」

「えへへ、今日はちょっと腕に寄りをかけたよ」

 

いつもよりは力を入れて作ったが、大好評の様でよかった。しかしキリトは何かを思いついたように少し手を止めたと思ったらすぐに料理を水と一緒に胃に詰め込み、移動する。

 

「あ、ちょっと!もう少し味わって食べなよ!」

「そうだよ。せっかくの美味しい弁当なんだからそんな慌てて食うことないだろ」

「まあまあ、ちょっと待ってろ」

 

そしてキリトはギガスシダーの幹に空いたウロのひとつに 歩み寄り、先日以来そこに置きっぱなしだった青薔薇の剣の包みに手を伸ばす。

そして、以前とは違い、しっかりと片手で持てるようになっていた。

 

「お…おい、持てるのか、その剣が?」

「まあ、見てろって」

 

キリトは改めてギガスシダーの斧目の前に立ち、すっと腰を落とす。左手を前に出し、見えない弓につがえた矢のように、剣を握った右手をいっぱいに引き絞る。

「シィッ!」

そして単発技ソードスキル、《ホリゾンタル》を放った。以前はライトエフェクトは発生しなかったが、今回は発動し、見事な軌道で斧目にクリーンヒットする。

その結果にユージオは呆然として飲んでいたシラル水の入った皮袋を落とし、その口から水が零れる。

ボクもここまでの威力、あのギガスシダーに深い切り込みを入れる青薔薇の剣の凄さに苦笑した。そしてそんなものを見てしまえば、試したくなってしまうのは剣士の嵯峨なのだろう。

 

「これまた…凄いね」

「だろ?これなら数日のうちに切り倒せるぜ!」

「うん、ならボクもやっていいかな?この剣で」

「…えっあっと…ど、どうぞ…」

 

いきなり聞かれて困惑しながらも許可を貰ったので大丈夫だろう。ボクもここに来るまで腰に刺した剣を取り、キリトと同じように《ホリゾンタル》を放つ。

「ヤアッ!」

狙ったピンポイントを寸分違わず貫き、轟雷にも似た炸裂音を周囲に響かせた。その切っ先は、青薔薇の剣と遜色がないと言わんばかりに深く切り込まれていた。

 

「さすが、剣の重みが違っても速さが比にならないな」

「まあ、軽い利点は早さだからねー」

 

軽口を叩き合い、同時にユージオの方を見ると、すっかり彫像になってしまったかのように固まっていた。

 

「ユ、ユージオ?」

「キリト、ユウキ…今のってもしかして、剣術かい?」

 

どうやら、この世界でも剣から光を出して振ることはそうおかしくはないみたい。いや、おかしかったらなぜボクたちが使えるのかと言う話になるのだが。

 

「…ユウキはあの歳で剣術を使えてたとは思えないけど、2人ともここに来るまでの天職はもしかしたら街の、いや央都で剣士をやっていたかもね。名のある所じゃないと剣術は覚えられないらしいから…」

 

驚愕から戻ったのか再び話し始めるユージオ。その言葉の端々に希望を見出そうとする意思が感じられる。恐らく…

 

「ねえ、2人の使う流派はなんだい?」

「流派…」

 

困った。この世界の流派なんて知らないし、勝手に名乗るのもダメだろう。ならばボクたちが流派の開祖になるとしても、うまい名前が思いつかない。するとキリトが、

 

「アインクラッド…」

「え?」

「俺たちの流派はアインクラッド流剣術だよ」

「アインクラッド流…聞いたことがない流派だね…。それでその…」

 

どうやらキリトはソードスキルを学び、鍛えた場所を使って名付けたみたい。それ、キリトはいいけど僕の場合アスカ・エンパイア流?アルブヘイム流?などと思いに耽っていると、ユージオが何かを悩むそぶりを見せ、顔を俯ける。数秒後、その瞳は何かを決意した色を映していた。

 

「2人とも、僕に剣を教えてくれないか?もしかしたら何かの規則には違反するかもしれないけど…」

「…天職と同時に剣術を磨いちゃダメとか言う規則でもあるの?」

「それはないけど…でも、『複数の天職を兼務してはならない』とあってもしかしたら、それに該当するかもしれない…」

 

ユージオは再び顔を俯く。彼は今、迷っている。掟と自分の意思でどうするかを葛藤している。この世界の規則には、自ら破ろうとすると強制的に服従される。ただそれだけの選択がこれほど重い選択になるのだ。

(頑張って、ユージオ。もう君は強い。恐怖を持ちながらもあのゴブリンに立ち向かえたんだから)

 

「でも、僕は…強くなりたい!無くしたものを…取り戻すために」

「…アリスを助けに行くんだな?」

 

再び覚悟を確かめるようにキリトが問う。

 

「…僕はアリスを連れ戻したい!この6年間、ずっとあの時のことを忘れなかった。ずっと後悔してた。なんであの時踏み出せなかったんだろうって!…僕は強くなりたい!もう2度と同じ過ちを繰り返さないために…もう、逃げたくない!キリトやユウキのような剣士になりたいんだ!」

「「………」」

 

ユージオの覚悟を聞いたボクとキリトはその答えをすでに決めていた。

 

「うん、教えるよ」

「当たり前だ。でも、俺の修行は辛いぞ?」

「望むところだよ…」

 

手をグーに出したボクとキリトの手を合わせるように拳を突き出して言う。

 

「ああ…きっと僕は、僕を導いてくれる…2人と出会えるのを待ってたんだ」

「ああ、俺も、お前と出会うためにこの森で、目覚めたんだ…」

「…うん、きっとボクがここにいるのは、ユージオのために、そしてボクのためでもあるんだよ」

 

涙交じりにきっとこれは運命だ、と言うユージオにそう返した。ユージオは「ユウキのためにも?」と不思議そうにしていたが…まだちょっと恥ずかしいので言わないでおく。

 

 

 

それからキリトとボクによるユージオへの剣術の指南が始まった。

もう斧をほぼ振らせず、青薔薇の剣に馴染むように素振りを何回もさせた。剣の握り方や体重移動、ソードスキル発動の練習をしながらも真似て動きを覚えていく。もちろん最初からソードスキルを使えず、雨の日も、風の日も毎日剣を振り続け、鍛錬を積み続けた。

素振りだけでは余計な癖がつくのでボクとキリトが試合相手として(もちろん怪我がないように枝などで)攻撃や防御、対応の仕方などを体に教え込む。

 

ただ、いい意味で予想外だったのがユージオの才能、成長力だった。

 

最初は素人なのでALOで戦ってきたどの挑戦者よりもはるかに弱く、単純な剣捌きだったが、徐々に青薔薇の剣に慣れてきたユージオは決して油断できず、気付けばそこそこ強いプレイヤーよりも強いのではと思うようになった。

 

そうした日々が過ぎ、ソードスキルのライトエフェクトも纏う頃にはギガスシダーに対し、剣心一体となって《ホリゾンタル》を放てるようになった。ソードスキルにも慣れるためギガスシダーを的代わりにしていたある日、その時は唐突に訪れた。

 

横一閃技《ホリゾンタル》を放った時、ギガスシダーがそれまでにない不気味な軋み声を発した。ボクたちは唖然として顔を見合わせ、次いで遥か頭上に伸びるギガスシダーの幹を振り仰いで、驚愕のあまり凍りついた。樹が、徐々にボクたちに向かって倒れ込んでくるのが見えたからだ。

 

「おい、やばい!倒れるぞ!」

「あ、ああ!」

「下敷きになる前に早く逃げて!」

 

まだ1メートル近く残っていた幹の厚み部分が、のし掛かる重さに耐え切れず、石炭のような欠片を撒き散らしながら圧潰していった。巨樹の断末魔は雷が十発次々に落ちた以上の凄まじさで、破壊音は村の中央広場を突き抜けて北の端の衛士詰め所まで鮮明に届いたらしい。

 

ボクたちはそれぞれの方向に逃げ出した。オレンジ色に染まり始めた空を黒々と切り裂きなからギガスシダーはゆっくりと倒れていき、とうとうその巨体を大地に横たえた。途方もない衝撃でボクたちは吹っ飛ばされた。キリトとユージオは受け身を取れずに天命が結構減ったみたい。

 

その後すぐに起き上がり、樹の倒れた方向と真逆の位置に立ち、ポツリとユージオが呟く。

 

「夢みたいだ…こんな日が来るなんて…」

「そうだね」

「けど、夢じゃないぜ」

「うん、これで、ようやく…」

 

そこからボクたちは無事切り倒せたことを喜び合い、笑いあった。

 

 

ギガスシダーを切り倒したことはすでに村中に広がっており、その晩では村の人総出で祭りが開かれた。村の中央では櫓が組まれ、村の人たちは踊ったり、演奏を披露したり、並べられた料理を食べたりして盛り上がっていた。

 

それを少し離れた場所で見ていると、キリトがりんご酒を持って、

 

「いやあ、意外とこの村って人がいたんだなぁ」

「僕も、村の人がこんなに集まるのを見たのは初めてかもしれないな。年末の大聖節のお祈りよりも多いよ、絶対」

「あのお祈り、手伝いとはいえボクも結構手伝わされたなぁ。あれだけは結構大変なんだよね」

「ははは、なら早く終わってよかったよ。そんなん手伝わされるのは勘弁だ」

「関係ないユージオでもちょっと手伝ってくれたのに?」

 

苦労した人を前に真顔で言ってのけるキリトをジト目でみる。キリトも居た堪れなくなったのか、別の話題に変える。

 

「い、いやあ村中賑わってるなあ、なんだって九百年も早いお祭りだからな!」

「そのことで村会議では揉めたらしいけどね」

 

村にギガスシダーが切り倒されたことが伝わった時、九百年も早くお役目を果たしてしまったことを罰する話題も出たらしい。まあ、流石に村長が止めて、掟通りにする、と決めたらしい。

掟通り、というのはずっと前にユージオが言ってたアレだと思い、ユージオの晴れ舞台を見届けようと決めた。キリトはよくわかってないけど、ユージオがすぐにわかる、と言っていたのでボクは何も言わない。

 

そこまで考えてから、香ばしい肉の香りがすることに気づいた。キリトも見つけていたようで、ユージオと一緒に串焼きを取る。

肉汁溢れるお肉なんて滅多なことじゃ出されない。あまりの懐かしさと美味しさに感動し、せっせと口を動かして味わうことに没頭してしまった。もっとも、キリトも同じ反応だったみたいだが。

 

「なあ、ユージオ」

「ん?」

「お前、この後…」

「あーっ!こんなとこにいた!お祭りの主役が、何やってるのよ」

 

キリトが次の言葉を言う前にセルカがやってきた。セルカは普段と違う装い…いつも修道服を着ていたのが髪を解いてカチューシャを飾り、赤いベストと皮色のスカートを身につけていた。そして、普段と違う雰囲気を出していた。あまり笑顔を見せないのだが、こちらを見るとパァッと微笑んだ。

 

「セルカ、いつもと違うねー?」

「え、そうかしら?それより、一緒に踊りましょうよ!」

「い、いや僕は踊りが苦手で…」

「俺も記憶が…」

「そんなの、やればなんとかなるわよ!」

「うん、踊ろう!」

 

実は、あまりお祭りに参加するといったことをこちらであまりできていなかったため、ワクワクしていたけどユージオたちが乗り気じゃないので引いていたのだが、そうとなったら話は早い。ユージオの手を引いて、

 

「ほらほら、行こうよ!」

「わ、わかったよ」

 

セルカと一緒にユージオとキリトを村の広場の真ん中まで連れていくと、途端、周囲からわっという歓声が上がり、踊りの輪に飲み込まれていく。

ダンス自体も簡単なもので、こっそり練習していたためユージオの手を取りながら踊っていると、セルカもユージオと踊りたそうだったので適当なタイミングで彼女に渡した。次はキリトと踊って、軽いコツを教えながらステップを踏む。そうこうしているうちに、不意に音楽が高まりつつペースを上げていき、そして突然終わった。

 

周りを見渡すと、いつのまにか立てられたステージがあり、村長、ガスフト・ツーベルクがそこに立っている。 村長は両手をぱんぱん叩き、よく通るバリトンで叫んだ。

「みんな、宴もたけなわだが、ちょっと聞いてくれ!」

周りが静かになると、一息ついて

 

「ルーリッドの村を拓いた父祖たちの大願はついに果たされた!肥沃な南の土地からテラリアとソルスの恵みを奪っていた悪魔の樹が倒されたのだ!我々は、新たなる麦畑、豆畑、牛や羊の放牧地を手に入れるだろう!」

 

村長が高々と宣言する。それに村人は歓声をあげる。

 

「それを成し遂げた若者――オリックの息子ユージオよ、ここに!」

 

村長が村人の輪の一角を指すと、その先に、緊張した顔で進み出るユージオの姿があった。照れくさそうに頭を掻きながら、村長の隣の壇上に登る。彼がこちらに向き直ると、 今まで最大の歓声が浴びせられた。ボクたちも負けじと両手を打ち鳴らした。

 

「掟に従いーー天職を成し遂げたユージオには、自ら次の天職を選ぶ権利が与えられる!このまま森で樵を続けるもよし、父親の後を継いで畑を耕すもよし、牛飼いになろうと、酒を醸そうと、商売をしようと、なんなりと己の道を選ぶがいい!」

「………」

 

村長から次の天職の宣言を求められたユージオは困ったようにうつむき、ぐしぐしと頭を掻き、左手を何度も閉じたり開いたりした。

隣でキリトがソワソワしてて、今にも乱入しそうにしており、ボクが諌めようとする前にすぐ隣から小さな声が聞こえた。

 

「ユージオ…村を出るつもりなのね」

「そ、そうなのか?」

「そりゃそうだよ。ボクたちは村で生まれ育ったわけじゃないからいいけど、ユージオにとっては今まで村の近くしか出たことないんだから」

「ああ、そうか…」

 

そして、ためらいがちに動いていたユージオの左手が、腰の青薔薇の剣の柄をぐっと握った。顔を上げ、まず村長を、次いで村人たちの輪を見回したあと、大きなはっきりした声で言った。

 

「僕は――剣士になります。ザッカリアの街で衛兵隊に入り、腕を磨いて、いつか央都に上ります」

 

しんとした静寂のあと、村人の間に、さざ波に似たどよめきが広がった。しかしそれは、あまり好意的なものではないように思えた。大人たちは皆、眉をしかめて周りの者に首を寄せ、ぼそぼそと何か言い合っている。そしてそれは、ユージオの家族たちも例外でなかった。

村長はその声を片手を上げて静めるとユージオの方を向いた。流石の村長も驚きを隠しきれてないが。

「ユージオ…お前は、まさかーー」

そこで言葉を切り、表情を改めると、

「いや、理由は問うまい。天職を選ぶのは教会の定めた君の権利なのだからな。よかろう、ザッカリアの長として、オリックの息子ユージオの新たなる天職を剣士と認める。望みのままに流離い、その腕を磨くがよかろう」

 

キリトはあからさまにホッとして村人たちも思い出したように手をたたきあい、再び歓声が湧き上がった。ボクはユージオの宣言に感動していた。

その日は、夜通しで祭りが盛んに行われた。

 

 

 

ボクは他のみんなが宴をしている間に教会にいく。セルカも早く休むみたいでもう帰っているはずだ。

 

「おや、ユウキ。どうしましたか?」

「シスター、話があるんです」

「…今は祭りで教会の仕事もあまりないですが、もう夜なのでなるべく早めに」

「はい。ええと、ボクもユージオと一緒に行きます」

「…天職をそれに決めたのですね?」

 

小さく頷いて肯定する。思えば、10歳の頃からここにいるのだ。なんとなく感慨深さに耽っていると

 

「私にはそれを止める権限はありません。それが、あなたの後悔しない選択ならば引き止めもしません」

「…はい」

 

(まあ、こういう話は淡々と進めるよね。たしかに、2度と戻らないと確定してるわけじゃないし…)

 

「…ですが、セルカやここに住む子供たちにとっても、あなたは彼らの家族です。もし何かあっても、ここに帰ってきてくださいね」

「…!うん!必ず帰ります!」

 

自分のことは言わなかったが、シスターの優しい顔を見ればわかる。きっとシスターにとっても気持ちは一緒で、それがなんだか嬉しくてたまらない。喜びを噛み締めていると、声が聞こえた。

 

「ユウキも、行っちゃうの?」

「セルカ…うん。でも、必ず帰るよ」

「…なんとなくそんな気はしてたの。きっとユージオと一緒に行くって。でも、ちゃんと無事に帰ってきてね?」

「もちろん!」

 

セルカも、きっと心寂しいだろう。ユージオを兄のように慕ってたのは近くにいたからよく知ってる。ボクもいなくなればセルカがここで年長者になって大変だろう。それでも、何も言わずに見送ってくれた。

 

「セルカ、あなたは強いよ。あの洞窟のことだって、ここでの生活だってしっかりしてる。セルカにはセルカにしかできないことだってあるんだから、焦らず、ゆっくりと頑張れば自信だってついてくるよ」

「……うん」

 

そう言うと、セルカは目に涙を浮かべて抱きついた。ボクも優しく頭を撫でながら抱き返す。

 

しばらくすると、そこそこ酔ったキリトがユージオに肩を貸してもらいながら帰ってきた。どうやらあの後、思いっきり楽しんできたようだ。ボクは自分の荷物の整理とか色々あったので、セルカにキリトを任せて自室に入った。

…翌日、セルカがキリトを見て、顔を赤くしていたのはなんだったのか、後で尋問せねばなるまい。

さらに、翌日の明朝にだいぶ機嫌の良さそうな顔を見せており、今度はユージオが何やったのかな、と問いただすことを心に決めた。

 

 

「お待たせ、ユージオ、キリト」

「うん」「おう」

 

数日後、準備を整えたボクたちの出発の日がやってきた。ルーリッド村の入り口で、待っていた2人に挨拶して迎えてもらう。ボクはお弁当も作っていたので少し遅れた。

 

「それじゃあ、行こうか」

「ああ」「うん」

 

ユージオの言葉と共に三人は村を離れ、ザッカリアの街へと向かい始めた。

 

(いよいよだね。だいぶかかってしまったけど…ようやく前進できた。大丈夫、あのギガスシダーを切り倒せたんだから、きっとみんなでならなんだって乗り越えられる。)

 

街道を歩きながら、ユウキは己の道を信じる。

 

「それにしても、央都ってどんなとこだろうね?」

「さぁな〜」

「うーん、少なくともルーリッド村より何倍も大きくて、ユージオが見たら卒倒するんじゃない?」

「ええぇ!?そんなに!?」

「別にボクも見たわけじゃないから、なんとも言えないけどね」

 

そんな風に笑いながら話していると、つい先刻までは晴天だった空に、西の端から小さな黒 雲が伸び上がっているのが見えた。

 

「ちょっと風が湿ってきたね。今のうちに進んでおいたほうがよさそうだ」

「…そうだな。急ごう」

「?キリト、どうかした?」

「いや、幸先悪いなって」

「あー、そうだねぇ」

「ほら、2人とも。早く行くよ」

「……うん!」「……ああ!」

 

先行くユージオそう応えると、早足で追いかけた。

 

 




今回はユウキもいるので、セルカへの励ましとフラグは全員でやりました(笑)。一気にルーリッド村編を終わらせました。
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