人工フラクトライトとして紫の十字架は生まれ変わる   作:出涸らし皇子のファン

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この話はユージオ視点です。ここから原作にどう関わるかめちゃくちゃ悩んでおり、どこまで改変するか決めておりません。


第四話 物語の始まり

 

「やっ…はっ…せいっ!」

 

高く澄んだ音が鳴る。続けて斧を振る。

しかし今度は狙いが外れ、木の樹皮に当たる。それだけならいいのだが、雑な一振りは衝撃を本人に返す。たちまちユージオは斧を手から落とし、後ろに倒れる。

ただ、彼はまだ規定の回数を終えていないので再び斧を取りまた切り込む。

強く振る、振り上げる、叩き下ろす。それだけの動作だが、斧はとても重く、持つだけで重労働だろう。

ユージオは自分に喝を入れるため大声で自分の叩いた回数を数え、振り回す。

 

「四十…九!五…じゅ、う!」

 

最後の一撃はまたしても盛大に狙いを外す。幹に刻まれた斧目から遠く離れた樹皮を叩いて、耳障りな金属音を撒き散らした。

再び倒れるとぜいぜいと荒い息を吐く。少し離れた場所から声が飛んでくる。

 

「いい音がしたのは五十回中三回だったな。ぜんぶ合わせて、えーと、四十一回か。どうやら今日のシラル水はそっちのおごりだぜ、ユージオ」

「ふん、そっちだってまだ四十三回じゃないか。まだまだ分からないよ。そら、お前の番だよ、キリト」

 

ユージオはシラル水をガブガブ飲んで、応える。

 

「それにしても、いつになったら切り倒せるんだろうな?これ」

「さあ…少なくとも僕らの代じゃ無理だろうね」

 

キリトはそれに応えず、おもむろに悪魔の木とも呼ばれるギガスシダーに近寄り、右手をかざす。

 

「おい、やめとこうよキリト。無闇とギガスシダーの天命を覗くなって言われてるだろ」

「前に見たのは二月前だぜ。もう"無闇"じゃなくて"たまに"だよ」

「まったく、しょうがないなあ。……おい、待ちなよ、僕にも見せてよ」

 

そうしてキリトは『ステイシアの窓』を開く。

そこに表示されたのは下に30万を超える数値と上に235542と並んでいる。

 

「あー、先々月は幾つだっけ?」

「えっと…235590ぐらいだったような…」

 

しん、と一旦静まり返る。が、黒髪の少年がそれを破るように叫ぶ。

 

「たった50!ふた月かかって23万のうちたった50じゃ、いつまで経っても切り倒せねーよ!」

「いや、だから無理だってさっき言っただろ?何せ、三百年かけてようやくこれなんだから、単純に考えて、ええと…九百年、後18代はかかる計算だよ」

「お〜ま〜え〜は〜」

 

頭を抱えていたキリトはユージオに飛び掛かった。不意をつかれたユージオが回避できるわけもなく、その場に倒れ込む。そこにキリトがユージオの上に馬乗りになる。

 

「なんでお前はそう優等生なんだ!もうちょっとこの現実をどうにかしようと悩め!」

「うわっなにすんだよ!」

 

口調では怒っているようだが、実際の顔は満面の笑みでユージオの髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。ユージオも負けじとキリトの裾を引っ張ってゴロゴロ転がると、先ほどと立場を逆転させる。

 

「そら、お返しだ!」

 

そう言ってユージオはキリトにやられたように髪をぐしゃぐしゃにしようとする。しかしキリトの髪はツンツンしてて、あまり効果がない。

やむなく、髪は諦め、脇腹のくすぐり攻撃へと移行する。

 

「うぎゃっ、そ、それは卑怯…」

「こらーっ!またサボってるわねー!」

「うっ」「やべっ」

 

不意に背後から声が聞こえて、二人とも振り返る。そこにはバスケットを持った金髪にリボンの合う少女と同じくバスケットを持った紫の髪にカチューシャを付けた少女が立っていた。

 

「や、やあ、今日は早いね。アリスにユウキ」

「早くないよー?いつもの時間だよ」

 

金髪の方の少女の名前はアリス。ルーリッドの村長の孫娘で、歳はユージオ、キリトと同じ十一だ。

ルーリッドの――いや、北部辺境地域に暮らす子供は全員、十歳の春に"天職"を与えられ仕事見習いに就くのがしきたりなのだが、アリスはわずかな例外としてそのまま教会の学校に通っている。とは言え、いかに天賦の才を持ちまた村長の娘であろうとも、十一になる娘に一日中勉 強をさせておけるほどルーリッドは豊かな村ではない。働けるものは全員働かないと厳しい冬を村人皆が無事に越すことが難しくなる。

 

また、彼女の隣にいる紫髪の少女の名前はユウキ。年はおそらく僕らと同じくらいだろう。なぜ疑問系なのかは、この子がベクタの迷子で、今までの記憶を持っていないと言われている。まあ実際は人間関係など覚えていることが多々あるが。しかし、この世界の絶対の法である禁忌目録を覚えていなかったりと、記憶がないからと村の人たちにはある意味でベクタの迷子だと信用されている。村で生まれた子じゃないので教会に住み、手伝いをしている。一応特例として自分で転職を決めていいと村長から言われているがまだ転職を決めていない。

 

アリスは今カンカンに怒っているそぶりをしており、ユウキはそれを見て苦笑している。

そしていまだに呆けている僕らにアリスが再び雷を落とそうと息を吸い込むが、そこでようやくユージオはキリトから離れ、キリトが

 

「さぼってないさぼってない! 午前中の既定労働はもうちゃんと終わったんだよ」

「あら、それが終わっても喧嘩する元気があるならガリッタさんに言って回数を増やしてもらったほうがいいかしら?」

「や、やめてそれだけは!」

 

ただでさえとんでもない苦行である仕事をさらに増やされるのはたまったもんではないので必死に懇願する。

 

「冗談よ。――さ、早くお昼にしましょう。今日は暑いから、悪くなっちゃう前に食べないと」

「そうだね、早く食べちゃおっか」

 

そう言ってアリスとユウキはバスケットを下ろし、大きめな白い布を敷くと、待ってましたと言わんばかりにキリトが上に飛び乗る。ユージオもそれに続くと、2人はバスケットから次々と料理を出した。

 

「「おおっ!」」

 

パイにサンドイッチ、果物にミルクとご馳走が並べられ、飢えた労働者

は思わず声を上げる。

早速食べようとするキリトを制し、ステイシアの窓を見る。

 

「うわ、ミルクはあと十分、パイも十五分しか持たないわ。走って来たのになあ。――そんなわけだから、ちょっと急ぎ目で食べてね」

「でもちゃんと噛んで食べてねー!」

 

お腹の空いた労働者2人はいただきますも言わずに次々と料理に手を出す。アリスとユウキも走って疲れたのか2人と同じくらいのペースで食事をする。やがて食べ終えてようやく4人は息をつく。

 

「はあ、おいしかったなぁ」

「ああ、腕があがったよな、2人とも」

「そう、それは良かった。ね!アリス!」

「そ、そうかしら。私はまだまだだと思うけど…」

 

料理人2人はまだまだサディナおばさんに手伝ってもらっているが、二人だと上達も早いのか普通に上手くなっている。そう思い耽っているとキリトが、

 

「それにしても、こんだけうまいんだからもうちょっとゆっくり味わって食べたいよなぁ、なんで暑いとすぐ悪くなっちゃうんだろうなあ…」

「なんでって…」

「ああ、冬なら生のハムを外に放ってもしばらく待つじゃないか」

「うーん、寒いからじゃない?」

「それだ!なら寒くすればお弁当だって長持ちするはずだ!」

 

キリトが名案を思いついた、と言わんばかりに大声をだす。しかしその案は…

 

「寒くするったってどうやるんだよ。まさか禁忌の術でも使って雪でも氷でも降らすか?そしたら明日には央都から整合騎士がやってきて捕まるぞ」

「う、うーん。いい案だと思ったんだけどなあ…」

 

未だにうんうん悩むキリトは放っておいて、そろそろ午後の労働を再開しようと声をかける、その時にユウキが、

 

「あっ、ならさ、お弁当の中身を冷やせばいいんじゃない!?」

「おいおい、ユウキまでなに言い出すんだよ」

「悪くない考えね」

「えっ…」

 

ユウキまでノリに乗るとは思っていなかったが、割とこうだったな、と思っていたらまさかのアリスまで参加して、味方がいなくなってしまった。

 

「で、でもアリス、」

「別に禁忌を破ろうってわけじゃないわよ。ユウキの案なら、井戸水とかシルベの葉っぱでも十分効果があると思わない?」

「あ、ああそうか」

「なるほど!」

 

そう言われるとたしかに、なんも問題ないし、結構お手軽な方法だと思った。これなら運ぶ間だけならいけるかも…と考えているとキリトが否定した。

 

「うーん… それだけじゃたぶんムリだよ。井戸水は、汲んで一分も置けばすぐにぬるくなっちゃう し、シルベの葉っぱはちょっとヒヤっとするくらいだし。とても、運ぶ間冷やせるとは思えないよ」

「なら、他にどんな方法があるってのよ」

 

自分の考えた案にケチをつけられたアリスは唇を尖らせながらそう返した。キリトもまだ悩んでいる様子だったが、隣のユウキが代わりに言った。

 

「そうだ!さっきユージオが言ってたけど、落ちてる氷を使えばいいんじゃない!?それなら禁忌でもないでしょ!」

「え、ええ」

 

たしかに冗談で言ったような気もするがそもそも…

 

「あのねえ、今は夏なのよ?こんなに暑いのにどこに氷があるのよ?」

「あっそうか、うーんダメだなぁ」

 

ユウキもそれに気づき、しょんぼりするが、キリトが何か閃いたようだ。しかし嫌な予感がしたので恐る恐る聞く。

 

「おい…またなんか思いついたのか?」

「ああ、ユウキの言ってた氷についてなんとかできるかもしれない」

「えっ、ほんと!?」

 

早速ユウキが食らい付くが、一体なんなのかまだ言っていないだろう。

 

「なあ、前にユージオの爺ちゃんが話してくれたお伽噺覚えているか?」

「ん?」「どの話…?」「なになにー?」

僕のお爺ちゃんはさまざまなお伽噺を話してくれた。数百にも渡る話だったので僕はもちろん、アリスにも思いつかないようだ。ユウキに至ってはもう聞く気満々だ。

 

「夏の氷といったらあれだろ。『ベルクーリと北の白い竜』」

「おい、冗談だろ!?」

 

僕は嫌な予感が当たったと思い、否定しようとする。

 

「えーっと、それってたしか、ベルクーリって人が川に流れてた氷の原因を調べるために川に沿って果ての山脈の洞窟に入って、白い竜と出会う話だよね?」

「ええ、そうよ。そこで剣を取ろうとしてばれて、謝るのよね」

 

ユウキがあらすじを言ってアリスがそれを捕捉する。

 

「つまり、ルール川を見張って、氷が流れてくるのを待とう…っていうこと?」

「そんなん待ってるうちに夏なんて終わっちまうぜ。あの話じゃ、洞窟に入ったらすぐにでっかいツララがいっぱい生えてたって言うじゃないか。そいつを二、三本折ってくれば、じゅうぶん間に合うはずだ」

「だ、だからってなあ…」

 

助けを求めるようアリスとユウキに視線を向けるが、残念なことに2人とも興味津々の顔でユージオは肩を落とした。

 

「わるくないわね」

「あ、アリス…」

「いーじゃん!」

「ユウキもか…っていうか、村の掟とかはどうすんだい?」

「ユージオ、村の掟では、大人の付き添いなく、子供だけで果ての山脈に遊びに行ってはならない、よ?別に氷を探すだけなら遊びじゃないわ!」

 

それは結構無理矢理じゃないかな、氷を探しに冒険すると言ってもいいのでは…

 

「単なる遊びなら仕事が捗るように頑張らないわ。お弁当が美味しく保存できればあなたたちの仕事も進むでしょ?だから問題ないわ!」

 

まるで僕の心を読んだかのようにアリスが言う。

 

「ユージオは結構わかりやすいからねー」

 

ユウキにも言われた。僕ってそんな顔に出るのかな?いや、それよりも、

 

「で、でもさ、村の掟はそれでやり過ごすにしても、まだあれがあっただろ?果ての山脈に行ってはならないって」

 

あれ、と言っているが3人は僕の言わんとしたことが分かったようで黙りこくる。

あれ、というのは『禁忌目録』のことだ。禁忌目録、とは、遥か央都に天まで貫く巨塔を構える世界中央神聖教会が発行する分厚い黒革装の書物だ。その中には 教会が定めた「してはいけないこと」がびっしりと千を超える項目が列挙してあり、それを全て暗記するのが学校の授業のうちでも最重要の科目となっている。そして、それを破ると央都から整合騎士が捕らえにくると言われている。

 

「まさか、禁忌目録を破るわけにもいかないだろ?」

「「「………」」」

 

これにはさしものキリトとユウキでもすぐに返せず、思案していた。

しかし、アリスはそうでもないようで、

 

「ユージオ・・・目録に書かれているのはこうよ?禁忌目録第1章3節11項・・・何人たりとも、人界の果てを囲む『北の山脈』を超えてはならない、超えるってのは登ってダークテリトリーに進むことよ。洞窟に入って氷を探してはならない、なんてどこにもないわ」

「なるほど、じゃあ入っても大丈夫だね!」

「うーん…でもなぁ」

「ほら、村で一番ちゃんと目録を暗記してるアリスがそう言うなら間違いないって! よし決まり、次の休息日ははくりゅ…じゃない、氷の洞窟探しだ!」

 

どうやら3人の中では決定したようで、これはもう無理だと判断した僕は諦めて弱々しい笑みを浮かべるだけだった。

 




はい、いかがでしょうか?あまり原作に添いすぎてつまらなくなってしまったでしょうか…
次回はユウキ視点に戻ります!
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