人工フラクトライトとして紫の十字架は生まれ変わる 作:出涸らし皇子のファン
この話は原作に入る前話です。
「………」
「…ご馳走様」
「…うん」
あれから、2年くらい経ったかな。ボクは変わらずお弁当を作り、ユージオに届け、一緒に食べる。しかし1年前はたったそれだけの間にも普段の生活がどうとか、安息日はどこに行こうとか、そんな話で盛り上がって、充実していた。今はもう、ただの確認、作業だ。アリスがいなくなり、2人になるだけでここまで疎遠になるとは思わなかった。
「ね、ねえ、天職を受けて3年だったよね?だいぶ慣れたんじゃない?」
「いや…」
「そ、そうなんだ〜」
…あれからずっとこの調子だ。何とか話題を見つけて話そうとしても素っ気ない一言だけ。何でここまで気まずくなっちゃうんだろう。昔はアリスがいないところでも話題なんかなくても楽しく話せた仲だったのに…
「じゃあ、今日はこれで帰るね。午後の分もがんばってね!」
「うん…」
一応返事もしてくれるし、ボクを嫌っているわけではないみたいだけど…やっぱりすごくショックだ。もう、アリスのことも思い出したくないのかな…
「はあ…」
「あら、お帰りなさい」
「うん、ただいま」
教会にはシスター・アザリヤがいて、ボクはそこに居候している。未だ天職を決めていないボクに迷惑だと思っているかもしれないという後ろめたさからちょっとした神聖術の勉強など以外に、あまり会話はない。
それに、ユージオと違いボクは直接整合騎士の公務を妨害しようとしてたからか村からもあまり良くない印象を受けている。村の中にはあんな協会の忠誠などない娘など追い出せ!追放しろ!今度は村が罰せられるかもしれんぞ!といった声が上がり、村長も宥めるのに苦労したそうだ。一応、教会以外に村の老人の介護みたいなことをしたり、困ったら手伝うなどなるべく善行をしてきたからか処罰無しに落ち着いたけどね。
まあ、ボクも後一歩でアリスと同じくダークテリトリーの侵入とやらをしそうだったし、あながち間違いではないが、それにしたってみんなアリスが最初からいなかったかのように振る舞うのはおかしいだろう。
それにユージオは特に悪戯好きとして知られているからか誰も関わろうとすらしない。そのユージオも仕事は1人でギガスシダーの元にいて、安息日には家に閉じこもるか誰にも言わず村の外に行く。かなり朝早く行くのか、追いかけようとしてもすぐに行方がわからなくなる。
とりあえず今日の仕事を終わらせて、ベッドで横になる。
…本当に何でこうなっちゃったんだろうな。ただの子供として当たり前の幸せを感じながら日々を過ごしたいだけなのに…。それが現実じゃ生まれた時から難しく、友達も消えていく。仮に現実に戻れたとしても、スリーピング・ナイツは寿命がかなり短く、意識がないか、すでに帰らぬ人となっているかもしれない。
この世界じゃ拾われて、受け入れてくれた優しい人がいて、親友になってくれて、これ以上はいらないほどに幸せだったのに…また、いなくなる。
また、独りぼっちになる。
それが怖くて、どうしても眠れず、ベッドの上で膝を抱える。震えが止まらない。
…ボク、こんなにも弱いんだ。あの世界じゃVRワールドに出会って、仲間ができて、自分たちの武器を手に入れ、戦う。残り微かな命を燃やし、何か生きた証が欲しくて剣を振るう。その時は間違いなく剣に誇りを、戦いに命をかけ、それでも突き進めたのに。
今は、剣も、あの世界での力も、何も無い、ただの子供だ。
はは、こんなのが絶剣と呼ばれていたなんて笑えるね。
違う世界から来たことを結局アリスとユージオには伝えられてない。それでも彼らに縋りたくて、縋れなくなるとこんなに心細い。
…?今、何かおかしいようなことを考えたような…?
でも、1人で震えていたって何も変わらない。たとえ思い通りの日々じゃなくても、せめて何かこの世界で得られたってアスナに言えるために。何か、方法を考えるんだ。アリスを助けるための。またあの日々を過ごして、みんなで笑えるように。
そのためには、ユージオの協力が不可欠。まず心を閉ざしてしまった彼との絆を取り戻さなくちゃ。
ーー明日、もっと踏み込もう。
翌日、いつも通り教会でお弁当を作り、ユージオに届ける。
「お疲れ様。ユージオ」
「ユウキ…」
「はい、お昼にしよ?」
無言で頷き、シートを敷いて座る。
もうユージオから話しかけてくることなんて滅多に無い。
「とりあえず、今日のはどうかな?」
「…まあまあ」
「いつもそれじゃん!もうちょっとこう、こういうところがおいしい、って前は言ってくれたじゃん!」
「っ!?…いつも美味しいよ」
「ならよし!」
いつもはそう言うところを追求せず、そのままだったため、ユージオも戸惑っているようだが、もうこのままで終わらせない。
「たまには何が食べたいかリクエストしていいんだよ〜」
「…?りくえすとって何だい?」
「あー、えっとね!注文のこと!」
「ふうん…」
「それで?なんか無いのかな〜?」
「別に…いつも作ってもらってるし…」
まだまだ素っ気ないが、いつもよりは返事もいい。よし、この調子で…
「今日は違うね。なんかあったのかい?」
「!心配してくれてるの?」
「…そりゃ、まあ…」
これは思った以上にいい展開だ。もうボクに愛想を尽かしてるわけでも無いみたい。ここで切り出すべきだろうか。
「えっとね…ちょっといいかな?」
「…」
無言の肯定。意を決して問い出す。
「ねえ、アリスのことなんだけど「っ!!」いきなりでごめんね?でもこれ以上このままでいたくないんだ」
「…」
ユージオは俯いたまま。
「2年前、整合騎士に連れ去られたけど、処刑されるところを見たわけじゃ無い。ボクはまだ信じてるよ。きっと、生きてるって」
目を合わせてくれない。やや不安になりながらも言葉を募ろうとする。
「だから、「…いいよ」えっ?」
急に遮られ、戸惑う。
「そういや、ユウキはまだ天職を決めてなかったね。それで行くんだろ?公理協会の元までアリスを助けに…」
「う、うん。でも、2人に教えてもらって、色々知ったけどボクはまだまだ街とか知らない。だから、ユージオに教えてもらおうと…」
「悪いけど、僕もザッカリアの街までの道とかもただ道沿いってことぐらいしか知らない」
「そ、それにどんな天職ならいけるの?」
「…剣士になるか、街まで届くほどの評判の神聖術師になれば公理協会から引き抜きされるかも」
「へ、へー…」
別に僕だってただ遊んでたわけじゃ無いのに、どうしてそんなことまで知ってんだろ…
「剣士としても、僕と違ってあの整合騎士に立ち向かおうと行けただけで充分じゃ無いかな。多分街まで行けば、その才能に目をつけ、引き取ってくれるかも。1人だけだと大変だろうけどね…」
「う、うーん。でも、ユージオは物知りじゃん。ボクなんか全然知らなかったよ。それに、ボク1人って何?ユージオは?」
「…行けるわけないだろ」
「え?」
「僕は天職がある。それに、僕は君と違ってただただ立っていただけだ。僕は2人を裏切ったんだよ「そんな事ない!」!?」
「そんなこと言ったら、ボクだってあの洞窟で倒れかけた!しかもユージオが助けてくれなきゃボクも連れていかれたかもしれない!もしボクがあんな所で倒れなければアリスも助けられたかもしれない!」
「ユウキ…」
「ねえ、そんなに自分を責めないでよ!ボク達だって親友でしょ!?1人で、背負おうとしないでよ!」
「…」
最後の方は涙交じりになっていた。でも、そんなことよりユージオの苦しみを、後悔を少しでも晴らしたかった。自分が不安になっていた時、ユージオは自分を責め続けていた。その半分はボクが背負うものなのに。思いと共にぶちまけたものが目から涙となって溢れる。
「お願い、ユージオ。少しは、ボクを頼ってよ…」
「…ごめん」
ようやく、ユージオは顔をこちらに向け、
「僕はずっと後悔してた。何でアリスを助けられなかったんだろうって。どうして、ユウキみたいに立ち向かわなかったのかって」
ユージオの独白。この2年、ずっと会話が出来ず、分からなかった本当の気持ち。
「持ってた斧を武器にして、アリスを助けるんだって。そう何度も心で繰り返し、行こうとした。でも結局動けなかった。今だって天職を捨て、迎えに行くことすらできない。そんな僕が、1番、どうしようもなく惨めで、情けないって…」
ユージオも何かを堪えながらも、話してくれる。この1年、ずっと後悔し続けた思いを。寂寥を。
「ううん、そんなことないよ。ユージオ。自分に自信がなくても、ボクが支える。だって今ここにいられるのは、ユージオがボクを見つけて、支えてくれて、助けてくれたから。今ここにいることこそがユージオの優しさ、勇気の証だって証明するよ。だから、大丈夫。キミがキミの思っているよりずっと強いって」
「…!!ありがとう、ユウキ」
「今度こそ、一緒にアリスを助けに行って、また3人で笑い合おうよ」
「うん、うんっ…!」
ユージオは涙交じりながらも笑ってくれた。
あれから2人で決意を共にし、とりあえず目下の問題であるユージオの天職であるギガスシダーについてどうするべきか悩んだが、いまいち思いつかない。まあ、そんな簡単に見つかったらこの300年のなかでとっくに見つけて、切り倒しているだろう。
「まあ、とりあえず2人で何ができるかゆっくり考えよう。どうせ切り倒すには時間はどうしてもかかるよ。それより、ユウキの剣とか、自分のことも考えなよ」
そう言われたので今はボク自身についてどうするのがいいのか考えることにして、帰ることにした。
まだまだ解決には一歩も進んでいないような気もするけど、それでもユージオとまたなにかできるのが嬉しくて、きっと何とかなると思っていた。
翌日、安息日だったのでユージオの家に行って、いろいろ話すことにした。
「昨日言ってたことなんだけど、ボクはアリスみたいに神聖術が上手くないし、体を動かすのが性分だから剣士になりたいんだけど、剣についてなんか当てとかない?」
「うーん、そういえば、物置小屋にやたらと重い剣があるけど…あれ、斧より重くてとても振れないんだよね」
「剣があるの!?」
「ああ、でもあれで切り倒すのはちょっと厳しいかな…。洞窟にあった青薔薇の剣に近いかも」
「うーん、ちょっと貸してくれる?」
「いいけど…ちょっとここまで持ってくるのは厳しいかな。物置小屋までいいかい?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こうか」
物置小屋に着くと、ユージオが中から細長い皮包みを出した。それだけでとても大変らしく、小屋を出るやすぐに地面に倒すように置いた。
「ふうっ…!やっぱり、まだまだ重いなぁ。とりあえずこれだよ、ちょっと待ってね」
「そ、そんな重いの?」
「うん…絶対に足とかに落とすなよ。怪我じゃすまないぞ」
「う、うん!」
再びユージオが手に取り、丁寧に皮包みの紐を解いて中の剣を出す。
それは、細剣ほどではないにせよ、相当細く、現実で使っていた愛剣マクアフィテルに近かった。色合いも紫色でより、かつて使っていた剣にダブって見えた。ただ、当然ながら装飾は違って、鍔があり、そこにはあまり見慣れない紋様が彫られていた。改めて見ると一種の芸術品のように美しく、青薔薇の剣にも引けを取らないように感じた。
「これは…」
「何の剣かはわからない。でも、こんなに細いのに青薔薇の剣とそんな変わらない。これも、間違いなく『神器』だと思う」
「これが、神器…」
「いつからここにあるのかさえわからないから気をつけて。ガリッタ爺も知らないみたいだし」
ボクはその剣に触れ、構えようとしたのだが。
「っ!!?おもっ!」
「ああ、言わんこっちゃない!」
剣の重みに耐えられず、倒れかけるが、ユージオが剣を支える。ボクは尻餅をつくけど、もし剣がそのまま倒れたら怪我どころじゃなかった。
「大丈夫!?」
「うん、ありがとう。それにしても、意外とユージオって力持ちなんだね」
「そりゃそうさ。3年もあの重い斧を振り続ければ十分鍛えられるさ」
「そっか、じゃあ大きくなればいつかその剣も持てるように、振れるようになるんじゃない?」
「なるほど…後何年かかるんだろうね、これ」
ユージオは天職が体を鍛えるようなものだし、まだまだ体が小さいから持たないのも仕方ないだろう。もしかしたらこれを続けているうちに何とかなるんじゃないかな…と考えてから問題に気づく。
「うーん、でもそれでユージオはよくてもボクがなぁ…」
そう、ボクはかつてのアバターのように強くもなく、おそらく一般的な力しかない。しかもユージオは男だからもっと力強くなれるけど、ボクは…
やっぱり鍛えるしかないかな。
「ねえ、なんか予備の斧とかない?」
「予備の?何で?」
「ボクもいつかこの剣を持てるくらい強くなりたいんだ!じゃないと整合騎士に勝てそうもないしね!」
「わかった。用意しとくってちょっと待って?ユウキはどうやって助けに行くつもり?」
うん?と何かに気づき、確かめるように聞いてくる。
「え?そのまま央都に行って騎士達をやっつけて囚われのアリスを助けるんじゃないの?」
言い終えるとユージオはキョトンとし、すぐさま驚愕4割、呆れ6割の表情で大声で叱る。
「そんなことしたら村にすら帰れなくなるよ!毎日追ってが来る逃亡生活じゃないか!?」
「じゃあ、どうすればいいのさ!」
「前に僕の夢を言わなかったっけ?剣士としてザッカリアの大会に出て優勝して、学院に入って上位を取って、また大会に勝てば整合騎士になれる機会を頂けるんだよ。その時にアリスの罪を赦してもらうようにお願いするんだよ」
「へ〜、…前から思っていたんだけど、何でそんなことを知ってるの?こんな村に街の方の話とかこないのに…」
うん、何で?この辺の話は別に誰もが知ってるとは思えないんだけど…
「僕も何かできることはないかと調べたんだよ。月に1回くる商人から話を聞いたりしてね」
「情報屋だ…!」
「そんな大層なものじゃないよ。この程度は当たり前だろ?」
「うっ…」
この程度すら思いつかなかったボクです。ゴメンナサイ。でも…
「ユージオも諦めてなかったんだね。全然気づかなくてごめん…」
「い、いや!ちょっと聞いて諦めてたから間違ってないよ!謝らないで!」
ボクが落ち込むとユージオが必死に慰める。なんだか昔みたいに戻った気がしてすぐに元気を取り戻せた。
「それより、予備の斧をどうするんだい?とりあえず外に立てかけておく?」
「あ、うん。これからはボクも鍛えることにしたからさ」
「…無茶しないでね?」
「善処するよ」
「確約できないんだね…でも、頑張ってね」
「そっちも」
こうして、とりあえず目標と方法を決めたボク達はそれに向かって全力で頑張るだけ。またちょっと話す機会が減るのは寂しいけど、またみんなで笑い合うために。今度こそ幸せに過ごすために進もうと決めたからあまり辛くはなかった。
今更ですが、ユウキは高位アカウントでもなく、STLを使ってダイブしてるわけでもなく、あくまで人工フラクトライトとして生まれ変わった体で行くのでキリトのことは覚えていません。また、容姿はALOに近いといっても、ステータスは一般人です。斧を持ってからかかったこと自体消されています。