人工フラクトライトとして紫の十字架は生まれ変わる 作:出涸らし皇子のファン
あとタイトル手抜きなのバレる…
あれからさらに4年が経った。ボクらは一生懸命体を鍛えたけど、あの剣はまだまだ重く、とても使いこなせない。ユージオは鍛え始めた1年後にあの洞窟から青薔薇の剣を3か月もかけて持ち帰った。きっとあの剣がユージオの剣になるだろう。
そして、ある日ーー
「今日は少し遅れちゃったなぁ…早く行かないと」
あれから毎日お弁当を作る前に斧を持って振るったり、剣を持ち上げようとしたり、軽く走り込みをしたりして体を鍛えていたのだが、今日は時間をかけ過ぎて、作るのも遅れてしまった。まあ、今の体力なら村からギガスシダーまで早く走り続けられるからそこまでじゃないだろう。
ギガスシダーの麓まで着くと、ユージオは切り口の所ではなく、その向こうに立っていた。いつもと違ってユージオはすぐにこっちに来ないで、向こうを見ている。そして、不意にーー
「僕はユージオ。よろしく、キリト君」
時が、止まったような感覚に襲われた。キリト…?まさか、キリトってあのブラッキーとか言われてた人…?アスナを取り合った恋敵の…?
「あ、ユウキ。お昼ご飯を持ってきてくれたんだね、ちょうどよかった」
「…あ、うん。それよりキリトって…」
「え…?ユウキ…?」
そこでようやく相手の顔を確認しようとそちらに顔を向けた。それは相手も同じだったのか、同じタイミングで、目が、合う。
そこにいたのはユージオが着ている服の色違いで黒く、髪も目も黒い。
その顔はあまりにも見覚えのあるものだった。あの、ボクが絶剣と呼ばれた世界で、最もボクを追い詰めた黒の剣士。現実でアスナに合わせてくれた、桐ヶ谷和人そのものの顔だった。
あまりの衝撃に立ち尽くす。それも向こうと同じようでただただ黙って見つめ合う。本当に、ボクが知ってる人なのか、いまいち確証が持てない。どうやって探るべきなのか、半ば思考停止した脳を動かし、考えるが何も行動に移せない。
「えーっと…2人ともどうしたのかな?」
ユージオが困った顔で尋ねてくる。正直、間を繋いでくれて助かった。
「え、えっとね…そう!珍しいから!ほら、黒髪黒目って村にもいなかったじゃん!だから、つい…」
「あ、ああ!俺も、まさかここに他に人がいると思わなくてな!ちょっとビックリしたんだよ!」
「う、うん…とりあえず、落ち着かない?ほら、2人ともお昼にしない?」
そういえばボクがお弁当を届けにきたってこと忘れてた。早く準備しなきゃ!急いで準備してお弁当の中身を並べる。すぐに天命を確認し、まだ大丈夫と告げる。その間に2人は呼び捨てでいいよ、とか少し僕の分を分けてあげるよ、といった会話をしていた。
「おお…これ全部、ユウキが作ったのか?」
「うん、前はだいぶ手伝ってもらったりしてたけど、最近は1人で作ってるかな」
「いつもありがとうね、ユウキ」
サンドイッチにパイ、果物はほぼ毎日作っている。中身が違うとはいえ飽きないのかな…でも、まだそれしか作れないし…
「おお、うまい!」
「あ、ありがとう。でも、大袈裟じゃないかな」
「いや、お世辞じゃないんじゃない?ほら、いつもユウキが作ってくれてるから、味もだいぶその手の料理人みたく美味しくなってるんだよ」
「そうかな…えへへ」
すると少し遠慮がちに、でもなんか面白がるようにキリトがこちらを見つめている。
「どうしたの?」
「いや…毎日ユージオに作っているのか?わざわざここまで?」
「え、そうだけど?」
するとキリトはニヤリとして、
「いやー、お2人は仲睦まじい関係なんだなぁって」
「な、仲睦まじいって…ちょっと待って!親友ではあるけどそうゆう仲じゃないから!」
「そ、そうだよ!何そんな邪推してんのさ!」
そう言いながらも少し顔が熱い。でも確かに、前だとそんなことしてちゃ疑われても仕方ないし、アスナがキリトにしてるのと似てるし…
というかこの弄り方、やっぱりあのキリトだ。
「それより、キリトはどうしてここにいるのさ?」
「あー、実は…全く覚えてないんだよな」
「うん、キリトもユウキと同じ『ベクタの迷子』だと思うよ。あれ、じゃあキリトもこの世界の常識を知らないのかい?」
「ああ、さっきユウキが見ていたのはオブジェクトのステータスってのはわかるけど…」
「?お、おぶじえ…?すてー?それもさっきのろぐあうとってのと似たようなのかい?」
「あ、ああ!これはだな、ええと…」
「ここでのステイシアの窓のことだよ」
言葉に窮するキリトに助け舟を出す。まあ、この世界に来たばっかじゃ仕方ないよね。慣れるのにだいぶ時間がかかったし。
「そ、そうそう」
「…もしかして、2人はお互いのことを知ってるのかい?」
「え!?ええと…」
「うーん、確かに関わりがあったような気がするだけで何も思い出せないかな」
もう今更全くの無関係を装うのは無理があるだろう。でも、全部明かすわけには行かないので、関係を仄めかすだけでいいかな。
「…俺もそんな感じかな」
「そっか…やっぱりそんな簡単にいかないね…」
「別にボクはボク自身だから、そんな顔しないで。それにボクはもうルーリッドの村の一員でしょ?」
「…うん、そうだね」
あまりユージオが記憶について気にしないよう、大丈夫だと伝える。確かにアスナたちも気になるけど、ここはもうボクにとっての居場所だから。
「とりあえず、キリトはこれからどうするの?」
「キリトにはもう言ったんだけど、シスターアザリヤの教会に泊めてもらおうと思っているんだ。ユウキも手伝ってくれる?」
「オッケーだよ。じゃあ、すぐ行く?」
「あー、そう、だな…」
「歯切れが悪いね。どうしたんだい?」
「ユージオはここで何やってるんだ?」
「ああ、天職を全うしているよ。ええと、僕の仕事はこれさ」
そう言ってユージオは木に立て掛けていた斧を手に持つ。そして見事に力の込めた一撃をギガスシダーに叩き込む。再び50回を終えるとふうっと息をつく。もう尻餅をつくほどやわではないが、それでも疲れるみたいだ。
「ユージオは樵なのか?この森で木を切ってるのか?」
「まあ、似たようなものかな」
「まあ確かに。でも天職について7年間、1度も切り倒したことは無いけどね」
「ええ?」
「この木はギガスシダーといってね、悪魔の樹とも呼ばれているんだ」
「そんなふうに呼ばれるのは、この樹が周りの土地から、テラリアの恵みをみんな吸い取っちゃうからなんだ。だから、この樹の葉の下にはこんなふうに苔しか生えないし、影が届く範囲の樹はどれもあまり高くならない」
「村の人はこの木を切って麦畑を広げたいみたいだけど、とんでもない問題があるんだよね」
「問題…?」
「単純さ。この木はとんでもなく硬く、ただの鉄じゃ負けるし、火で燃やそうとしても燃えない。それでこの竜の骨から作られた[竜骨の斧]を央都から取り寄せて専任の刻み手に毎日叩かせるのさ。それが僕」
「じゃ、じゃあ毎日やってこれだけ?7年かけて漸くこれだけ?」
キリトはボクが初めて見た感想をそのまま言った。それが面白くてつい吹き出してしまう。
「な、なんで笑うんだ?」
「いや、しょうがないよ。いいかい、僕は7代目の刻み手なんだ。ルーリッドの村が出来てから三百年経ってやっとここまでなんだよ。多分普通にやってたらこのぐらいの隙間くらい刻めるかどうかだね」
キリトはあまりの壮大さに言葉も出ないようだ。ものすごくわかるよ、その気持ち。
ただ、なんかキリトは急にソワソワしていた。
「今度はどうしたの?」
「なあ…それ、俺にもやらせてくれないか?」
「ええ?」
「ほら、お弁当を貰っちゃったし、その分手伝うのが筋だろ?」
そう言ってキリトは無理矢理手伝おうとする。でも…
「まあ、他の人の天職を手伝ってはいけないなんて掟はないけど…」
「それ、結構難しいよ?ボクも最初は全然ダメだったよ」
「えっ、そうなのか?いや、でもなぁ、うーん」
ボクに言われちょっと悩んだものの、すぐに「やってみなくちゃわからないだろ?」と言って挑戦する。しかし結果は言うまでもなく大ハズレだった。それで、珍しくユージオとボクは笑う。
「いっ…!!」
「「あはは」、力が入り過ぎだよ。もっと、腕の力を抜いて…なんて言うかなぁ」
「うーん、剣を振るとかでもイメージしたほうがいいんじゃ無い?」
「ユウキのそれはうまくいくとは思えないよ…」
ユージオに呆れられてしまった。確かに斧を剣のようにイメージするのは普通じゃ無いと思うけどさ。
「でもキリトならこれでいけそうじゃん。ほら」
キリトは再挑戦するが、狙いが外れて切り込み自体から離れた場所を叩いてしまう。ただ、勢いとかバランスはよかった。
「それでいけるんだ…でも、いい調子だったよ。途中から剣を見ていたのがよくなかったね。忘れないうちにもう一回!」
「あ、ああ」
あの後、キリトは最後まで手伝うみたいで、ボクは先に教会に伝えとく、と言って帰った。アザリヤさんに連絡して、教会の手伝いをする。
また、暇な時間ができたら、ボクの借りてる個室から剣を取り出して素振りをする。片手剣なのに相当重いのでまだ両手で振っているが…。
しばらくしたら2人がやってきたので、キリトをすぐ中に入れて、晩御飯の準備をする。セルカも新しい人が来て少し緊張気味だったけどすぐ仕事と切り替えて頑張ってくれた。
「あ、そうそう、少し話したいからちょっとキリトの部屋に残るね」
そう伝えて、キリトに就寝までの説明をして、部屋に案内した。
「で、いろいろ聞きたんだけど、何から話せば…」
「とりあえず、どうしてキリトがここにいるのか教えて?」
それからキリトからここまでの経緯を聞いて、自分もなぜ生きてここにいるかはわからないと伝えた。まさか…メディキュボイドに…とか言ってたような気がするけど。それより、ボクはアスナたちが元気に前を向いていることにホッとしたし、何よりスリーピング・ナイツのみんなの病気が治りそうということを聞いて思わず嬉し泣きをしてしまった。
「そっか…みんな、元気で、…生きているんだね…ぐすっ」
「ああ、みんなお前が治してくれたのかもって信じて、前を向いてる。アスナもだいぶ元気になってる」
「うん…みんなに、会いたい…会えないかなぁ」
「…すまない、今の俺にはここがどう言う目的で作られたのかすらよくわかってないんだ…確約できないけど、向こうに戻ったら菊岡に頼むよ」
「うん、お願い」
しばらく泣いてから、キリトが知ってるこの世界について聞いた。
「じゃあ、この世界に生きる人たちが人工知能で、人間じゃないと…?」
「いや、仮想世界のNPCはともかく、この世界の彼らは間違いなく生きてる人間だ。最初は俺もただのシナリオ通り生きてるAIだと決めつけたが、実際に話してわかった。たとえ菊岡だろうとただのAIと呼ばせない」
「うん…でも、なんのためにこの世界を作ったの…?」
「それは…まだわからない。客観的に見てももう彼らは俺たちと変わらない、自分で考え、行動する人工知能だ。目的が人間に近い人工知能なら充分達成しているはずだが…」
「うーん…」
ボクが一度死んでからはそんなに経っていないのに仮想世界の技術がそんなに発展するのか、そしてこれからは何を目指しているのか…
でも、どう言われようともユージオ達は自分で悩み、考える、人間だ。
「それと…当然のことかもしれないけど、この世界の常識知らないよね?」
「ああ、できたら教えてくれないか?」
「うん、でも覚えないといけないこといっぱいあるから頑張ってね!ボクも数年かけて慣れたけど…」
「す、数年!?そんなにか!?」
「うん、この世界の法律、禁忌目録とかすごい多いし、それを破ると捕まって処刑されるから気をつけて」
「処刑って…!めちゃくちゃ厳しくないか?それで秩序は保たれてんの?」
「うん、これを破る人が極端に少ないというか…破るよう考えられないみたい」
「…過剰なまでの法令遵守。確かに別の意味で問題だな…」
「あと、ユージオにも言ったように向こうの世界のことあまり言わない方がいいかもしれないね。ボク達も同じベクタの迷子でも知り合いかもしれない程度にしてね」
「でも、同じ部屋に2人っきりは不味くないか?」
「…まあ、そこはベクタの迷子同士で何かわかるかもって誤魔化せばいいんじゃない?」
「…アスナへの弁明を手伝ってくれ…」
不意に、鐘の音が聞こえた。
「あっ、そろそろ寝なくちゃ。ごめんねキリト。もう時間みたい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
それからあとは自分の部屋に入り、ベッドに横になる。そして今のボクの存在に考えようとしたが、自分は自分。もうこの世界の住人だと思い直し、眠りにつく。
とりあえずこれからもユウキ視点で進めたいと思います。
次はもうちょっとキリトとユージオと絡ませたいです。