放課後、新星は約束通り美柑と買い物をするために待ち合わせ場所で待っていた。
待っていると言っても美柑の様子は追尾式超小型カメラで追っているため、護衛の任務は放棄していない。
スマホで確認していると美柑が近くに来たため、顔を前に向けると少し息を切らした美柑が立っていた。
「ごめんなさい……掃除当番が長引いちゃって」
「いいよ、俺も今着いたところだし。それじゃあスーパーに行こうか」
「はい!」
2人はスーパーに向かい、大量の食料を購入した。
重い荷物は新星が殆ど持ち、美柑には軽い荷物を持って貰っている。
「ありがとうございます。新星さんがいると重い買い物も出来るので助かります」
「全然いいよ。こっちも夜ご飯ご馳走になるんだし、そう言えば小学校はどう?楽しい?」
「何ですかそれ?お父さんみたい」
2人は他愛のない話をしながら帰路を歩いているとキッチンカーでクレープを売られているのが目に入った。
「……ちょっと小腹が空いたな。食べていかない?」
「え?いいですけど……夜ご飯ありますよ?」
「じゃあ1つをシェアしようよ。……あ、ごめん無神経だった。1つをシェアとか嫌だよね?」
「全然!全然大丈夫ですよ!私もお腹減りましたし!クレープ食べましょう!」
1つをシェアするという事は間接キスになる事に気づいた新星は美柑は妹みたいなものだからと大丈夫だと思ったが、無神経過ぎたと思い返し美柑に謝る。
しかし、美柑はそれを食い気味に気にしないと言った。
内心では少し恋人っぽいシチュエーションに喜んでいるのだった。
2人はクレープを買うと近くのベンチに腰掛けた。
「美柑ちゃん、先にどうぞ」
「じゃあいただきます。……ん、美味しい♪」
クレープの甘さに頬を綻ばせながら食べていき、3分の1程食べると新星に差し出した。
「はい、新星さん」
「……あー、じゃあ美柑ちゃん食べたところ千切ってもらってもいいかな?」
小学5年生と言っても家族でも、ましてや恋人でもない男と間接キスは嫌だろうと思い新星はそう言ったが予想になかった返事を言われた。
「私は別に気にしませんよ?」
「え?」
そう言って食べかけのクレープを新星の口元に持ってくる。
「手で千切ちゃうと汚れますし、このまま食べてください。はい、あーん」
「え?え?いや、自分で食べられ……」
「あーん」
「………」
美柑の謎の圧力により、新星は少し照れながらクレープを食べる。
「美味しいですか?」
「……はい、美味しいです」
「ふふっ、良かった♪」
新星は恥ずかしそうにしながらそう答えると、美柑は嬉しそうしながらも悪戯っ子のような笑顔を新星に向けた。
美柑のその表情に新星は小学生で自分を気にかけてくれる優しい女の子だというのに胸が高鳴ってしまったことに、羞恥心で顔を美柑から見えないように背向けた。
その時、美柑の頬を少し赤くなっており新星が顔を自分の方に向けてこないことに助かったと思った。
○
2人でクレープを食べ終えて、家に戻ろうとしたが新星は自分の腹をさすった。
「どうしたんですか?」
「……足りないな。もう少し食べてもいい?」
「えっ!?まだ食べるんですか?本当に沢山食べますね……」
美柑は新星の食欲に若干呆れ顔でそう言ったが新星の目はクレープ屋の隣にあるお店に向かっていた。
「たい焼き屋があるから買ってくるよ。それならリトの分も買えるし、食べ歩きもできるからさ。ここでちょっと待ってて」
新星はそう言って座っていたベンチに荷物置いて、美柑を座らせたままたい焼き屋へ向かっていった。
「もう……しょうがないなぁ」
美柑はそうは言いながらも満更でもない表情を浮かべていた。
(新星さんって基本は優しくて大人しいし時々子供っぽいけど、
美柑はさっきの顔を赤くした新星を思い返す。
(あんな表情になるって事は少しは私の事を意識したってことだよね?リトの話聞く限り、仲の良い女子の話なんてあまり聞かないって事は彼女とかはいないってことだし……)
美柑は恋人となって過ごす自分と新星の姿を想像してしまう。
兄妹みたいな腕組みではなく、恋人とするような指を絡ませて手を繋ぎ腕を組んでいる。
途端に恥ずかしくなり、そんな妄想をやめると美柑の前に人影が立つ。
新星かと思って顔を上げるとそこには黒スーツにサングラスをかけた男性が立っていた。
「結城美柑だな」
「え、えっと、誰ですか?」
「結城美柑で相違ないな」
「ぇ、えっーと……人違いじゃないですか?私はその結城美柑って人じゃないですよ……」
聡い美柑は不審者だと即座に判断し、男の話を誤魔化しながらランドセルに付けてある防犯ブザーに手をゆっくりと伸ばす。
しかし、その手を男は掴んで止めた。
「きゃっ!?」
「お前で間違いない。人相データと一致した。共に来てもらうぞ」
男はそう言いながら美柑の腕を引っ張り、連れて行こうとする。
まるで機械のような話し方、そして掴まれている手から伝わる人肌を感じない冷たい手にまるで異物か何か連れ去られると思い、美柑の恐怖心はどんどん高まっていく。
「ひっ……いや!離して!新星さん!!助けてぇ!!」
「無駄だ私達にはアンチバリアが展開されている。地球人には認知もできまい」
抵抗しても意に返さないその力に美柑は引っ張られ、目には涙を溜めて恐怖で体が震えていた。
「新星さん……!新星さぁんっ!!!」
一際大きく声を出したその時、美柑を掴んでいた男の顔に新星の拳が突き刺さり、男だけを吹き飛ばした。
「美柑ちゃん!大丈夫!?」
「新星さん……しん…せぃ……」
新星はすぐさま美柑の肩を掴み、無事か確認すると美柑は新星に抱きついて泣いてしまった。
新星は安心させるために抱きしめて頭を撫でながら、地面に転がる殴り飛ばした男を見た。
(誰だ、あの男は……っ!?)
次の瞬間、新星は驚愕の表情を浮かべた。
殴り飛ばした男の元に3人の男が立っており、しかもその男達は殴り飛ばした男と瓜二つだったのだ。
此方を凝視してくる男達に即座に緊急事態だと判断し、抱きついている美柑を引き剥がす。
「美柑ちゃん、走れる?」
「ぐすっ……え?」
「ごめんだけど走って!」
新星は美柑の手を引っ張って公園から逃げる。
住宅街を走って行くが横道の路地からさっきの男達がジッと此方を見てくる。
その数は十数人以上に及ぶ。
(くそっ!動きが読まれてる!)
やがて住宅街を抜けて市街地に入ると人気のない路地裏に入って身を隠す。
「美柑ちゃん?大丈夫?」
「はぁ、はぁ……し、新星さん……いったい何が起きてるの?」
「………」
息を整えて新星に質問するが新星は難しい顔をして答えない。
(ちゃんと言うべきか?でも怖がらせたくないし、それに……)
本当のことを話せば美柑達とのこれまでの関係が壊れてしまう可能性を考えて、新星は怖くなった。
自分の正体を知れば、気味悪がって離れていくのは想像できる。
どうすれば良いかと悩んでいる時にスマホに着信音が鳴る。
その着信音は任務用の着信音で、画面にはキリタの名前があった。
「キリタ!ちょうど良かった。今こっちは……」
『こっちは戦闘中だ。要件だけを伝えるぞ。結城リトが異星人に襲われ俺が助けに入った。庇いながらの戦闘は不利だと判断し、結城リトはとある場所に逃した。デバイスに位置情報を送った。向かってくれ』
キリタからの通信は切れてしまい、画面には位置情報が表示されていた。
リトも襲われたことに驚きを隠せない新星に美柑は不安そうに呼びかける。
「新星さん?」
「………取り敢えずここから離れてリトと合流しよう。そこで何が起きてるか説明するから」
美柑の肩に手をおいて安心させるように話したその時、美柑の背後から男が迫って来るのが見えて美柑を自分の方に引き寄せる。
「美柑ちゃん!」
「きゃっ!」
男はそれでも手を伸ばしてくるので腹を蹴って遠ざけてその場から離れようとするが反対の道からも複数の男達が迫ってきていた。
狭い一本道なので挟まれてしまった2人だが、新星は美柑の膝裏と背中に腕を回すとお姫様抱っこで持ち上げる。
「し、新星さん!?」
「俺にしっかり捕まって!」
美柑は少し戸惑いながらも言われた通り、首に腕を回してしっかりと捕まると新星はその場にしゃがむと次の瞬間建物を飛び越える程の跳躍をして、その後は建物の腕を飛び越えていくことで逃げることができた。
○
やがて2人はデバイスに表示されていた場所に辿り着いた。
そこは工場地帯の一角で今は使われていない工場だった。
しかし。美柑はそれどころじゃなかった。
謎の男の襲撃に新星のビルを飛び越える程の身体能力で頭の中が混乱していた。
「新星さん……あの男達は何なんですか?それに新星さんって一体……」
若干怯えた目で見てくる美柑に新星は少し悲しげに目を逸らす。
すると2人を呼ぶ声が聞こえてくる。
「新星!美柑!」
走ってやって来たのはリトだった。
「リト!無事で良かった」
「これってどういことだよ!?何か変な奴らに襲われるし、バイク乗った奴に助けられてここに行けって言われるし!またララ関係か!?」
2人にどう説明しようか悩んでいると足音が聞こえてくる。
「やはり合流したか」
「片方を追えば見つかると考えて正解だった」
「さぁ、結城リトを渡してもらおう」
声のする方を向くと新星達を襲った男達が10人立っていた。
怯える2人を守るように新星は前に出る。
「一体お前達は何者なんだ?何でリトを狙う?」
「ただの地球人に話しても意味のないことだ。素直に言うことを聞けばお前の命は助けてやる」
男達はそう言って腕に機械じかけ銃を転送して新星達に向ける。
「断るって言ったら?」
「最悪結城リトの身柄さえ確保できれば問題ない。利口な選択をしろ」
両者に緊迫した空気が流れる中、先に動き出したのは新星だった。
リトと美柑の腕を掴み、コンテナの後ろに隠れる。
「リト!美柑ちゃん!こっちだ!」
「撃て」
1人の男の合図で一斉に攻撃してくる。
光線が飛び交う中なんとかコンテナの後ろに隠れることができたがピンチなのは変わらなかった。
(どうする……?)
大切な友人達のピンチに戦うべきなのだが正体を明かしてしまうことに二の足を踏んでしまう。
新星が悩んでいる時にリトが棒状の廃材を手に取って話しかけてくる。
「新星、美柑を連れて逃げてくれ」
「はぁ!?何言って……」
「アイツらの狙いは俺みたいだし、囮になる!」
そう言ってはいるが廃材を握る手が震えており、怖がっていることに新星は気づいた。
すると腕を掴まれ、そちらを向くと目尻に涙を溜めて目を閉じながら恐怖に耐える美柑の姿があった。
2人の様子を見て新星の迷いは無くなった。
(そうだ……俺は何を迷っていたんだ。今、俺がすべきこと、したいことは2人を守ることだ!)
新星は腕を掴んでいる手を優しく掴んで離す。
「2人ともここで待っていてくれ。俺が守るから」
「え?」
「え?おい、新星!?」
親戚は2人をその場に残して、男達の前に姿を現す。
男達は光線銃を新星に向けたまま話しかけてくる。
「結城リトを差し出す気になったか?」
「……お前らに差し出す気なんてさらさらない。2人は俺が守る!」
新星の堂々とした言葉に質問して来た男は殆ど変わらない顔が僅かに疑問で歪んだ。
「ただの地球人であるお前に何ができる?お前は何者なんだ?」
「俺は…………!」
その言葉と共に新星は腕を胸の前にクロスさせると右手首に装着しているデバイスから音声が流れる。
『生態コード認証。ULTRAMAN SUIT転送します』
右腕を天高く掲げると上空から新星に目掛けて光が差して全身を包み込む。
新星の体が体にフィットしたアンダースーツに包み込まれ、更にその上に鋼鉄のアーマーが展開されて装着されていく。
顔にもヘルメットが装着されると胸の中心にスペシウムの輝きを放つカラーライトが装着されその全貌が顕になる。
地球を守る守護者ウルトラマンがリト達の前に現れ、男達に向かって堂々と宣言する。
「ウルトラマンだ!!!」