楓は、高い魔力の持ち主が平民から生まれ、流れの魔法使いに拾われた子供だ。
今は講師に選ばれた師匠にくっつく形で、紅玉魔導学院に通っている。
元はスラム街の出だった為、なかなか馴染めず戸惑っていた。
そんな楓に手を差し伸べてくれたのが満だった。
満を庇い、命を賭けて魔法を行使する事に何の迷いもなかった。
まさか、人間まで辞める事になるとは思わなかったが。
楓が帰路に着くと、師匠の紅葉は驚くとともに、きつく抱きしめてくれた。
紅葉は魔法使いの名家の妾の子で、魔力が極端に少なく、流浪の魔術師となって知識だけで名門学校の教師に成り上がったすごい人である。
紅葉は暖かいお茶を用意してくれた。
「お前が死んだなんてぜってぇ嘘だと思った! ……随分魔力の質が変わっちまったな。何があった?」
「師匠。大事な話があるんだ」
そして、俺は話した。とにかく遠くへ吹っ飛ばす術を組んだら異世界に落ちた事。
そこで助けられたこと。魔王というものになったこと。同じ魔王の世話になること。
「はぁ? 魔王だと? 伝説の?」
「つっても異世界の魔王だ」
「確かに魔力は上がってるが……にわかには信じがたいな」
そこで、俺は変身した。
御伽話の竜人みたいな姿。翼が生えて、耳が長く美しいヒレになって、眼が爬虫類のそれに変わる。
幸い、見た目はそれほど悪くないと思う。むしろ、格好いいとすら思っていた。
師匠は腰を抜かした。
「魔王は、基本的には魔物を生み出して統治するんだ。だから、迷惑のかからない異世界へ行く」
「異世界で人を襲うっていうのか」
「それは生まれたての魔王がやるそうだ。すごい魔王は月を目指すんだって」
「月を目指す? 月に行くっていうのか。そこに何があるんだ?」
「わからない。俺の本能は、ダンジョンコアを育てて魔物を育てろ、冒険者をそこに誘い込んで戦えって言ってる」
「ダンジョンコア?」
「これだよ」
俺はころんとダンジョンコアを転がした。
師匠は慎重にそれを手にとる。
「頭の中に言葉が出た。魔王か魔王の眷属にしか扱えないとよ」
「使わねーよ。指示があるまで使うなって言われてるし。今は荷物を纏めて、祈って、指南書を読めって」
「指南書? 見せろ」
俺はタブレットを取り出し、しきりに感心する師匠に指南書の欄を見せた。
タブレットを師匠が占領してしまったので、俺は物を片付ける事とした。
なんとか荷物を纏めた頃、師匠は告げた。
「俺を眷属にしろ。じゃんじゃんバリバリ人を襲うぞ!」
「覚悟決めすぎだろ、やめろよ」
「いいからほら、加護の欄から出来る。契約者でいいぞ!」
「ちょっと待ってくれ、フレンドコールで相談する」
【魔王ラベラトスを呼び出しています】
【魔王ラベラトスが応答しました】
『や、指南書は読み終わったか?』
「師匠が読み終わった。で、契約者にしろって言ってるんだが」『やめとけ? あれは妻用』
「そうなのか」「チッ」「師匠……」
『指南書も読んでないと話にならないな。まず読み終わってから相談してくれ。あと、くれぐれもダンジョンコアは使うなよ? その後、ちゃんと説明してやるから。最低でも一週間後までには読んでおけ。荷物も纏めて置くこと!』
「わかった」
俺は師匠に急かされて指南書を読んだ。
魔王とは、ダンジョンに人間を誘い込んで殺してダンジョンを育てる種族らしい。
領地と決めた場所の環境を汚染する事もするらしい。
眷属は強くなるらしいが……そこまでして力が必要だろうか? とは師匠には言えないな。
俺は本当に化け物になったんだ。凹む……。
朝、ようやく読み終わり、再度フレンドコールをする。
『お、読み終わったか? こっちも言った手前、急いで通しで読んだ』
「ああ、全部読んだ」
『よし、じゃあテストするぞ』
そして、冒険者、ダンジョン、モンスターやスタンピードについて質問され、答えていく。
『ちゃんと読んだようだな。それが野生の魔王だ。警戒しとけ。一般の魔王はそんなことしない』
「?」
『魔王は手に入れた領地を自分色に染め上げられる。ジャーシン様にいただいた建物とかも設置できる。要は領地経営、王様をするんだ。規模的には精々町長だがな』
「領地経営?」
『そう。侵略する魔王もいるかもしれないが下策だな。環境にある程度手を加えられるんだから、邪魔の入らなそうな前人未到の未開拓地とかを探す。そこにダンジョンや施設を設置してゆっくり育てる。冒険者を入れれば確かにエネルギーは手に入るが、ダンジョンコアを壊されるとパーになるし、荒らされる危険も高い。欲張らなければ余情魔力だけでもダンジョンは育てられる』
「そう、なのか」
ほっと息を吐く。
『エレガントな魔王は領地を探さない。ショップで買う。空に浮かぶ小島か、海を埋め立てて小さな島を作るか、海中に空気のある空間を作るか、とにかくジャーシン様のお力で領地が買える。ちなみに、外敵が来難いのは断然海中、次に天空島、小島は常に侵略との戦い。月への設備とか貿易とか、兎角便利なのが小島。その次が天空島、利便最悪なのが海中。人気で言ったら天空島が凄まじくて、次に小島、不人気は海中だな。海中領地チケットは魔王ショップで投げ売りされてるから、間違ってもジャーシン様のショップで買うなよ? 安いし眺めはいいし秘匿性は高いし、練習台としてはいいのかも。そうだな。雷光なんだから、天空島が一番向いてると思うけどな。海中なら問題も起きないだろうし、先に試しててもいいぜ。うまく経営できてたら、領地チケット三種ともやるよ。ダンジョンコアは一個は残しとけ。手本見せるから」
エレガントな魔王しゅごい。早速ショップを見る事を誓う。手本を見た後に試したいから、コアは二つ残そう。
「領地にはダンジョンと同じでダンマスを設置できる。領地を買って、方針だけ決めてダンマスに任せてエレガントに領地運営。後は育てたダンジョンで収穫をしたり、修行をしたりしながら、月に行ける魔物が育つのを待つ。これが現代の魔王の道だ』
「おお……」
『あと、いくつか買っておくといいのは進化薬かな。一人一回しか使えないし、魔王には使えないけど、生物として一段階強くなる。当然、人外になるがな。動物や魔物にも使える。ダンマスにしてから進化薬の順の方が伸び率がいい。魔王様のローブは認識阻害がついていて、着ると誰かわからなくなるから大事にしろ。すげー使える。色々送るから、好きにやってみるんだな。気が急くのはわかるが、こっちも色々する事あるから、会うのは一週間後で』
「わかった」
そして、本当に色々送られてきた。
ダンジョンコア引換券(D)が一枚。
ダンジョンガチャチケットが一枚。
超成長石1つ。
ダンジョン強化アイテムガチャが30枚。
ダンジョン強化アイテム交換チケット(D)が30枚。
回復ポーションが50個。
魔王様初期装備ガチャが5枚。
装備セット交換チケット(E)が1セット。
装備セット交換チケット(D)が一枚。
装備セットガチャチケットが一枚。
マイルームアイテム交換チケット(D)が3枚。
マイルームアイテムガチャが3枚。
マイ領地アイテム交換チケット(D)5枚
マイ領地アイテムガチャ5枚
進化薬3つ
食料一ヶ月分
すすす、すげーな。
俺がショップ欄を見ると、本当に海中領地チケットが投げ売りされていた。なんと領地が10Jである。
とはいえ、J通貨は全く持っていないので価値がわからないのだが、ダンジョン強化アイテムガチャ30枚で交換、というのがあったので、交換した。してしまった。
「おら、早く眷属化しろよ」
俺は、師匠に言われて加護の欄を呼び出す。紅葉師匠を配下のダンジョンマスターに設定する。
契約者は3人、ダンジョンマスターは12人まで、信者は100人まで選べるようだった。
師匠の魔力が増大し、一気に若返り、美しくなり、竜のような羽を生やす。
「すげっ……ははは、凄い魔力じゃねーか! この力があればどんな魔法だって使える……!」
「でもこれじゃ授業でられねーな。はい、進化薬」
「そのあたりは大丈夫だ、偽装できる」
師匠は元の中年に戻る。そしてごくごくと進化薬を飲み干した。
改めてダンジョンコアを握る。
「なんだ、次はダンジョンポイントが必要なのか。お。魔力が変換できるのな」
「師匠、領地を用意してからじゃないと」
「そうだな。すげー眠くなってきたわ。一旦休んで、お楽しみは明日にしようぜ」
徹夜して疲れてもいた俺は、それに賛同し、ぐっすりと眠った。
翌日早朝、早速海の領地チケットを使う。
ーー我が名はジャーシン。どこの海中を領地とする?
「どこの!? え、ええと、どこがいいですか!?」
ーーふむ。練習用ならば、領海ではないこの国の付近で景色も良い浅めの場所が良かろう。
「ではそこでお願いします!」
次に、ガチャチケットというのを使う事とする。
ガチャの結果はこちら。
スライムダンジョンコア
新米魔王様の杖
新米魔王様の大鎌
新米魔王様のブーツ
新米魔王様のネックレス
新米魔王様のネックレス
竜騎士団の装備セット
寝心地のいいベッド
魔王をもダメにするソファ
魔法の鏡
ドレスのクローゼット
魔王をもダメにするソファ
清らかなる湖
畑
畑
住宅地D
住宅地C
このうち、新米魔王様のネックレスを新米魔王の剣へ、新米魔王様の大鎌を新米魔王様の服へ、ドレスのクローゼットを夜会服のクローゼットにショップで交換した。
その後、領地を視察。
マイ領地を選ぶと、魔法陣を設置する場所を選べた。
早速今に設置して移動する。
凄かった。
水の下から見る世界が、こんなにも美しいなんて。
魚達がゆったりと泳ぐ姿を見る事ができた。
結界で海水を防いであり、水の中に手を入れると、ヒレのある手に変わった。
そのまま水に潜っていくと、なんと二股の人魚に姿が変わっていた。すごい。
領地に戻ると、人に戻る。すごいすごいすごい。最高じゃないか、海中の領地。
地面は岩や砂。
そこに、湖や住宅地や畑を設置していく。
住宅地は難破船風と珊瑚礁の家と選べたので、両方設置。難破船風をCにした。
最後に隅にスライムダンジョンを設置した。
マイ領地とダンジョンマスターには師匠を設定しておいた。
すると、師匠もタブレットを手に入れて、とてもご満悦だった。
機能はアイテムボックス、フレンドコール、ダンジョン(領地)とシンプルなものだがどれもとても便利なのである。
さて、今日から授業が再開する。
昨日は、俺の死に配慮してお休みだったらしい。ええっ それって休んでよかったのだろうか!?
とにかく、俺と師匠は連れ立って授業へと向かった。
師匠の授業は平民が多いので気楽なものだ。満などの勉強熱心な例外はいるが。
「みんな、聞いてくれ! うちの弟子が魔王様に出世した! 祝え!!」
俺は師匠の横に立たされ、顔を赤くしていた。満がすごい目で見ている。生きてるっていうの忘れてた。やばい。
「はぁ? 証拠はあるんですか? っていうか死んだってガセだったんですか?」
「あるぞー。変身! ほら弟子も変身しろ!」
師匠は竜の羽を生やして若返った。生徒達はガタガタと椅子を鳴らす。
「……マジで?」
「魔王? 伝説の魔王?」
「領地も頂いたからちゃんと王だぞ、まだ何もないが。ということで自慢するから今日の授業は領地見学な。転移魔法陣展開!」
「師匠、授業は」
「今日は宿題渡すだけだから問題ない。覗くだけだ。覗くだけ」
師匠は領地への転移魔法陣を出す。
「よしじゃあ入れ」
生徒達を追い立てる。
追い立てられるままに転移していった学友達は、目を丸くした。
「綺麗だ……」
「すごい……」
「じゃあ案内するぞー」
師匠は張り切って案内した。と言っても、まだ設置している物も少ないので、案内はすぐに終わる。
そもそも魔王の領地は街クラスなのだ。広大な敷地とかはない。
そしてピッチピチの魚を捕獲して戻った。
「よし、じゃあ宿題を配るから、しっかりしておけよ。先生は領主に就任したから、夏休み期間は領地にいる。いつでも遊びに来い。後、四日後に推薦してくださった魔王様を呼んで建国祭をするのでよければ出席してくれ。授業終わり!」
俺は満の所に駆けた。
「満! 生きてるってすぐに知らせなくてごめん!」
「すごく心配した!! 魔王ってなんなんだよ、どういうことだよ」
「魔王雷光。俺……俺、立派でエレガントな魔王になる。それで月にいく」
「何一つわからないな。魔王って人間襲ったりするのじゃないのか?」
「それは野生のエレガントじゃない魔王だから……」
「魔王に野生とかエレガントとかあるのか?」
「あるらしい」
「はぁ。ほんとお前……助けてくれてありがとう。礼を言う」
「うん。どういたしまして。魔力増えたから、制御の練習また手伝ってもらえないかな」
「いいぜ」
俺は生徒達に囲まれ、師匠は気がつけば消えていた。
はぁ、四日後についてラベラトスに話さないとな。
フレンドコールしたら、爆笑された後に、お祝いの約束をしてくれた。
貰ってばかりで申し訳ないので、献上品を見繕おうと思う。