強化指定選手に選出されました。
見出しのその一文が自分を指していることに、少女、哀神友は未だ実感が湧かなかった。実家からの令状に添付された、もう一通の封筒。差出人は日本フットボール連合。JFUに招待されてやってきたのは、人気のない簡素なビルだった。
施設を前にして、日本のサッカー業界は金欠なのだろうか、と哀神は疑問符を浮かべる。クラブ経営には選手の年俸を含めて湯水のように資金を使っているイメージ――彼女は二つの金銭感覚を持っている。ここ数年で得た
まさかこれが本部というわけでもなかろうが、それにしたってもう少し大きな高層ビルを持っていてもおかしくはない。ただ、表札にはたしかにJFUの文字が入っているため、案内が指し示す場所はここで間違いない。
しばらく用紙と建物を交互に睨めつけていたが、やがて観念して施設の中へ歩を進める。案内の通りに進んでいくと、両開きの扉が彼女を出迎えた。中から聞こえる音で人がいるのが分かる。それも、かなりの数だ。少女は話声や足音、布擦れの音だけで、概算で100人以上いると推測できた。
中に入ると、そこは打ち上げなどの小さなパーティーにも使えそうなホールだった。会場を埋め尽くす人、人、人。軽く1学年分は居る。歳の頃15~18の、男子高校生達。共通項はすぐに分かった。彼らもまた、招かれてここへやって来たのだ。
彼女と違うのは、フットボールに青春を捧げる少年であること。哀神はフットボールになど微塵も興味がない。自分がプレイヤーとしてピッチの上に立つことは勿論のこと、観戦すらしたくなかった。ただ、そんな内情は他人には分からない。彼女はより明確な相違点のために、周囲から特別の視線を集めていた。
それは、女子だからだ。この中でたった一人の女子という存在は、嫌が応にも目を引いた。晴天の空のように青白い髪は腰まで真っすぐと伸ばされ、宝石のような碧い双眸は眺めているだけで意識を無に吸い込まれる。モデル体型で、制服を押し上げる豊かな胸、身長は女性にしては高く160cm半ばはあるか。だが、高身長揃いのサッカー少年達に囲まれると一回り以上小さく、そういう点でも目立っている。そして何より、美少女と美女の境目を跨ぐような美貌に、少年達は思わず見とれてしまった。
「……マネージャー?」
誰かが口にした言葉。高校の制服を着ているので、フットボール連合の係員というわけでもない。となると、推論としては妥当というか、それ以外考えられなくて当然だ。
一方、注目の的となっている少女当人といえば、何を勘違いしたのか。哀神はファッションモデルのように腰に片手を当てる。自信過剰と言うには、妙に様になっているのが憎たらしい。困惑の視線すら日光浴でもするように受け止め、なお涼し気な顔を崩さない。
そうこうしている内に、会場には次々と少年達が揃う。
「あー、あー。おめでとう、才能の原石共よ。お前らは俺の独断と偏見で選ばれた18才以下のストライカー300名です。そして俺は絵心甚八。日本をワールドカップ優勝させるために雇われた人間だ」
スポットライトに照らされて現れたのは、おかっぱ頭にスクエアタイプの黒縁眼鏡を掛けた痩身の男。いきなりの自己紹介、そしてワールドカップ優勝という大きく出た発言に、会場内は騒めく。
続けて、絵心の口から語られたのは、生徒達を殆ど監禁する趣旨の計画。集められた少年の中には全国大会を控えた者もおり、当然のことながら拒絶の声が出てくる。一方で、哀神はそれを心底興味なさ気に聞いていた。彼女には元より拒否権など無いので、口にも心にも文句を垂れることはない。端から諦観で満ちている。
それから、絵心は少年達の凝り固まったサッカー観を嘲笑する。余りに過激な演説に、聴衆からは反感を買う。ただし、やはりその内容は、哀神の中を右から左に流れていった。ヒートアップし、ひりつく空気など意に介さず、少女は暇を持て余す。これならば、注目を浴びていた方がよほど楽しめたものだ。本人も無自覚にナルシズムが入っている彼女は、衆目を集めること、特に肉体を見られることは、それが例え低俗で獣欲に塗れた目であろうと、気にしない性質だった。
最終的に、少年達はこの男に感化されたのか、教化されたのか。一人が飛び出すと、堰を切ったように皆が扉の向こうへ走り出す。
「……どうした、来ないのか? あとはお前ら3人だけだぞ?」
皆が去った後、最後まで彼らは残った。薄い灰色の髪にたれ目の少年、凪誠志郎。紫色の髪の御曹司、御影玲王。招待者唯一の少女、哀神友。
絵心の言葉で、玲王は自分達二人以外にもう一人残っていること、さらにそれが注目を浴びていた少女であることに気付く。2・3呼吸の間、彼女が何者であるかに思考を巡らそうと視線が釘付けとなったが、すぐに呆けている場合ではないとかぶりを振る。
「……行きます! いくぞ、凪。俺達も"
「いや、行かないよ。めんどくさそうだし」
「おい、凪。せっかくここまで来て……」
「多分俺には"
「ほう。俺の話は退屈だったか?」
「うん、だって――W杯の決勝ゴールなんて、俺には簡単に思い描けたし」
特に根拠のないその言には、しかし玲王が総毛立つ程に凄みがあった。
「いや、お前には無理だ」
それを、絵心はすげなく否定する。
「お前はまだ、自分の"エゴ"を理解していない。お前みたいな自称天才君は世界にいくらでもいる。そうやって無駄な自信を飼い慣らして、戦いもせず大人になって、傷つかずに生きていたいだけの自意識肥大野郎に興味はねぇ。ぬくぬくと腐っていけ。
凪と絵心の間で目線が交錯する。暫し、無言の圧がこの空間を支配した。
「はーい」
先に折れた、というよりは、元より張り合うつもりもなかった凪が、あっさりと絵心の言葉を受け流した。話はこれで終わり、凪はブルーロックに参加することなく立ち去る――とはならなかった。
「フザけんな!! 凪はそんな、そこら辺にいる天才もどきじゃない!!」
「……レオ?」
ここには御影玲王がいる。当然ながら、彼は相棒を貶されて黙ってはいられない。
絵心は眼鏡のブリッジを片手で押し上げて、それに嘲るような瞳を返す。
「いいや、偽物だ。今のままでは、
そう言って、絵心は哀神を指した。
「……は? いや、でも、こいつ女子だろ……?」
まさか、自分達の横に居るこの少女が、凪より上だとは思ってもみなかった玲王。どちらが上なんてどうでもいいと思っている凪でさえも、流石にこれには目を丸くした。決して対抗心からではなく、単純に、客観的に、男子と女子を比べて
一方の哀神は、引き合いに出されたことに迷惑していた。最後まで残ったのは、単に混雑していたからであって、この先にあるであろう送迎への乗り込みでもどうせ同じようなことになっているだろう故に、時間を置いて行こうと考えたまでである。既に、彼らの問答に付き合う必要もない。哀神は呆れるように首を振って、刺さる視線を振り払うように、ゆるゆるとした足取りで扉へ向かう。
「……人間は、優劣をつけるのが好きですね」
擦れ違い様に囁かれた言葉に、絵心の瞳孔が大きく開いた。言葉には悪意も威圧感も覇気もない。少女の甲高く可愛らしい声に、どこにも恐怖を感じる要素はない。にも拘わらず、彼の背筋は凍った。ならばこれはきっと、生物的な本能なのだろう。
彼とて、哀神を招き入れるリスクは承知していた。ブルーロックの全てが水泡に帰す可能性を。それでも実際に哀神友という少女と会って彼が感じ取った悪寒は、選択を間違えたのではないかと錯覚させるほどだった。
バスに揺られて辿り着いた先は、青のペンタゴン。
少年達がそれぞれの棟へ振り分けられていく中、哀神はただ一人の女子ということもあって特別扱いを受けていた。
20代前半の年若い女性に連れられ、個室へと案内される。赤髪の女は、帝襟アンリと名乗った。
鍵は指紋認証式のオートロックで、アイリと哀神が登録されているとのこと。入室すると、241Vと書かれたトレーニングウェアを渡される。
「今日以降、ここがあなたの自室となります。まずはここで着替えて、その後、10分以内にルームVへ移動して下さい」
言うや否や、アンリが出て行くよりも前に、哀神は着替え始めてしまう。
同性とはいえ何も目の前で着替えなくても――と、完全に出て行くタイミングを失ったアンリは内心気まずい。仕方なくその場に残るわけだが、やはり視線は着替え中の哀神を追ってしまう。そのプロポーションときたらあまりに豊かなものだから、思わず感心する。同時に「本当に女性なんだ」と、改めて目の前の存在がブルーロックにおける例外であることを認識した。
「ところで、
哀神家の令嬢である彼女は高校を卒業する必要など究極の所無いのだが、実益の問題ではなく気持ちの問題として、彼女は高校生活にある程度の執着を抱いていた。できることなら、なるべく早く戻りたいものである。
着替え終わるまでつい見惚れてしまっていたアンリは、少女から声を掛けられてようやく我に返る。
「えーと……それはちょっと私の口からは言えないかな」
それは、彼女に情報を教えることはできないという意味でもあるし、同時に教えられるような情報は持っていないという意味でもある。正確には、絵心の裁量一つで計画は如何様にも変更されるのだから、発言に責任を持つことはできないと言うべきか。
「そうですか」
はあ、と哀神は溜息を溢す。その返答は、彼女でなくとも予測できたことだ。施設に閉じ込めて蟲毒のように争わせ、一番を決める。こんな人体実験染みた試みで、その計画概要を被験者に伝えることは、結果に深刻な影響を及ぼしかねない。だから、彼女の溜息はけして質問への回答が得られなかったことに対するものではなく、他へ向けられたものだった。
絵心によるブルーロックプロジェクトの説明は、概ね彼女が父から事前に知らされていた内容と同じだ。ただ、ここにいるのが総勢300名であり、つまりこのブルーロックでは他の299名を蹴散らす必要があるという点だけは初耳だった。そんなに多くの人間を一度に
哀神は割り当てられた自室を後にする。ルームVまでは、そう遠くなかった。中に入ると、そこには11名の男子高校生。おや、と彼女は
他の男子達が列を成して次々と施設内で振り分けられていく中、哀神は諸般の都合上、待機させられていた。そうして彼らが居なくなった後に彼女は案内されたので、必然、哀神友がこの部屋にもっとも遅くやって来た人物であろうことは想像に難くない。
となると、この部屋に集められたのは12人ということになる。哀神は、そこが引っかかった。サッカーは11人で行うスポーツであるが、それは1チームを構成する要件であり、対戦相手を含めると、試合を行うには最低でも22人必要となる。ここで何かするにしても人数が足りない。
勿論これは、公式戦またはそれを意識した形式で行われる場合の話であり、ストリートサッカーならばそのような制限などない。偶数なので、今からここで試合をするのであれば6対6。哀神は、目算でこの部屋がペナルティーエリアと同じ縦横比とサイズであることに気付く。何かしらの意図があってのことのようだが、しかしゴールは見当たらない。
これが単なる班決めとしての顔合わせなのであれば、数は11人の方がキリが良い。12人では、これから他のチームと試合をする際に、1人だけベンチということになってしまう。進行上の問題は無いとはいえ、確実に揉める。
従って、今からここで行われる可能性が高いのは――
「1人脱落、といったところでしょうか」
少女はぽつり、と独りごちる。
元々、最後にやってきたこともあり、少年達は待たされていた。ドアの開閉音で、何人かは彼女の到着に気付いた。残った彼らの意識も、声を皮切りに彼女の方へと集中する。
「お前……!!」
「水色ちゃんだ」
声を上げたのは、つい先ほど面識を持った二人組の少年達、凪と玲王。哀神は軽く首を落として会釈をする。
「何コイツ、マネージャー?」
浅黒い肌にツーブロックのガタイの良い男の胡乱気な目線が、哀神の頭から足先まで舐めるように這いまわる。本日二度目の勘違いを、特に煩うわけでもなく無視する哀神。彼女に否定し訂正する気がないのが、誤解を助長している。
「
「ジャーマネ……つまりドラッガーというわけか」
「それ野球だろ」
頓珍漢な事を宣ったのは、眼鏡を掛けたインテリ風の男、剣城斬鉄。即座に玲王から突っ込みを貰っている。
「残念だが、そいつは君達のマネージャーじゃない」
部屋の壁に設置されたディスプレイから、否定の声が降り注いだ。そこに映ったのは彼らをここへ誘った男、絵心甚八。
「ようやく揃ったみたいだな、才能の原石共。今同じ部屋にいるメンバーは君達のチームメイトであり、高め合うライバルだ」
やあやあ、と肩まで挙げた手をワキワキとさせる挨拶は、その軽薄さは、見る者を無性に苛立たせる。
「お前らの能力は俺の独断と偏見で数値化され、ランキングされてる。ユニフォームにある数字がそれだ」
全員が、一斉に自身のユニフォームの数字を確認し、そしてお互いの数字をきょろきょろと値踏みする。「また比較ですか」と哀神はげんなりした顔で、胸の下で掬い上げるように腕を組む。
「っ……! あいつが一番なのかよ!?」
玲王が哀神の数字を見て叫ぶ。釣られて他の面々も哀神の数字を確認し、驚愕と警戒、懐疑の顔を浮かべる。
「そのランキングはトレーニングや
哀神には全く興味の無い、というか関係の無い話だ。上位者は日本代表入りを強制というか確定事項のように言っているが、そも、女子が登録選手になること自体不可能なのではないか。
「ここで必要なのは"エゴ"。今から君達のエゴをテストする。鬼ごっこの時間だ、制限時間は136秒」
天井の小さなパネルが開き、そこからボールが一つ落ちてくる。
「ボールに当たった奴が鬼となり、タイムアップの瞬間に鬼だった奴が
それを最後に、絵心は画面から姿を消す。次に映ったのは制限時間と現在の鬼。すなわち最下位の252位、舐岡了。哀神をマネージャーと勘違いしたあの男子だった。
あまりに突然で、滅茶苦茶な方法で将来を左右されることを受け入れられず、困惑する男子達。一方でただ一人、玲王だけがこれを絶好のチャンスと捉えて燃え上がる。
「お前はここで俺に負けて帰るんだよ」
勝負は既に始まっている。気を抜いていた玲王と凪の後ろから、舐岡が襲いかかる。
「げ、舐岡」
「鬼さんこちら」
1メートルもない至近距離から放たれたシュート。これに対し、彼ら二人の反応は機敏だった。一人は飛び退いて避け、一人は身を捩って避けると、ボールは壁に激突する。
「だぁ、クソが! 俺はお前らしか狙わねぇ! どっちか1人をここで脱落させて引き裂いてやるよ、天才コンビ!」
青筋を立てながら、舐岡はボールを追いかける。
しかし。
「ボールはそうやって蹴るのですね。そして狙いはそうやって定める」
そのボールには、哀神の方が速く追いついた。
「な、おま――」
自らボールに触れた哀神。ディスプレイの鬼の表示が彼女のものへと切り替わる。
「ええ、もう大丈夫です。
思考回路が停止し、立ち尽くす舐岡を眼前に据えて。彼女は、ボールを勢いよく蹴る。
これが、哀神友が生まれて初めてサッカーボールを蹴った瞬間である。
にも拘わらず、たったの一見で。
舐岡了という男の、持ち前の身体能力を十二分に活かすことに特化したシュート技術。その全てを学習し、そしてその才覚と技術を上回った。
それは余りにも呆気なく、余りにも残酷な、天賦の才。
天才の中の天才。才能を終わらせる才能。
ドン、と鈍い音と共に。
舐岡了という人間の才能は、哀神友の手によって、ここで『
哀神友のプロフィール
誕生日:10月2日 年齢:17歳 星座:天秤座 出身地:不明
家族構成 父・母・兄・自分
身長:166cm 足のサイズ:25.5cm 血液型:AB型 利き足:両利き
スリーサイズ:B98 W59 H87
好きな選手:なし サッカーを始めた歳:17歳
座右の銘:"love is the law, love under will"
自分が思う自分の長所:容姿
自分が思う自分の短所:可愛げがないこと
好きな食べ物:なし 嫌いな食べ物:なし BESTご飯のお供:なし
趣味:読書、運動、会話、動画サイトで動物を見る
好きな季節:全部
好きな音楽:リスト「ラ・カンパネラ」(指の運動になる)
好きな映画:なし(あまり見ない) 好きな漫画:なし(読んだことが無い)
キャラカラー:ライトブルー
好きな動物:動物全般(動物からは悉く嫌われる)
得意科目:国語以外全て(全教科満点)
苦手科目:国語(パターンから外れた心理描写で毎回手が止まる、ただし試験は満点)
されたら喜ぶこと:親愛、求愛
されたら悲しむこと:嫉妬、恐怖
好きなタイプ:人と張り合わない人、勝ち負けに拘らない人
初めて告白されたエピソード:生まれた瞬間(兄から)
睡眠時間:7時間0分0秒
お風呂で最初にどこから洗うか:頭
きのこ派orたけのこ派:なし(茸と筍なら食べます)
最近泣いたこと:秘密
地球最後の日に何をする?:地球を救う
1億円もらったら何をするか:自宅か口座に放置、外で手渡された場合は近くの募金箱へ
休日の過ごし方:朝一のジョギング、運動、読書、ピアノ演奏、ペット動画鑑賞