ロドスのCEOとして、事務仕事に励むアーミヤ。しかし、どうにも集中しきれていないことに気づいたサベージは、相談に乗ってあげようとする。
なんでも許せる人向け。
サベージとアーミヤとドクターの話もっとほしいよアークナイツ公式~~~~~~~~~~~!!!
あとラ・プルマが「ママ」じゃなくて「お母さん」って言ってるのはわざとだぞ。誤字じゃあないんだぞ
ブラウンの毛に覆われた二本の耳が、ぴりぴりと逆立つ。
時々、所在なさげに揺れたり、先を折り曲げたり、ぴょこぴょこ跳ねたりするそれの先端を、サベージは指で摘まみ上げた。
「ア~ミヤちゃんっ」
「きゃんっ!」
甲高い声を上げ、耳をつままれたアーミヤが背筋を伸ばす。
危うく持っていたペンを取り落としそうになりながら、若きCEOは耳を押さえてサベージを見上げた。
「も、もう、サベージさん! 驚かさないでください!」
「あはははは、ごめんって。はい、コーヒー。ちょっと息抜きしたら?」
アーミヤは、サベージが手渡してくるカップを両手で包み込むようにして受け取った。
とがらせた唇で息を吹きかけ、ほんの少しすすると、彼女の耳の動きも少し落ち着いたようだ。
サベージはすぐそばの椅子に腰かけると、アーミヤの頬をつつきながら尋ねる。
「なーんか最近、お仕事に身が入ってないみたいじゃない? ドクターと何があったの?」
「うっ……。ど、どうしてそう思うんですか……?」
「わからないと思う? 私とアーミヤちゃんとドクターの仲なのに」
―――まあ、ドクターは私のこと覚えてないみたいだし、みんなも気付いてるけど。
ほんのりとした淋しさを抱えながら、胸の内で呟いていると、アーミヤは細長い耳をぺたんと後ろに倒して首を縮めた。
不安げに揺れるコーヒーの水面に、自分の顔が映っていた。
アーミヤはすぐに観念した。
「ドクターと喧嘩したってわけではないんです。ただその……」
「女の子になっちゃったから、距離を測りかねてるとか?」
「それもあるんですが……オペレーターの皆さん、特に女性の方たちの距離が、やけに近いような……」
「ああ~」
最近のドクターの様子を思い返して、サベージはアーミヤの言わんとしていることを察する。
アーミヤの事務仕事を手伝うついでに、彼女からドクターへ渡る書類を届けると、大体女の子に絡まている場面に遭遇するのだ。その多くはアーミヤと同年代ぐらいの少女たちで、半数以上はドクターに甘えに来た面子だったりする。
特に高い頻度で見かけるのはラ・プルマやケオベ、テンニンカ、ヴァーミル、キララ、ロスモンティス、ハニーベリーあたり。
―――そういえば、ついさっきはロスモンティスちゃんがドクターにくっついてたっけ。
執務室を訪れるなり、真正面からハグされたまま立ち尽くすドクターの姿を思い出す。
ロスモンティスがぽつりと零した、記憶違いへの不安を聞くと、納得したように撫でてやっていたが。
「つまり、嫉妬してるってわけだ」
「い、いえっ、嫉妬なんてそんな……!」
「でもヤキモチ焼いてるでしょ。ドクターが違う女の子と仲良くしてると不安になったり、無性にいらいらしちゃったり」
「……うう」
アーミヤの目が書類で満載になった机の上を滑っていく。
ロドスのCEOとは言っても、そこはやはり年頃の少女だ。いや、責任を負うにはあまりに若い、というべきか。
サベージがよしよしと宥めてやっていると、アーミヤは両手の指を合わせながら呟いた。
「その……前、ドクターのところに行ったとき……ラ・プルマさんとケオベさんが言ってたんです。ドクターが、お母さんみたいだって。ドクターは、お母さんはやめてほしいって言ってたんですけど、嫌そうじゃなかったというか……」
“私、パパとお兄ちゃんはいるけど、お母さんはいなかったから”
“お母さんがいたら、こんな感じなのかなあ、って”
“ドクター、おかーさんなのか!? おいらのおかーさんにもなってよ!”
扉の隙間から聞こえてきた、溌溂とした少女たちの声。覗き込むと、お母さんはやめてくれ、と困ったような笑顔で言いながらもふたりを可愛がるドクターの姿が見えた。
本当の親子みたい。そう思った途端、頭にもやもやとした煙が立ち込めてくるような気がして、アーミヤは小さく唸る。
このところ、自分とドクターとの距離が開いていき、反対に他のオペレーターたちが距離を詰めていっている。少なくともアーミヤはそのように感じていた。
いつからか、と聞かれれば、フランカがドクターの着替えに割り込んだ際、うっかり女性となった彼の裸を見てからだ。なんとなく気まずくなっているうちに、こうなっていた。
どうしていいか、いまいちわからない。
肩を縮めて悩んでいると、サベージは笑って、半ばからかうように提案する。
「いっそ、アーミヤちゃんもドクターにぎゅってしてもらったら?」
「ぎゅ、ぎゅ、ぎゅってですか!?」
「そうそう。頼んだら絶対やってくれるよ」
「それは……そうかもしれませんけど……!」
「アーミヤちゃんはさ」
サベージの人差し指が、アーミヤの額をとんと押す。
「ドクターとの関係を、難しく考えすぎだと思うよ。アーミヤちゃんはドクターのことが好き。それがどういう好きなのかまでは、考えなくていいんじゃないかな? きっとそれがどんな“好き”でも、ドクターはアーミヤちゃんを受け入れてくれる。でしょ?」
「そう、でしょうか……?」
「そうだよ。どういう好きなのかは置いといて、他の子たちがするみたいに、甘えちゃっていいんじゃない? あーだこーだ悩むよりは、そっちの方が絶対いいよ」
確信を持って口にされた言葉に、アーミヤは考え込む素振りを見せた。
サベージが知る昔のドクターと、今のドクターは、ほんの少しだけ違う。それはいい意味で、だ。
離れた空に立ち込める暗雲を憂うようなあの頃と違って、今は随分柔らかい顔をするようになった。特にここ最近は―――急な女体化によるものか、幼いオペレーターたちに対して、どこか母性を感じさせる接し方をするようになった気がする。
アーミヤが悩むまでもなく、彼女が乞えばドクターは、それこそ母のように抱きしめてくれるはずだ。こんなことを言ったらドクターは、ついでにケルシーも不機嫌になってしまうかもしれないが。
アーミヤは持っていたカップを傾け、ぐいっとコーヒーを飲み干した。
「こほん。仕事の続きをしますね。サベージさん、そちらの書類はケルシー先生にお願いします」
「いいよ。こっちのは?」
「そちらの方は、プロヴァイゾさんに確認してもらいますので、大丈夫です」
「了解。……で、どうするかは決まった?」
書類の束を抱え上げながら聞くと、アーミヤは逃げるように目の前の書類にかじりつきながら応える。
「ドクターは今日外勤任務ですし、戻ってきたらお疲れになっているでしょうから……」
「だーめ。戻ってきたら行く! アーミヤちゃんがお帰りなさいって言って抱きしめてあげたら、ドクターの疲れもきっと吹っ飛ぶよ!」
「そ、それは、ちょっと……!」
何を思ったか、照れた表情を見せるアーミヤ。サベージは小さく笑うと、書類の束が崩れないように気を付けながら部屋を出る。
外では、自主的にアーミヤの事務方サポートをする仲間であるグレースロート、プロヴァイゾのふたりが待ち構えていた。
「おや、サベージさん。どうです、解決しました?」
「どうだろう? でももう入っていいよ。確認してほしい書類が山積みだって、弁護士先生」
「それはそれは。腕が鳴るというものです」
ラムネ菓子を頬張ったプロヴァイゾは、嬉しそうにはにかんでみせる。だがグレースロートは対照的に、渋い顔を崩さない。
「本当に大丈夫なの? アーミヤ、私たちが追い出されたことにも気付いてなかったみたいだけど」
「多分ね。ま、大丈夫じゃなかったら、またなんとかするから」
「ふーん……。で、なんの話したわけ?」
「それは秘密!」
「言うと思った。……まあいいよ、アーミヤが詮索してほしくないって言うなら、聞かないから」
口に人差し指を立て、ぱちりとウィンクをするサベージに、グレースロートはこれと言って反応を示さなかった。
アーミヤのいる執務室へと戻っていくふたりを見送り、サベージは感慨深い気分になる。
ドクターにしろアーミヤにしろ、普段の任務とは別に、忙しい事務仕事を手伝うオペレーターはそれなりに多い。
サベージもそう、先の二人もそう。アーミヤに限定するなら、ズィマー率いるウルサス学生自治団の面々もそうだし、滅多にないがキアーベが“安静”にしている時のブローカやアオスタも加わったりする。
ドクターの女体化に伴って、色々と複雑になっているようだが、アーミヤには自分以外にも力になってくれる人がいるのだから、大丈夫だろう。
楽観的に考えて、サベージはケルシーのラボへと足を向けた。