アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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(あらすじ)
外勤任務にて自らを囮として敵を誘いだしたドクター。オペレーターの手を借りて戦場を逃れながら指示を飛ばすのだが……。

TS娘ちゃんは軽率にお姫様抱っこされるべき。


横抱きのわけ

 アーミヤとサベージがロドス本艦で会話をしていた頃、ドクターは背後から轟く爆発音と大勢の走ってくる音を聞いていた。

 

 全力で走るドクターと並ぶスペクターが、肩越しに後方を見ながらぼやく。

 

「自分を囮にするだなんて、思い切るわね、ドクター?」

 

「二択だったんだ! どっちに来てもいいように、はぁっ、作戦は立てたけ、ど……っ!」

 

 数秒経たないうちに息が上がった。

 

 走るのは元々得意ではないにしろ、疲れるのが異様に早い。理由は、男時代にはなかった双丘にある。

 

 ―――ゆ、揺れて痛いし……走り辛い!

 

 ―――みんな、よくこれで動けるなぁ……!

 

 うっかり口に出したらセクハラの誹りを免れないような事を思いつつ、足を動かす。しかしながら、靴音は振り切るどころかどんどん近づいて生きている。

 

 ピシュッ! と空気を切り裂く甲高い音とともに、ボウガンの矢がドクターの大腿部をかすめた瞬間、スペクターはドクターの体に腕を回した。

 

「じっとしていて」

 

「悪いが頼っ……え、わっ!?」

 

 ひょいと抱え上げられたドクターは、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 こういう時、いつもなら背負われるか、DJがラジカセを担ぐように肩に置かれる。

 

 だがスペクターが選択したのは横抱き。いわゆる、お姫様抱っこだった。

 

「す、スペクター!? この体勢は……!」

 

 スペクターは意味深な笑みを浮かべると、地面を砕くほどの勢いで急加速した。

 

 ドクターは声にならない声を上げて、スペクターの首に腕を回してしがみつく。

 

 支えられた背中と足がムズムズする。恥ずかしいやら、妙な安心感やらに首を振ると、PRTSへ指示を飛ばした。

 

「マウンテン、三秒後に強襲! 3、2、1……フェーズ1、GO!」

 

 裏返りかけた合図の直後、並び立つ廃ビルの一棟から窓をぶち破ったマウンテンが飛び出した。

 

 陽光に煌めく硝子片の光を浴びた彼は、ドクターを追いかける一団のど真ん中に着地。そのまま獰猛な獣のように吠え猛ると、目にも止まらぬ速度で岩のような拳を振るった。

 

「うおらアアアッ!」

 

 悲鳴を上げて、襲撃者たちが木っ端のように跳ね上げられる。

 

 規模こそ大きいが、所詮は野盗の群れに過ぎない。マウンテンの敵ではあるまい。

 

 命令を下したことで少し冷静さを取り戻したドクターは、PRTSに映し出された旧市街のマップを指でなぞる。ほどなくして現れる警告表示も予期していたことだ。

 

 スペクターの進行方向に、粗末なククリナイフやボウガンを手にしたローブの集団がどかどかと並び立った。

 

 飛んでくる恫喝に耳を貸すことはない。スペクターは少し名残惜しそうな表情を見せると、ドクターを空中に放り上げた。

 

「しばしのお別れね、ドクター。頼んだわよ」

 

「オッケー! こっちこっち!」

 

 静かに染み入るスペクターの声に、ビルの屋上から跳躍するアンジェリーナが応えた。

 

 アンジェリーナは緩やかに斜め落下しながら、ちょうど上昇が終わり、落下が始まろうとするベストなタイミングでドクターを抱き止める。

 

 ……何故か、彼女にもお姫様抱っこをされた。

 

「しっかりつかまってて、ドクター。次のポイントまで移動するよ!」

 

「あ、ああ……」

 

 何か釈然としない気持ちになりながら、ドクターは強いて作戦に集中しようとPRTSに顔を近づける。

 

 その後、様々な方向から次々とやってくる増援に対処する間、ドクターは放られてはお姫様抱っこでキャッチされて運ばれるということを繰り返した。

 

 

 

 作戦終了後。野盗たちを拘束し、引き渡す準備をするオペレーターたちを眺めながら、ドクターはようやく人心地ついた。

 

 戦えないので仕方がないとはいえ、ぽんぽんと投げられるのは中々に疲れる。

 

 誰にも聞こえないようについた溜め息は、しかし傍に佇むスペクターだけがしっかりと聞き届けていた。

 

 やがて、大方の作業を終えたらしいマウンテンとアンジェリーナが戻ってくる。

 

「お疲れ様です、ドクター。引き渡しの準備が整いました」

 

「あっちの人たちもみんな無事だったよ! 迎えの人たちも三十分ぐらいで到着するって!」

 

「そうか、ありがとう。……ところで、ひとつ聞きたいんだけど、いいかな」

 

 報告に来たふたりがきょとんとした顔をする。

 

 ああ、これは絶対無意識でやってたんだな、と半ば確信しつつも、ドクターは敢えて尋ねることにした。

 

「……なんで、お姫様抱っこだったんだ? いつもは肩に担いだり、背負ったりしていたはずだが」

 

「え? あ、ああー……」

 

「改めて何故、と言われると返答に困りますね。不快にさせてしまったのなら、謝罪します」

 

 あからさまに目を泳がせるアンジェリーナに対し、マウンテンは頭を下げる。

 

 思うところはありつつも、無意識なら仕方がないとドクターが無理やり自分を納得しようとさせたところ、スペクターだけは違った。

 

 彼女はドクターの肩をつついて自分の方を向かせると、顎をつかまえ、ぐいっと顔を近づけてきたのだ。

 

 キスでもしそうな距離で、赤い瞳が覗き込んでくる。突然の行動に驚くアンジェリーナとマウンテンの前で、スペクターは言い放った。

 

「あら、何か不満でもあったのかしら、お姫様?」

 

「え……っ!?」

 

 空気が一気に凍り付く。作業中だったオペレーターたちが何かを察してドクターの方を見て、同じように凍り付く。

 

 平然としたお姫様呼ばわりされたドクターは、マウンテンが咳払いをするまでフリーズする羽目になった。

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