アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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(あらすじ)
近頃、ドクターに対して妙に可愛らしいお菓子を持ってやってくるようになったイーサン。彼はドクターに対して、ティータイムがてら愚痴をこぼす。

ドクターの女子力を外堀から上げていく!!!!


イーサンズ・プレゼンツ

「よお、ドクター! シュークリーム持って来たぜ」

 

「ドーナツ持って来たけど、食うか?」

 

「ドクター、マカロン食うだろ?」

 

 こんな具合に、イーサンは気まぐれにお菓子を持って執務室までやってくる。

 

 ドクターは仕事合間にコーヒーを淹れながら、皿に並ぶマカロンを見下ろした。

 

「イーサン、最近やけに気前がいいが、またキッチンからくすねたものじゃないだろうな?」

 

「人聞き悪いぜ。ジュナーんとこからちゃんと買ってんだよ、最近は」

 

「おかしネットワークから? 君が?」

 

「んな意外そうな顔することねーだろ」

 

 空色のマカロンを頬張りながら、イーサンは不満そうに抗議してきた。

 

 だが、ドクターの発言も無理からぬことである。なにせこのサヴラの青年には前科が多い。その身に宿した特異なアーツを使って、何度つまみ食いを働いたことか。

 

 それに、透明化して食堂に忍び込むのに比べて、ジュナーのおかしネットワークは色々と煩雑な手順を踏む必要がある。定期的に変わる手順や暗号は、もはやマフィアの裏取引だ。

 

 そんなイーサンが、わざわざ金を払ってお菓子を買ってきてくれるとは。

 

 まじまじと見つめてくるドクターの言いたいことを、彼はすぐに悟った。

 

「仕方ねーんだよー。ほら、新しく入ってきた奴いるだろ、ペッローの」

 

「ペッロー……? もしかして君が言っているのはルナカブのことか? 彼女はループスだ」

 

「マジ? ケオベと一緒にいるからてっきりあいつもペッローかと思ったぜ。……まあともかくだ、あいつが入って来てから、キッチンの警備がやったら厳しくなっちまってさ。信じられるか? 地雷に電磁柵、赤外線センサーまでついてるんだぜ? あいつら何処と戦争してんだよ」

 

「君だ、君。ケオベとルナカブもだが」

 

 愚痴るイーサンに、そんなことだろうと思った、とドクターは嘆息する。そうでもなければ、彼は今日もマッターホルンの目を盗んでいるのだろうから。

 

 ―――それにしても、地雷に電磁柵って……さてはイグゼキュターの指金だな?

 

 ―――全く、物騒にも程がある。

 

 後で危険な罠の撤去と、代わりの対策について考えようと考えながらコーヒーを啜る。

 

 イーサンは尚も不満冷めやらぬようで、渦を巻く尻尾を僅かに伸ばしながら勢い込んだ。

 

「だからって電磁柵はねえだろ!? 俺たちは荒野の牙獣かなんかか!?」

 

「食糧庫を勝手に食い荒らすという意味では、大して違いはないよ。ジュナーを頼ってくれ」

 

「……めんどくせえし金かかんだけど」

 

「必要経費だ。ロドスの壁に吹き付けるスプレーインク代を切り詰めてくれ」

 

「ちぇっ」

 

 イーサンは憮然として、ドクターが淹れてくれたコーヒーに口をつけた。

 

 ―――まあ、“飯が不味いから”の一言で、レユニオンからロドスに鞍替えした彼らしいと言えば彼らしいか。

 

 ドクターはマカロンをひとつもらう。限りなく白に近いそれからは、桃の味がした。

 

「そういえばイーサン、君、ここのところ随分と可愛いお菓子を持ってくるな」

 

「ま、ひとりじゃ食いづれー菓子なのはそうだけどよ。ドクターにやるって言ったら、ちょっとまけてくれんだよ」

 

「私を値切りのダシに使うな」

 

「そう言うなって。ジュナーの奴も、変なお菓子仕入れなくて済むって喜んでるぜ」

 

「……変じゃないが」

 

「変だろ。エアースとどっこいだぞ」

 

「彼とか!?」

 

 塩漬けにした枝豆を皮ごと食べるコータスの少年を思い浮かべ、ドクターは頭を抱える。

 

 確かに、酒の肴をつまむたびに、バーの常連たちからは微妙な顔をされることもあるのは事実だが。

 

 ショックを受けていると、イーサンは多少溜飲が下がったのか、けらけらと笑い出した。

 

 気付けば、マカロンはひとつも残っていない。元は彼が自分の金で買ったものだし、別に文句はないのだが。

 

 ドクターはコーヒーを飲み干し、仕事に戻ろうとする。すると、イーサンに呼び止められた。

 

「っと、そうだ。なあドクター、次の休みっていつだ?」

 

「次……いつになるかな」

 

 日々積み上がっていく書類の山や、会議のスケジュール、任務のことに思いを馳せる。

 

 仕事が多いのは元からではあるが、女になってからは余計なちょっかいをかけられて、さらに時間をロスしてしまっている。

 

 なんだか、胸の重みもあまり意識しないようになった自分に気付いて、気持ちが落ち込んだ。

 

「おーい、辛気臭ぇ顔してんなよ。また菓子持ってきてやるから元気出せって、な?」

 

「ほとんど君が食べてるけどな」

 

「たくさん食いてぇなら食わせてやるよ。次の休み、ちょっと付き合ってくれって。あ、外勤任務の時でもいいぜ。俺がドクターについてく任務で、ボリバルかラテラーノに行くやつ」

 

「随分限定してくるな。ラテラーノ……そういえば、公証人役場で、感染者となったラテラーノ人に対する保障の件で会議があったか……」

 

「お、じゃあそれ! そこに俺も連れてってくれよ! 損はさせねえからさ」

 

「……いいけど、他のシフトもサボらないのが条件だ」

 

「決まりだな!」

 

 イーサンは朗らかに笑うと、アーツを用いて姿を消した。

 

 やれやれと首を振りながら、件の会議の資料を引っ張り出す。エンフォーサーが事前にまとめてくれていたものだ。

 

 ―――ラテラーノにおいては、感染者はすぐ追放され、二度と戻ることは叶わない。

 

 ―――けれど、ロドスとの対談においては、特別に感染者オペレーターの入国が許可される。

 

 ―――まあ、大丈夫か。イーサンの結晶は服で隠せる位置だし、重病でもない。

 

 ―――グルメな彼が紹介してくれるものを、楽しみにしよう。

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