ラテラーノでの仕事を成功裏に終わらせたドクターは、余った時間で自由行動をすることに。そうしてイーサンと向かった先のパフェで出てきたものは…。
イーサンも結構ドクターに湿度の高い感情を抱いていると思うんですよね。
ラテラーノ公証人役場との会議は、かなり良い結果で終わった。
鉱石病に感染したラテラーノ人は国を追い出され、二度と戻ることは叶わない。
だが、この国は苛烈な排斥を行うウルサスや、過剰な搾取を強いるクルビアと違う。追い出しこそすれ、排斥することも、軽んじることもない。追い出したラテラーノ人に恒久的な保障を約束したり、ロドスとの会談に際して、感染者オペレーターの入国を許可したことがその証拠だ。
公証人役場からの出向であるエンフォーサー、ラテラーノ公民のアンブリエルが間に入ってくれたことも大きい。おかげで、感染したラテラーノ公民の将来について、満足できる協定を結ぶことが出来た。
そういうわけで、予定よりも早く会議が終わったので、残りは自由時間とすることにした。
エンフォーサーとアンブリエルにとっては久しぶりの帰省だ。羽を伸ばすいい機会だろう。
一方のドクターはイーサンに連れられて、とあるカフェに訪れた。の、だが。
「お待たせしました! こちら、カップル限定の特大フルーツパフェです!」
「……ちょっと待ってくれ」
聞き捨てならない一言に、ドクターは眉間を指で押す。
ウェイターはさっさと次の注文を取りに行ってしまったが、嬉々としてスプーンを手にするイーサンにはちゃんと届いた。
「んだよ、ドクター。果物苦手だったか?」
「そうじゃなくてだな。カップル限定ってどういうことだ」
「ああ」
イーサンは早速、上の生クリームをひと掬いして口に含んだ。
「いやほら、たまにあるだろ? こういう俺一人じゃ注文できない奴。前にアドナキエルの奴が、ラテラーノにはこういうのもたくさんあるって言ってたからな」
「何故、よりにもよって私を選んだ……? 他にもいただろう。アシッドドロップとか、ダグザとか、それこそアンブリエルとか」
「そいつらに頼んでも断られそうだし、なんか気まずいだろ」
「私も、こういう
話しながらパクパクとパフェを食べるイーサンを前にして、ドクターは組んだ両手に額をつけた。
最近女性扱いが随分エスカレートしている気がする。オペレーターたちは自分をなんだと思っているのだろうか。
そんな内心を知ってか知らずか、イーサンはケラケラと笑う。
「まあ、そう気にすんなって。ドクター、いっつも俺がほとんど菓子食っちまうって文句言ってたろ? 詫びも兼ねて俺の奢りだ。カップル扱いはまあ、必要経費ってことで」
「羽振りがいいな。君がそういう甲斐性を持っているなんて知らなかったよ」
「おいおい、そりゃあ俺だって金無かったり、その辺に美味そうなモンが転がって無かったら、盗み食いなんてしないぜ? ジュナーにも金払ってるしな」
「盗み食いをするな」
「固てーこと言うなって。アンタも食えよ、美味いぜ?」
ドクターは溜め息を吐きながら、改めてどんと置かれた巨大なパフェを眺めた。
一抱えほどもある大きな硝子の器に、生クリームと色とりどりのジャムがこれでもかと言うほどに詰め込まれている。
上の方にはカットフルーツやビスケットも盛りだくさん。どう見てもふたり分の大きさではない。
―――ラテラーノのカップルは、こんなものを平気で平らげているのか……?
エクシアやアンブリエルなら平らげそうだが、エンフォーサーやアドナキエルがこの量を食べているのは想像出来ない。イグゼキュターとアレーンはそもそも頼まない気がする。
しぶしぶとスプーンを手に、カットフルーツをひとつ取り出す。
「第一、私は男だぞ」
「カップル判定出たしいいじゃねえか」
「良くないが」
アンブリエルたちと別行動で良かったと、常々思う。こんな場面を見られたら、なんと言われるか。
ドクターはスローペースでパフェを切り崩しつつ、もやもやとした思いを抱く。
カップル限定の当て馬にされた不満もある。しかしそれとは別に、自分に対する問いかけもあった。
―――まあ、形はどうあれ、あのイーサンがわざわざパフェを奢ってくれるなんて、レアな体験をしているわけだし。
―――台無しにするのも、申し訳ないか。
ドクターは仕方なしに腹をくくると、パフェの山にスプーンを深く突き刺した。
「イーサン、どっちが早く食べきれるか競争しようか」
「お、いいぜ! 俺が勝ったら何くれるんだ?」
「この間ウタゲがおすすめしてくれた龍門の新作スイーツ五箱でどうだろう」
「じゃあ、アンタが勝ったら?」
「貸しひとつ、ということで」
「アンタに貸し作んの、怖ぇなぁ」
「私に勝てばいいだけさ」
「へへ。乗った」
ふたりはどちらからともなくニヤリと笑い、合図も無しに同時にスプーンをパフェに突き刺す。
どうやら、夕食はいらないらしい。ドクターは口いっぱいに広がる果物特有の甘酸っぱさを味わいながら、人知れず苦笑した。
アンブリエルの口から、パキッと音を立ててお菓子がこぼれた。
テキサスがよく食べているのと同じ、スティッククッキーにチョコレートをコーティングしたものだ。ラテラーノ限定で、ミルクティー味が出ていたので購入した。
しかし、他では買えない貴重なお菓子を地面に落とすほどの衝撃が、アンブリエルを襲う。
丸くなった両目の先には、一軒のカフェ。窓際の席で、ドクターとイーサンが大きなパフェを我先にと食べている。
入口近くの黒板には、カップル限定と書かれた、ふたりが食べているのとよく似たパフェの絵。
―――えっ。
まばたきを二回して、次に目をこする。
見間違いではなかった。
―――えっ、そういうこと?
思い返せば、今回の任務は少し妙だった。何がと言うと、イーサンがわざわざ同行したことだ。
ラテラーノ公証人役場と、感染したラテラーノ公民の保障の一貫として、ロドスと提携する会議。退屈しながらも居眠り出来ない会議に、アンブリエルはうんざりするだけだった。イーサンも同様に嫌がるような任務のはずだ。
ドクターの護衛という側面もあるかもしれないが、それならもっと適任がいる。感染者という条件を付け足しても、なお選択肢はある。なのによりにもよってイーサンを連れてきた理由がわからなかったのだが。
―――もしかして、こっちが本命なの?
―――そーゆーこと!?
アンブリエルは、足元にお菓子を落としたまま凍り付いていたが、周囲から注がれる奇異の視線に気がついた。
周りのラテラーノ人がアンブリエルを見て、その視線を辿っている。当然、ドクターとイーサンにも目が向くわけで。
「やばっ」
うっかりバレると絶対気まずいことになる。アンブリエルは直感に従い、一目散に逃げ出した。