アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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(あらすじ)
ドクターがTSさせられたその日の執務室では、仕事を終わらせたドロシー、アステシア、アステジーニが駄弁っていた。そこへウィスパーレインに連れ添われてやってきたドクター。さらに話を聞きつけたウタゲたちが来襲し、ドクターとウィスパーレインをクルビアの街へ連れ去って行ってしまう。

なんか大勢出てた。なんでも許せる人向け。

次回に続く!!


下着を買いにクルビアへ

 同日、午後。珍しくペンとキーボードの走る音が消えたドクターの執務室では、ドロシーとアステシア・アステジーニ姉妹がティータイムを過ごしていた。

 

 用件はもちろん、ドクターの事務仕事を手伝い―――なのだが、書類の山は全てドロシーが片付けてしまっており、当のドクターもまだ来ていないため、アステシアが淹れた紅茶を飲みながら待っている状態だった。

 

 アステジーニはカップに口をつけながら、横目で時計を見上げている。ドクターは、まだ来ない。

 

「ドクター、遅いね……」

 

「遅いわね。連絡ぐらい、あってもよさそうなのに」

 

 ドロシーが端末の画面を覗き込んで言う。

 

 人のことを言えた義理かな、とアステジーニは思った。ドロシーはドロシーで、自分の研究やら開拓者への支援に没頭するあまり、所用が頭からすっぱり抜けてしまうことがよくあったからだ。

 

 半眼を作るアステジーニに、アステシアが問いかける。

 

「ねえエレナ、あなたは何か聞いていないの? 昨日から一緒にいたんでしょう?」

 

「一昨日から、だよ。でも何も聞いてないな。昨日の夜遅くに別れた時も……まぁ、連徹でヘロヘロになってた以外は変わりなかったし……」

 

「だったら、まだ眠っているのかもしれないわね。ところで、何日寝ていないの?」

 

「私は二日。ドクターは……四日、って言ってたかなぁ……?」

 

「それは……寝坊しても責められないわね」

 

 ドクターの仕事は、書類だけに限っても莫大だ。

 

 そのくせ、多くは翌日が締め切りなんてことがザラで、そのためにドクターの事務処理にはどうしたって手伝いが必要になる。時には重役としての会食やパーティ、視察、新たな契約の締結と、事務机ばかりにかかずらってもいられない。

 

 なので基本は戦線に出ないオペレーターや、書類を渡す企業に詳しい者が補佐につく。それでも次々と仕事が舞い込んでくるので、ドクターは徹夜するのが常となってしまっていた。重職ゆえに、医療オペレーターも強くは言えず、頭を悩ませる一因となっている。

 

 ドロシーは紅茶で温まった息を吐きながら、穏やかに微笑んだ。

 

「今日の仕事、ライン生命絡みのものが多くてよかったわね。ドクターもゆっくり休めるんじゃないかしら」

 

「そういうドロシーはどうなのさ。またカフェイン剤がぶ飲みしてないよね?」

 

「最近は、それなりに眠れているから大丈夫よ。ロドスには優秀な人が多いし、ミュルジスとパルヴィスも協力してくれているから」

 

 そうしてひと時の和やかな会話とともに時間が過ぎようとしたところで、執務室の扉が開いた。

 

 部屋の中にいた三人が同時に振り返り、状況を理解できずに凍り付いた。

 

「……や、やあ、三人とも。お、おはよう……」

 

「………………ドクター?」

 

 アステシアが満月のように目を丸くして、素っ頓狂な声を出す。

 

 服装は、フードとマスクを取っている以外はいつも通り。だがその胸元が、控えめながらもはっきりと違和感を知覚できるほどに膨らんでいる。声音も、心無しからいつもより高い。付き添いのウィスパーレインが気の毒そうに目を逸らしていた。

 

 ドロシーはパチパチとまばたきをして、首を傾げる。

 

「ドクター、よね……? その、どうしたの……?」

 

「……それが」

 

 真っ青になった顔でドクターが一部始終を語る。その後ほどなくして、一番驚くことになったのはアステジーニだった。

 

「え、えぇ……?」

 

「えー……?」

 

「うーわ、お姉ちゃんとドロシーがドン引きするところ、初めて見た……」

 

「奇遇だね、アステジーニ。私もだよ」

 

 引きつった笑顔を作るふたりを見て、ドクターとアステジーニは溜め息を吐く。

 

 ドロシーは理解はしたが納得出来ないと言ったふうに、人差し指でこめかみを押さえた。滴のような丸みを帯びた耳が垂れさがる。

 

「ライン生命でも、重症の被験者の許可を取らずに新薬の治験をすることはあるわ。私は小耳に挟んだだけだけれど、かつてそういうことをしてラボがまるごとひとつ焼け落ちたっていう話もあるぐらい。……まさか、ロドスがそういうことを……しかもドクターにするとは思わなかったけれど……」

 

「私も、女性になる薬を飲まされていたなんて、夢にも思わなかったよ」

 

 重苦しくぼやくドクターに、アステジーニは囁きかける。

 

「……昨日の夜、私と別れるまでは普通だったよね」

 

「正直、私もあまりよく覚えていなくて」

 

「四徹のあとで、もうすぐ仕事が終わるって時だったもんね。無理もないか」

 

 アステジーニは、こんなことになるなら終わるまで付き合ってあげればよかったなあ、と後悔の念を抱いた。

 

 自分も二徹で似たり寄ったりだったとはいえ、ドクターよりはマシだった。もしかしたら、クリフハートの悪戯にも気付いてあげられたかもしれないのに。

 

 見るからに落ち込んだドクターに、アステシアが紅茶を差し出す。

 

 スッと鼻に沁みてくる爽やかな香りが、ドクターの心をほんの少しだけ慰めてくれた。

 

 礼を言ってひと口啜る彼―――今や彼女に、アステシアは尋ねた。

 

「それで、これからどうなるの? 初めて会う人はともかくとして、今までにあった企業の人とか、驚くでしょう?」

 

「そのあたりはアーミヤとケルシーが代行してくれることで収まった。その分、ふたりの仕事も、出来る範囲で私が担当することになってね。ケルシーからは、一時的にプラチナたちを指揮した作戦を担当するように言われている」

 

「ああ、S.W.E.E.Pだっけ? そこの子たちも、びっくりしそうだね……」

 

「彼女たちだけじゃなくて、他のオペレーターに説明するのも大変そうだよ。早く体が戻ってくれればいいのだけど」

 

 同情気味の目を向けてくるアステジーニに言い、溜め息を紅茶で喉に流し込む。

 

 透き通った緋色の液体が底を尽いたのを見越して、アステシアがお代わりを問う。言葉に甘えてカップを差し出したところで、再び執務室の扉が開いた。

 

「こんちわー。ドクター、いる?」

 

「ウタゲ? ……と、エクシアに、カシャ?」

 

「やっほーリーダー! うわ、ほんとに女の子になってる」

 

「お、ホントに? ちょっとエクシア、そこどいて! 撮れないから!」

 

 嫌な予感がしたのは、ドクターだけではないらしかった。

 

 部屋にやってきてからというもの、離れた場所で座り無言を貫いていたウィスパーレインが立ち上がる。

 

「あの……どうかしたのですか? なぜ、ドクターの話を既に……」

 

「甲板に逆さで吊るされたワルファリンたちが騒いでたからね。証拠映像撮ってあるよ! 見る?」

 

 背伸びをしてエクシアの肩口から顔を出したカシャが端末を振る。

 

 もはやなんと反応していいのかわからないドクターを、急接近してきたウタゲとエクシアがまじまじと見つめた。

 

「あ、結構肌すべすべしてるし髪もさらさらだー。ねえリーダー、この辺女の子になってから変わった? あと胸ホンモノ? 触っていい?」

 

「駄目だ。それとカシャ、撮影禁止」

 

「はぁーい。っていうかさぁ、あたし言ったじゃん。フェリーンは危ないんだよって。ドクターを女の子にした次は、何するかわからないよ?」

 

「わざわざそれを撮影しに来た君に言われてもな……。それで、三人そろって何をしにここへ?」

 

「決まってんじゃん? ドクターがホントに女の子になったか見てみよーって。みんなその話で持ち切りだしさ、カシャも撮りたい撮りたいって言ってたからー」

 

 ウタゲはどこか気だるげな調子で半笑いを浮かべる。それを聞いたウィスパーレインがビリビリと反応を示した。

 

「ま、待ってください……皆さん知っているのですか? もう?」

 

「んー? そりゃそーよ、あんだけ大騒ぎしてたらさぁー。今夜には、ロドス中に広まってるんじゃない?」

 

 突っ伏したドクターの額が机を打ち据え、ゴンと鈍い音を立てた。

 

 いつ戻るかもわからないので、いたずらに話を広げたくないというアーミヤの考えは、これで水泡に帰したわけだ。

 

 ドロシーたちが呆然としつつ、憐みの目を向けてきているのが、顔を上げるまでもなくわかってしまう。

 

 それを知ってか知らずか、カシャは持ち前の好奇心のままに質問を並べ立てる。

 

「ドクター、女の子の体になってみてどんな感じ? ていうか、服とかあるの? 下着は?」

 

「下着? ……男物しかないけど」

 

「……ふーん?」

 

「へぇ……」

 

「ほうほう」

 

 闖入者三人が顎に手を当て、互いに目くばせをする。ドクターは即座に席を立とうとしたが、エクシアによって両肩を押さえつけられた。

 

 ただならぬ気配を察したウィスパーレインが滝のような冷や汗を流す。

 

「あ、あの、皆さん。ドクターは今日、ロドス本艦で経過を観察しなくてはならず……」

 

「経過観察って言ってもさー、必要最低限のものは買っとかないといけないじゃない? 服とかさ……ね?」

 

「エクシアさん! それはクロージャさんにお願いすれば……!」

 

「いや、絶対ぼったくられるじゃん。あの人のがめつさ、クロワッサンといい勝負じゃん。今ちょうどクルビアに停泊してるとこでしょ? だったらさー……買い出しに行くの、ありじゃない?」

 

 屈託のない、しかし明らかに言いくるめるつもりの笑顔でエクシアが言う。

 

 それを聞いて目くじらを立てたのは、アステジーニだった。

 

「待った。君たち、実はドクターで遊びたいだけなんじゃないの? 特にカシャ」

 

「そ、そんなことないし! クルビアのファッション巡りの動画作りたいからついでにどうかなーって思っただけだもん!」

 

 カシャは後頭部で手を組み、目を泳がせる。アステシアが苦笑いを浮かべ、ドロシーも何事か口を挟もうとする直前で、ウタゲがドクターとウィスパーレインの腕をつかんだ。

 

「まー、さっと行ってさっと帰ってくればいいし。せっかくだからウィスパーレインも行こー。似合う服、選んだげる」

 

「え? いえ、私は……」

 

「待ったウタゲ、私は男で……!」

 

「今は女の子じゃん? だいじょーぶ、そのサイズなら可愛いのいっぱいあるし、ついでにネイルもやったげるー。バレないうちにいこいこ」

 

「ちょっと、待っ……!」

 

 ドクターは抗議しかけたが、エクシアとカシャに脇を固められてあっさりと連れ出されてしまう。

 

 あれよあれよという間に執務室から引きずり出されていくふたりを、アステジーニは声を荒らげながら走って追いかけていく。

 

 遠のいていく賑やかな声。執務室が完全に静かになるまで、ドロシーとアステシアは呆気に取られていた。

 

「……ドクター、大丈夫かしら?」

 

「大丈夫……だといいわね」

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