アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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マドロックさんが美少女なんだし、ボブおじさんとパトリックおじさんも実は美少女なんじゃないか?


不服と疑問視

 マドロックに、不満そうな顔で睨まれた。

 

 彼女が率いる小隊は、かれこれ数か月、レム・ビリトンにて外勤任務に当たっていた。

 

 内容は、かの地にて設立された“ファイヤーホイッスル警備会社”からの依頼に応じるためであり、同社とロドスが提携するに当たって、互いの意識の擦り合わせや、戦闘指揮の演習も兼ねた賊の対処である。

 

 そしてこのたび、マドロックは当警備会社の社長と一緒に執務室へやってきたのだが。

 

「ドクター、ロドスのバーで、私と鉢合わせた時のことを覚えているか?」

 

「あ、ああ、覚えている。君がロドスに入職したばかりの頃、君は武装を全て解いていた。私はその時まで君の素顔を知らなかったから、とても驚いた」

 

「そうだ。まさか、お前がロドスのオペレーター、そして患者の顔と声と名前を全て覚えているとは思わなかった。その上で、私に気付かなかった。その酒の席で……なんと言ったかな、サヴラの彼は」

 

「“あの高潔で慈悲深い巌窟王で有名なマドロック小隊の隊長の中身が、こんなお嬢さんだとは思わなかったぜ”、だったか。彼の名はイーサンだ。元レユニオンで、ゴースト兵をしていたらしい」

 

「道理で。……ともかく、君も彼も、私が女性であることに驚いていたことに加え、お前と共に訪れたクロージャさんとそろって、ロドス艦内では武装を解くように、と言って来た。同じオペレーター同士、素顔を見せた方が良い、とも」

 

 マドロックが何を言おうとしているのか、なんとなく理解できた。

 

 今のドクターは、ヴィクトリアでの会談に参加するための礼服姿―――いつものフードとマスクを外し、ボディラインの出る服装をしている。

 

 つまりは、そういうことだ。

 

「だというのに、お前は自分のことを棚に上げて、“性別を勘違いされる”だの、“非武装(そっち)の方が絶対に良い”だの、“美人だし、黒いドレスとか絶対似合うから手配する”だのと宣ったのか?」

 

「それは全てクロージャの言葉だ。確かに私も同意はしたが……いや待て、そもそも私は男だ。これは妙な薬を飲まされたせいであって、決して元の性別を隠していたというわけではない。マスクもフードも、医療部から防護措置として身に着けるように、と言われているからで……」

 

 そんな風に弁解したが、マドロックはますます目を細め、黒みがかった赤い瞳に不信の影を色濃く落とした。

 

「薬を飲んで性別が変わった、だと? そのような話は聞いたことがない。私を揶揄っているのか?」

 

 ドクターは、喉から溢れかかった悪態を、どうにかして飲み込んだ。

 

 大きく苦い飴玉を丸飲みさせられた気分で思い出すのは、以前、エーベンホルツと交わしたやりとりである。

 

“薬を盛られて女性に変えられた元男だと言ったところで、理解されるはずもない”

 

“そのような世迷い事が通用するのは、ロドスだけだ”

 

 正論だが、とても受け入れられない発言に対し、ドクターはこう言った。そんな世迷い事は、ロドスでも通じて欲しくなかった、と。

 

 まさか、こんな形で現実のものになってしまうとは。

 

 目頭を抑え、わなわなと震えるドクターと、淀み切った不満のオーラを立ち昇らせるマドロック。彼女の紹介でやってきたファイヤーホイッスル警備会社の若き女社長は、自分なりに状況を飲み込んだ。

 

「えーっと、なんだか積もる話があるみたいですが、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」

 

「すまない、君のことを忘れていたわけではないんだ」

 

 ドクターは呼吸を整えて精神を平静に保つ。出立の時刻は近いが、やることはやらなければならない。

 

 明るいブラウンの髪と、そこから腰まで伸びた羽根が特徴的な、勝気そうなリーベリ族の女性は、見事な営業スマイルで握手を求めてきた。

 

「この度は、弊社、ファイヤーホイッスル警備会社との提携をしていただき、誠にありがとうございます! ロドスのことは、こちらのマドロックさんから伺っております」

 

「こちらも、マドロックからの報告は受け取っている。返信に契約書の草案を添付したが、読んで頂けただろうか?」

 

「はい! ですので、私が社を代表して、オペレーターとしてお勤めさせて頂きますね。コードネームは、社名そのまま、“ファイヤーホイッスル”とお呼びください」

 

「社名でいいのか?」

 

「はい、もちろん! これも社名を覚えていただくための戦略なので!」

 

 あけすけに言い放ち、“ファイヤーホイッスル”は可愛らしくウィンクをしてみせた。

 

 その流れで、本人の署名が入った契約書類を受け取り、事務の手伝いをしてくれているオペレーターに人事部へ届けるように手配する。

 

 それからいくつか、ファイヤーホイッスル本人を含む、警備会社の社員たちの健康診断や、任務の割り振り、宿舎についてなど必要事項を手短に話し終えたあと、ファイヤーホイッスルは顔を突き出して、ドクターの服装をまじまじと見つめた。

 

「ところで、ドクターはこれからお出かけですか?」

 

「ああ。ヴィクトリアの貴族会議に呼ばれてな。鉱石病とその対応について、指導してほしいと言われてね」

 

「なるほどぉ。ふふふ、やはり私の目に狂いはありませんでしたね」

 

 ファイヤーホイッスルは銃の形にした指を顎に当て、得意げに頷いた。

 

 彼女の警備会社には、感染者も在籍している。社長自身、そのことは対外的に隠しもしておらず、非感染者の社員と同様の待遇を与えている。それが彼女の会社を破産寸前に追い込んでもいたのだが、一方でロドスが積極的な提携に踏み切った理由でもあった。

 

 感染者に対する搾取の厳しいレム・ビリトンにおいて、ファイヤーホイッスルの経営方針は異端だが、ロドスの理念には合致していたからだ。

 

「にしても、大変ですね。ヴィクトリアって確か、結構遠かったような」

 

「こちらにも移動手段があるから、問題はない。とはいえ、そろそろ出なければいけないが」

 

「あはは、引き止めちゃってすみません。詳しいお話は、またの機会に。あ、でもひとつだけ聞いてもいいですか?」

 

「何か?」

 

「性別が変わったって……どういうことですか?」

 

「………………」

 

 先のマドロックとのやりとりを隣で聞いていたのだから、当然といえば当然の疑問である。

 

 が、付き合いの長くなってきたマドロックにさえ信じてもらえない話を、初対面のファイヤーホイッスルが信じてくれるだろうか。

 

 ドクターは改めて、今日のコーデを見下ろした。

 

 服装それ自体は、仕立てがいいだけで、何の変哲もない黒のスリーピーススーツだが、靴はエナメルの―――低めとはいえ、ヒール。髪は柔らかなウェーブのショートヘアで、金属製の髪飾りがついている。

 

 貴族に受け入れられるよう、ところどころ洒落た金属のアクセサリーでワンポイントをつけたコーデは、バイビークが何やら葛藤しながらも作ってくれたものだ。それ自体には、なんの不満もない。

 

 ただ、胸元の膨らみや腰のくびれ、脚線の出る衣装であるため、どうしても女性の体であることを強調する形となってしまっている。なお、そのことを指摘すると、何故かオーキッドに説き伏せられた。当のバイビークは唇を噛み、何やら凄烈な表情をしていたが。

 

 ドクターはしばらく悩んだ末、苦々しく思いながらも、言葉を濁した。

 

「……そのうち、酒の席で話すことにしよう」

 

 それだけ言って、時間もないので執務室を足早に去っていく。

 

 ファイヤーホイッスルはポカンとした顔で首をひねり、マドロックはムスッとした表情をしていた。

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