アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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美人にTSしたドクターを見た衣装デザイナーやら映画監督やらがどう思うのか、言うまでもないことだ。


誘拐

「シャレム、匿ってくれ!」

 

「どうぞ」

 

 自室に転がり込んできたドクターを、シャレムはさも当然であるかのように迎え入れた。

 

 息を切らすドクターの背後、扉を一枚隔てた向こう側から、どたどたと騒がしい足音がして、何人かの声がサラウンドする。

 

 シャレムは紅茶を淹れながら、ドクターに尋ねた。

 

「それで、本日は誰に追われているのですか?」

 

「ニェンとエフイーターだ。映画に出てほしいって言われたんだが」

 

「映画ですか。確かに、ミス・ニェンは映画制作が趣味と聞き及んだことがあります」

 

 ドクターに椅子と紅茶を勧め、同じ卓に着く。外からの騒音も聞こえなくなり、ドクターはようやく人心地つくことができたようだ。

 

 紅茶の香りを嗅ぎながら、ドクターは話を続ける。

 

「ああ、よくラヴァを巻き込んで作っているな。クロージャなんかは、新作が出るたびに酷評しているよ」

 

「あの方も、ロドスでは映画やドラマが好きなことで有名ですね。では、ドクターは出来の悪い映画に出演したくなくて、逃げてきたのですか?」

 

「いや、映画制作を手伝う分には問題ない。ただ……」

 

「ただ?」

 

 そこで一度、会話が途切れた。

 

 ドクターは低く唸りながら、ティーカップを人差し指で叩き、口に出すかどうか迷っているようだったが、やがて紅茶で温まった溜め息を吐いて言う。

 

「私に回されたのが、ヒロインの役で」

 

「ほう」

 

「用意された衣装は露出度が高く」

 

「……はい」

 

「しかも、ダブル主人公の片割れである、王女(マドロック)の妹という設定なんだ」

 

「……それはそれは」

 

 シャレムは苦笑いを堪え切れなかった。

 

 つまりドクターは、女性の演技をしたくないのだろう。気持ちはわからないでもない。肉体が女性になってそれなりに時間が経ち、元に戻る目途も立たない状況で、フリでも女性の仕草をしてしまえば、戻れないと危惧したに違いない。

 

 まして、普段肌を出さないドクターが、露出度の高い衣装を着せられるとなれば、猶更だ。

 

 ドクターは話を聞いてもらえて少し気がほぐれたようで、抑えていたらしい愚痴を滔々と零し始める。

 

「衣装を作ったのはバイビークなんだが、これがまた妙にノリノリでな。私のスタイルが良かったからつい、などと言って、いくつも衣装を持ち出して来たんだ。エフイーターは私を抱えて危険なスタントをする気満々だし、マドロックからは、この間からずっと冷たい目を向けられているし……」

 

「あなたの惨状はある程度耳にしていましたが、散々ですね」

 

「わかってくれるか」

 

「私が同じ立場であったなら、きっと今のあなたと同じ心境になりますよ、ドクター」

 

 とりとめのない会話を交わしながら、シャレムは最近のロドスの様子を思い出す。

 

 ドクターが女性になってから、月日が経っているため、当初の妙な驚きと(どよ)めきは、なりを潜めている。ただ、その平穏も不安定なもので、ドクターに何かある度ささくれ立つ。

 

 主に女性が中心になって騒いでいるのが、やや不思議だが。

 

「慣れないものですね、あなたも、ロドスの皆さんも」

 

「慣れてしまったら、恐らく元に戻れないな」

 

「かと言って、こうなっては生活もままならない。悩ましいところですね」

 

「はあ。スルトやアシッドドロップ、キアーベのように、性別を気にせず接してくれるオペレーターの、なんと貴重なことか」

 

「ははは、相手の性別が全く気にならない人の方が少ないものです」

 

「それはそうだが……」

 

 そんな具合に、話に花を咲かせていると、にわかに廊下が騒がしくなった。

 

 ドクターがドキリとして息を潜め、シャレムが横目で扉を眺めていると、宿舎のドアがなんの前触れもなく引き裂かれる。

 

 驚愕のあまり、石像のように凍り付くふたりの前で、スッパリ切断された扉を蹴っ飛ばし、押し入ってきたのはニェンであった。

 

「やっと見つけたぜ、ドクター! こんなところに隠れていやがったのか」

 

「ニェン!? ど、どうしてここに……」

 

 残った紅茶が勢いよく跳ねるほど、ドクターの肩がビクッと過剰反応する。

 

 シャレムは唖然としながら、ニェンの肩越しに、向かい側の部屋の扉も切り裂かれていることに気が付いた。

 

 なるほど、ドクターがどこかの部屋に隠れたことに思い当たったが、それがどこの部屋なのかわからず、手あたり次第押し入った、ということか。

 

 頬を引きつらせながら、シャレムは苦言を呈する。

 

「ミス・ニェン。いくらなんでも強引すぎるのでは無いでしょうか」

 

「ああ? ドクターが逃げんのが悪いんだろうがよ」

 

「いくらなんでも暴論過ぎるだろう……! ドアの修理代は君の給料から天引きするからな。あと、私は絶対にその映画には出ない」

 

 ドクターが怯えながらも、強い口調で抗議する。

 

 ほぼ同時に、廊下からエフイーターの声がした。

 

「おーい、ドクターは居たー?」

 

「見つけたぞ! 連れていくから手伝え」

 

「了解!」

 

 ドクターは椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がり、後ずさりをする。

 

 しかし、ここは部屋の中。唯一の入口はニェンに塞がれて、デッドエンドだ。しかも、エフイーターまで合流してきた。

 

 凄まじい圧力を纏ってにじり寄ってくる映画部のふたりから距離を取りつつ、ドクターはシャレムに目を向ける。

 

「あの、シャレム……?」

 

「申し訳ございません、ドクター。こうなってしまっては、私にはどうすることも出来ません。流石に私室でミス・ニェンとミス・エフイーターを同時に相手するのは厳しいですね」

 

「おう、大人しくドクターを差し出しゃ、殴ったりしねえからよ」

 

「その台詞は、ドアを斬って捨てる前に聞きたかったものですが」

 

 ところどころブロックノイズが走る大剣を担いだニェンの、傍若無人そのものな言葉に嘆息する。

 

 追い詰められ、震えあがるドクターに、エフイーターが飛びつきお姫様抱っこで抱え上げた。

 

「つーかまーえたっ! よっしゃ、それじゃあ撮影に行くぞ、ドクター! 大丈夫、ドクターの出番は少ない方だから!」

 

「ならせめて出番の時だけ呼んでくれ! ずっとあの衣装を着ている必要はないだろう!?」

 

「そんなこと言うなよー。まあ、あたしもずっと映画用の衣装を着ていたいわけじゃないけどさ。似合ってるんだし、バイビークも気合いれて作ってくれたんだから、一回着てみろって!」

 

「は―――な―――せ――――――!」

 

 じたばたと藻掻くドクターを連れ、エフイーターとニェンが騒がしく立ち去っていく。

 

 耳に痛いほどの沈黙が帰ってきたあと、シャレムは部屋の扉を見下ろして深々と溜め息を吐いた。

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