アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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ノーシス、民意とかあらゆる方面から国の議長務まるのか不安すぎる。
なおコーデネタ。風雪一過ネタも突っ込んだ。


穏やかな雪原・2

 ノーシスは、眼下の花を注意深く観察していた。

 

 ガラスの奥に置かれた、大きな黒い花。

 

 翡翠の破片を埋め込まれているかのように煌めくそれの中心に、ふさふさした球状の物体がある。

 

 新たに発見された新種の花は、春キャベツほどの大きさで、半人工の飼育エリアの中にあっても瑞々しい。

 

 特殊な細工が施された仮設テントに入ったドクターは、氷像のように動かないノーシスへ近寄った。

 

「どうだ?」

 

「解凍は問題なく終わった」

 

「それだけか?」

 

「植物というものは、そうそう表情を変えないものだ。君にまとわりつく子供たちと違ってな」

 

「言ってくれる」

 

 相変わらず歯に衣着せぬ物言いに、ドクターはほんのり苦笑する。

 

 マゼランが雪原で見つけた花は、独特な構造をしていると、パフューマーは言っていた。

 

 切り立った崖に根を下ろすこの種は、葉ではなく花弁から陽光を取り込み、熱と養分を吸収しているのだという。

 

 熱を集め、分厚い花弁の中にあるゲル状物質で保温する。このゲルは種子の保護にも使われ、蒲公英(タンポポ)と同じように、風に乗って移動する種を岩壁に接着し、根が張るまで守るのだとか。

 

 そして、特殊な薬効を持つのもゲル状物質とのことだった。

 

「ルートは確保したから、そう遠くないうちに、ちゃんとした研究所が出来るはずだ。エンジニア部も何人か来る」

 

「それまで私は、この粗末なテントで研究をせねばならないわけか」

 

「文句は段取りも放り出して逃げようとした、案内人に言ってくれ」

 

「ふっ。それで、君はこの後どうするつもりだ?」

 

「しばらくは、周辺の哨戒と現場監督を指揮する。君たちの安全を確保しなければ」

 

「建設家の真似事か。確か、イェラグでも似たようなことをしていたのだったな」

 

「ああ、解雇された君の代わりにな。ちゃんと工場区画の整備は進んでいるのか?」

 

「とうに終わっている。君が去り、御三家の騒動が落ち着いた後、再稼働の前に、君が指摘した部分は全て改善された」

 

「そうか、今度視察に行くとしよう」

 

「視察か」

 

 ノーシスはまた、鼻で笑った。

 

 目を閉じ、背筋を凛と伸ばし、ステッキ代わりのアーツユニットを突いたまま行われるその癖は、鼻持ちならない貴族のそれだ。

 

「ここのところ、随分と忙しそうだが、そんな暇はあるのか? エンシオディスもロドスに来ている。妹の不始末を埋め合わせると言って」

 

「悔しいが、随分と助けられているよ」

 

「その体たらくで、彼の牙城を視察すると? なかなかどうして、面の皮が厚いものだ」

 

「かつて雪山事変の折り、所詮彼の遊び心に過ぎないとはいえ、私は君に代わって、カランド貿易が所有する工業区を視察し、欠点を指摘した。それが改善されたのならば、見届けるのも私の責務だ」

 

「近頃の君は、言い訳ばかりが達者だな。元からそうなのか?」

 

「………………」

 

 ドクターは、マスクの下で唇を曲げる。

 

 アーミヤにもケルシーにも、しょっちゅう余計なリスクを背負いこむな、他国の政治面に軽々に踏み入るな、と言われ、そのたびに反論をしてきた。

 

 言い訳ばかりと言われても仕方がないが、雪山事変の件では、まさに彼が言い訳をする原因の一端を担っていたのだ。

 

 帰還後、同行していたSharpも助け舟を出してくれず、大変だった。

 

 ドクターは、うっかり零しそうになった文句を飲み下す。

 

 ノーシスに、三度鼻で笑われた。

 

「何度も言うが、取捨選択をした方が良い。君の体がそうなってからというもの、オペレーターからの人気も高まっているだろう。少女たちが君を好く姿など、まるで羽獣の雛が親に懐くが如し、だ。ヴィクトリアの社交界に現れたエンシオディスも、君ほどではなかったものだ」

 

「よしてくれ。正直に言うと、私も距離が近すぎるとは思っているんだ」

 

「時間を割くならば、拒絶もやむを得まい」

 

「私がただの研究者であれば、な。そうではないのは君も同じだろう、イェラグ議会初代議長殿?」

 

「私の場合は、研究に差し支えないよう、タスクを選んでいる」

 

「選んだ以外のタスクは?」

 

「然るべき者が行うように手配する」

 

 当然だろう、と言わんばかりの口調だった。

 

 だが、そうでなければ、ウルサス帝国にほど近い雪原に留まって研究など出来まい。

 

 同じ雪に覆われた大地だが、ここはイェラグから離れた場所なのだ。

 

 ドクターは視線を花に戻した。

 

「まあ、いいさ。君が手を上げた研究だ、上手くやってくれ」

 

「元よりそのつもりだ。ロドスとしては、この花から作られる薬が、鉱石病治療に繋がるかどうかが鍵なのだろう?」

 

「例えそうでなくても焦らないさ。みんな、暗中模索には慣れている」

 

「未開の闇を恐れる者に、研究者は務まらない」

 

 その後しばらく、ふたりの間でトークが続いた。

 

 実験資材がまだ届いていないことや、現状は解凍したサンプルの生育を見守る必要があるためか、いつになくノーシスとの会話が弾む。

 

 もしかすると、彼も未知の薬効や雪原の研究所というものに、心を躍らせているのかもしれない。

 

 エンシオディス経由で伝わったカランド貿易の研究、エンヤの仕事ぶりと方針、ペイルロッシュ及びブラウンテイルの近況など、しばらく訪れていなかったイェラグの話を聞いているうち、オーロラがテントの中を覗き込んできた。

 

「ドクター、医療部の人たちが来たよ」

 

「わかった、すぐ行く。アスベストスは逃げてないな?」

 

「そこで飲んだくれてるよ」

 

 オーロラに誘われるまま表に出ると、アスベストスがスキットルの中身を一気に呷るところに出くわす。

 

 既に飲み干してしまったのか、逆さにして、最後の一滴も引っ張り出そうとする彼女を、医療オペレーターが制止した。

 

「アスベストスさん、お酒を飲んだんですか? 検査前に!?」

 

「あー? 別にいいだろうが」

 

「よくありません! って、うわ、この匂い……相当度数の高いお酒ですね? まさか一気飲みしていませんよね?」

 

「うるせえな、いいからさっさと薬だけ寄越せ。アタシはもう行く」

 

「待った、それは危ないよ!」

 

 顔を赤くして立ち上がったアスベストスの腕をマゼランがつかむ。

 

 凄く鬱陶しそうなアスベストスに、一晩留まるように説得するマゼラン。飲酒に怒る医療オペレーター。

 

 そんな光景を見て肩をすくめていると、医療オペレーターの怒りの矛先がドクターに向いた。アスベストスに酒を渡したことがバレたらしい。

 

 にわかに騒がしくなる雪原の日は暮れ、空は茜色に染まっていった。

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