龍門での一仕事を終えた後、小隊は自由解散となった。
今回はリン・ユーシャ、龍門近衛局と連携して、スラムの立地調査を行った。都市部とは別に、スラムにも事務所を設立しておきたい、というのが理由でもある。
鼠王が正式に龍門に協力してくれたのは、実際ありがたいことだ。後ろ盾を得たことで、ウェイ・イェンウの許可も得られ、ロドスとスラム、近衛局の間で連携を取れるようになった。
事務所の設立については、セメントとパインコーンが請け負ってくれた。拍子抜けするほどスムーズに終わったために、帰艦まで手持無沙汰だ。
お土産は買ったので、ジェイの屋台に行ってみようか。そう思いながら歩いていると、胃袋を揺さぶるようなエンジン音が真後ろから聞こえてくる。
―――バイクか。そういえば、荒野にツーリングへ行ったツェルニーは無事に過ごせているだろうか。
珍しく外出した音楽家に思いを馳せていると、エンジン音が徐々にすぼまり、やがてドクターの真横で停止した。
ふとそちらに目を向けてみれば、乗っていたのは緑の髪をした長身の女性。額から生えた角はサルカズのそれとも違うので、見間違いようがなかった。
「おや、ドクター。こんなところで会うとは奇遇だな。仕事はもういいのか?」
「ホシグマ!」
路肩にバイクを止めた鬼の女性は、ゴーグルを首に引っかけてバイクを下りる。
黒塗りの大型バイクは無骨ながらも洗練されたデザインで、どこかホシグマと似通った雰囲気を持つ。
そういえば、彼女もバイクが趣味だったか。などと考えながら頷き返した。
「ああ、思ったより話が早くまとまったからな。帰艦まで、束の間の休暇だ。そういう君は?」
「私はたった今退勤したところでな。にしても……」
ホシグマの視線が、ドクターの胸元に注がれる。ドクターは肩を竦めた。
「あまり見ないでくれ」
「おっと、すまない。スーお嬢様が死んだ鱗獣のような目をして噂していたのでな。何か悪いものでも食べたと思っていたのだが」
「悪いものを食わされたのは私の方だよ。おかげで、リン・ユーシャになんて言われたと思う?」
「想像以上に苦労しているな」
ホシグマは苦笑して、バイクのシートを手のひらで叩いた。
「その手の話は、酒で流すに限るだろう? どうだ、一杯付き合わないか?」
「……お手柔らかに頼むよ」
ドクターが小さく肩を竦めると、ホシグマからヘルメットが投げ渡される。
これをフードの上から被るべきかどうか、少し悩む羽目になった。