アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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ホシグマさんは最強です


キャパシティ

「はははははは!」

 

 場末のバーに、ホシグマの笑い声が響き渡った。

 

 レトロな雰囲気をぶち壊しにされたマスターは、やや眉をひそめたが、他に客がいるでもない。

 

 周囲を気にせずゲラゲラと笑うホシグマの隣で、顔を赤らめたドクターは嘆息する。

 

「笑いごとじゃないぞ、ホシグマ……」

 

「す、すまない……だが、ふふっ! そうか、手の甲にキスか。シラクーザ人は聞いていた以上に気障だな」

 

「それだけじゃない。彼の隣にいた裁判官が、その後なんて言ってきたと思う?」

 

「なんて言ったんだ?」

 

「シラクーザ流の、女性への敬意を示しているのです……とな」

 

「アハハハハハハハハハ!」

 

 ホシグマがバーカウンターを叩くたび、古めかしい木材がミシミシと軋む。

 

 ドクターはウィスキーグラスを傾けた。

 

「壊れるぞ」

 

「おっと。失礼したマスター、もう二杯!」

 

 注文してからほどなくして、グラスに酒が注がれる。

 

 眠たげに瞬きしながら、酒が丸い氷の表面を滑るのを眺めていると、ホシグマが喉を鳴らした。

 

「しかし……よもや、ドクターの性別が変わっているなんて話が本当だとは。ロドスはやはり面白い」

 

「あまり驚いていないように見えるが。スワイヤーとリンにはすごい顔をされたんだがな」

 

「事前にスーお嬢様に聞いていてな。まあ、あのお嬢様がこの世の終わりみたいな表情をしていなければ、私も下手な冗談と笑い飛ばしていたよ。マスター、もう一杯!」

 

 まだ飲み干してもいないのに、ドクターの酒嵩が増した。

 

 驚いてマスターを見ると、彼は気の毒そうに首を振るばかり。恐らく、こうしてホシグマに潰された客を見てきたのだろう。

 

 胃が痙攣するのを感じて腹を押さえる。喉の奥に不穏な気配。限界が近い。

 

「……チェイサーも頼めるか」

 

「む?」

 

 冷水を飲み下すドクターを、ホシグマは不思議そうに横目で見やる。

 

 決して低くない度数の酒を一息で飲み干した彼女は、お代わりを注文しながら頬杖を突いた。

 

「どうした、ドクター。まだ五杯しか飲んでないじゃないか。もう酔ったのか?」

 

「まだ五杯……!? 随分強い酒を選んだな」

 

 ロドスには酒飲みが多い都合上、ドクターもそれなりに覚えはあった。

 

 というより、飲み過ぎた結果問題をやらかすオペレーターが多いので、自然と強くならざるを得なかった。

 

 ポエムを口にする程度ならいい。が、ブレイズやらLogosやら、とんでもない事態を引き起こすことも多々ある。そのたび、Misseryやラ・プルマ、医療オペレーターたちが嫌そうな顔をするのを何度も見て来た。

 

 必然、我が身を顧みて酒への耐性をつけていき、ちょっとやそっとでは酔わなくなった……はずなのだが。

 

 ―――そういえば、やけに明かりが眩しくなってきたような。

 

 ―――頭も変だ。風船をつけられたみたいに軽い……。

 

 我知らずクラクラと頭を揺らしていると、ホシグマがマスターからボトルを受け取る。

 

 ラベルを見て、度数を確認したところ。

 

「……10%。対して強くも無いぞ?」

 

「10%? ならまだまだ余裕で……」

 

「うむ……」

 

 低くうなりながら、ホシグマは受け取ったボトルをそのままラッパ飲みする。

 

 ドンと強くボトルを置いた衝撃が、ドクターの腹の底にまで響き渡って来た。

 

「う……っ!」

 

 つい突っ伏しそうになる頭を、なんとか支える。ホシグマはそんなドクターを眺めつつ、人差し指を立てた。

 

「まさかとは思うが……女になって酒の耐性も下がったか?」

 

「そ、そんなバカな……」

 

「いやしかし、そう考えた方が自然だぞ?」

 

「…………!」

 

 ドクターは不意に立ち上がり、グラスの酒を一気に喉へ流し込む。

 

 ドンと力強くグラスを置いて、フードの袖で口元を拭いながらマスターへ差し出す。

 

 女になってからというもの、様々な苦労に晒されてきた。他のオペレーターにも迷惑をかけた。

 

 ―――まして酒でまで迷惑をかけるなど!

 

 酔いの回って来た頭で矛盾したことを考えながら、ドクターは威勢よく言い放つ。

 

「もう一杯!」

 

「ふっ、私の気のせいのようだな。私も頼もう!」

 

 気の弱そうな老齢のマスターは逡巡した様子を見せるが、結局ふたりに従った。

 

 そこから先は、チェイサーもないノンストップの飲み比べ。

 

 素面のドクターであれば、そんな判断はしなかった。相手はロドスの飲んだくれ全員を潰してなお素面同然を保てるホシグマ。

 

 到底、敵うわけがない。

 

 ドクターは三十分と経たず酔いつぶれ、ホシグマの肩にもたれかかった。

 

 ホシグマは小さく肩を竦める。

 

「やはり弱くなったな、ドクター。まあ、仕方ない。飲み足りないが、今日はここまでにしよう。マスター、勘定を頼む」

 

「ああ、はい……。ところでホシグマさん、そちらの方はどうするおつもりで?」

 

「おっと、そうだ。本艦から遠征しにきたらしいが、ホテルも知らないな……」

 

 財布を探りながら、ホシグマは少し楽しそうに言う。

 

 龍門幣を何枚か手渡すと、彼女はドクターを横抱きにして立ち上がった。

 

「ま、気にするな。潰したのは私だからな。私が責任を持つとしよう」

 

 

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