仕事のついでにロドスへサボりに来ていたプラマニクスこと、エンヤ・シルバーアッシュ。彼女はブリッジにつるされた妹を見上げ、今朝ドクターの身に起きたことを知るのだった。
イーサンに余計な一言を言わせたかっただけ!!なんでも許せる人向け。
出演:プラマニクス、マッターホルン、クリフハート、ワルファリン、ア
スペシャルサンクス:イーサン
エンヤ・シルバーアッシュは虚空を白眼視していた。
彼女は今日、イェラグの巫女として外交を行い、帰り際に“既に相手と協定を結んでいるロドスに橋渡しを依頼する”という名目で本艦までやってきた。当然ながら、真の目的はサボり。愛する妹と夕食を共にし、明日の朝食も食べて昼頃イェラグに送ってもらう、というプランである。
が、当の妹は、ブリッジで逆さに吊るされ、さらし者にされていた。
「……エンシア? そこで一体何を?」
「うわぁぁぁぁ――――――ん! お姉ちゃ――――――ん!」
オペレーター・クリフハートこと、エンシア・シルバーアッシュは泣きながらブランコのように体を揺らす。
横へ視線をずらしていくと、ワルファリン、ア、エクシア、ウタゲ、カシャと、同じく逆さで吊るされたオペレーターたち。
エンヤは自分の目にした光景が受け入れられずに立ち尽くしていたが、やがて隣に立つフォルテの男に問いかけた。
「ヤーカ、これはなんのイベントですか?」
「えー……なんと申しますか、これは……」
ヤーカと呼ばれた屈強なフォルテ人の男性、ロドスにおいてはオペレーター・マッターホルンの名で知られる彼は、とびきり酸っぱい果実を口いっぱいに詰め込まれたかのような表情で、歯切れ悪く告げる。
「その、人伝てに聞き及んだに過ぎませんが、エンシア様がドクターに薬を飲ませ、女性に変えたとか……」
「はい? 今、なんと?」
「今朝、ワルファリン先生とアの作った妙な薬をドクターに盛ったそうです。俺はまだドクターにお会いしていませんが、まあ、冗談でオペレーターを吊るしている暇があるほど、ロドスの人手に余裕はありませんから……」
「…………………………」
エンヤは心の底から理解できない、という表情をマッターホルンに向けた。
幼少から従者として連れ添ってきた彼は、笑えない冗談を言う性質ではないとわかっている。わかっていてなお、自分の耳を疑わざるを得なかった。
丸っこい獣耳をひくひくと痙攣させながら、再度エンシアを見上げる。
「エンシア?」
「ち、違うの! 私はワルファリン先生に騙されただけなんだよーっ!」
「騙しておらんわ! わらわたちとて、あんなことになるとは思わなかったでなァ!」
「そうだよ、事故だ事故! ドクターが自分で女になる薬飲んだんだって、徹夜の勢いで!」
「いかにドクターが悪食とはいえ、それはないだろう……」
アの弁解に、マッターホルンが呆れ気味にぼやく。
正直信じたくはないが、この光景が事実なのだろう。エンヤは巨大な飴玉を無理やり飲み込まされたような気分になりながら、これが変な夢であることを祈って頬をつねる。
悲しいかな、頬の痛みは無情だった。
エンヤは溜め息を吐くと、妹から目を外す。
「ヤーカ、ドクターは今どこに?」
「恐らくは医療部でしょうか。さっきまでウタゲたちに連れ出されていたようですが、少なくとも食堂には来ていませんね。……なので、お調子者のオペレーターが流した悪ふざけの噂だと思いたいのですが」
「身共もそう願っています。もしドクターが女性になったなんて知ったら、あの人がなんと言うか……」
エンヤは片手で顔を覆うマッターホルンと全く同じ気持ちになった。
だいぶ前にサボりに来た際、偶然鉢合わせたサヴラ人の青年と交わした会話を思い出す。
イェラグはカランド貿易のトップである兄、エンシオディス。彼がロドスにやってきた際、決まってドクターとしか喋らない、と彼は口にしていた。
兄の口数の少なさは、エンヤとてよくわかっている。その時は呆れながら聞き流していたのだが、それにさ、と続いた言葉が油断していたエンヤの脳を殴りつけたのだ。
―――あいつさ、ドクターとふたりっきりになったとき……いや実は俺もそこに居たんだけど……なんて言ったと思う?
―――“私の前ではもっと楽しそうにしてくれ”とか“お前の問題を解決出来るのは自分だけ”とか言ってたんだよ。
―――あいつ、ドクターの彼氏かよ?
エンヤは飲んでいたジュースを盛大に噴いた。
今でも礼拝の時など折りに触れて思い出す話題が、吐き気のように腹の底からせり上がってくる。
慄いて震えるエンヤに、エンシアが泣きながら呼びかけた。
「お姉ちゃーん! お姉ちゃんからもケルシー先生になんとか言ってよー! お腹空いたよぉー!」
「エンシア、あなたはもうしばらくそうしていなさい」
「なんで!?」
あっさりと梯子を外されて瞠目する妹に背を向け、エンヤはさっさと艦内に戻っていく。
マッターホルンは姉妹を見比べていたが、やがてロドスのオペレーターとしての立場を取ったようで、エンシアへ気の毒そうに一礼をしてからエンヤの後を追った。
「うわ―――――――ん! お姉ちゃーん! ヤーカおじちゃーん!」
「あ、あんまり叫ぶでない……頭に響く……!」
耳元で泣き叫ばれたワルファリンがぐるぐると目を回しながら訴えた。